22 / 82
第2章 追跡
22: 激突
しおりを挟むアレンの首根っこを掴みながら、周騎冥は目の前の光景をにらみ据えていた。
昼間も夜半も人通りのたえないドアーズの街だが、今はもう明け方の少し手前だ。
どのビルのイルミネーションも非常灯を除いて全て消えている。
動くものと言えば、この世界の気候を調整しているエヤーダクトが送り出す微風が動かしたポップコーンの破れた包装紙だけだ。
包装紙は、地面すれすれの所を流されて行き、黒い刃物だらけの切り株の様な物にぶつかって、真っ二つに引き裂かれた。
その黒い切り株は、死神の足だった。
死神は生ぬるい風の中で、ひっそりと佇んでいた。
薄闇の中で死神の髑髏の中の赤い目だけが輝いている。
「お前達の仲間の一人は、大蜘蛛が浚って行った。そいつの末路は俺にも想像がつかん。、、、お前達も死にたくなければアレンをはなせ。」
死神の声は、地面を伝いそして聞くものの身体を這い登るようにして届いた。
周は顔をしかめた。
周は、葛星が装着するバトルスーツの概要について、本部から事前情報を仕入れていたが、目の前にいるのは、彼が想像していたそのどれとも一致しなかったのだ。
彼らの目の前にひっそりとそして凶暴に立っているのは、半ば超自然的な存在の様に見えた。
「虚仮威しだ。やれ!」
命令を受けて、周騎冥を庇うようにして立っていた戦闘員が動いた。
彼らの戦いに間合いはない。
彼らの動きには何の予備動作も必要がなかったし、何よりもその動作速度が桁外れに早いからだ。
一呼吸も置かぬ内に、戦闘員は葛星の直前に位置し、岩をも砕く前蹴りを跳ね上げていた。
その途端、強大なミキサーに金属を突っ込んだ様な音が響いた。
戦闘員が、必殺のつもりで蹴り込んだ筈の足首が、葛星の身体に接触した途端、霧の様に消滅している。
葛星のバトルスーツの表面に埋め込んである無数のブレードが超振動を起こしたのだ。
しかしその直後、戦闘員は、その場から跳ね飛んで後ろに下がると自らの体勢を立て直した。
「いくらやっても無駄だ。もう一度言う。死にたくなければ、アレンを残してここから立ち去れ。」
「ふざけるな。お前は命令する立場じゃないぞ。」
周騎冥がアレンの首に巻き付けた自分の腕を締め上げた。
アレンが空気を求めて激しく喘ぐ。
周はガスマスクこそしてはいないが、その自信からしてマシンマンに違いはなかろう。
それも相当に優秀な。
マシンマンならば、人の肉体を傷つけるのに飛び道具はいらない。
葛星の右腕がゆっくりとあがった。
その手には改造ショットガンが握られている。
周騎冥も、葛星とスーツ姿の男の中間点にいる戦闘員も一瞬同じ事を考えた。
これは脅しだ。
拡散するショットガンで致命的な被害を被るのは、マシンマンの周ではなく、盾となる生身の人間のアレンとその後ろのバンしかない。
彼らの一瞬の躊躇いを無視して葛星は、途切れなくショットガンの引き金を数回引いた。
次の瞬間、戦闘員は自分の左半分を負傷し、周騎冥は左肩をやられた。
アレンは奇跡のように、強力無比なショットガンの散弾の着弾点から免れ、無傷のまま周騎冥の束縛を離れている。
「ちくしょう。どうなってやがるんだ!」
左肩の傷口を塞ぐようにして喚く周騎冥の背後には、既に葛星が彼にショットガンを突きつける形で移動をすましていた。
「アレン、早く行け。こいつらはプロだ。お前の組んだショットガン用の弾道修正プログラムのバナナシュートはもう通用しない。二度目の奇跡はない。」
葛星は、周の束縛を逃れたアレンの方に振り向きながら、彼が置かれている状況を短い言葉で説明した。
一方、アレンはそんな葛星の言葉を後目に、大型動物から逃げる小動物さながらのスピードで穴だらけのバンに飛び込んでいく。
「くそたれ!」
周騎冥が口汚く罵ると、そのまま勢いをつけて身体を反転させた。
左足が軸となり右足が高く跳ね上げられている。
