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第5章 混沌王の創世
53: 混沌山山頂の知略
しおりを挟むアレンが、葛星との決闘を終えた混沌王に「語り部となる」事を了承したのがこの部屋、つまりかってキングの執務室だった場所だ。
あれから一年半ほどが、過ぎている。
それだけの期間があれば、混沌王は新しい権威の象徴としての建築物が造れた筈なのだが、いまだにママス&パパスのビッグマウンテンにいる。
混沌王には、虚飾によって自分の権威を増強しようという気持ちがない。
あるのはただ、この旧アクアリュウム世界において、最高の行政、あるいは最高の軍事拠点は何処かという判断だけであり、それがビッグマウンテンだったという事実のみだった。
だがさすがに今では、ママス&パパスのビッグマウンテンを旧来の名前で呼ぶ者は誰もいない。
混沌山であるとか、混沌城が自然に行き渡っている。
それと同じように、人々はこの国の全体のことを、アクアゲヘナと呼び始めていた。
天蓋が外されてから、闇が増したようなアクアリュウム世界を眼下に眺めておえ、アレンは混沌王に向き直って、語り部として最近起こった出来事で、彼に聞いておかなければならない事を口にした。
「あの光の壁のエネルギーを、テラフォーミングに転用されるお考えを、民衆に宣言される予定だと聞き及びましたが、、私は随分、驚いております。」
アレンの口調は変わっていた。
内心では、依然として混沌王はアレンにとっては「お前」なのだが、周囲の手前、そういった言動を維持することは出来なかったし、いくら混沌王の軍門に下った覚えはなくても、アレンの生活は混沌王の『語り部』として支えられていたからだ。
それと時代がかった物言い、、混沌王や周囲の人間達につられてということもあったが、これは混沌王がアドルフ・スマートであった頃には、本人も含めて常態ではなかった筈だから、何か魔法に掛けられたような気がしいていた。
混沌王が持ち込んできた元の世界が、徐々に周囲へ影響を与え始めているのだった。
「ふむ、誰がレイニィ卿にそのような事を漏らしたのかな?これは見つけ出して処罰する必要があるな。」
かってキングが座っていた椅子に身を沈めていた混沌王が面白そうに言った。
その言葉が本気ではないのは、アレンの事をレイニィ卿と呼んだことで判っている。
混沌王の側から片時も離れないアレンの事を、混沌王の部下達は、どう判断して良いのか判らず、ただレイニィ卿と呼んでいる。
彼らの概念の中には、『語り部』などという大昔の神話に出てきそうな役割はない。
よってアレンは、混沌王にとっての軍師のような知恵袋役に思われているようだった。
「処罰などと、お戯れを。しかし驚きました。あの光の壁のエネルギーが制御できようとは、、。私は、あなた様が出現なされた地点に、設置された監視装置が光の壁に干渉した現場を体験しております。しかし、あれはただ光の壁を一時的に膨れ上げさせただけだと思っておりました。それ以上の事ができるとは、それもあなた様のお力なのでしょうか?」
「私にはそんな力はないよ、アレン君。」
あれば故郷に戻っている、、とは続けなかった。
そこが葛星とは違うところだと、アレンは思った。
「すべてゲヘナの科学者達の、、いやアストラル・コアの力だ。いやゲヘナの前身である巨大地下シェルター構想を単に設備面だけで捉えなかったロストワールドの知恵をたたえるべきかな。彼らは閉ざされた環境の中でも、科学技術の進歩が可能な環境を整えていた。私のいた世界では、そんな事を考える人間は一人もいないよ。世界が破滅した後の事を考えるより、世界を破滅させる方法を考えて、それで世界を生かすのが常だった。」
いつもの混沌王の逆説的な言い方に、アレンはあえて取り合わなかった。
