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第1章 ホムンクルス刑事と人造精霊
12: ブードゥー秘術と精霊の共振
しおりを挟む「、、、あんた、その金属男を連れてきた世話人とやらの男の正体も調べたんだろう?」
漆黒は話を元に戻して質問を投げかけた。
話の角度を変える、それだけで質問者のペースにはまってしまった人間は、前には言わなかった事を喋り出す可能性がある。
今のブルーノがそうだった。
ブルーノにとって漆黒は、鷲男という恐怖から自分を守ってくれる庇護者なのだ。
「いや奴は、極端に自分の身元が割れるのを恐れていたみたいだ。俺はそういう奴の正体には、出来るだけ触れないようにしている。藪蛇だからな。そいつの秘密を守るだけの為に、こちらが口封じされてはかなわない。俺には、社会的地位が高いくせにどこか破滅願望がある人間や、完全にやばい世界にいる人間の匂いが判るんだ。俺が利用出来るのは、中途半端に格好だけ付けてる奴とか、自分は絶対安全だと思ってる奴だけだ。やばい奴は、どこまでいってもやばい。」
「利口な判断だな。鼻が利くのも立派だ。」
漆黒はブルーノにそう言ってやった。
ブルーノは顔をしかめたが、話は続けた。
「、、でも奴は、きっと宗教関係者だと思うぜ。雰囲気でわかる。やさしげな奴だったが、度が過ぎた理想主義者の匂いがプンプンした。」
「度が過ぎた理想主義者な、、。憶えておくよ。」
その時、漆黒の耳にバスルームからガラスドアが激しく叩き割られる音が届いた。
それはまるでバスルームの奥の方で何かが爆発して、その風圧がガラスドアを吹き飛ばしたようにも感じられた。
そして次の瞬間、漆黒とブルーノ、そして鷲男は、ガラスの破片で全身血だらけになったペネロペが両腕をアンテナの様に前に突き出して進んで来る様を見ることになった。
ペネロペの目は完全に反転しており、そこにあるべき瞳はなく不気味な血走った白があるだけだった。
「ブードゥー、、?」
漆黒は、肥満体刑事から聞いた、その単語を口の中で転がした。
この事件の背後にいる存在は、ブルーノの口封じを含めて、諸々の対処を「断行する」つもりになったらしい。
漆黒は、生者とは思えぬペネロペの姿を見て、恐怖と共に強い興奮を覚えた。
こいつは今までの「寝ぼけた仕事」とは違う。
彼女の手首からは、鷲男が急ごしらえで作ったと思われる戒めの為のロープがだらりとぶら下がっている。
ロープも手首も血だらけだったが、それはどうやら先ほどのガラスの破片のせいではないようだった。
それはペネロペが、鷲男のきつい戒めを自ら引きちぎった跡に違いなかった。
痛みを感じないのだろう。
あるいは痛み以上の「何か」に支配されているのか。
ブルーノはベッドに後手で繋がれている事も忘れて、ペネロペのもとに近づこうとした。
『さすが、天才ジゴロだな。変わり果てた姿になっても、自分の女の心配をしているのか。』
頭の片隅で彼を見直しながら、漆黒はそれでもブルーノの動きを制した。
「動くな馬鹿野郎!分からないのか?彼女が狙ってるのはお前だぞ!」
ブルーノの顔が悲痛に歪んだ。
ペネロペの様子は尋常ではなかた。
「肥満体」と出会った翌日に調べたブードゥー施術のデータがよみがえる。
ブードゥー施術は、死者を黄泉がえらせるのではなく、生者を「動く死体」に変えるのだ。
強烈なマインドコントロールがブードゥー呪術の基本なのだとすると、今目の前で展開している光景には納得できる点が多かった。
そしてそれは非常に厄介な状況だった。
漆黒たちは張果の連絡を受けて、このブロックで食料の買い出しに出かけてきたペネロペ・アルマンサを尾行しブルーノを発見した。