周が腕で庇ったのは自分の目だけだ。
彼には、その体勢で葛星のショットガンを受けても、動じないで、しかも相手にダメージを与える自信があったのだ。
葛星も、ショットガンを至近距離で発砲する事に躊躇しなかった。
ショットガンの散弾が周騎冥の外表を全て吹き飛ばした。
超合金の人体フレームとその周囲にまとわりついた人造筋肉だけの姿となった周騎冥の回し蹴りが、葛星の髑髏のヘルメットに激突し、葛星はそれを避けきれず、その場に蹲った。
周騎冥の捨て身の攻撃が功を奏したのだ。
葛星の頭部を除く全身は超振動するブレードで覆われており、攻撃する側の打撃自身を粉砕するが、髑髏のヘルメットにはそういった機能がない。
しかも、マシンマンである周騎冥の一撃必殺の蹴りのダメージは、葛星の頭蓋をガードするはずのヘルメットの防御能力をわずかにこえた様だった。
「こい!」
周騎冥は、そう叫んで戦闘員の援軍を呼びながら、腕でヘルメットを庇う葛星の頭部めがけて連続的に、蹴りを入れ続けた。
葛星の意識に混乱が起こっているのか、鎧のブレードの超振動も作動していない。
・・・コイツをやるなら、今しかない。
周騎冥は、葛星を背後から羽交い締めするスタイルで引き起こし、葛星の身体を戦闘員の正面に向けた。
「こいつの頭を引っこ抜け!」
戦闘員は、葛星のヘルメットに手を掛けるや否や、彼の持っているジェネレターの出力を最大限に上げて葛星の頭部を鎧から引き剥がし始めた。
葛星の首の付け根からミシリと厭な音が響く。
「なんだ?」
周の表情が殺戮の喜悦に歪み始めた時、彼の身体と葛星の背中が密着している部分がモゾリと蠢いた。
次の瞬間、葛星を羽交い締めしていた周騎冥の両腕がボトリと落ちた。
葛星の背中からは、黒光りして表面がブレードに覆われた金属製の強大なコウモリの羽が立ち上がっている。
葛星は、髑髏のヘルメットのむき出しの歯茎の部分から、狂気の息を激しく吹き出しながら、自らのヘルメットを挟み込んでいる戦闘員の両腕を掴み返した。
戦闘員の口からあまりにも人間的な悲鳴が上がった。
戦闘員の両腕が、彼の肩口から引き抜かれたのだ。
しかし、周騎冥と戦闘員を襲う恐怖はそれだけでは収まらなかった。
巨大な蜘蛛が、薄闇の上空から何処からともなくフワリと舞い降りて来たのだ。
蜘蛛は両腕を失った戦闘員をその八つの補脚でからめ取ってしまう。
葛星は戦意を喪失して座り込んでしまった周騎冥の首に喉輪をかける形で、片手で彼をつり上げた。
「奴が、蜘蛛に喰われる姿をしっかり目に焼き付けておけ。」
葛星の言葉の輪郭がブレていた。
その声は何処か遠くの世界の生き物が発するものの様な異質さに満ちていた。
蜘蛛は、自分の補脚で胎児の様に折り畳んでしまった戦闘員の身体を、脚の方から囓りはじめている。
葛星は次に、自分の右手を周騎冥の目の前に手刀の形で示すと、その表面のブレードを超振動させて見せた。
「お前達、李のマシンマンは、その頭さえ残っていれば、いくらでも再生が利くそうだな?」
葛星は、自分の超振動を起こして輪郭がぼやけて見える手刀を周騎冥の腹部に突き刺しながら続けて言った。
「殺しはしない。残った二人の男達もだ。もっともそれは、蜘蛛が俺の命令を聞くんだとすればの話だが、、、。首だけは残しておいてやる。そして本部に伝えるんだ。この俺の恐怖がいかほどのものであるかを。二度と李が葛星とアレンの二人に手を出さぬようにな!」
周騎冥の目は、蜘蛛に食いちぎられてゆく戦闘員の姿に釘付けにされていた。
彼らは、マシンマンであるが故に、自らの肉体の痛みを遮断することが出来る。
しかし、人間としてのイマジネーションは遮断することは出来ない。
周騎冥の想像力は、巨大な蝙蝠の羽を持つ死神と人を喰らう大蜘蛛のイメージに侵略され尽くしていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる