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第5章 因縁 medaillon(メダイヨン)皮剥男
53: 囮も仕事のうち
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「菅!出てこい!そこにいるのは判ってんだ!」
若い男の胴間声が響く。
銭高組の誰かだろう。
警察では、あり得ない。
もしヒヨコが俺を人質にとって抵抗したら、、また厄介な事になる。
だがそれ以前に、銭高にとって俺は、人質としての値打ちがある人間なのだろうか。
俺の意志を読みとったかのように、ヒヨコが低く嗤った。
そして彼の気配が完全に消えた。
結構、身近な距離で、パンパンと乾いた銃撃戦の音が聞こえた。
乱れたような数人の足音や、物が倒される音も聞こえる。
悲鳴や、うめき声も混じり始めた。
俺は恐怖で身がすくんだ。
いつ流れ弾に当たってもおかしくない状況だったのだ。
それなのに、俺は見ることも動くことも適わなかった。
そうしている内に、俺の裸の肩に誰かの手が置かれた。
俺は恐怖の余り飛び上がった。
実際、俺を固定している椅子が、ガタリと大きな音を立てた。
「私ですよ。ヒヨコは逃げちまった。ふがいない部下を持つと苦労する、、。」
どんな時でも冷静な声を出せる人間、、それは斉藤だった。
斉藤は、ヒヨコが俺を尾行し拉致するのを見越した上で、一旦、俺と別れたのだ。
「大丈夫ですか?」
斉藤は俺の頭部を覆っているラバーマスクをはがしてくれた。
ゴムの密着から解放されて汗が滝のように滴り落ちる。
ついで斉藤が魔法のような手際で、細身のナイフを取り出した。
恐らく俺の戒めを、解き放つつもりなのだろう。
俺はそれを止めた。
こんな人を餌にして平気なやつに、協力するのは癪に障るが、俺も探偵の仕事をしなくてはならない。
「待ってくれ、先に写真だ。」
斉藤が一瞬、訝しげな顔つきをする。
「どこかに、俺の上着が捨ててあるだろう。隠しポケットの中にデジカメが残っている筈だ。それで俺を撮ってくれ。なけりゃ、あんたのスマホでもいい、、ああ、先にマスクを付けた状態のを撮った方がいいか、、。カメラが見っかったら、マスクをもう一度俺に付けてくれ。」
「やってもいいが、なんのためです。時間がもったいない。」
「時間って、ヒヨコの事はもう組に連絡をいれたんだろう。他の奴に、まかせておけよ。第一、あんたが今直ぐ追ったって、間に合やしない。」
斉藤は黙って、俺の戒めを切る為に、ナイフを握りなおした。
お前の戯言は聞き飽きたという顔をしている。
「まてまて、言うよ!説明するよ、俺が悪かった。あんたら東京を納得させる理由が欲しいんだろう。例の物語造り!それだよ、その為の準備だ!」
頭の回転の速い斉藤は、頷いて立ち上がり、俺の上着を探しに出かけた。
「・・一つ方法を考えついたんだ。あんたが欲しがってた物語だ。簡単な方法だよ、、。ヒヨコと零はいつもつるんでた。でっち上げでもいいから、二人のホモセクシュアルな関係を東に伝えてやるんだ、。この場面が、いい証拠写真になる。ただし、主従は逆転させてだ。ヒヨコが零の上に立っている必要がある。無理矢理、ヒヨコが零に男色を強いていてって感じだな、、。、、けど今度ばかりは、零が本気で、東京のお嬢さんに惚れて、それで嫉妬に狂ったヒヨコが彼女を殺した。いたたまれなくなった零は、みんなの前から姿を消した。どうだ?簡単だろ?ただし条件付きだ。この話を成立させるのは二人とも死んでいる必要がある。身内の誰かが、零を庇ったりして、どこかに隠したくなるかも知れないが、生き延びた零は、間違いなく、又、あれをやる。そうなったら、いくら物語を作ったって同じ事だ。」
「、、判ってますよ。それに、この写真なら東側に説明するときに役に立ちます。なにせ、本物だけが持ってる生々しさがありますからね、、、あなたの証言付きだし。本当に生々しい、、あなた、ボロボロだ。」
シャツを身につけ終わった俺に、上着を差し出しながら斉藤がそういった。
「ついでに、この部屋の様子も、あちこち撮っとこうと思ってます。ここは、ヒヨコと零さんの愛の巣だったんでしょうな。」
