ボクのおじさん探偵は調子パズレでいつもヘトヘト 『ディドリームビリーバーとハードディズナイト』

Ann Noraaile

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第3章 裏十龍城への潜入とその崩壊

26: 虚ろな眠り

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 時たま、頭上で地響きのような音がして、橋の上に自動車が通って行くのが判る。
 こんな場所で、こんな深夜でも、車ってのは結構走っている。
 人間ぞれぞれに事情があって、仕事があるからだ。
 俺も、地方に遠征する時は、割引で高速代を稼ぐために、深夜によく走ったものだ。

 、、ものだと言うのは、以前乗っていたランドクルーザーを売っぱらって、今はないからだ。
 そうだ、今度の仕事が上手く行って金が入り、借金を返し終わったら、中古のランドクルーザーを買おう。
 そして前みたいに、リョウと旅行に出かけよう。

 そう言えば以前、秘境の温泉巡りってのが、リョウと二人のミニブームになった事があったな、、、。
 その中で、一番酷くて、一番素敵だったのはアレだ。
 冬が始まる頃に、山奥にある秘境温泉の情報を聞きつけて、夜の高速を走って、日中に現地入り、そんな旅程の温泉旅だった。

 自ら発光したような肌の白さを見せて、助手席に座ったリョウの横顔が流れ去る夜の街を背景に、俺の頭の中で、一枚のタブローみたいに収まってた。
 気の利いた奴なら、この陰鬱で、どことなく官能的な絵画の題名を「女・虚ろな眠り」とでも名付けるだろう。
 そして、俺はリョウがダウンの下で素肌に着込んだ藤色のVネックセーターから見える胸の谷間に、あろう筈のない林檎のような乳房を夢想していた。

「いいのか?学校の方は、、。」
「大丈夫だよ。僕が消えたって誰も困らないし、騒がないもの、、。」
「・・お前、最近、化粧濃くなったんじゃないか。」
 リョウの喉仏が、微かに上下するのが俺の視野の片隅に写る。
 夜の高速ドライブだ、リョウの方ばかりを向いてはいられない。
 しかしククッという成熟しきった女の含み笑いがリョウから聞こえたような気がして、ついつい俺の気は隣に流れる。

「所長がそんな事、気にする?それになんだか、今のってカノジョになった気分がする、、。軽くカンジルよ。僕が軽く感じるって、どんなのか判る?」

「馬鹿言え。俺が気にしてるのは、お前、高校生でそんな化粧してて大丈夫かって聞いてんだよ。第一、お前んとこは、ほぼ男子校だろが。」

「大丈夫だよ。何でもとことんやると、それなりに自分の居場所って決まって来るもんなんだよ。それに僕んとこは工業高校の中でも、偏差値高いからね。まともかお宅しかいないんだ。まわされるなんてないよ。それどころか僕は一種のマドンナだね。」

「ガタイが結構あるしな、、ビビって誰もちょっかいは出してこんだろう。」
 隣に座っているリョウの反応が固くなる。
 リョウを凹ますには、これが一番だ。
 リョウは自分の身体が女子の平均より大きい事を気にしているのだ。
 実際の所は男子高校生としてやや小柄程度なのだが、リョウは自分の事を『男子』高校生とは思っていない。

「今、どの辺り?」
「金沢を抜けたぐらいだな。日本海沿いに北上するが、眠くなったら寝ていいぞ、、。」
「お休みのキスしてくれたら寝れるんだけど、、。」
 リョウの唇の上でカーステレオディスプレイのイルミネーションが放つ微光が舞い踊っていた。
 グロス系の口紅を塗っているのだろう。
 俺達の会話はそこで途切れた。

 俺は糸魚川で内陸部の高速に繋ぐ予定でいたが、その前にパーキングエリアで仮眠をとる事にした。
 すでに俺の覚醒能力は限界にあった。
 サイドブレーキを引き、敷地内のトイレの闇に浮かぶボンヤリした明かりを見ている内に、俺は墜ちるように眠りに入っていった。


 山中の隠れ里にあるような旧家だった。
 天井の野太い梁に、驚くほど大きな陽物が荒縄で吊り下げられている。
 俺は客人用の布団に寝かされていて身動きがとれない状態でそれを見上げている。
 やがて陽物はゴウン、ゴウウウンと振り子のように鎌型の揺れを繰り返しながら、俺の方に下降してくるのだ。
 逃げられない。
 胸の動悸だけが激しくなる。
 俗に言う金縛りという奴だ。
 甘美な麻痺が俺を呪縛している。
 振り子のように降りてくるものが刃物なら俺の身体は両断される。
 だが巨大な重量感をもってしてにじり寄ってくるのは古びた木製のペニスなのだ、、。
 串に刺されて大きな口を開けて炙られている川魚を思い起こす。
 肛門から貫かれ巨大な亀頭が、俺の外れた顎から見えて、、、、。

「所長、、所長、、もう朝だよ。」
 口の中が粘ついていた。
 リョウの方は既に薄化粧を済ませ、ボマージャケットを羽織っている。
 歯磨き粉の匂いのする息が白い。

 当然の事だが、ヒーターは切ってあった。
 身体の節々が凝り固まっている。
 一張羅のダークスーツが皺だらけになるのを恐れて、薄手のナイロン地のコートを胸に掛けただけだったのも効いているかも知れない。
 昔はこんな事はなかったのだが、、俺が「歳を感じる」時だ。

