混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第3章 光の壁

35: 拿捕者たちとの駆け引き

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「弾駆。これ貴方なの?」
 テントの柱は葛星の身体だった。
 葛星の背中から飛び出したマントというのか翼というのか、それが今、シャーロットから見てドーム型のテントのように膨れ上がり、彼らを保護していた。

「そうだ。しかし、いつまでもこうしていても意味はない。攻撃が途絶えた時、私は反撃に移る。シャーロット、君の弾層ベルトの一番下にぶら下がっているのは、目眩まし弾だろう。時が来たらピンを抜いて外に投げろ。そして自分の幸運を祈れ。」
 そしてその時が来た。

 攻撃者達から見れば、一連の出来事はこう見えたに違いない。
 攻撃者達は、この空洞の出入り口の岩陰に隠れて、死神達を待った。
 彼らには自分たちの存在を完全に隠し通せる装備があったし、空洞に入ってきた死神達も彼らに気づいている様子は無かった。

 そして、葛星達は、ミイラの残骸の山を避けるために、彼ら攻撃者達の位置からは死角のない、しかも遮蔽物さえない場所に陣取ったのだ。
 攻撃者達は、彼らが座り込み安心しきった絶妙のタイミングを狙って機銃掃射した。
 彼らには避けようが無かったはずだ。
 しかし、死神は攻撃者が引き金に指をかける瞬間に、その背中から巨大な蝙蝠の様な羽根を伸ばした。
 そしてその羽根は、残る二人を包み込んだ。

 しかし、蝙蝠の羽根は薄く見えた。
 攻撃者達の連射に耐える訳がない。
 彼らは、攻撃を止めて、その結果を確かめようとした。
 そこには死神が張っていた蝙蝠の羽根のテントはなく、そのかわりにそこから目も眩むような白光が発生した。
 そして彼らの視力が通常に戻ろうとした時、彼ら攻撃者の側には、あの死神がいた。

 アレンとシャーロットが再び未踏の地下道に逃げ込み、第二の洞に潜み終えた時、葛星は、恐らく今の彼にとっては最も苦手な仕事を成し遂げていた。
 それは、攻撃すべき相手を、傷つけないで拿捕するという仕事だった。
 しかも葛星は、彼らを囚人のように引き連れ、アレン達が逃げ込んだ第二の洞に連行したのだ。

 拿捕された三人の男と一人の女は、第二の洞に、葛星が引きちぎって来たケーブルの類で縛り上げられ転がされていた。
 ほとんど彼らには外傷らしい傷跡は無かった。
 唯一の例外は、頭頂が禿げ上がった壮年の大男だけだった。
 この男の身体には古傷の後が山ほどあったが、最近のものはまったくなく、葛星に出会う前から眠っていたのかと言うような印象を受けた。
 その大男に対するアレン達の違和感を敏感に察知したのか、頭をクルーカットにした金髪の男が吐き捨てる様に言った。

「ちっ。ろくでもない、ボディガードだぜ。肝心なときに戦いもせず、寝むっちまいやがる。」
 その言葉に顔をしかめたのは、やや小太りだが、しっかりした筋肉を感じさせる中年男だった。
 中年男は、この四人の中でのリーダー格のようだった。
 そしてその表情の変化から、この男が、眠ったまま捕らえられたというボディーガードとの関係が深いことが読みとれた。
 なかなかに深い表情を見せる男だった。
 特にそのはしばみ色の瞳は男に渋みのある陰りを付加していた。

 その中年男が、アレンに向かって話しかけた。
 中年男が、自分の話しかける相手を、ラバースーツのシャーロットではなく、(勿論、葛星を外して)アレンに決めたのは、彼が最も人間らしい姿形をしているという単純な理由だった。

「私たちを、どうする積もりだね?」
「人をマシンガンで撃って置いて、どうするつもりとは、聞いて呆れるわね。」
 アレンの代わりにシャーロットが答えた。
 シャーロットはしっかりライフルの銃口を捕虜達に向けたままだ。

「とにかくマシンマンだかロボットだか判らないが、その物騒な怪物を君たちの後ろに下がらせてくれたまえ。」
 葛星は、先ほどから口をきかないで、捕虜した人間達から少し離れた所に横たわっている禿頭の大男をずっと見つめたままだ。

「貴方達に命令する権利はないわ。まず自分が何者か名乗りなさい。」
 シャーロットは厳しく言い渡した。
 中年男は、海千山千を乗り越えてきた男が発するオーラでそれを無視しようとしたが、物言わぬ葛星をちらりと視野に入れた後、考えを変えたようだ。

「私はクン・バイヤー。」
「、、、こいつはアストラル・コアの副主席だ。本当なら首席になっていた筈の男だ。」
 情報通のアレンが、己の知識をシャーロットに聞かせようと、中年男の言葉の続きを引き取って呟いた。
 中年男が苦笑いをした。
 場合によっては、自分の身分を隠し通す積もりでいたのが、あてが外れたようだった。

「貴方は?」
 シャーロットは、初めに口を訊いた若い男の方を見ていった。
「彼はカーリ・ゲナダ。表向きは大学院生だが、その実、」
 命令されたのが気に食わないのか若い男は答えようとせず、代わりにクン・バイヤーが反応した。
 クン・バイヤーは、この男の先ほどのボディガードへの侮辱を、自分への当てつけと捉えていたのか、そのお返しに、葛星達へ冷やかしめいた紹介をしてやろうと試みたようだ。

