混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第2章 追跡

24: 大蜘蛛が暴いた愛の繭

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 深い眠りから目覚めた葛星は、シャーロットをケーブから追い返していた。
 アレンはこっぴどくシャーロットに責められていたが、それでも彼女と一緒にいる事を望んでいた。
 だが一方で葛星が彼女を退ける意味も理解していた。
 そしてアレンは先ほどまで、交わしていた彼女との会話の続きを、葛星にするべきかどうか迷っていた。
 過去においては、葛星が彼女に自分の鎧について軽く喋ったこともあるし、アレンの方からも宗教団体の事については葛星と喋ったことがある。
 ただし、バトルスーツの由来や、その本来の目的についてのまとまった会話は、未だかって二人の間で交わされた事はなかった。
 それはある意味で、アレンと葛星の関係の中で、バトルスーツの由来を語る事自体がタブー視されていたからだ。

「どうした。浮かない顔をしているな。俺が又、シャーロットを追い返したからか?」
 葛星がやけにさっぱりした口調で言った。
 これが、つい数時間前まで、李警備保障と死闘を演じた男とは思えない程に弾んだ声だった。
 性格が変わったのか?と一瞬、アレンはそう思ったが、そんな筈はなかった。
 確かに状況的に見れば、葛星の明るさは異常だったが、その明るさ自体は、葛星が過去に何度かアレンに見せた事があるもので作り物ではなかった。

「いや、スーツの事を考えていた。あれは、やっぱりダンクがいう様に、あまり装着しない方がいい。」
 アレンの顔色は葛星とは対照的でくすんでいる。
 心労もあったが、ついさっきまで、蜘蛛が採集してきた『愛の繭』のデータを取り出すのに苦労していたからだ。

 葛星が快復したかぎりには、次にアレンが取り組むべき事は『愛の繭』のデータ解析しかなかった。
 アレンが受けた傷は、相当のモノだったが、死んでしまっては、その痛みすら感じる事が出来ないのだ。
 李を出し抜くには、データの解析しかなかった。
 しかし蜘蛛はハード的にもソフト的にも、アレンが今まで扱って来たどんな機械類とも類似点が少ないデバイスだった。
 蜘蛛自らが、アレンに反応してデータを電子的にコンピュータを出力する時は、蜘蛛は機械のように作動するが、その他の面では、大蜘蛛はまるで生き物のように見えた。

「スーツな、、俺もそう思っていたが、昨夜の出来事で少し考え方が変わった。お前は見ていなかったろうが、俺は李の野郎に、この首をへし折られたんだぞ。普通なら生きちゃいない。こうして喋っていられるのもあの忌々しいスーツ様のお陰ってわけさ。それに、今の状況下で、俺達があのスーツなしでやっていけるのか?」
 異様に機嫌のいい葛星だった。
 スーツは葛星の首を繋ぎ治した時に、彼の憂鬱の回路を遮断したのかも知れない。

「それよりどうなんだ、蜘蛛からデータが取り出せたのか?シャーロットお嬢さんが出ていってから4時間だ。その間、俺はもう一眠りし、シャワーを浴びた。確かにビールも飲んださ。お前は、その間あの蜘蛛野郎の訳の分からないメモリーシステムと悪戦苦闘した、その事に文句があるのか?」
 葛星は肩に掛けた白いバスタオルでまだ濡れている黒い髪をゴシゴシとやりながら上機嫌でまくし立てた。

「そんな事で、腹を立てている訳じゃない。」
「だったら早く俺に見せてくれ。あの蜘蛛野郎が『愛の繭』で俺をほっぱらかして、何を探していたのかをな?」
 葛星はコンピュータの前のコンソールにどっかり腰を下ろした。