「ああ、、そういう事になるな。」
俺達がでっち上げを仕組むまでもなく、この部屋は、実際そうだったのかも知れない。
俺は改めて、倉庫跡を改造した、だだ広い部屋の様子を観察してみた。
先ほどまでは気づかなかったが、お香の匂いとゴム特有の甘ったるい匂いが部屋中に充満している。
天井からは、骨太な梁が剥き出しになっており、そこいら中に滑車や移動の為のレールが取り付けている。
これでヒヨコ達が、SMの「吊り」をやっていたのなら、彼らのあの時の様子は、肉弾相打つスポーツの様相を帯びていたかも知れない。
その他に、洋装店の展示棚のような洋ダンスに、ハンガー。
それらのあらゆる収納に、革製品やラバー製品がびっしり詰まっている。
そしてもう片一方の部屋の壁面は、大型の姿見や、ビデオ機材で埋め尽くされていた。
、、だが、「人体を解剖」する為に必要な用具や設備は、この部屋には一つとして見受けられなかった。
この部屋は、ヒヨコの根城か、文字通り零とヒヨコの「愛の巣」なのだろう。
作業場は、どこか別の場所にあるのだ。
「今日の事は、一部始終会長に伝えます。もしかしたら、あなたは今日で、この依頼から解放されるかも知れませんね。ヒヨコが、あれだけ動いたんだ。目川物語の辻褄があわせやすい。それに証拠の品なんて、方向性が見えた今となっては、余り重要ではありませんからね。人は自分たちの都合の良いように、物事を解釈するものだ。いずれにしても、貴方へのこちらからの連絡は、明日の遅く、おっと失礼、もう日付はかわってますから、今日の遅くになります。それまで、ゆっくりして下さい。」
そこで言葉を切って、一応、斉藤は優しげな笑みを浮かべた。
「それから今後は、仕事が終わったら歩きを止めて、タクシーを使うことですね。ヒヨコを我々が仕留めるまでの話ですが。今日は、組の車を表に回してありますんで、それに乗ってやって下さい。私はご同行出来ませんが、、、。」
斉藤が背を向け掛けた時、俺は待ったをかけた。
「シズルから出た後、あんた、俺をつけていたんだろう?俺は、餌だった訳だ。」
「、、それもあなたの仕事のうちなんですよ、、。」
斉藤は振り返りもせずに、そう言い残した。
若い男の胴間声が響く。
銭高組の誰かだろう。
警察では、あり得ない。
もしヒヨコが俺を人質にとって抵抗したら、、また厄介な事になる。
だがそれ以前に、銭高にとって俺は、人質としての値打ちがある人間なのだろうか。
俺の意志を読みとったかのように、ヒヨコが低く嗤った。
そして彼の気配が完全に消えた。
結構、身近な距離で、パンパンと乾いた銃撃戦の音が聞こえた。
乱れたような数人の足音や、物が倒される音も聞こえる。
悲鳴や、うめき声も混じり始めた。
俺は恐怖で身がすくんだ。
いつ流れ弾に当たってもおかしくない状況だったのだ。
それなのに、俺は見ることも動くことも適わなかった。
そうしている内に、俺の裸の肩に誰かの手が置かれた。
俺は恐怖の余り飛び上がった。
実際、俺を固定している椅子が、ガタリと大きな音を立てた。
「私ですよ。ヒヨコは逃げちまった。ふがいない部下を持つと苦労する、、。」
どんな時でも冷静な声を出せる人間、、それは斉藤だった。
斉藤は、ヒヨコが俺を尾行し拉致するのを見越した上で、一旦、俺と別れたのだ。
「大丈夫ですか?」
斉藤は俺の頭部を覆っているラバーマスクをはがしてくれた。
ゴムの密着から解放されて汗が滝のように滴り落ちる。
ついで斉藤が魔法のような手際で、細身のナイフを取り出した。
恐らく俺の戒めを、解き放つつもりなのだろう。
俺はそれを止めた。
こんな人を餌にして平気なやつに、協力するのは癪に障るが、俺も探偵の仕事をしなくてはならない。
「待ってくれ、先に写真だ。」
斉藤が一瞬、訝しげな顔つきをする。
「どこかに、俺の上着が捨ててあるだろう。隠しポケットの中にデジカメが残っている筈だ。それで俺を撮ってくれ。なけりゃ、あんたのスマホでもいい、、ああ、先にマスクを付けた状態のを撮った方がいいか、、。カメラが見っかったら、マスクをもう一度俺に付けてくれ。」
「やってもいいが、なんのためです。時間がもったいない。」