「、、、まずったな。それにしても酷い夢をみたもんだ。」
「僕も見たよ。」
 俺は首筋の後ろを揉みながら軽い気持ちで聞いてみた。

「どんなのだ?」
「ドラミちゃんになった夢だよ。」
「ドラミ?ドラエモンの妹か?」
「うん。ドラミちゃんの被り物を顔に無理矢理、被せられてね。その格好で犯されるんだよ。・・・」

 リョウの顔が珍しく真っ赤になった。
 相当卑わいな夢だったようだ。
 ドラミの丸いヘルメットみたいな頭を、リョウに被せて、、その細いうなじを見ながら、蓋に当たる後頭部に付いた着ぐるみのスナッチボタンを止めていく。
 ええぃくそっ!!俺は頭を振って妄想を振り落としながらイグニッションキィを差し込んで、エンジンを掛けた。

「いくぞ。朝めしはレストランのあるSAで取ろう。本物のコーヒーが飲みたい気分だ、、。」
 FM放送から英語まみれの日本語が流れ出てくる。
 今日は日本全国、、最後の秋晴れだそうだ、、、。

 ・・・とまあ、そんな感じて往きは、結構順調な旅だった。
 だが目的地近くまで行ったのは良いものの、車は山の中腹までしか行けず、後は歩きになった。
 コンビニもない田舎だったが、車を止める空き地だけはたっぷりあった。 
 俺は地元の農家の婆さんの了解を得て、真っ赤な実とライトグリーンのへたを持つタカノツメがびっしり詰まった箱棚の横に愛車を止めた。

 リョウは延々と続きそうな、俺と耳の遠くなった老母との挨拶現場から離れて、その宝石のようなタカノツメの彩りに見取れている。
 オーバーサイズのダウンのボマージャケットの下からすらりと伸びたスリムジーンズの脚が、どう言うわけか、やけに色っぽかった。
 そんなリョウの近くには、柿の木が植えてある。
 柿の実の橙が目にしみる。

 紅葉もそうだが、緑が主体の背景の中にあって朱や橙が点在すると、その事自体が極めて愛おしく美しく見えるものだ。
 盆地の周囲を取り囲む山並みの色が濃い、、予想通り昼を随分すぎた到着になってしまっていた。
 で次は、慣れない山登りだ。
 婆さんは、温泉なら直ぐそこだ、と言ったが、田舎の直ぐそこは、直ぐそこじゃない。

 ようやくの思いで温泉に到着したら、今度は施設が閉鎖していて、散々だった。
 しかも初雪まで降って来やがって、俺達はどうしようもなく、俺は思いあまって知恵足らずの若造のような愚行に出た。
 リョウの奴は止めたのだが、俺は施設のバリケードを破って、その中に侵入したのだ。

 広めの湯船は、湯がとっくの昔に抜かれていたが、小さな源泉らしき場所は、戸板が渡されているだけだった。
 たまには関係者が源泉の様子を見に来るのだろう。
 俺はその戸板を取り外して、そこから上がる湯気に歓喜した。

 身体を伸ばして、つかれるような広さはなかったが、二人が横にならんで、足湯をするのなら問題なさそうだった。
 俺達は靴と靴下を脱ぎ、ズボンを膝まで上げて、二人仲良く、足を源泉に足を突っ込んだ。
 お湯の中に、俺のゴツゴツと筋張った足と、嘘みたいに綺麗なリョウの足が並んでいた。
 AVの中には、足フェチという分野があって、その中には間違いなく、男が女の足を、女が男の足を舐めるシーンが含まれるのだが、リョウの足なら、、永遠に、それが溶けてなくなるまで舐められるだろうと、その時の俺は思ったものだ。

 足湯の効果は抜群で、足先しか温めていないのに、やがて身体全体がぬくまって来た。
 ただ残念な事に、ここは山の中で、季節は冬に入りかけていた。
 暖まりが冷えに、追いつかないのだ。

 俺は寒くて、本当に下心なくリョウの肩を抱き寄せた。
 野郎同士なら、なんだよコイツ、でもこの寒さなら仕方ねえかって、情況だった。
 だが俺は、その時、本当に吃驚したんだ。
 リョウの身体が、あんなに柔らかくて小さかったとは、、、


 そこまで考えて俺、はハッとした。
 今、俺は眠り掛けてる?やばいぞ、これは。
 俺は追いかけられて、橋の下の水の流れに晒されているんだ、気を確かに持て、そう思い直した時に、俺は一番重要な事を思い出した。

 薬だ!
 しかも俺は川の中に飛び込んでる!
 俺は水の中でグニョグニョになっているジャンパーの内ポケットを探った。

 あった!
 パッケージの厚みが感じられる。
 おいおい!中身は大丈夫か!
 俺は指を突っ込んでパッケージの弾力を確かめた。
 粉っぽい感触が返ってくる。
 一安心した俺は、冷や水の中で、冷や汗をかきながら、腕時計の発光ボタンを押した。
 夜明けまで、後2時間という所だった。




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