ボクのおじさん探偵は調子パズレでいつもヘトヘト 『ディドリームビリーバーとハードディズナイト』

Ann Noraaile

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第1章 サファイア姫の失踪

03: 待っていた男

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 沢父谷との不思議な初デートの帰り道、電車内のつり広告に「帰ってきたバブル」の文字が躍っていた。
 その隣は、週刊爆発の「これだけあった!!2020年東京オリンピックと昭和アニメAKIRAの類似点!!」だ。
 最近のは、どれもこれもが嘘臭くて、多分、頭の禿散らかしたクリエイティブな叔父さん達が、こういうのを考えてるんだろうと思う。 

 噂では、今の回顧ブームは暫く続いて、次に来るのは昭和バブル期かもって話もあったけど、どうやら各種業界もそれを押すみたいだった。
 それにしても『みんなもっと未来を語ろうよ!こんなに過去を振り返る動きだけが大きなブームになるなんておかしいよ。』とは、なんとなく思ったけど、昭和バブルは個人的に意外にいいかもと、僕はちょっと考え直した。
 
 女の子の格好をする時、顔で一番問題なのは眉の処理だ。
 僕の眉は、そんなに太い方じゃないから、現状なんとかなってるけど、それでも細眉が良いメイクの時もある。
 眉をメイクで太く見せるのは可能だけど、その逆は出来ない。
 眉潰しなんかを使うと舞台メイクになるからだ。
 だからといって元の眉を細くすると、男子生徒としては高校生活に支障が出る。
 男子でもヤンキーぽい奴ならそんなのもいるけど、僕はそんなキャラじゃないし。

 その点、バブルファッションなら、普段処理に苦労してる太眉が思う存分活かせるし、ボディコンシャスな服も僕は大好きだから、密かにウェルカムかも。
 ・・でもなー、やっぱり、先の事なんて誰にも判らないし、その方がいいんだよ。

 広告では「帰ってきたバブル」の方向でやってるけど、流行は仕掛けられるものとそうじゃないものがある。
 結局は、「現代社会」が不足としてる部分を、流行が補って行くんだし、、まあ流行って言うのは、人が生活して前に進むための一種の宛舵みたいなものなんだろうと僕は思ってる。
 だから「帰ってきたバブル」ブームは、どこの誰が主導で仕込もうとしてるのか知らないけれど、多分あたらないだろうと僕は思った。
 みんな、金品が舞い踊る狂乱の時代が、この国にもう一度やってくるとは思っていないからだ。


 その日、家に帰った僕は、早速、沢父谷から手渡されたDVDをデッキに入れてみた。
 円盤の表面にタイトルの類は一切ない。
 プレィが始まる短い空白時間に、嫌な予感がした。

 もしかしたらこれから僕の目の前で、沢父谷がくわえ込んだ男どもとのセックスシーンが展開されるのかも知れない。
 ・・・屈折した意味のない冗談を仕掛けられたのかも。
 何処かで、沢父谷とこのDVDに登場する男が、自分たちのセックスを見てる僕の事を「カマには猫に小判」とかいいながら笑い転げているのかも知れない。

 僕は頭を振って、そんな妄想を消し去り、映像を待ち受けた。
 始まった映像内容は、僕のそんな危惧から近からずも遠からず、、だった。
 でもそれは、少なくとも、沢父谷が自分自身で作成したプライベートDVDの類いではなかったようだ。
 だから、これは手の込んだ悪戯目的ってことではないようだ。
 おそらくこれは、裏の販売ルートに乗っかるような代物なのだろう。

 僕は、その手のDVDを探偵事務所の所長から、嫌というほど講釈付きで見せられていた。
 こういった代物は、けっこう性犯罪ぎりぎりの所で撮影されるものが多い。
 所長によると、そういうキナ臭い雰囲気が付随していないと、何でもネットでダウンロード出来るような時代では、こういったDVDには需要がつかないそうだ。

 ただ沢父谷は、裏のDVDに出ているわりに、現場ではそれほど酷い仕打ちを受けている様には見えなかった。
 暴力シーンと言えば、女子高生の制服を着た(ちなみにその制服はウチの高校のそれではない)沢父谷がミッキーマウスのかぶり物を無理矢理かぶせられた上、ローションを力一杯、平手で制服の上から叩くようになすりつけられるといった訳のわからないシーンぐらいのものだった。
 ファーストシーンは、もっと気味が悪いもので、姫子が彼女の制服スカートから突き出た偽の男性性器に縄を括り付けられ、きつい顔をした女性に夜更けの街を引きずられる姿が映っていた。