「時間って、ヒヨコの事はもう組に連絡をいれたんだろう。他の奴に、まかせておけよ。第一、あんたが今直ぐ追ったって、間に合やしない。」
斉藤は黙って、俺の戒めを切る為に、ナイフを握りなおした。
お前の戯言は聞き飽きたという顔をしている。
「まてまて、言うよ!説明するよ、俺が悪かった。あんたら東京を納得させる理由が欲しいんだろう。例の物語造り!それだよ、その為の準備だ!」
頭の回転の速い斉藤は、頷いて立ち上がり、俺の上着を探しに出かけた。
「・・一つ方法を考えついたんだ。あんたが欲しがってた物語だ。簡単な方法だよ、、。ヒヨコと零はいつもつるんでた。でっち上げでもいいから、二人のホモセクシュアルな関係を東に伝えてやるんだ、。この場面が、いい証拠写真になる。ただし、主従は逆転させてだ。ヒヨコが零の上に立っている必要がある。無理矢理、ヒヨコが零に男色を強いていてって感じだな、、。、、けど今度ばかりは、零が本気で、東京のお嬢さんに惚れて、それで嫉妬に狂ったヒヨコが彼女を殺した。いたたまれなくなった零は、みんなの前から姿を消した。どうだ?簡単だろ?ただし条件付きだ。この話を成立させるのは二人とも死んでいる必要がある。身内の誰かが、零を庇ったりして、どこかに隠したくなるかも知れないが、生き延びた零は、間違いなく、又、あれをやる。そうなったら、いくら物語を作ったって同じ事だ。」
「、、判ってますよ。それに、この写真なら東側に説明するときに役に立ちます。なにせ、本物だけが持ってる生々しさがありますからね、、、あなたの証言付きだし。本当に生々しい、、あなた、ボロボロだ。」
シャツを身につけ終わった俺に、上着を差し出しながら斉藤がそういった。
「ついでに、この部屋の様子も、あちこち撮っとこうと思ってます。ここは、ヒヨコと零さんの愛の巣だったんでしょうな。」
「ああ、、そういう事になるな。」
俺達がでっち上げを仕組むまでもなく、この部屋は、実際そうだったのかも知れない。
俺は改めて、倉庫跡を改造した、だだ広い部屋の様子を観察してみた。
先ほどまでは気づかなかったが、お香の匂いとゴム特有の甘ったるい匂いが部屋中に充満している。
天井からは、骨太な梁が剥き出しになっており、そこいら中に滑車や移動の為のレールが取り付けている。
これでヒヨコ達が、SMの「吊り」をやっていたのなら、彼らのあの時の様子は、肉弾相打つスポーツの様相を帯びていたかも知れない。
その他に、洋装店の展示棚のような洋ダンスに、ハンガー。
それらのあらゆる収納に、革製品やラバー製品がびっしり詰まっている。
そしてもう片一方の部屋の壁面は、大型の姿見や、ビデオ機材で埋め尽くされていた。
、、だが、「人体を解剖」する為に必要な用具や設備は、この部屋には一つとして見受けられなかった。
この部屋は、ヒヨコの根城か、文字通り零とヒヨコの「愛の巣」なのだろう。
作業場は、どこか別の場所にあるのだ。
「今日の事は、一部始終会長に伝えます。もしかしたら、あなたは今日で、この依頼から解放されるかも知れませんね。ヒヨコが、あれだけ動いたんだ。目川物語の辻褄があわせやすい。それに証拠の品なんて、方向性が見えた今となっては、余り重要ではありませんからね。人は自分たちの都合の良いように、物事を解釈するものだ。いずれにしても、貴方へのこちらからの連絡は、明日の遅く、おっと失礼、もう日付はかわってますから、今日の遅くになります。それまで、ゆっくりして下さい。」
そこで言葉を切って、一応、斉藤は優しげな笑みを浮かべた。
「それから今後は、仕事が終わったら歩きを止めて、タクシーを使うことですね。ヒヨコを我々が仕留めるまでの話ですが。今日は、組の車を表に回してありますんで、それに乗ってやって下さい。私はご同行出来ませんが、、、。」
斉藤が背を向け掛けた時、俺は待ったをかけた。
「シズルから出た後、あんた、俺をつけていたんだろう?俺は、餌だった訳だ。」
「、、それもあなたの仕事のうちなんですよ、、。」
斉藤は振り返りもせずに、そう言い残した。
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