異世界で魔族が全滅してるらしいが、俺は普通にゴルフしてるだけ ~無能扱いされた男が 、距離だけで世界を変える話~

ぬこまる

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19 ゴルフしただけで温泉に入れた

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 源泉の前は、完全にサウナだ。

 しかも、どんなサウナ好きのおじさんでも泣いて逃げ出すほど、熱い!
 岩の隙間から、熱風の蒸気が押し合う低い音が聞こえる。 
 ごぼり、とも、こぽり、ともつかない、不安定な呼吸音だ。
 熱すぎて、誰も近づけない。

 だが、それ以上に強いのは、人の沈黙だった。

 村人たちは、心配そうに源泉から距離を取って立っている。  
 誰も前に出ない。  
 誰も「早く直してくれ」と言わない。

 それは遠慮ではなく、覚悟に近かった。

(……期待されてない)

 異世界に来る前の俺なら、そこで少し救われていたと思う。  
 期待されなければ、応えられなくても責められない。会社でもそうだった。

 だが異世界では、違う。

 ここまで来て、原因が分かっていて、  
 それでも何もしないという選択は、やけに重い。

 足元を見る。

 芝はない。  
 濡れた土と石だけがある。

 踏み込んでも、返ってこない。  
 ゴルフ的に言えば、判断材料がゼロだ。

(それでも、やるしかない)

 ガルドが俺の横に立ち、岩の配置を見ていた。  
 しゃがみ込み、膝をつき、岩と岩の隙間をじっと覗く。

「当てられるか?」

「途中に鍾乳石があります」

「……左からいけ」
「だが、弱すぎると、さらに左にきれるぞ」

「つまり、強く打つ?」

「……そうだ」

 短い会話。  
 でも、判断は一致している。

 シルフィが、俺の上をふわりと飛んだ。  
 羽が、いつもより静かだ。

「たたかない」
「ここ、ころがす」

「分かってる」

 俺は布袋にある木製パターに手を伸ばした。  
 これを使うのは、初めてじゃない。  
 でも、こんな硬い岩盤で使うのは初めてだ。

 村人の一人が、不安そうに声を出す。

「……それで、本当に……?」

 言葉は続かない。  
「本当に直るのか」と聞きたいのだろう。

 俺は首を振った。

「分かりません」
「でも、やってみます……」

 それだけ言った。

 それ以上、言う必要はない。  
 ここで大事なのは、言葉じゃない。

「近づかないでください」

 俺が言うと、村人たちは素直に下がった。  
 誰も不満を言わない。  
 その距離感が、胸に刺さる。

(信じられてないんじゃない)
(任せてないだけだ)

 ガルドが、半歩後ろに下がる。  
 いつもの位置だ。

「……距離は?」

「三十二歩」
「いや……三十三歩半」

「33.5ヤードね」

 芝はない。  
 だから、転がりは読めない。

 でも、転がす距離なら合わせられる。  
 転がす“量”なら、調整できる。

 俺はパターを構えた。

 足の幅を調整して、金属玉を左足内側に置く。

(……ここで弱く打ったら、左に逃げる)

 息を吸う。  
 吐く。

 ゴルフで一番必要なのは、  
「メンタル」だ。

 今日は、精神力が試される。

 シルフィが、肩の横で小さく言った。

「ころがす」

「うん」

 ガルドが、低く付け加える。

「……急ぐな」
「時間は、ある」

 その言葉に、少しだけ救われた。

 俺は、まだ打っていない。

 だが、この一打の前に、  
 もう勝負は始まっている。

 ――絶対、当てる!


