ボクのおじさん探偵は調子パズレでいつもヘトヘト 『ディドリームビリーバーとハードディズナイト』

Ann Noraaile

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最終章 終焉、あるいは再生への道筋

84: 漂流からの帰還

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 俺とリョウの二人は、博物館脇の植え込み前にあるベンチと、車いすにそれぞれ腰を下ろして、煌々と輝く満月を見上げていた。
 今夜も、またもやハードディズナイトだった。
 でも今は、元の曲の状況に、少しは近いか、、。
 リョウが俺の側にいるだけで充分だ。
 ベンチは盛り土の上に設えてあって、リョウがその頭を、車椅子の俺の肩に預けて寄り掛かるには、丁度いい高さだった。

「お前と、こうして二人で月を見るなんて久しぶりだな、、。」
「えっ?所長と一緒に月を見た事なんてあったっけ?」

 俺は怒ったようなふりをして、隣のリョウに視線を走らせる。
 リョウは俺の頭に巻き付けた腕の先の指で、監禁生活の間にすっかり伸びた俺の髪を弄ったまま、月から目を離そうとしない。
 リョウの切れ長の下瞼の縁に、銀の水が溢れつつあり、それを見つけた俺は思わず目をそらせた。

「・・リョウ、、ずっとこうしていたい。」
 ・・初めて言えた。

「それは僕も一緒だよ。」
 博物館の中では、一連の修羅場が終了した後に駆けつけてきた蛇喰ファミリーが、その後始末で走り回っている筈だった。

「それにしても、それ巨乳だな。」
 俺はリョウが身に付けている沢父谷姫子の胸元を見ていった。

「僕が微乳で悪かったね。」
 蛇食ファミリーの一人が、肩に掛けてくれていた上着の合わせ部分を引き寄せて、リョウが悪戯ぽく笑った。

「それ、脱げないのか?」
「脱いで欲しいの?巨乳は好みだろ?」
「・・いや、これでも心配して言ってるんだ。」
「着るとき、凄くきつかったからさ、、脱ぐの難しいんだよ、コレ。、、沢父谷って、すげぇグラマーだと思ってたけど、腰なんかは、きっちりくびれててさ。」

「俺たち、凄く気持ち悪い会話してないか?それ、言っちゃ悪いが、死人の皮だぜ。」
「全然、だって所長も、もうすぐこうなる予定だったんだよ。」
「だな、、。俺の剥製、もし手に入ったら、手元に置いてくれるか、リョウ?」
「さあ、だって所長、格好悪いんだもん。」
 月は黙って光り輝いているままだ。
 俺は煙猿が鼻歌で歌っていた「ミスター・ムーンライト」のメロディを思い出していた。

「悪い、お待たせしたな、お二人さん。もうすぐここを離れられそうだ。」
 優雅な足取りで近づいてきた大男が俺達に声を掛けてきた。
 博物館横の常夜灯と月の光に照らされた大男の顔を見て、リョウは一瞬息を飲んだようだった。

「お兄さんの具合は、どうなんですか?」
 リョウから蛇食と剛人の関係を聞いていた俺が、その男・蛇喰探幽に気遣いの声を掛けた。
 剛人は一番最初に助け出され、車で運び去られている筈だ。

「まあ弟としての長年の付き合いから言えば大丈夫、、もう少し遅かったら出血多量で、って言う所だったかな。」
 不敵とも言える笑みを見せて蛇食探幽が答えた。

「裏十流の買収で、動き回っていたムラヤマっていう代議士が、今日の真っ昼間に殺された。煙猿に関する事なら、どんな情報でも俺に伝えろと、兄貴に脅しを入れられてたもんでね。・・その連絡を入れてから、半日で、こんな状況になってた、、、。いつもこうなんだ、兄貴は、、。」
 言外に、対応のしようがなかったのだと言う蛇食探幽だが、その言葉の端々には、兄に対する思慕の念が見て取れた。

「目川さん、あんたを煙猿から守るのも、救い出すのも、本来、私の役目だったんだが、、済まなかった。改めて、詫びを入れさせてもらう。」
 蛇喰が頭を深々と下げた。

「今回の件で、今後一切の迷惑が、あなた方に罹らないことを誓うよ。」
 蛇食の視線が、俺とリョウに等分に注がれる。

「じゃあな、私はここで失礼する。これから色々と雑用があるものでね。君たちを迎えに車を回すように言ってある。もう暫くの辛抱だ。」
 背を向けて立ち去りかけた蛇食が、思い出したように振り向いて言った。

「ああリョウ君、、そう、リョウ君だったね。これから我々が所長さんを送り届ける先は病院だ。君も疲れているだろうが、一緒に行って、所長さんに付き添ってやってくれるかね。それに、君のその格好もなんとかするように、病院に言っておいた。すべて任せて、大丈夫だ。」

「それに目川さん。その病院には、あんた好みの綺麗な先生もいる。目の保養になるぜ。」
 蛇喰探幽の最後の言葉に、俺は何かを感じたが、その正体は分からなかった。
 とにかく、今は、こんなにボロボロの身体なのに、俺は満ち足りていた。
 今はこれで十分だ、他の感情はいらない。

「あの人・・全て俺に任せろって感じ、なんだか剛人さんとそっくり、、。」
 クスッと笑いながらリョウが呟く。

「お前、さっき蛇食さんの顔を見て、びっくりしてたろう?」
「最初会った時には、気がつかなかったんだけど、蛇食さんて僕の知り合いに目元がそっくりなんだ。」
「そっくりって、あの剛人さんとやらの兄弟なんだから当たり前だろう?」

「そうじゃなくて、澄斗クンって息子の方にだよ。三人ともそっくり、血は水よりも濃い。」
「・・それって、どういう意味だよ?」
「いいから、いいから。やっぱり親子っていいなってことだよ。ほら、車が来たよ。」

 リョウの顔に、満面の微笑みが戻っていた。
 その笑顔に、俺は幼い頃に見覚えのある俺の兄貴の笑った顔を思い出した。
 俺はその時、たけき人、「剛人」の本当の正体が、判ったような気がした。






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