「私は不思議に思うのです。一説では、ビニィなどのバイオロイドの技術は外界、最近ではあの光の壁の内側から来たというものがあります。しかしそれだと時期が合わない。あなた様以前に、光の壁から来たものがいるという事になります。それとも、やはり一連の技術は、こちらの世界で生まれたものなのでしょうか?私には、私の経験上、そうは思えないのですが。」
アレンにはもう一つの疑問、つまり、そもそも光の壁とは一体何なのか?なんの為に、この地上に現れたのか?が、あったが此処ではあえてそれを聞かなかった。
本心では、混沌王に「それに付いては知らない。分からない。」と答えられるのが嫌だったからだ。
それを知ってしまうと、自分が混沌王の側にいる理由が半減するように思えるのだ。
「君は面白いことを考えるな。自分で言うのもなんだが、私が語り部に指名しただけの事はある。、、私の世界では、こちらに来た者は未だかっていない事になっている。というか、この世界の存在を予見したのは、あまねきモ・ンゴルの王ザイランであるハーンという事になっている。彼はデミゴッドだからな。つまり裏を返せば、この世界と行き来できるのは神だけだ、、、。だが実際には神でもデミゴッドでもない私やオゴデイ王子がこちらに来ている。つまり過去においても、私がいた世界からこの世界に来た者がいるのかも知れないという事だ。」
混沌王はアレンの瞳の中に渦巻く疑問の光を楽しそうに見て言った。
「だが言っておく。光の壁のエネルギーの制御の仕方を見つけ出したのはアストラル・コアだ。それは間違いない。今まで、その技術開発の着手に至らなかったのは、その発想自体がなかったからだ。それを刺激したのが、その側に倒れていたこの私の発見、いや存在だよ。もちろん、私も彼らにはちょっとした魔法を掛けたがね。」
アレンはその魔法については言及しなかった、これも怖かったからだ。
混沌王の側にいると、彼の肉体的・精神的能力は人間離れはしているが、あくまでもそれは異生命体のものではないことがよく判るし、よく言われる「魔法」にしても、目から光線が出てそれを相手に掛けるわけではないのだ。
それに魔法を掛けたと混沌王が言ったが、自分が発揮する能力を冗談めいて現しただけで、彼自身はその能力を制御できているとは思えなかった。
ただ、それがあるのは確かだった。
ひょっとして自分も既にその魔法にかかって、混沌王に従ってしまっている?それを考えたくなかったのだ。
それにこの魔法が、光の壁内の人間と、外の人間の差として現れるのなら、葛星にもそれがあるのではないかと思えたからだ。
「光の壁のエネルギーを、どう使うつもりなのですか?」
「主に二つの要素から考えた。一つは今のアストラル・コアの技術で何処までの事が出来るのか?もう一つは、どこまでの事を民に与えるのが正解なのか?そのバランスだよ。将来的には、光の壁のエネルギーで、この星の気象を完全にコントロール出来るだろうと思う。温度、風の向き、地殻への干渉を使ってね。そうすれば、この星の自然は一気に取り戻せる。だがそれはもっと後の事だ。今はそれを限定的にやれる範囲でやる。つまり外界に対応した身体を持った民達が、手応えをもって外界が開拓出来るようにだ。民には具体的な希望が必要なんだよ。」
この男はしたたかに計算をしている。
どこか訳の判らない国からやって来て、世界征服を試みる悪党といった夢想の中に登場する人間ではないのだ。とアレンは思った。
その時、執務室のドアが開いて一人の男が入ってきた。
何の前触れも遠慮も礼儀もなかったから、この男の入室は混沌王が命じていたものだろう。
「準備が整いました。」
「うむ、揃うのが、早かったな。・・アレン、ついて来るか?」
混沌王は席から身軽に立ち上がった。
報告に限らず殆どの事が、混沌王が望めば全てがこの執務室で手に入る。
だが混沌王はそれをしない。
自らが動き回る。
そしてその先々で、混沌王は新しい魔法を、人々にかけてまわるのだ。
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