 俺はパターのフェースを、そっと地面に合わせた。


 一打目。

 コツ。

 音は、やけに軽かった。  
 金属球は、湿った岩盤の上を短く転がり、途中のつららを避け、温泉源の手前で止まる。

 ……何も起きない。

 村人たちの空気が、ほんの少しだけ緩む。  
「やっぱり難しいか」という諦めに似た気配。  
 それでも誰も声を出さない。

(想定内)

 俺はパターを持ち直した。  
 無駄な力は入れていない。  
 入れてはいけない。

 二打目。

 コツ。

 今度は、わずかに右へ。  
 温泉源を塞ぐ岩に触れそうで、触れない。

(焦るな……)

 ガルドが、低く言う。

「……まだ浅い」

「分かってる」

 三打目。

 ほんの少しだけ、フェースを閉じる。  
 角度を変える。

 ガッ!

 乾いた音。

 玉はつららを避けて、温泉源の岩に当たる。よし! かすかな反響があった。  
 水の音が、ほんの一瞬だけ太くなる。

「……今の、聞こえた?」

 誰かが囁く。

 村人の何人かが、身を乗り出した。  
 期待ではない。  
「変化」に反応しているだけだ。

(ここからだ)

 四打目。

 同じ位置。  
 同じテンポ。

 ガッ!

 音が、少し低い。

 岩が――  
 ほんのわずかに、亀裂がはいる。

「……動いた?」

 誰かが、はっきりそう言った。

 俺は返事をしない。  
 返事をする段階じゃない。

 五打目。

 間を取る。  
 呼吸を整える。

(焦ると、全部ズレる)

 ガッ!

 岩の下から、水の音がはっきり聞こえた。  
 ごぼり、という、押し上げる音。

 シルフィが、少しだけ声を弾ませる。

「いまの」
「いい」

「まだだ」

 六打目。

 同じ距離。  
 同じ量。

 ガッ!

 今度は、岩が確実に揺れた。  
 目に見えるほど、ほんの少し。

 村人たちの空気が変わる。  
 諦めから、静かな期待へ。

 それでも、誰も拍手しない。  
 歓声もない。

(ここで騒がれると、判断が狂う)

 七打目。

 足裏に伝わる感触が、変わった。  
 地面が、応え始めている。

(……いける)


 ガッ!

 音が、はっきりと「通った」音になる。

 岩の隙間から、白い湯気が、ふっと漏れた。

「……!」

 誰かが息を飲む。

「出るのか……?」

 まだだ。  
 ここで止めると、また塞がる。

 八打目。

 少しだけ、力を落とす。  
 転がりを“長く”する。

 ガガッ!

 湯気が、増えた。  
 源泉の奥で、水が流れ始めている。

 シルフィが、両手を小さく握る。

「いける」
「もうすこし」

 ガルドが、いつもより少しだけ強い声で言った。

「……そのままだ」

(珍しいな、指示が具体的だ)

 九打目。

 ここで、変えるのは危険だ。  
 だから、変えない。

 ガガガッ!

 岩が、はっきりとズレた。

 村人の誰かが、思わず声を上げる。

「……割れる!」

 俺は、息を吸った。

(最後だ)

 十打目。

 ほんの少しだけ、芯をずらす。  
 叩かない。  
 押す。

 ガキッ!

 次の瞬間――

 ゴゴッ、と低い音がした。

 岩が、砕けた。

 同時に、源泉から湯が一気に噴き出す。  
 白い湯気が立ち上り、冷えた空気を押し返す。

「うわっ……!」

 熱気。  
 匂い。  
 音。

 すべてが、一度に戻ってきた。

 村人たちは、一拍遅れて叫ぶ。

「出た!」  
「温泉だ!」  
「戻ったぞ!」

 俺は、パターを下ろした。

(……あ、出た)

