宇宙は巨大な幽霊屋敷、修理屋ヒーロー家業も楽じゃない

Ann Noraaile

文字の大きさ
43 / 54
第3章 竜との旅

42: シャドー 鏡面世界

しおりを挟む

 眩しさで目が覚めた。
 日が昇っている。
 俺の世界に太陽が昇る事があるのか!?、、空は朝焼けだ。
 護は訳が分からず混乱した頭のまま半身を起こした。
 隣で寝ている筈のレズリーの姿がない。
 もっと驚いたのは、目の届く地面すべてに、桜色の花びらが撒き散らかされていた事だ。

「櫻?」
 朝焼けの空が見る間に澄み渡っていく。
 明るい日射しの中で周囲を改めて見てみると、護達が一晩を過ごした場所は、なだらかの丘の上に生えた一本の巨木の根本だったようだ。
 そしてこの丘を取り囲むように、四方には同じ様な丘が連なっていた。
 それぞれの丘との相違点は、護がいる丘には、一本の巨木しかないが、他の丘には沢山の櫻の木が生えている事だった。
 しかもそれら総てが、満開の花を咲かせており、風に散った花びらがそこらじゅうに舞い散っていた。
 いや舞い散ると言うより、花びらが吹き上がっていると言う方が正しいかも知れない。
 それらの光景は、悲しくなるような空の青と相まって、美しいというよりなにか壮絶さを感じさせた。

 護は身震いした。
 ここは自分の内部世界ではない、、護は既に、レズリーに導かれ、違うリペイヤーの内部世界に入り込んでいたのだ。
 遠くで鳴き声が聞こえた。
 虹色竜のものだった。

 虹色竜が鳴くところを見たことがなかったが、不思議な事にその声は虹色竜のものでしかないという確信が護にはあった。
 見つけた。二つ向こうのピンク色に染め上げられた丘の頂で、虹色竜は狼が遠吠えをするように喉をこちらに見せながら鳴いている。
 こっちに来いと護を呼んでいるようだった。
 そういえば、昨夜眠りにつく時、虹色竜は護達を守るように彼らの側にいたはずだが、、、、レズリーだ、単独行動をとったレズリーを追って虹色竜が移動したのだろう。
 しかもレズリー自身が連絡を寄越さずに、虹色竜が代わりに護を呼んでいる。

 非常事態だった。
 護は移動ディバイスに乗って、と一瞬思ったが諦めた。
 虹色竜がいる丘に繋がる舗装された道が見あたらない。
 昨夜までは、なんとか移動できる道があったのだが。
 何でも出来る筈の護のスーパーカーには、このような自然の丘の連なりでの登坂能力がない。
 ここは既に護の内部世界ではないのだ。
 護は走り出した。

    ・・・・・・・・・

 響児が推測したカルロスに訪れた転機とは「シャドー」の発見だった。
 カルロスが「シャドー」を手に入れたのは、瞬間移動の最中に失速した時だった。

 自分の思い浮かべた場所に転移できなかったのだ。
 なぜ失速したのかは未だに判らない。
 瞬間移動の最中に、何かの力に引っ張られたような気がしたが、カルロスは、元来、物事に対して「何故」という疑問を抱かない質だった。
 彼に関心があるのは、今がどうかという現実だけだ。

 最初は、その空間が、後に「シャドー」と名付ける事になる世界だとは判らなかった。
 失速して落ちた場所は、お馴染みの愛すべき悪徳の街・碇だった、、瞬間移動に失敗したのかと思ったほどだ。
 ジョンリーに依頼された殺しには、成功したが、意外にしつこい追跡と報復にあった。
 カルロスはいつものように瞬間移動で一気に逃亡しようと思ったのだが、その時、思い浮かべた去年の夏に行った海岸には飛べず、気が付いたら碇の江南ブロックの薄汚い裏通りに移動していたのだ。
 移動という程の距離でもなかった。
 そこは殺しをやった現場から走れば5分もかからずに行き着ける場所だ。

 だが彼は気が付いたのだ。
 いや正確に言えば彼の「力」が、それに気づいたのだ。
 これはいつもの瞬間移動ではない、俺はコインの裏側に来た。
 ここは鏡面世界なのだと、、光景が少し異なるのは、いつもの瞬間移動の力が慣性的に働いて、無理矢理、鏡面世界の中を少しばかり移動してしまったからだと。

 普段なら鼻に来る溝の匂いも、ゴミ箱を漁る野良犬も、大量の気配だけは分かる闇に潜んだどぶネズミ達も、ここにはない。
 まったく生気がない。
 ましてや人間の気配などあろう筈もなかった。
 命の抜け落ちた、碇のコピーのような街、そこにカルロスは瞬間移動、いや転移したのだ。

 そしてカルロスは、この気配に記憶があった。
 特異点だ、、夜の世界、、自分が力を得た場所。
 カルロスは推理した。
 リペイヤーどもは、自分専用の特異点を持っているという、つまりはそれが奴らの力の源なのだ。
 ひょっとすると、この俺も自分専用の特異点を持てるようになったのではないか、、この命の抜け落ちた碇の街の鏡面コピーが、それではないのかと、、。

 カルロスの推理は半分だけ、あっていた。
 この鏡面世界はリペイヤー達の内面世界のようなものではない。
 しかしカルロスにとって、現在の利さえあれば「半分」で充分だった。
 力を得るためなら悪魔に魂を売ってもよいと考える男なのだ。

 今までなら「飛ぶ」ときに、目的地をイメージする必要があった。
 さらにどこに「飛ぶ」かを考える必要も出てくる。
 それらをトータルすると瞬間移動するまでに結構な時間がかかるのだ。
 例えば、相手が自分の目の前に出現したカルロスに反射的に銃を発砲した場合には、勝負は単純に反射速度だけの問題になる。
 いくらカルロスが瞬間移動で相手の目の前から消えて無くなる力を持っていようが、その事実は変わらない。
 つまり、消えて無くなるまでの時間よりも、相手の放つ弾丸がカルロスの肉体に早く届けばカルロスは死ぬことになる。

 もしこの現実の鏡面世界である「シャドー」に、瞬間移動するのなら、カルロスは、「考える」必要さえないのだ。
 鏡に写っている自分の像が同時に動いているのと同じだ。
 やばいと思った瞬間に、鏡の中にいればいい。
 本当の意味での瞬間に行われる移動だ。
 いやこれは「移動」というよりも、二つの世界に二重存在している自分の立ち位置を切り替えると言った方が良いのかも知れない。

 これでもう、人が引き金を引く武器では、カルロスは死ぬことはない。
 そして、まだカルロスは気づいていないが、「シャドー」にはもう一つの秘められた力があった。
 まさにカルロスは、全能に近い「戦いの神」の領域に近付きつつあったのだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...