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36 メインクエスト チャプター1 姫の旅立ち8
しおりを挟む火の魔族フランマは、何かを召喚した。
それは天空から舞い降りる弥勒菩薩のような姿で、悠々と宙に浮きながら魔族を、いや、この世界を見下ろしているようだ。
「本当に神かどうか、この目で鑑定してやるわ!」
ステラは、きらりと瞳を輝かせた。
鑑定能力[アプレザル]
それは名前や性能などを、完璧に言い当てることができるスキル。
しかしステラの身体は、ガタガタと震え出す。神の鑑定は、相当な時間と魔力が必要なのだろう。
すると神は、スッと指差した。白く細い光りが伸びる。
「いやぁぁぁああ!」
光りに当てられた村の娘が叫ぶ。
苦しそうに暴れる姿が見ていられない。俺の隣にいるヴェリタスは、「もう無理です……」と言って唇を噛み、刀に手を触れた。
「ステラぁー!」
俺の叫び声に、ハッと反応するステラ。
「もう娘を助けていいだろっ!」
「え、ええ……」
「ヴェリタスさんいきましょ……って、もういない!?」
ザッ!!!
まるで突風のような速さだ。
ヴェリタスは、一足飛びで攻撃を仕掛ける。魔族たちフランマは、ギョッと目を丸くしていた。
「雷光一閃っ!」
神に斬撃が入る。
キンと硬い音が響く。ダメージは1だったが、その衝撃によって神の放出するビームが止まった。
「やった!」
娘はしくしくと泣いている。正気のままのようだ。
「三日月宗近が効かない……」
しんとした風の中でヴェリタスは、冷ややかな目で刀を見つめていた。
思い出すのは刀の性能だ。ステラに質問してみよう。
「ヴェリタスさんの刀はどんな硬い敵でも攻撃が入るはず! なぜダメージがたったの1なんだ?」
「単純に防御力が高いのよ」
「神のレベルはいくつだ?」
「60よ……到底、勝てないわ」
いや、何とか勝てそうだな。
ステラは話を続けた。
「それにあれは神じゃないわ」
「何だと?」
「名前はルークス。人型の魔道機械よ……光の魔法を使って、人間を洗脳していたようね」
「ルークス……でも、おかしくないか? 光の魔法は邪悪な心では使えないはず」
「邪悪ではないのかも……」
「え?」
「純粋な心で、人類を絶滅させようとしている……あっ、ヴェリタスが危ないわ!!」
ルークスはうっすらと微笑み、指先から光りを放つ。
狙われるヴェリタスは、疾走してかわす。光りに当たった地面が、マグマのように破裂していく。あれに食らったら大ダメージだろう。
「しねぇぇ!」
フランマの加勢攻撃。
炎の壁が迫り、とっさにヴェリタスは飛び超えてしまう
まずい! 空中では回避できない。
「……やばっ!」
あせった声を出すヴェリタス。
ルークスが光の攻撃を放つ。だが、俺がヴェリタスを守るんだ!
「ルペス、ムルス!」
土の魔法陣が超高速で回転する。
砂と石を瞬時に凝集させ岩を作り、積み上げ、ヴェリタスの前に壁を作る。見事、防いだ壁がまっ赤になって破裂!
神は、ちょっとだけ驚いていた。
「ツッチーさーん、ありがとぉぉ!」
着地したヴェリタスは手を振って、にっこりと笑顔で言う。
やっぱり仕草が可愛いんだよなぁ。
と思っているとペルペトが、「はやく助けるニャ!」と言う。
「わかってるさ……」
泥の仮面を装備した。
ステラが俺を見つめ、「え!?」と表情を変える。
「あらやだ……ツッチーの魔法レベルが18から68にあがってる!? これで戦況はひっくり返せそうね!」
「ああ、まずは村の娘を救い出す。ヴィエラ!」
土魔法を使って、台にいる娘を引っ張ってみる。
はじめて人間にも試したが、よし、うまくいったぞ!
娘は超高速で空中を飛んで、俺の腕の中に来た。ルークス、魔族たちフランマ、それにヴェリタスもびっくりしている。
「ふぇ?」
きょとん、とする娘。
思わず抱っこしてしまったが……うぉぉ、やわらけぇぇ! これが女の子を抱っこする感触かよ……ムチっとしてて、すげぇ弾力がある! ゲームやっててよかった~! 現実世界でおっさんの俺には生涯、不可能な経験だぜ。ん? 遠くでヴェリタスが、むっとしているのは気のせいか?
