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第3章 竜との旅
40: 千日手 ヒットマン
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「千日手になったな。」
そう言った香坂のスーツは、皺だらけになっている。
一体、何時間、この車の中にいるのだろうか。
香坂は、今、碇の大立て者の一人である大河内大和の身辺警護のサポートに入っている。
妙な言い方だが、警察職員と暴力団組員が協力し合って、一人の組長の命を守っているのだ。
「ジョンリーの奴が、この街に現れてからですね。旧勢力と新勢力がにらみ合ったまま動かない。いいじゃないですか、ヤクの流通も暴力沙汰もぴたりと止まったままだ。」
響児が眠気覚ましのガムを思いだしたように噛む。
響児は徹夜の張り込み明けの後、数時間の聞き込みをやった上で、こちらに回ってきて香坂と合流している。
「表面上はな。ヤクの供給は派手に動いた方が、相手につけ込まれる状況になっているから、双方とも持久戦の構えで、ヤクの流れを一時期止めに入ってる様に見える。しかし、薬中どもが我慢できるわけがないし、金だっている。そろそろ、裏でやり始めているみたいだな。両者共に流通が巧妙になって来てるんだよ。下手をすると、この騒ぎが収束してからも、今の複雑怪奇な流通システムが生き残るかもしれんな。そうなると厄介だ。警察の方も、今度は麻薬汚染の水位をコントロール出来なくなるかも知れない。」
香坂は、この警護任務の専従のような形になっていて、最近はあまり響児と組んだ仕事がない。
「・・・それって、丹治警部の台詞みたいですよ。」
「そうかな、、、。しかしカルロスも修羅王も、どこに隠れていやがるんだ、、やる事は派手なのに、一旦、姿をくらませたら、全く尻尾が掴めない。」
香坂が伸び始めた無精ひげの感触を確かめるように顎先を撫でる。
「修羅王の方はエマーソン製薬の傀儡ってこともあり得るから、奴らに対する外部からのバックアップがあってもおかしくないでしょうね。でもカルロスは、力があってもただの離れ駒だし、その上、丹治警部のプレッシャーが相当ある。それなのに、未だに足取りが掴めない、、不思議な話ですよね。カルロスが奴らのヒットマンとして動き始めたっていうのは、ガセじゃないですかね?」
「確かにな、、。そう思いたいところだよ。」
香坂は、丹治の仕掛けているカルロスに対する包囲網の大きさと、その密度を知っている。
碇は当然だが、この地球上のどこに潜んでいたとしても、カルロスが犯罪に少しでも手を染めたら、どでかい警報音がなる、、筈なのだが、碇で人死が出てもカルロスの行方は一向に知れない。
そのくせ最近は、カルロスが動き回った後の痕跡が、そこいらじゅうの死体に残っているのだ。
例の因縁の銃弾だ。
だが、拳銃が同じだからと言って、それを使っているのは必ずカルロスとは限らない。
、、とは言うものの、殺しのやり口の鮮やかさ強引さは、やはりカルロスを思わせた。
どうにもその仕組みが、判らない。
裏世界の抗争が、香坂のいう千日手になったのは、丹治と護がジェミニ達に襲撃を受けた日を境目に、旧勢力の大物達が何者かに暗殺されるという事件が相次いで起こり、両者の勢力地図が拮抗しだしからだ。
碇では、修羅王がついに特異点帰りのカルロスを刺客として使い出したという噂が立っていた。
丹治もこの状況に対して、当然、激しい動きを見せた。
丹治の切り札だった護は機構に帰ってしまって、もう使えない。
丹治は、裏の世界の要人護衛に関して、警察と旧暴力団組織の密接な連携という前代未聞のシフトを組んだのだ。
口の悪い連中は、丹治が裏で普段やっている事を、この状況にかこつけて表面的に堂々とやり始めただけの話だと揶揄したが、例えそうだとしても、そのことを正面切ってやるのとやらないのとでは意味は大きく違う。
現に、丹治の裏の指示など、まったく聞く耳を持たない響児が、正式な命令を受け、今こうやって香坂のサポートに馳せ参じている。
