混沌王創世記・双龍 穴から這い出て来た男

Ann Noraaile

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第6章 魁けでの戦い

66: 暗殺者候補

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「この話は絶対に外に漏らすなよ。忍び込ませた奴の命にかかわる。」
 ゲナダはレィチェル・池田にそう言ってしまってから、直ぐに後悔した。
 ついうっかり口が滑ったのだ。
 相手は、革命に傾倒した社会学者ではなく、その本質は静かなる女闘士なのだ。
 守らなければならない秘密を抱え込んだら、それを守る為に死を選ぶ人間だった。

 案の定、レィチェルは冷たい目でゲナダを見つめている。
 ゲナダは居たたまれなくなった。
 こんな時には、いつものように、言葉でこちらがズタズタになるほどやり返して欲しいとゲナダは思った。

「こいつの場合は、思想信条に関係なく、ただ混沌王を恨んでいる、それが重要だな。その上、経歴だけ見てると、暗殺者なんかになりようがないと思える。こういう人間を見つけられたのは、俺達にとって凄くラッキーな事だった。」

「見つけたのは、あなたなの?」

「いや例の空中空母作りで、協力してくれた連中だ。」

「なら、安心ね。」
 きつい嫌みだったが、取り敢えず、レイチェル・奥田が喋ってくれ、次の話題に進んでくれた事に、ゲナダは胸を何故下ろした。
 黙って見られているのが一番、居心地が悪い。

「そいつは、例のアクアリュウム開放の際に、自分の家族が混沌王に直接殺されたと思っている。あのヘブンズゲート事件だよ。混沌王側の視線で言えば、又、違った出来事だったんだろうが、そんなのは主観の問題だ。実際にあの時には、ゲヘナ・アクアリュウムとも、少なからずの犠牲者がでたからな。しかし、この男、復讐を成功させるチャンスもないのに、無駄に突っ込んでいく程、馬鹿ではないようだった。上手く行かないなら、自分の復讐の相手を目の前にしてさえ、じっと怒りを腹に溜め込んで、そのまま何もせず死んでいく、そんなタイプの人間だな。、、怒っている事が、己の人生、己の存在理由になる、そういう人間を混沌王機の搭乗メンバーの中に見つけたんだよ。で、今回の話が持ち上がった。眠り続けようとした、男の心の火を付けるのは簡単だったようだ。奴らは、絶対成功するといって、その手段を教えた。そしてその為の準備も約束した。」

「絶対成功する?」

「そうだ。それがキーワードだったそうだ。二段構えだ。一つめは素人でも実効可能なスタンダードな暗殺方法。二つめは、全てが失敗した時に使う手段、自爆だ。」

「、、、自爆。まさか生体爆薬を自分の身体に仕込む決心をしたの?」

 生体爆薬、、バイオアップを利用した破壊方法だった。
 その存在は、闇の世界にかかわる一部の人間しか知られていない。
 レィチェル・池田は、『曙の荊冠』が地下活動になってから、最近そういった方法があるのを知った。
 これをやられると、相手側は持ち込まれた爆発物が検知できなくなる。
 相手を爆殺する時は、その側に近づいて只自爆すれば良い。
 痛みなど感じる時間もなく事は終わる。

「どうやらその自爆で、心が決まったらしい。我慢して怒りを溜めて生きていくと決めた人間なのにな。そんな方法がある、手に入ると判って、急激に変わったらしい。俺が思うに、普通の暗殺だと、例えそれで成功したとして狭い空母の中の事なんだ、いずれ犯人はわかる。後が面倒だろう。スパイ映画じゃないんだからな、、。長い刑期と辱めがあって、最後にはさらし首だ。成功して生き延びたら、釣り合わない。人間、何をやっても色々な後悔をし始めるからな。復讐が終わって、それでハッピーエンドじゃないのは、馬鹿でも判る。ましてやこの男は、頭が良くて、嫌になる程屈折してる。でも自爆は、全てを0にして、それで綺麗さっぱり、それで全て終わりだ。傷みさえ感じる暇がない。自分の人生を諦めてる、生きていること自体が苦痛だと思っている人間には、有力な選択肢だ。」

「その人って、、、たぶん一段階目の暗殺なんか試みもせず、最初から自爆するつもりね。周りには、そんな素振りはおくびも見せず、しかも一番、失敗しないタイミングを狙って。、、目に見えるようだわ。」

「俺なら、相手に恨み言の一言でも言ってから実行するが、そんな事もせず、黙ってやる人間だと、連中は言ってたな。復讐を自分の中だけで、完結させられる、そして死んでいく、そういう人間だと。」

「ある意味、怖いわね。」
 怖いのは、そんな話を顔色も変えず、綺麗な顔で喋ってるあんたも同じだと、ゲナダは思った。

「人、それぞれさ。そして、そいつには、それだけの事があったんだろう。」

「でも仕掛けるその前に、混沌王の魔法にかかったりしない?」

「それはわからんよ。でも俺の見立てじゃ、そいつは混沌王の魔法にはかからない。」
 レィチェル・池田も心の中では、「たぶんそうだろう」という気はしていた。
 混沌王の魔法には、かかる人間と、かからない人間がいる。
 その理由は、どこの所にあるのかは判らないのだが、少なくとも、この暗殺者は混沌王の魔法にはかからないだろうと、二人は考えていた。


「混沌王は、いつアクアゲヘナを出発する見込み?」

「俺が調べさせたところでは、遠征準備自体は、とっくの昔に整っているようだ。だが、一旦出てしまえば、暫くは帰って来られない。その混沌王不在の時期を埋める為の準備をしてるようだな。混沌王の建国は、システマティックな部分がないからな。混沌王が全てなんだ。外出するママが、お留守番をする子どものために、書き置きを残す、そんな感じだろう。それが終わったら、直ぐにでも出発するんだろう。」

「こちらは?」

「、、機体はいける。搭乗員も『曙の荊冠』で半数、残る半数は、技術者チームでほぼ出そろった。そいつらが臆病風に吹かられなければな。なあ、あんた、本当に付いて来るのか?」

「広告塔で『曙の荊冠』の布教をしてる方が似合ってるって言いたそうね。この際だから、はっきり言うわ。混沌王が生きてる限り、革命はならない。彼は本質的には人々を抑圧していないから。それに世界は、時代を逆行し始めている。まるで剣で争ってる古代の時代だわ、、この星の有様に合わしてるのかもね。でも今の状況は、やっぱり間違ってる。」

「そうだったな。」

 本当はゲナダは納得していた。
 理屈などどうでもいい、この女と一緒に死ねるならそれでいいと。
 それに懸案だったサルベージマンの操縦者の目処がたち始めていた。
 自分の目で、その人物を確かめたかったが、出発準備を一刻も早く完成させるのが、今のゲナダの最優先事項だった。


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