精霊捜査線・錬金術師達のマリオネット パラケルススの魔剣と天国にいる敵

Ann Noraaile

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第3章 永き命、短き命

34: 新たなる神話の創世

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「私、奇形で生まれたのよ。」
 彼らの時代において奇形という言葉は、亜人類と同様に一種のタブーに近かった。
 漆黒の心臓は動悸が激しくなった。
 タブーを聞かされたという以上に、漆黒は何故かこの手の話に弱い。

 それは彼がクローン人間だからという理由ではなく、漆黒賢治が残した記憶の残りかすに由縁するものだった。
 漆黒賢治が奇形とどう関わっていたのかは知らないし、知りたくもないのだが、何故かざわめく感情だけが、その言葉にまつわりついている。
 しかし表面上、かろうじて漆黒は彼女の危険なカミングアウトのふりをした挑戦を受ける事が出来た。
 それは漆黒が刑事という職業についていたお陰だった。
 刑事は決して容疑者に己の弱みを見せることはないのだ。

「確かに、二十年ほど前なら、ヘブンの『根っこ』は、そういった手術の最先端技術を持つ病院が多数集中していましたね。」
 『驚いた。奇形とは!今の美しいあなたからは想像も出来ませんね。』と、もし漆黒が返していたら、この会話は、この時点で途切れていただろう。
 それどころか漆黒達は、この部屋から追い出されていたかも知れない。

「今でもそうよ。身体改変の周辺法律が整備されて、そのあおりを喰らった病院も多かったけれど、『根っこ』がそれらの技術的最先端処置を受けられる場所である事には変わりはないわ。知恵の実は、天国から落ちてくるのよ。『根っこ』の住人が、一番早くそれを拾える。」
「知恵の実ね。あなたらしい表現だ。、、で、あなたは現在の職業であるその専門性を買われヴゥードー教団ロアに招へいされた?」
 漆黒は話の流れを、本来の捜査に戻した。
 それは勿論、任務の遂行の為であったが、それ以上に、漆黒はチエコが、これから話し続けようとする私事の内容が苦手だったからだ。
 特に、漆黒は幼い人間にまつわる身体変容についての話が苦手だった。

「ロアから新しい神話の創世に関われと言われたの。語り部になれと、あるいは神話づくりのアドバイザーね。」
「新しい神話ね。ロアらしい、ごたくだ。」
「そうでもないわよ。あの教主を見れば、あなたも考えが変わるわ。それに今は、新しい神話が生まれ出ても不思議ではない時代ではないかしら?こうして生身の精霊達が闊歩しているんだから。こればかりは、皮肉屋の我らが鬼子檸檬でも予見できなかったでしょうね。私には判る、精霊を含めて彼らは決して作り物ではない。バイブレーションが人間とは違うもの。」
 チエコは、鷲男を陶然と眺めた。

「彼らね、、まあいい。そうそう教主は、どんな男なんです?」
 チエコの協力が得られれば、彼女の脳内イメージから教主の顔を抽出できる。
 いや、それでは、あのDDVと同じ事になる。
 署での抽出作業に入った途端に、ジッパーのような「お上」に嗅ぎつけられてしまうだろう。
 それがヘブンの住人なら相当に厄介だ。

 しかも今度はパーマー捜査官はいないのだ。
 どこから、どんな反応が返ってくるか判ったものではない。
 そして今、目には見えない「お上」は、漆黒達の非力さを楽しんでいるに過ぎない。
 下手な動きを見せると、たちまち叩かれる。

 ほおり投げたボールを犬が走ってくわえ、主人の下に持ち帰る。
 主人はそれを取り上げて、またボールを遠くに投げる。
 そうしている間はゲームは続く。
 犬がボールをくわえて離さなければ、飼い主は激怒するだろう。
 ボールを横取りするのは、ずっと後で良いのだ。
 今は我慢することだ。
 チエコの証言だけでも充分、捜査を進展させる事が出来る。

「とても美しい男だった、、。相手が女でも男でも、その美しさに囚われてしまう、そんな綺麗さよ。」
 そう表現したチエコだったが、彼女自身は、教主を崇拝しているような雰囲気はなかった。
 第一、スピリットに関心を寄せる女性なのだ。
 人とは違う嗜好を持っているのだろう。

「どこにいても、目立つような人物ですか?」
「それは保障するわ。ただし、もし彼が人前に現れたとしてだけど。私は教会で、彼から彼がこれからやろうとしている事の説明を受けた。これが他の男の言葉ならお笑いぐさだけど、彼の口から出る言葉なら全てが真理のように思えた。彼は美しい現人神ね。」
「秘密のベールに包まれた男って奴か、、。所で、あなたがコンサルを依頼された神話創世のあらすじっていうのは、どんなものなんです?」

「彼らは、汚濁した世界の浄化から、彼らの神話を始めたかったみたい。鬼子檸檬が描いた”愚者の未来”とは全然違うわね。あれにはこの世界がどうなろうと神は登場しない。なるようになれだわね、、。」
「神話か、、、大洪水から脱出するノアの箱船みたいな?」
「ノアが主人公ではないわ。大洪水を起こす怒れる神が中心なのよ。」

「人類に対する天敵の登場か、、、。ハルマゲドンでも気取ってやがるのか。天の軍勢、、ふざけやがって、、。」
「?。今、何と言ったの?」
 今までは喋りながらも、鷲男を観察するのに夢中に見えたチエコが、急に漆黒に視線を戻した。
 変わってはいるが、頭の焦点が緩んだ女性ではないようだ。

「いや。何でもありませんよ。」
「そう、それならいいわ。色んな意味でね。そんな態度で、私から全てを引き出せるなんて考えない事ね。私は善意で警察に協力しているだけなのよ。あなたに全てを与えなければならない義務はないわ。」

「ああ、、。こんなご時世ですからね。多くは望みませんよ。警察は絶対的な権力足り得ない。民間の警備保障に頭が上がらないぐらいだ。しかし、こちらにも都合というものがある。一方的で申し訳ないんだが、あなたに何かを差し上げて情報のギブアンドテイクとは行かないんですよ。でも、もう少し、話してもらえませんか?そうすれば、私の部下だって、もう暫くは、この部屋に居られるってもんだ。」
 漆黒は、相手の恋愛感情を利用するのは、せこくて酷い駆け引きだと自覚していた。
  だがここで引き下がるわけにはいかない。
 それに漆黒が見たところ、少なくともサリンジャーは鷲男に関してだけは、正常な判断力を失っているように見えた。

「なんて言い草。あなたって、とんでもない下司野郎ね。」
「ありがとう。で、あなたはその病院で何を見たんです?」




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