異世界で魔族が全滅してるらしいが、俺は普通にゴルフしてるだけ ~無能扱いされた男が 、距離だけで世界を変える話~

ぬこまる

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24 異世界タコ焼き

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タコの足が浜辺に流れ着いた瞬間、村の空気が変わった。

さっきまで「助かった!」だった声が、
一拍置いて「これ、いくらになる?」に変わる。

切り替えが早い。いや、生きるってそういうことだ。

「おい! この足、食えるのか!?」
漁師が叫ぶ。

「食える食える! 噛みきれるかは知らん!」
別の漁師が叫ぶ。

「噛みきれないなら、煮ろ!」
「いや、焼け!」
「いや、干せ!」

意見が散り散りだ。

俺は海を眺めながら、ふと思った。

(……たこ焼き、作りたいな)

我ながら平和すぎる発想だった。

「あの、すいません」
俺は村長に声をかける。
「これ、たこ焼きにしません?」

村長が、ぽかんとする。

「……たこ、やき?」

「はい」
俺は頷く。
「丸く焼くんです」
「外はカリッと、中はとろっと」
「うまいです」

ドランが、横で目を細める。

「……丸く?」
「鉄板がいるな」

「そう」
俺は即答する。
「鉄板、たくさん丸い穴があるやつ」

村長が戸惑いながら言う。

「穴……?」
「鉄板に複数の穴を開けるのか……?」

「開けます」
俺は言う。
「そこに生地流して、くるっと返す」

ガルドが、低い声で言った。

「……戦術か?」

「戦術じゃない!」
俺は笑う。
「料理です」

シルフィが、肩の上で言う。

「まるい」
「かわいい」

(妖精の評価軸、よく分からんけど好き)




タコの処理は、想像以上に大仕事だった。

足一本が太い。重い。滑る。  
漁師たちが「うおおお!」と叫びながら引きずる。

「これ、村のイベントだな」
俺が呟くと、村長が真顔で頷いた。

「村の事件だ」

重い言葉だが、顔は嬉しそうだった。

とりあえず、足を切る。

「切れねえ!」
「硬い!」
「剣が負ける!」

漁師が叫ぶ。

そこでドランが出てくる。

「刃が負けるなら、熱だ」
ドランは淡々と言って、鍋を用意させる。
「煮てから切れ」

(この人、強化だけじゃなく現場も強いんだよな)

煮る。湯気。匂い。  
村人が集まってくる。子どもが覗き込む。

「なにこれ!」
「でっかい!」

少年リオが叫ぶ。

「リオ」
俺は言う。
「今日の主役はお前だ」
「村の未来がタコにかかってる」

「タコに!?」
リオが真顔になる。
「……がんばります!」

(素直すぎる)



そして、鉄板問題。

「ドランさん」
俺は言う。
「穴、いっぱい開けられます?」

ドランが鼻で笑う。

「穴を開けるだけなら」
「鍛冶屋は神だ」

「神って言った」
姫が小声で言う。

「言ってない」
ドランは即答する。
「今のは比喩だ」

比喩でも嬉しいらしく、ドランは早速作り始めた。

鉄板を熱し、
型を取り、
丸い穴を等間隔に開ける。

カン、カン、カン。

音が気持ちいい。

「……精度、いいな」
ガルドがぼそっと言う。

「だろ?」
ドランが笑った。
「穴の距離が狂うと、全部狂う」
「距離は全てだ」

ガルドが無言で頷く。

(距離派閥が増えていく)

姫が、興味津々で覗き込む。

「こんなに穴を開けて」
「何ができるのですか?」

「幸せができます」
俺は真顔で答えた。

「……幸せ」
姫が繰り返す。
「素敵です」

シルフィが言う。

「しあわせ」
「たべる」

(妖精も食べる気満々)



材料は異世界流で揃えた。

小麦粉に近い粉。
塩。
卵。
スープの出汁。
それと、刻んだタコ。

薬味は、ネギに似た草。
ソースは、甘辛い煮詰め汁をドランが即席で作った。

「これでいいのか?」
ドランが聞く。

「だいたいそれっぽいです」
俺は言う。
「本場はもっと濃いけど、今日はこれでいい」

「今日は、だな」
ドランが笑う。

(この人、将来の改良まで見えてる)

鉄板を火にかける。

じゅう、と音がする。

俺は生地を流した。
穴に、たぷん、と落ちる。
白い生地が熱でふくらむ。

「おお……」
村人がざわめく。

タコを入れる。

「入れるんだな!」
「贅沢だ!」

「贅沢って言うな」
俺は笑う。
「今日は祝日だ」

焼けたら、返す。

ここが難しい。

箸でくるっと回す。
逃げる生地を穴に押し込む。
形が丸くなる。

「……おい」
村人が言う。
「それ、戦いじゃないのか」

「戦いです」
俺は真顔で答えた。
「たこ焼きは戦いです」

姫が吹き出した。

「ふふっ」

ガルドが淡々と言う。

「……集中が乱れる」

「乱してるのはあなたの真顔だよ」

シルフィが踊る。

「くるっ」
「まるい」
「かわいい」

(妖精、完全に観客席)



焼き上がった。

外はこんがり。
中は熱い。
湯気がふわっと出る。

「食べていいですか!」
リオが叫ぶ。

「火傷するぞ」
俺が言うと、

「火傷しても食べます!」
リオが即答する。

(気合が漁師)

まず村長に渡した。

村長が一口かじる。

……目が見開かれる。

「……うまい」

短いが、重い。

姫が次に食べた。

「……最高です!」

声が弾む。

「外がカリッと」
「中がとろっと」
「幸せです!」

ガルドが食べる。

一口。

二口。

無言。

「どう?」
俺が聞くと、ガルドは一拍置いて言った。

「……問題ない」

(最大評価きたー!)

ドランが食べる。

「がはは!」
「売れるな!」

村人たちが一斉に食べ始める。

「なんだこれ!」
「丸いのに満足感すごい!」
「熱い!でも止まらん!」

湖と海がつながった日、
村はタコでさらに一段元気になった。

リオが両手を上げる。

「わーい!」
「ナオキさん、ありがとう!」

村長が俺に言う。

「これ」
「漁村の名物にしていいか?」

「いいよ」
俺は笑った。
「距離を守って焼けば、だいたい成功する」

「距離……?」
村人が首をかしげる。

ガルドが真顔で言う。

「距離は全てだ」

(距離派閥、拡大中)



帰りは馬車になった。

ドランが「送ってやる」と言い、
村長が「また来い」と言い、
リオが「次はもっと大きいタコ!」と叫んだ。

姫は馬車に揺られながら、
たこ焼きの余韻が残った顔で窓の外を見ていた。

少しして、こくり、と首が落ちる。

「……寝た」
ガルドが言う。

「初めての旅だもんな」
俺は小声で返す。

シルフィが、姫の髪の上でふわっと浮き、

「おつかれ」
とだけ言った。

夕日が、街道を赤く染める。

今日、俺がしたことは。

タコを倒して、
たこ焼きを焼いて、
笑っただけだ。

「いや、結局、ゴルフしただけだな、俺……」

自分で言って、少し可笑しくなる。

「あはは」

馬車はゆっくり進む。

村の灯りが遠ざかっていく。

次に何が起きるかは分からない。
でも、今日が良い日だったことだけは、確かだった。
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