「しかしこんなのに意味があるんすかね。本当にヒットマンがカルロスだとしたら、瞬間移動で目の前に飛び込まれてズドン、それでおしまいだ。警護もへったくれもあったもんじゃない。」
「その辺は、丹治警部の推測を信じるしかないな。それでこういう策が取られている。奴は自分が知っている空間にしか瞬間移動出来ないってやつだ。俺もそう思う。今まで殺された奴らの住居は、碇に住んでるちんぴらなら誰でも知ってる有名な場所だし、寝室だとかの部屋の間取りなんかは、修羅王あたりから情報提供があっただろうしな。」
香坂の言う、「こういう策」とは、大河内大和を隠れ家に移動させ、その周辺を彼の組員と警察官で固めるという今の状況の事だ。
「丹治警部が、報告書と現場検証から、その事に気が付いたのはさすがとしかいいようがない。現に殺しが止まって、今の様な千日手になったのは、悪党どもが自分の巣を変えてからだろう?だから今の俺達の仕事は、どちらかというと、隠れ家を探し出そうと、そこらをかぎ回っている修羅王の手下を見張る事に、比重が移りつつある。」
「でも俺達が見張ってるって事は、その近くに、的がいるって事を相手に教える事になりませんかね。」
「それでいい。たとえ住所が確定できても、今までとは違って、相手がその家のどこにいるかまでは、カルロスにはわからない。的になる人間の衣食住の習慣が染みついた家屋への襲撃じゃないからな。しかも家中、用心棒だらけだ。というより奴らは、自分たちが罠を張っているつもりでいるんだ。カルロスが、一瞬でも姿を現したら蜂の巣だ。言葉は悪いが、瞬殺って奴だ。その辺りの段取りを、丹治警部が内外を問わず周知徹底させている。」
「、、、でもカルロスは、ずる賢い。相手が緊張に耐えきれず気が緩むのを待っているんじゃないですかね。」
「・・・だろうな。そういう意味でも、早くカルロスの居場所を突き止めて、こちらから逆に追い込みをかけないといけないんだが、、。」
「この状況、もし警視殿がいたら大きく変わっていたんでしょうかね、、。」
響児は目をこすりながらそう言った。
そう言った香坂のスーツは、皺だらけになっている。
一体、何時間、この車の中にいるのだろうか。
香坂は、今、碇の大立て者の一人である大河内大和の身辺警護のサポートに入っている。
妙な言い方だが、警察職員と暴力団組員が協力し合って、一人の組長の命を守っているのだ。
「ジョンリーの奴が、この街に現れてからですね。旧勢力と新勢力がにらみ合ったまま動かない。いいじゃないですか、ヤクの流通も暴力沙汰もぴたりと止まったままだ。」
響児が眠気覚ましのガムを思いだしたように噛む。
響児は徹夜の張り込み明けの後、数時間の聞き込みをやった上で、こちらに回ってきて香坂と合流している。
「表面上はな。ヤクの供給は派手に動いた方が、相手につけ込まれる状況になっているから、双方とも持久戦の構えで、ヤクの流れを一時期止めに入ってる様に見える。しかし、薬中どもが我慢できるわけがないし、金だっている。そろそろ、裏でやり始めているみたいだな。両者共に流通が巧妙になって来てるんだよ。下手をすると、この騒ぎが収束してからも、今の複雑怪奇な流通システムが生き残るかもしれんな。そうなると厄介だ。警察の方も、今度は麻薬汚染の水位をコントロール出来なくなるかも知れない。」
香坂は、この警護任務の専従のような形になっていて、最近はあまり響児と組んだ仕事がない。
「・・・それって、丹治警部の台詞みたいですよ。」
「そうかな、、、。しかしカルロスも修羅王も、どこに隠れていやがるんだ、、やる事は派手なのに、一旦、姿をくらませたら、全く尻尾が掴めない。」
香坂が伸び始めた無精ひげの感触を確かめるように顎先を撫でる。
「修羅王の方はエマーソン製薬の傀儡ってこともあり得るから、奴らに対する外部からのバックアップがあってもおかしくないでしょうね。でもカルロスは、力があってもただの離れ駒だし、その上、丹治警部のプレッシャーが相当ある。それなのに、未だに足取りが掴めない、、不思議な話ですよね。カルロスが奴らのヒットマンとして動き始めたっていうのは、ガセじゃないですかね?」