 それだけだった。

 達成感より、  
「通った」という感覚のほうが強い。

 だが、足元が――揺れた。

 次の瞬間だった。

 ゴゴ……と、地面の奥から低い音が響く。
 足元が、わずかに持ち上がった。

「……え?」

 誰かの声が遅れて上がる。

 ドン。

 今度は、はっきりとした揺れ。
 湯気が大きく揺れ、地面の小石が跳ねる。

「地震だ!」
「伏せろ!」

 村人たちが一斉に声を上げる。
 湯に手を入れていた者が慌てて下がり、子どもが泣き出す。

「な、何が起きた!」
「岩、砕いただけじゃ……!」

 冒険者たちも動揺していた。
 剣を抜きかけ、だが相手がいない。

 エルネスが杖を握りしめる。

「魔力反応は……ありません!」
「でも、揺れが……!」

 シルフィが、俺の肩で羽をばたつかせた。

「ちがう」
「これは……」

 揺れは、数秒で収まった。
 だが、空気が変わっている。

 ざわざわと、不安だけが残る。

 その中で、ガルドだけが動かなかった。

 視線を上げ、遠くを見る。
 山でも、森でもない。

 もっと向こう。

「……海の方だな」

「海?」
 俺が聞く。

 ガルドは、しばらく黙ってから言った。

「……何か、起きた」

 それ以上は、何も言わない。

 村人たちは、次第に落ち着きを取り戻していく。
 温泉は、変わらず湧いている。
 湯気も、消えない。

「……とりあえず、よかった」

 俺は言った。

 その言葉に、皆が頷く。

 だが、俺の中には、
 小さな引っかかりだけが残っていた。

(……何か、また嫌な予感が)

 大地は、繋がっている。
 遠くの何かが、今、動いた。
 気づいたのは、ガルドだけだった。

 彼は顔を上げ、視線を遠くへ向ける。

「……」

「どうした?」

 俺が聞くと、ガルドは少しだけ黙ってから言った。

「……遠いが」
「変だ」

 視線の先は、山じゃない。  
 森でもない。

 もっと、向こう。

 だが俺は、その意味を考える前に、  
 湯気の中の歓声に包まれていた。

(まあ、今は……)

 今は、温泉だ。

 湯は、止まらなかった。

 源泉から噴き出した湯は、最初こそ勢いが強かったが、すぐに一定の流れに落ち着いた。  
 白い湯気が、朝の冷たい空気を押し上げるように立ちのぼる。

 硫黄と土が混じった、懐かしい匂い。  
 胸の奥まで、じんわり温かくなる。

「……あったかい」

 誰かが、そう呟いた。

 その一言をきっかけに、村の時間が一気に動き出した。

「出たぞ!」  
「温泉だ!」  
「本当に、戻った……!」

 歓声が、遅れて爆発する。

 子どもたちが走り出し、大人たちが膝をつき、年配の男は源泉の前で何度も頭を下げていた。  
 泣いているのか、笑っているのか、分からない顔だ。
 エルネスは目を真っ赤にして、俺の袖を掴んだ。

「ナオキさん……!」  
「ほんとに、出ました……!」

「……出たね」

 それ以上、言葉が出なかった。  
 出た理由も、過程も、全部説明できる。  
 でも今は、説明する場面じゃない。

 ブロックは、少し離れた場所で源泉を見つめていた。  
 剣を地面に立て、片手を柄に添えたまま、目を閉じる。

「……戻ったな」  
 低い声だった。  
「俺の村が」

 その一言に、村人たちが頷く。  
 誰も大げさなことは言わない。  
 ただ、戻った。それだけで、十分だった。

 エルネスは湯気の中で深く息を吸う。

「魔力を使わずに……」  
「温かい……」

 声が、震えていた。

 カイは弓を下ろしたまま、湯気を見上げる。

「矢も剣も使わずに、だな」  
「悪くない」

 シルフィは、湯気の中をくるくると飛び回っている。  
 羽が、白く曇る。

「ぬくい」  
「きれい」  
「すき」

 完全にご機嫌だ。

 俺は、ようやく状況を飲み込み始めていた。

(……ああ、解決したんだ)

