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1匹目:貧乏性な子猫は高価なお菓子をやけ食いできない 1/2
しおりを挟む木々の隙間から降り注ぐ秋の陽射しが、キラキラと湖面を煌めかせる。
ふかふかの芝生に敷いたピクニック用の絨毯の上で寝転がりながら、ジェマはゆらゆらと揺らめく湖面を眺めていた。
マグワイア魔導学園内にひっそりと存在するこの小さな湖は、景色はとても美しいが少々曰く付きなせいで生徒があまり近付かない。しかし平民なうえ曰くは気にしないジェマは、入学以来お気に入りのお昼寝スポットにしていた。
風は涼しく陽射しは暖かい。本日は絶賛のお昼目日和だ。
「ふわぁ」と大きなあくびをした背で、ぱたんぱたんとゆったりと尻尾が絨毯を叩いていた。
たまにチョコレートを摘まみ、ほんのりした温かさを保つ紅茶で唇を湿らせる。
チョコレートも紅茶もご令嬢方からの贈り物で、なんならマグカップも絨毯も貰い物だった。貧乏ではないものの、裕福でもない極一般的な平民の家で生まれ育ったジェマが持つにはどれも分不相応な品である。
「あ~めんどくさいなぁ」
十人いれば十人が可愛いと言う愛らしい顔を思い切り顰めて、ジェマは呟いた。
綺麗な景色を見ても心が癒されない。どんな景色を見ても現状は変わらないのだから当然ではある。けれど現実逃避すらうまくいかないのだからイライラが募る。
【幸運の猫ちゃん】と呼ばれていることは知っていた。しかしそれがこんな面倒な事態を引き寄せるとは――可能性は考えていたが、貰えるお菓子やお下がりに味を占めて少々調子に乗っていた。
「勢いで首を突っ込むんじゃなかった……」
ジェマのお小遣いでは気軽に買えないチョコレートをガツガツ食べることはできなくて、自分で作った安物のクッキーを頬にぱんぱんに詰めてみた。
「ぐっふ」
思い切り咽た。
馬鹿なことをしたことをさっそく後悔しながら、ジェマはここに至るまでの経緯について思い返していた。すべての始まりはこの学園に入学したことだったような気もしていたが、ジェマが自分が巻き込まれていることを自覚したのはもう少し後のことだった。
白湯を作って少し粉っぽいクッキーを流し込む。
はぁと大きなため息を吐き出して、ゆったりと流れる雲を見上げた。
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