「いやーん、そんなに強く引っ張らないで下さい。ちぎれちゃいますぅ。」
 昼間、間近で聞いた姫子の声が、学芸会なみの演技力で、彼女のグロスリップを塗った口から漏れる。
 台詞まわしは恐ろしく下手なくせに、体技はまるでアクロバットダンサーレベルでぐねぐねと扇情的に動いた。
 女性の痴態に全然興味のない僕でも少し興奮したほどだ。

『アダルトのレンタルやネットのお陰だよ。素人さんのやることが凄くなったのはね。まず男が見るだろう、それをオンナに試してみたりねだってみたり、次に週刊誌とかがそれを煽り立てる。ちょと前なら、凄ぇ変態行為だったのに、今じゃ普通っていうのが山ほどある。おまけにエロ見るのに、今じゃネットで落としたりな、レンタルショップにさえいく必要がないと来てる。幸福な時代だよ。でも俺は、何事にも過程ってか、努力が必要だと思うんだよな。それで自分が手に入れたものの有り難みが判る。』
 そう解説した所長の仏頂面を思い出した。
 超昔の特殊エロテープの収集家のくせに、現状を批判するとは笑わせるけれど、所長が言っている事は僕も間違いはないと思う。
 何かを手に入れるためには、努力が必要で、それが物事の値打ちを高めるのはたしかだ。


 変態どもが「女子高生」相手に、思いつく限りの訳の分からないフェチ行為を、次から次と展開していくDVD構成に、なんだかおかしみさえ覚え始めた頃、「そいつ」は突然、僕の前にその姿を現した。
 今から考えれば、奴は「そこ」で僕を待っていたのかも知れない。
 野外シーンの一場面で、大きな姿見鏡を使ったパートが登場するんだけど、その姿見鏡の中に一瞬だけ映った男の影に、僕は強い衝撃をうけたのだ。

 何故かは、判らない。
 おそらく僕以外の人間なら、その男の姿は見逃されていただろう。
 その男の正体は、鏡が反射するという事を忘れ、たまたまカメラの片隅の視野に入ってしまった迂闊な撮影スタッフの一人だと考えるのが順当だったからだ。

 DVD画像を静止して目を凝らしてみると、そこに額に丸いワッカが蚯蚓腫れのように浮き上がっている男がぼんやりと写っていた。
 ・・・こいつは、危険な男だ。
 僕には、それが判った。
 そしてそれを見てから、何故か僕は、酷い頭痛に悩まされる事になったのだ。


 翌日、僕は姫子のプロポーズに対するなんの答えも用意できないまま学校に行った。
 第一、姫子は「ありのままの自分を見て欲しい」と言って、自分が出てるAVを僕に見せたのだが、その真意自体が未だに分からなかった。
 僕は、姫子の行為に、境界性パーソナリティ障害とかで起こる自虐行為の変形みたいな可能性も考えて見たけど、聞きかじり程度の僕の知識ではなんとも言えなかった。

 ・・・だが実際には、何も問題は起こらなかった。
 つまり僕からの「返事を待っている」筈の、当の姫子が学校を休んでいたからだ。
 次の日も姫子は休んだ。
 そして次の日も。

 僕は、ついに姫子の担任に、彼女が休んでいる理由を聞く決心をした。
 それは、基本「他人の事なんか、どーでもいい」ってスタンスを取ってる僕にとっては一大決心だった。
 たぶん、自分へ思いを寄せてくれた女の子への心配というより、DVDの中に写っていたあの男の存在が僕にそうさせたのだろう。

 彼女の担任は後藤秀典という男で、僕たちの体育を受け持っている教師でもあり、比較的気軽な気持ちで声をかける事ができた。
 おまけに後藤はゲイだという噂だったし、、。
 渾名はマーキュリー、クィーンのボーカリスト、フレディ・マーキュリーから来ている。
 後藤秀典も口髭がとってもキュートだ。

「理由が知りたいのは、こっちの方だよ」と前置きした後藤は、沢父谷がなんの連絡もせず学校を休んでいること、その間、彼女の養育者である祖父母の家にも戻っていない事を綺麗な歯並びを見せながら僕に教えてくれた。

 どうやら後藤の説明の端々から、彼は姫子が男とできあがってしまって、学校や家をふけているのだと推測しているのが感じ取れた。
 でもそんな事がありうるのだろうか?
 彼女は、学校や家から姿を消す前の日に、この僕に奇妙な「恋の告白」をしていたのだ。


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