ペネロペ・アルマンサとブルーノの関係を掴んだ人間が、隠れているブルーノを探し出すには彼女を辿るのが手っ取り早い。
その権利を張果は一時、漆黒に譲ったのだ。
いわば漆黒たちにしてみれば、ペネロペ・アルマンサはブルーノ発見のための媒介だった。
同じように、もしブルーノの口封じを望む存在があるなら、ペネロペ・アルマンサは、ブルーノを仕留める絶好の道具になり得るのだ。
そしてペネロペ自体には、なんの罪もない。
ペネロペが足を引きずるようにして漆黒達に更に一歩近づこうとした時、鷲男の化鳥の叫びが聞こえた。
耳を覆いたくなる様な異質な叫び声だった。
見ると鷲男の頭部の羽毛がすべて逆立っていた。
異様な反応を見せたのは、ペネロペも同じだった。
ペネロペは鷲男の威嚇行為を目の前にして数歩後ずさったのだ。
が、それもつかの間、ペネロペは口から白い泡をまき散らしながら再び前進し始めた。
今度は狂犬のように歯をむき出しにしている。
鷲男の化鳥の鳴き声は、より甲高くなり、漆黒たちのパニックをよりあおり立てた。
漆黒の頭の中に、幻の非常灯が回転し始めた。
しきりと何かが、漆黒に訴えかけて来る。
漆黒は、初めてスピリットを貸し与えられた時、同時にスピリットと付き合って行く上での基本的なマニュアルも手渡され、レクチャーを受けた。
その時、漆黒はポーズ上、斜に構えたふりをしてその内容を聞き流していた様に見せていたが、マニュアルは帰宅してから空で呟けるほど、何度も読み込んでいた。
マニュアルの特大太文字のゴシックで書いてあった部分が、今、頭の中で浮かび上がる。
いくつかの禁止事項の中で、もっとも重要な事柄。
「スピリットを暴走させるべからず。もし暴走の兆候が見受けられれば、全てに優先しその暴走を回避せよ。」
後日、漆黒はドク・マッコイにその続きを聞いた事がある。
「スピリットが暴走するとは、具体的はどういう状態になることなんですか?」
「そうだな。この国の軍の特殊部隊は、選び抜かれた戦士たちを更にバイオアップしてチューニングした存在であるのは知っているね。」
「ええ、一説では、彼らは法律で定めた基準など遙かにオーバーしているという話もありますね。」
「そのバイオアップ戦士が、街のギャングどもが戦いの前に服用するらしい、バーサーとかいう麻薬を大量に服用したら?」
「正に暴走する死神ですね。おそらく彼らは、自分の内に生まれるあまりの破壊衝動の強さの為に、正気を保てないでしょうしね。」
「そういう状態だよ。まあ概ねという話だが、、。私は可愛い精霊達が見境もなく人々を殺してまわるような光景は見たくないな。」
「暴走した後、なんとかスピリットを元に戻せたら、どうなんです。」
「いったん本当に暴走したらスピリットは元には戻らない。本当に暴走する、の定義は簡単な言葉では説明しきれないな。、、抽象的な言い方で申し訳ないが、精霊が悪霊に変わってしまうとしか言いようがない。この暴走のリスクがあるから、精霊プロジェクトは長い間、実現されなかった、、。」
「でも、そのリスクが克服されたから、我々警察が先陣をきって精霊たちを預かっているんでしょう?」
「ああ克服したさ。今じゃ、スピリットたちが暴走する確率は、人間が発狂する確率よりもっと低い。」
その暴走をあろう事か、漆黒の鷲男は起こしかけているのだ。
取るべき道は、ただ一つだ。
漆黒は先ほどブルーノから取り上げテーブルの上に置き晒しにしてあるオートマッチクに目を走らせた。
そして次の瞬間、ブルーノの悲鳴が聞こえたかと思うと、拳銃の発射音が聞こえた。
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