 村人たちが、次々と湯に触れ始めていた。  
 指を浸し、顔をほころばせる。

「……生き返る」  
「これで、冬が越せる」

 湯気の向こうで、子どもが笑っている。  
 大人が、それを見て笑っている。

 この村は、戻った。

 岩を砕いた場所から湧いた湯が、木の樋を伝って浴槽へ流れ込む。
 白い湯けむりが立ち上がり、空気が一気にやわらぐ。
 じゃあ、さっそく温泉に入りますか。

「……ふぅ、あったかい」

 俺は肩まで浸かり、息を吐いた。
 骨の奥まで温まる感覚は、理屈じゃない。

 ガルドは、少し離れた場所で静かに湯に浸かっている。
 背筋は相変わらずまっすぐだが、肩の力は抜けていた。

「……湯は」
 俺は言う。

「いいですね」
 ガルドは返す。

「……問題ない」

 最大級の賛辞だ。

 シルフィは湯気の上をふわふわ漂いながら、満足そうに言った。

「ぬくい」
「からだ、ほどける」

「妖精も風呂入るんだな」

「はいる」
「気持ちいい」

 ◆

 冒険者たちも、次々と湯に入ってきた。

 ブロックは大きな音を立てて肩まで沈み、
「はああ……」と、隠す気もなく声を漏らす。

「前線より、こっちのほうが効くな」

 エルネスは髪をまとめ、静かに湯に浸かっている。
 目を閉じ、深く呼吸してから、ぽつりと言った。

「……魔力の戻りが、早い」

「湯の力?」
 俺が聞くと、

「たぶん」
「でも、安心も大きい」

 カイは湯船の縁に腕をかけ、空を見上げている。

「弓を引かない日が来るとはな」
「悪くない」

 そのときだった。

「やっと入れる~!」

 明るい声とともに、ユウマとアヤが現れた。

「ちょ、みんないるじゃん!」
「でも温泉復活だし!」

 二人は迷いなく湯に入る。

(……え)

 俺は一瞬、周囲を見回した。

「……あれ」
「ここ、混浴なんですか?」

 ブロックが、きょとんとして言う。

「ん?」
「普通だろ」

 エルネスが、何でもないことのように付け足す。

「分ける理由が、ありません」

 カイが肩をすくめる。

「魔族と戦う世界で」
「風呂の男女分けに、意味あるか?」

(文化の壁、厚い)

 アヤはすっかりくつろいでいる。

「気持ちいい~」
「ねえユウマ、肩流して!」

「はいはい」

(距離、ゼロ)

 ガルドが、ちらりと見る。

「……近い」

「今さら!?」
 ユウマが叫ぶ。

「湯でも、距離は大事だ」
 ガルドは真顔だ。

 湯けむりが濃くなり、音がやわらぐ。

 水をかける音。
 石に触れる音。
 人の息づかい。

 誰も急がない。

 エルネスが、ふと俺を見る。

「ナオキさん」
「こういう時間を、作れる人は珍しい」

「ゴルフしてただけですよ」

「それが、珍しい」

 ブロックが笑う。

「芝野郎は、芝だけじゃなく」
「人の肩の力も、抜くらしいな」

「狙ってないです」

「だろうな」


 しばらくして、湯から上がる。

 体は軽く、頭は静かだ。

 ガルドが言う。

「……帰るか」

「ですね」

 シルフィが、湯気の中でくるりと回る。

「きょう」
「しあわせ」

「それは、何より」

 村を出る頃、夜風が心地よく頬をなでた。

 誰も振り返らない。
 満足した人間は、そうする。

 俺は、空を見上げて言った。

「……ゴルフして」
「湯に入って」
「帰る」

 ガルドが、短く頷く。

「……いい日だ」

 帰路は、静かだった。

 夜になる頃、俺たちは温泉村を後にした。

 湯は安定し、湯気は空へ真っ直ぐ上がっている。  
 村人たちはもう慌てていない。  
 湯宿の戸は開き、明日の準備が始まっていた。

「また、来てください」

 村長がそう言って頭を下げる。  
 深々ではない。  
 生活が戻った人の、自然な礼だった。

「そのときは、湯に浸かります」
 俺が言うと、村長は少し笑った。
 エルネスは最後まで、湯気の立つ源泉を振り返っていた。  
 名残惜しそうだが、表情は明るい。

「……戻ってよかった」
 ブロックが、ぽつりと言う。
「村が、ちゃんと村のままだ」

 ガルドは無言で頷いた。

 帰り道は、行きよりも足取りが軽かった。  
 地面は相変わらず判断しづらいが、  
 今日はそれが気にならない。

(判断しなくていい時間も、必要なんだな)