「やかましい!」
 クン・バイヤーの方を、もの凄い目つきで睨み付けた男は、視線をそのままシャーロットにずらして言った。

「ゲヘナ解放組織、『日輪』のリーダーだ。あんた良いからだをしてるな。そのゴムの服を脱ぐ時は俺にいいな。ナイフで、ゆっくりとはぎ取ってやるぜ。」
「ゲヘナ解放組織?聞いたこともないわね。ゲヘナの反乱分子?あんたみたいなごろつきの脅しに、この私がびくつくとでも思っているの?、、、そこの女、次は貴方の番よ。」
 シャーロットは虚勢ではなく、平然とゲナダの言葉を受け流した。
 次の捕虜に視線をちらりと移動させた時も、彼女のライフルの銃口は捕虜達を均等に舐めている。

 アレンはその時初めて、隣にいるシャーロットに対して、自分が今まで感じ取れていなかった何かがある事に気づいた。
 葛星が彼女との距離を置こうとする意味が少し判ったような気がした。
 少なくともシャーロットはアレンのような男が相手を出来る女性ではないと。

「レィチェル・奥田。それ以上、あなた方に言うことはないわ。」
 血の気の引いた仮面のように白い顔から、凍えきった声が返ってくる。
 しかし、その声の中には明らかに、怯えよりは、相手に対する侮辱が色濃く混じっていた。
 シャーロットは、ライフルを振り上げてその銃座でレィチェル・奥田の白い顔を薙ごうとした。
 そのライフルを握り止めたのは、それまで沈黙を保っていた葛星だった。

「あの男の名前は何という?彼は、マシンマンだな?」
「カリニテだ。このオッサンのボディガードさ。肝心な時に機能停止するオンボロだがな。ところで、あんたは何もんだ?」
 カーリ・ゲナダが面白そうに答えた。
 それを横で聞いているクン・バイヤーの表情がまた嫌悪で歪んだ。
 普段は、自分の感情を良く制御できそうな男なのに、なぜかカリニテの事になると心が乱れるようだ。

「私か?名前はない。この二人は私の事を、クズボシと呼んでいる。」
 それを聞いてクン・バイヤーのはしばみ色の瞳がちらりと知的に光った。
 葛星の言葉にある拒絶的なニュアンスの中に、自分たちの窮地を開く突破口を見つけたのかも知れなかった。
 自分たちが相手をしている人間達には強い結束がない。
 クン・バイヤーには、この怪物が残る男女二人とさして親密な関係がないように見えたのだ。
 そこにつけいる隙があるかも知れないと。
 目の前の男女には、クン・バイヤー達を制圧し続ける能力はなさそうだった。
 問題になるのは、先ほど自分たちをあっと言う間に捕虜にしてしまったこの怪物だ。


「彼は、あんた達が想像しているような存在じゃないのよ。死神・破壊神なのよ。ダンク。この四人どうすればいいの?」
 シャーロットはクン・バイヤーの頭の中にちらついた策謀の芽を、見つけだしたように彼の方を見ながらゆっくりと言った。
 秘書の最も重要な能力の一つは、素早く相手の意識を読みとることだ。
 それは戦闘にも役立つ。
 そしてシャーロットは秘書として第一級だった。
 もっともそれは、彼女の主が、女装姿のまま間違って処刑されるまではの話だつたが。

「殺した方が良いだろう。生かしておいても、この者達は御しがたい。特にあのマシンマンは厄介だ。彼の目が覚める前に、四人とも葬りさろう。で、シャーロット。これでもう君の好奇心は満足したのか?私はもう待つ必要はないのだな?」
 怪物はそう言った。
 クン・バイヤーらからの目で見ると、やはり彼らの人間関係は何かが変だった。
 彼らはある時期まで、お互いが密接に繋がり合っていた?それが今は切れている。
 そう思ったが、なぜか要所では連携をする、、この怪物は利用できない。
 クン・バイヤーの表情が凍り付いた。
 先ほどの彼の分析が見事に覆されていた。
 一方、シャーロットは会心の笑みを浮かべた。
 葛星は完璧にこの場での自分の役回りを心得ていると思ったのだ。

「駄目だ!相手は人間だぞ。こいつに任せるなんてとんでもない!こいつは、はったり抜きで本気でやるぞ!」
 アレンが慌てたようにシャーロットに言った。
「こいつは、いかれかけている。」
 アレンは一瞬、言葉を切った。
 アレンは自分が今、葛星の事を「こいつ」と呼んだ事に気付いたのだ。
 そしてアレンは、その事を葛星に気づかれぬように、次の言葉を一気に喋った。

「早く俺達を襲った理由を言うんだ。こんな所に居るんだ。あんたら、混沌王と関係があるんだろう?全部、言うんだ。ほって置くと、お前達、本当に死ぬぞ。」
 アレンの混沌王という言葉に捕虜達が反応した。
 特に動揺を見せたのはレィチェル・奥田だった。

「あなた達は、混沌王ガーデアンではないのね!?私たちの追っ手じゃないのね?」
 レィチェルは、クン・バイヤーの方を睨んでから言葉を続けた。
 どうやらこの女性は、クン・バイヤー達から、葛星達のことを混沌王ガーデアンと呼ばれる者だと吹き込まれていたらしい。
 クン・バイヤーは嘘を暴かれたような苦い笑いを、その顔にへばりつかせた。
 どうやら彼ら四人の結束も堅いものではないようだった。
 先ほどの葛星達への攻撃にしても、彼らの内部ではスムースな決定事項ではなかったようだった。

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