混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第5章 混沌王の創世

57: 別府イルマという女

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「別府イルマです。この作戦の指揮を任されています。あなたの事も、お世話をするように命じられています。」
 最初、女はそう自己紹介をした。
 ショートカットの黒髪の小柄な女性だった。
 自分は、ゲヘナのバイオロイドだとも言った。
 アレンはその事に少し衝撃を受けたが、その思いは長く続かなかった。

 それよりもアレンは、『俺は綺麗な女性に縁がある。もてはしないが、、、』と思って、次に『おせわをする』という別府イルマの言葉に引っかかった。
 そういった言葉を軽く受け流せる程、自分は大きくないと思ったのだ、だから代わりにこう答えた。

「俺はてっきり、この作戦の指揮はフィリポ・ベトサイダ氏がとるものだと思っていたが。この作戦は混沌王の指示なんだろう?」
「ベトサイダは忙しいのです。この程度の任務に顔出しなどしません。」
「随分ないいようだな。俺の目の前でフィリポ・ベトサイダ氏は、混沌王から、成功するのは当たり前、部下を一人も死なせるなと念を押されていたぞ。」
「それは聞いています。だから、私がチームリーダーに選ばれたのです。」
 別府イルマは表情を変えずにそう答えた。
 傲慢な自信とは、思えなかった、あまりに彼女が当たり前に応えたからだ。


    ・・・・・・・・・

 今、その別府イルマがアレンの側にいて、双眼鏡のようなものを手渡して来た。
 イルマの率いるチームと共に行動をして2週間が過ぎている。
 もちろんアレンは、ただ彼らの地道な調査活動を横で見ているだけだった。
 回天自体の動向は比較的早く掴めるようだったが、実働隊の動きとなると又、別のようだ。
 しかし今、彼女らの活動がようやく実を結びつつある。

 アレン達が潜んでいる建物からは、周騎冥がいる安宿のラウンジまで相当な距離があった。
 だが見通しは良い。
 だから強化されたアレンの視力なら周騎冥の顔かたち程度なら判別できる。
 しかしその表情までは見分けはつかない。
 双眼鏡を手渡してきたのは、それに気を回しての事だろう。
 ゲヘナのバイオロイドである別府イルマには全てが見えている筈だ。

 なんとなくアレンは、別府イルマが周騎冥を捉えてきて「さあこの首をはねてしまいなさい。それで私の任務は終わるわ」と言っているシーンを思い浮かべたが、もちろんそれは只の夢想だ。
 現実の周騎冥は、やはり手強かった。

 アレンの知る限り、別府のチームが周騎冥の消息を掴むだけで三日かかっている。
 それが短いのか長いのか門外漢のアレンには判らなかったが、時々、姿を見せる別府の同僚達が身に纏っていた雰囲気は、ある種の焦燥感だった。
 潜伏期間中の周騎冥は自分を覆っている人工皮膚をまる毎、張り替えて別人になりすましているらしい。
 だが何故か、襲撃が決まると、元の姿に戻るという。

「確かに奴だ。しかし、なぜ事を起こす前に、元の姿に戻るんだろうな。目立って仕方がないだろうに。」
 アレンは双眼鏡から目を離さずに言った。
「複雑な理由ではありませんよ。単純な自己顕示欲でしょう。」
「暴れているのは、この俺、周騎冥だ!って事だな。自己顕示欲、それが奴のウィークポイントってわけだ。」

「ウィークポイントではありません。危険性です。周騎冥は高性能のマシンマンです。周騎冥が街中で暴れるのは大型戦車が一台、繁華街で主砲を撃ち続けているのと同じ事なんですよ。」
「、、だったな。ところで入間さん。俺がこの前、頼んでおいたのを用意してくれたかい?」

「本気でやるつもりなんですか?私達に任そうとは思わないのですか?」
「さっき君は、周騎冥は大型戦車一台分だと言ったばかりじゃないか。俺には機動スーツが必要だ。」
「スーツを使うと派手な戦いになります。それは指令の中で禁じられています。」

「知ってるよ。だから、そうならない状況を、君たちがお膳立てしてくれるんだろう?」
「、、仕方ありませんね。私達も全員、機動スーツを身に付けましょう。騒動が波及しないように一気にやります。、、周騎冥が動くときには、他にも何人かのマシンマンが動きます。あなたが素早く周騎冥を仕留める事が出来れば、騒ぎは更に大きくならないですむ。周騎冥と他のマシンマンの間には、何の仲間意識もないのです。金だけで繋がっていますから、周騎冥が倒れれば、彼らは去っていきます。」
「俺は、責任重大だな。」

「あなたの口から責任などという言葉は聞きたくありません。」
 確かにそうだと、アレンは思った。
 アレンは混沌王のいうプレゼントを受け取っただけの話で、何かの使命感で、このチームの任務に参加したわけではないのだ。
 いわば便乗しただけだ。

 ただそれでもアレンの闘志だけは本物だった。
 いや闘志ではなく復讐心だった。
 あれほど理屈上では逡巡したものが、周騎冥を目の前にした時、嘘のようになくなっていた。
 握りしめる双眼鏡に力が入った。
 手元からミシリと音が聞こえたような気がした。
 いや実際、双眼鏡の何処かが歪んだのかも知れなかった。

 その時、周騎冥の顔がこちらを向いた。
 その視線は真っ直ぐにアレンを見ていた。
 こちらが見えるのか?いやマシンマンなら見えても不思議ではない。
 ただ見えるだけでは、多くの光景の中で、こちらが何処に潜んでいるかまでは探し当てられない。
 それでも俺が判るのか?
 いや判ってもいいと、アレンは思った。
 自分は今この瞬間に、周騎冥を殺すと、心に決めたのだから。

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