「普通のコンピュータのデータベースで見れるようにコンバートしておいた。俺は少し眠りたい。」
 対するアレンは、すこぶる不機嫌だった。

「飯より機械をいじっているのが好きな野郎が、か、。まあいい、一眠りしてろ。全ては、このデータ次第だ。結果、暇が出来たら、その擦り傷だらけの身体の手当てに、病院に連れていってやるよ、バンパイア。」
 葛星はそういいながら、アレンが蜘蛛から取り出したデータを閲覧し始めた。
 アレンは色々なモヤモヤを引きずりながら隣の部屋に移った。
 自分は眠る必要がある、そう思ったのだ。

    ・・・・・・・・・

「こりゃ、一体なんなんだ?!」
 葛星の背後からアレンの素っ頓狂な声があがった。
 アレンは、蜘蛛のデータを可視的にコンバートしたものの、その内容は閲覧していなかた。
 自らに加えられた暴力の嵐と、瀕死の葛星への心労が、アレンの猛烈な好奇心を一時的に殺いでいたのだ。
 本当なら、何もかもを捨て去って、街の闇医者に駆け込んでいるのが(好奇心)を抜いた時の、臆病なアレンの本質だったが、好奇心というアレンの本質の中核はそれを踏みとどまらせていた。
 そしてアレンは、わずか数十分の浅い眠りから、自らの好奇心に煽られて、再びこの部屋に舞い戻ったのだ。

「なんだ、寝るんじゃなかったのか?」
 葛星は少しだけ頭を捻って(お前は、そうでなきゃ。)という意味のニヤニヤ笑いをアレンに見せてやった。

「これ見て判らないか?『愛の繭』の顧客データだ。問題のな。」
 葛星は、人物名とそれに対応する形のマリオネットの写真で構成されているデータを、縦にスクロールさせるのを、ある人物で止めた。
 それは最近の二人にとって、とても馴染みの深い顔だった。

「こいつは!!」
「ジュニアだよ。つくづく業が深い男だよ。人工皮膚での女装でも満足できなかったんだな。これで決まりだ。ナディア・ブッシュ、ジュニアのマリオネットの名前だ。住所はカミアンブロックの7Fサウスアイランド2ーD。職業・小学校教師。そしてジュニア達クライアントが、お留守の時のマリオネット管理者がジェミィ・スーラント。」
 ナディア・ブッシュと呼ばれるマリオネットは、完全に人間社会に入り込んで日常生活を送っているようだった。
 ジュニア達は自分が買い取った時間帯で、その日常生活ごと、マリオネットにバーチャルインするようだった。
 それ以外の時間帯は、管理者と呼ばれる人物が、マリオネットの日常を支えている。
 つまりそういったものをコープレィ社は、レコード会社を装いながら、裏でアクアリュウムの人間達に提供していたのだ。

「わくわくするな。お次は何が出てくるかな?」
 葛星が、その管理者のプロフィールを呼び出した途端に、二人は凍り付いた。

「ジェミィ・スーラントは、バイオハザードシード患者だ。、、どうりでな。」
 荒れ狂う外界の中では、時に得体の知れない新種のウィルスが創造される。
 その幾つかのウィルスにおいて最も人間に無慈悲なものは、その起源に、前文明において最高度に達したバイオ技術の暴走に求められるものがおおい。
 これらのウィルスに感染した患者を総称して、一般的にシード患者と呼び現している。
 現在の所、アクアリュウム世界では、それを完治させる方法はない。
 多くのシード患者は、植物人間という肉体の檻の中に封じ込められたまま、解け崩れゆく己の肉体に耐えて、数十年を生きなければならない。

「シード患者を救済する為に、ビニィボディを利用する。これに似たプロジェクトは、大昔からあった。でもビニィ法案の可決とともに、そいつは潰え去った。その筈だったのに!奴らこんな事に、手を出したのか!」
 アレンが喘ぐように言った。
 シード病は、外界に長く滞在するサルベージマンにとっても最大の恐怖の的である。
 それに加えてアレンは、ビニィと人間が見分けが付かなくなる恐怖感と同じようなものを、ジェミィ・スーラントに感じたのである。
 いやその感情は、特別なものではない。
 それは地上人の共通した心理だった。



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