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第四章 婚約破棄された人を助けない私は、そんなに悪役令嬢でしょうか?
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しおりを挟む「お久ぶりです、メルル・アクティオス」
突然、ピコッと現れた光の神ポースが、笑顔で話かけてきました。
お兄様、アルト先輩は、びっくり!
私は、ダァダァとわめくイヴの頭をなでながら質問します。
「ポース、何かようですか?」
「ああ、すみません、実は……いい話と悪い話があるのです」
「では、悪い話からどうぞ」
「……パイザックが、動き出しています」
!?
私たちに戦慄が走りました。
しかし、ポースは眉ひとつ動かさず、冷静に話を進めます。
「ご存知の通り、パイザックは極悪非道の奴隷商人。飼い慣らした獣人たちを連れてここに向かっています」
「どのくらいで?」
「そうですね、時間としては、もう数分で到着するでしょう」
「あら……それはそれは、最悪な情報をどうもありがとう、ポース」
いえいえどういたしまして、と笑顔を絶やさずに話すポースは、ウィンドウの向こうで、ゴソゴソとやってます。
何を探しているのでしょうか?
「で、ポース。いい話とは?」
「それがですねメルル。アイテムの整理をしていたら、いい物が見つかったのです! えっと……あったあった、これですっ!」
「ん? それは何ですか?」
「これは天地戦争時代に使っていた神具──天光の剣、ヘブンズライトソードです!」
じゃーん! とポースが手に持つ剣には……。
え? 剣身がありません。
じっと見つめても、ポースが持っているのは剣のグリップだけ。
ふつう剣の構造は、柄頭のポンメル、握りのグリップ、鍔のガード、そして剣身のブレイドで成り立っています。
ですが、ポースが持っている天光の剣には、肝心の剣身がありませんでした。
「ねぇポース……その剣って欠陥品では?」
「し、失礼なっ! この天光の剣は天地戦争時代、数千万の魔族をぶった斬ったこともある天下の名剣です!」
「ふぅん、でも……剣身がないですが?」
「メルル、まだまだ考えが甘いですねぇ」
「え?」
ウフフ、とポースが不敵に笑っていると、アルト先輩が横から口を挟みます。
「軽くて小柄な女性でも扱いやすいよう、剣身は魔力でつくり出す、だろ? ポース」
「ご名答! さすが創造神ルギアの子孫ですね、アルストロ王子」
「……ふっ」
アルト先輩は、鼻で笑うとグルグル眼鏡を指先であげました。
カッコつけるくらいなら、そのグルグル眼鏡を取って欲しいですね。
彼は、剣を指さして言います。
「天光の剣は、いわゆる発動体の武器! つまり魔力を爆発的にあげる効果があるのさ!」
──発動体
それは、魔力をあらゆる物体に顕在化させることができる神の武器。
天地戦争時代、火、水、土、風、光の神々たちが、暴走した闇の神と魔族の王を倒すため、神具を持って戦ったという歴史があります。
ポースは、その神具をポイッと放り投げました。
「これを授けましょう! ね、いい話でしょ?」
「あ、ありがとうございます……」
「メルルのストレージに入れておきますね。戦闘のさいにウィンドウから取り出して使ってください」
「……あのぉ、ありがたいことですが、剣なんて私に使えるでしょうか?」
「うふふ、逆にメルルがどんな風に使うのか見ものですよ」
「え?」
「前世、ゲームオタクだった血が騒ぐでしょ? メルル」
たしかに……。
さっそく私は、ウィンドウを開いてストレージのなかにあるはずの天光の剣を探します。
「ありました。これですね……」
ポチッ
触れた瞬間、虚空から天光の剣が出現しました。
ふつうのアイテムと違って、不思議な光りに包まれていますね。特別感たっぷり。
おお、なんて神々しいのでしょう。
私、お兄様、アルト先輩は、目がくらんでしました。
しかしイヴだけは、お目々ぱっちりで、キャキャっとはしゃいでいます。
私は、宙に浮いている天光の剣を握り、
「ハッ!」
と魔力を込めてみました。
すると突然、グリップから凄まじい魔力が吹き出し、次の瞬間には、きらきらに光り輝く剣身が顕在化されたのです。
それは大きくて幅のある剣身で、いわゆる大型モンスターを倒すためのバスターソードでした。
実物は重くて、私には絶対に装備できませんが、この軽さならば使えそうです!
「わぁ、非常に軽いですね! ライトソードを強力にした感じがします」
「ウフフ、そんなレベルではありませんよ……ヘブンズライトソードは……」
「え?」
「たった一振りで、魔族を百匹ほど消滅させることができます!」
「わぁ、それはヤバそう!」
私は、思い切って剣を振ろうとしました。
しかしお兄様に、「やめろー!」と叫ばれて止められます。
あ、すいません、危うく部室を破壊するところでしたね。
するとポースは、私たちを見て笑う。
「ウフフ、相変わらず楽しいパーティですね、メルルさんたちは……本当に」
「ポースありがとう! これならパイザックを倒せそう」
「はい、がんばってみてください! パイザックは闇の神スキアの加護を受けているので、まぁ厄介とは思いますが……」
「あのぉ、闇の神スキアは魔族に加護を与えていると、文献で読んだのですが……なぜ人間のパイザックに加護を?」
「スキアは魔族に限らず生命体が抱える心の闇に寄り添います。ゆえにパイザックという人間には、残酷な経験があるようですね」
「……そうなのですか」
「はい、ですからメルル! ぜひ悪者パイザックを良い子ちゃんに更生させてください!」
「わかりました!」
「ウフフ、では失礼しまーす」
ヴゥン
にっこり笑って手を振るポースは、プツンっと消えるウィンドウとともに消えました。
さてと……。
私は、あごに拳をあてます。こうすると頭が冴えるのです。
では、パイザックについて推理してみましょう
あの奴隷商人にいったい何があったのでしょうか?
みんな昔は赤ちゃんであり、純粋な子どもですから、生まれたときから悪者ではないはず。
ですが大人になると、学校や社会にもまれ、いじめられ、だんだんと悪に染まっていく人間が多いのも現実。
まぁそれは誰にでも言えることですが、パイザックに関しては、闇の神が加護を与えるほどの、何か特別なトラウマがあるのかもしれませんね。
うーん、とても気になります。
するとお兄様は、私の肩を抱いてくれます。
心配させてしまったようですね。
考え事をするときは、ひとりの時間が良さそう、ですが……。
「メルル、大丈夫だ、俺が守ってやるから」
「お兄様ぁ!」
ぽわわん、と私はお兄様の温もりに包まれて、心は喜びの舞い!
ああんっ、ドッキドキしちゃいます!
やっぱりこれからもお兄様の前では、大いに悩んで甘えましょう。うんうん、それがいい! ぐへへ……。
「僕も戦うよ!」
「……は?」
隣からアルト先輩がこのように言いますが、私はじっと彼を見つめてしまいました。冗談でしょ?
「あのぉ、恐れながら、先輩は魔法が使えないんですよ? わかってます?」
「うん」
「戦力外なので避難していてください!」
「いや、でも魔法銃なら持ってる」
「え?」
ガチャ!
アルト先輩が取り出したのは、前世で言うところの拳銃ですね。
しかし土魔法で加工された鉄や銅の材質なので、ところどころに無骨な黒い部分がありました。
その見た目は、おおむねグロック17を魔術っぽくいびつにした感じ。
グリップを握るアルト先輩は、グルグル眼鏡を光らせ、誇らしげに言います。
「メルルちゃんは、僕が守る!」
応援ありがとうございます!
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