 ◆

 温泉村を後にして、ガルドの家へ戻るころには、空はすっかり夕暮れ色になっていた。

 扉を開けた瞬間、鼻をくすぐる匂いに、思わず足が止まる。

 煮込みの香り。
 焼いたパン。
 ほんのり甘い、野菜の匂い。

「おかえりなさい」

 ローナが、鍋をかき混ぜながら振り返った。
 その横には、見慣れた金色の髪。

「……おかえりなさい」

 リリアーナ姫が、少しだけ照れたように言う。

「ただいまです」
 俺は答えながら、思わずガルドを見る。

「……戻った」

 ガルドはそれだけ言って、外套を外した。

 食卓に座ると、ローナが次々と皿を並べる。

「今日は、少し多めです」
「町が無事でしたから」

「いい匂いですね」
 俺が言うと、

「温泉の後は、余計にお腹が空くでしょう?」
 ローナが笑った。

 その言葉に、姫がぴくっと反応する。

「……温泉? 今日行ってらしたんですか!」

「あ」
 俺は、しまったと思った。

 シルフィが、テーブルの上でくるりと回る。

「ぬくぬく」
「きもちいい」
「さいこう」

「……いいわねぇ」
 ローナが、肩をすくめる。

 だが、姫は身を乗り出した。

「温泉……」
「どんな感じだったのですか?」

「えっと……」
 俺は言葉を探す。
「体が温まって、疲れが取れて……」

「それから?」
 姫の声が、少しだけ甘くなる。

「……それから?」
 ローナも、面白そうに続ける。

(囲まれてる)

「湯気があって」
「静かで」
「……みんな、のんびりしてました」

 姫の目が、きらっと光る。

「……私も」
「行ってみたかったです」

 ローナが、ため息まじりに言う。

「私もですよ」
「毎日、鍋の前ばかりですから」

 二人の視線が、同時に俺に向く。

「ナオキさん」
 姫が、少し距離を詰めて言う。
「今度……連れて行って、いただけませんか?」

 声が、明らかに甘い。

(……やばい)

 俺は、知っている。
 あそこは、混浴だ。

「えっと……」
「それは……」

 言い淀んだ、そのとき。

 ガルドが、何でもないことのように言った。

「……二人で行けばいい」

 空気が、一瞬止まる。

「え?」
 姫とローナが同時に声を上げる。

「……庭師たちに道を整備させる」
 ガルドは淡々と続ける。
「距離は、問題ない」

(問題、そこじゃない!)

 ローナが、くすっと笑った。

「あらあら」
「それは……」

 姫の顔が、みるみる赤くなる。

「が、ガルド!」
「そ、そういう意味では……!」

 シルフィが、テーブルの上で楽しそうに踊る。

「こんよく」
「なかよし」

「煽るな」

 ローナは、にこやかに鍋の蓋を閉めた。

「まあ」
「機会があれば、ですね」

 姫は、ちらりと俺を見て、
 小さく、でもはっきり言った。

「……その時は」
「お願いします」

(距離、近い)

 俺は、慌てて視線を逸らす。

 ガルドは、何事もなかったようにフォークを取った。

「……冷める」

「はいはい」

 シルフィが、満足そうに言う。

「きょう」
「たのしい」

 鍋の湯気が、部屋を満たす。
 笑い声が、少しだけ混じる。

 俺は、湯気の向こうを見ながら思った。

 温泉に入って、
 ゴルフして、
 帰ってきて、
 飯を食う。

 世界は相変わらず、物騒だ。
 魔族も、問題も、山ほどある。

 それでも今は――

「……いい日だったな」

 誰に言うでもなく、そう呟いた。

 夕飯は、最後まで温かかった。
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