「きゃぁぁああ!!」
泥の仮面のせいだ。
魔族と思われたのだろう。娘が叫んで暴れ出したので地面に降ろす。
「もう大丈夫よ」
「ステラ姫様ぁぁ!」
娘はステラに抱きついた。
美味しいところは全部、姫が持っていくんだよな。まぁ、いいや。あとは魔族どもを穴埋めしておこう。
「サブルム! 広く深く!」
ズゴゴゴゴ……
魔族たちフランマが土の中に沈んでいく。
「ぐげげっ!?」
「うわぁぁぁああ!!」
ふるえあがる魔族どもは消滅していく。
ヴェリタスは、サッと飛んで小屋の上に避難した。
「ツッチーさん、すごい……」
穴埋めされていく魔族たち。
そんな中、フランマだけ生き残っていた。頭を出して、必死に息をしている。
「グォォォォ! ぬ、抜け出せない……こんな凄まじい土魔法……魔族以外にあり得んぞぉぉ!!」
銃を構え、フランマの頭を狙う。
バンッ! 見事、ヘッドショットを決めた。これで魔族の拠点は制圧。ヴェリタスは、ぴょんぴょんと小屋の上を飛んで、俺のところまで来た。
「ツッチーさん……仮面を被ると容赦ないですね」
「あははは……でも、ルークスは浮いているから穴埋めは難しそうです」
「ルークスって、神のことですか?」
「そうです。ステラが鑑定してくれました。レベル60なので、俺とヴェリタスさんなら勝てますよ」
「本当ですか? わたしの攻撃はダメージ1でしたよ?」
「まぁ、俺にまかせてください! 土魔法で何とかしますから」
「はい!」
俺とヴェリタスは、笑顔で見つめ合う。
そこにステラが、ぬっと入ってくる。
「何とかしますって、どうするのよ? ルークスを鑑定した結果、弱点は闇魔法なのよ?」
「まじか……」
「それに見なさいよ。ご立腹な様子なんだけど……」
「げっ!?」
ルークスは微笑んでいるが、こめかみに血管が浮き出ていた。
そして次の瞬間、バッと花が咲くように光を放つ。全方位、すべてのものを破壊するつもりだ。
「ムルス!」
土魔法で壁を作って光の攻撃を防ぐ。
光の熱射により壁は粉砕!
まだ生きている俺たちを見たルークスは、不敵な笑みを浮かべ、何やら話し出した。
「新たな脅威を発見……殺さなくては……」
とてもノイジーで重い声だ。
そしてルークスは、ぴっと人差し指を立てる。するとじわじわ光が集中し、まるで太陽のような玉が作られていく。熱い! 急激な気温の上昇によるものか、ごうごうと風が吹き荒れている。
「あちゃあ……ぶどう踏みできずに死んじゃいそうね……」
ステラが言うと、ヴェリタスがぴくっと反応した。
「ツッチーさん! 何とか回避できませんか!」
「うーん……」
「ツッチーさんってば!」
「これ……ひょっとして負けイベントでは? チャプター1の敵なのに強すぎます」
「え?」
「ほら」
何か飛んで来る!
なんと俺たちの前へ紺色フードの男が現れた。
彼の名はブライネ。暴走した村人から、結界を守ってくれた謎の男だ。
「君たち強いね……でも、こいつを倒せるのは僕だけ!」
そこへ光の玉が迫る。
クソ熱い!
すると極限の中、黒い魔法陣が廻る。
あれが闇の魔法か?
まるでダークホールのように光の玉を吸収していく。
「ちっ……もう追いかけて来たのか!?」
ルークスは、おののき、謎の男を指差して光の銃口を向ける。
光のビームが連射された。
しかし闇魔法の前には無効であった。次々と光を吸収し、逆にルークスを飲み込もうとしている。
「脅威だ……脅威だ……」
そう言い残し、ルークスは姿を消した。
どうやら光と闇の戦いに、俺たちは巻き込まれているようだ。
「……」
みんな、唖然としている。
地形が大きく変わってしまった。俺の土魔法によって砂漠化し、いくつか小屋の頭が地面から出ている。
吹き荒れる風によって、謎の男のフードが取れた。
その素顔は黒髪の少年で、顔は整った甘いマスクをしている。
「可愛いぃぃ!」
両手を合わせてヴェリタスが言う。
「ふーん……」
とつぶやくステラの頬は、少しだけ赤くなっていた。
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