「確かにな、、。そう思いたいところだよ。」
香坂は、丹治の仕掛けているカルロスに対する包囲網の大きさと、その密度を知っている。
碇は当然だが、この地球上のどこに潜んでいたとしても、カルロスが犯罪に少しでも手を染めたら、どでかい警報音がなる、、筈なのだが、碇で人死が出てもカルロスの行方は一向に知れない。
そのくせ最近は、カルロスが動き回った後の痕跡が、そこいらじゅうの死体に残っているのだ。
例の因縁の銃弾だ。
だが、拳銃が同じだからと言って、それを使っているのは必ずカルロスとは限らない。
、、とは言うものの、殺しのやり口の鮮やかさ強引さは、やはりカルロスを思わせた。
どうにもその仕組みが、判らない。
裏世界の抗争が、香坂のいう千日手になったのは、丹治と護がジェミニ達に襲撃を受けた日を境目に、旧勢力の大物達が何者かに暗殺されるという事件が相次いで起こり、両者の勢力地図が拮抗しだしからだ。
碇では、修羅王がついに特異点帰りのカルロスを刺客として使い出したという噂が立っていた。
丹治もこの状況に対して、当然、激しい動きを見せた。
丹治の切り札だった護は機構に帰ってしまって、もう使えない。
丹治は、裏の世界の要人護衛に関して、警察と旧暴力団組織の密接な連携という前代未聞のシフトを組んだのだ。
口の悪い連中は、丹治が裏で普段やっている事を、この状況にかこつけて表面的に堂々とやり始めただけの話だと揶揄したが、例えそうだとしても、そのことを正面切ってやるのとやらないのとでは意味は大きく違う。
現に、丹治の裏の指示など、まったく聞く耳を持たない響児が、正式な命令を受け、今こうやって香坂のサポートに馳せ参じている。
「しかしこんなのに意味があるんすかね。本当にヒットマンがカルロスだとしたら、瞬間移動で目の前に飛び込まれてズドン、それでおしまいだ。警護もへったくれもあったもんじゃない。」
「その辺は、丹治警部の推測を信じるしかないな。それでこういう策が取られている。奴は自分が知っている空間にしか瞬間移動出来ないってやつだ。俺もそう思う。今まで殺された奴らの住居は、碇に住んでるちんぴらなら誰でも知ってる有名な場所だし、寝室だとかの部屋の間取りなんかは、修羅王あたりから情報提供があっただろうしな。」
香坂の言う、「こういう策」とは、大河内大和を隠れ家に移動させ、その周辺を彼の組員と警察官で固めるという今の状況の事だ。
「丹治警部が、報告書と現場検証から、その事に気が付いたのはさすがとしかいいようがない。現に殺しが止まって、今の様な千日手になったのは、悪党どもが自分の巣を変えてからだろう?だから今の俺達の仕事は、どちらかというと、隠れ家を探し出そうと、そこらをかぎ回っている修羅王の手下を見張る事に、比重が移りつつある。」
「でも俺達が見張ってるって事は、その近くに、的がいるって事を相手に教える事になりませんかね。」
「それでいい。たとえ住所が確定できても、今までとは違って、相手がその家のどこにいるかまでは、カルロスにはわからない。的になる人間の衣食住の習慣が染みついた家屋への襲撃じゃないからな。しかも家中、用心棒だらけだ。というより奴らは、自分たちが罠を張っているつもりでいるんだ。カルロスが、一瞬でも姿を現したら蜂の巣だ。言葉は悪いが、瞬殺って奴だ。その辺りの段取りを、丹治警部が内外を問わず周知徹底させている。」
「、、、でもカルロスは、ずる賢い。相手が緊張に耐えきれず気が緩むのを待っているんじゃないですかね。」
「・・・だろうな。そういう意味でも、早くカルロスの居場所を突き止めて、こちらから逆に追い込みをかけないといけないんだが、、。」
「この状況、もし警視殿がいたら大きく変わっていたんでしょうかね、、。」
響児は目をこすりながらそう言った。
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