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第5章 暗黒を狩る黒い真珠
53: ゲット・ア・ボウナー
しおりを挟む・・・襲撃されている。
この俺が。
民間警察ならいざ知らず、荒事と言えばよくて、格好をつけたがるチンピラをさばく程度が関の山の刑事が、街中で「銃撃」を受けているのだ。
一度目の銃撃から、漆黒が辛うじて逃れる事が出来たのは、全くの偶然だった。
裏取りの為に訪れた衆寒極市のアキュバン特殊建築設計施工事務所からの帰り、地下駐車場のエレベーターのドアから足を一歩踏み出した瞬間だった。
漆黒の足下に、激しくのたうち回る黒い肉塊があった。
それは下半身を3分の1程、食いちぎられた野良猫だった。
エレベーターは、地下駐車場の奥まった部分にある。
何ものかに襲われた猫が、己の片足と太股の一部を捨てて、この場所に逃げ込んで来たのだ。
汚染物を喰って怪物化した鼠に逆襲されたか?
一匹いるなら相当数、ここら辺りに潜んでいる事になる。
億劫でも、衛生局に知らせてやらねば、こんな場所に猫が逃げ込むのだ、近隣の乳幼児が危ない。
その藻掻いている猫を見定めようとして、身を屈めた瞬間、エレベーターの金属製の壁が、2度、ボスンという音を立てた。
漆黒は、猫が目指して行き着けなかった、身を潜める為の暗がりがある方向に全速で走り出した。
さすがの超人的な俊足を誇る漆黒でも、銃弾の飛来スピードを上回れはしない、けれど照準を付けているのが、普通の人間の視力なら、狙撃からは逃げ切れる。
・・・アドレナリンが、体内で沸騰していた。
恐怖ではなかった、純粋に興奮していた。
この感覚は刑事を勤めてから数回、味わった事がある。
いつもの様に、、、その興奮に酩酊しそうになった。
身を隠す場所を見つけた。
脇の下に吊した自前の無骨な大型自動拳銃を抜き出して、壁に自分の身体を押しつける。
自分が狩るべき相手が明確になった時から、豆鉄砲はブロック分署のロッカーに仕舞ったままだ。
ごつい自動拳銃の銃把の感触に安堵を覚える。
この感じは、おっ立ったアレを握っているのと同じだと思った途端、目の前の壁が炸裂してその破片が顔面を刺した。
息を大きく吸い込んで止める。
プールに飛び込むのと同じだ。
一端、足が地面を離れたら、水面に激突するまで、後戻りは出来ない。
漆黒は、頭の中で意味のないカウントダウンを3から始めて、遮蔽物になっていた壁から身を乗り出した。
アキュバン特殊建築設計施工事務とは、早い話が、個人用シェルターの施工を請け負う会社だ。
スラムの住人が、自分のねぐらにシェルターを設置するだろうか?
戦争を煽って利益を得、自分だけはその戦渦から逃れられる人間どもだけが、豪勢な個人シェルターを用意するのだ。
漆黒がそのアキュバンの周辺をつつきはじめた途端に、この反応だった。
こんな世の中でも、刑事に殺し屋を差し向けられる人間はそれほど多くはいまい。
・・・そうか、ディモス・メルクーリよ。
駆け出しのお前には、事が露見してしまってから、それを揉み消すだけの政治力がまだないと言うことか。
だから、事が大事にならない内に、今、始末をつけようってか。
墓穴を掘ったな。、、いや掘られたのは俺の方か。
弾はもう予備の弾倉一つしか残っていない。
射撃練習を、さぼったつもりはなかったが、威嚇ではない本当の近距離の銃撃戦は初めてだった。
遠くを、狙って、あてなければならない。
しかも手に持っているのは、ナノニードルガンでも、豆鉄砲ではなく殺しに使うための本物の拳銃だった。
『相手はナノマシン細胞で出来たような怪物じゃない、人間だぞ。』
それでも、銃を人に向けて撃つ快感を制御できない。
『相手が撃ってくるからだ。これは生と死の、等分な、やりとりだ。』
死に直面した恐怖の裏返しの快感、それが問題だった。
『冷静になれ。』
照星を的に合わせる、そして引き金を確実に引き絞る。
出来れば、頭部と心臓は外してやれ。
それだけの事だ。
俺なら簡単にやれる。
・・・・・・・・・
「で、どうしたんだ、坊主。何か私に言いたい事があるんだろう?」
お兄さんが、優雅に長い脚を組み替えながら言った。
僕は外に出れない寂しさを補う為に、沢山の映画を見ていたが、お兄さんはどの男優にも負けないぐらいハンサムだ。
「外の世界は、滅びたって本当?それに僕の身体は、どうなっているの?もうあんなのを着るのはいやなんだ。、、僕は、僕は、お姉さんが、嫌いなんだ。」
身をカチンカチンに固めてしまいそうな革の服や、ゴムの服、大きな偽物のおちんちん。
口を開いたままにさせる口輪。
僕は、僕が泣いているのが判った。
僕の中の感情が、今の僕に追いついてきたんだ。
「男は泣かないもんだぞ。」
「嘘だよ。僕が見てる映画に出てくる人たちは、みんな、泣きたい時は、泣いていいって言うよ。」
「それは映画だからさ。現実では、男は泣いちゃいけないんだ。」
「だって、現実って言っても、この世界で生き残っているのは、お兄さんとお姉さんと、アイアンズさんだけなんでしょう?それなら泣いたっていいじゃない。」
僕は拗ねたように、上目遣いで言ってみた。
こんな風な表情を造ると、お兄さんは途端に甘くなる。
「お前に泣いちゃいけないと言ったのは、お前に強くなって欲しいからだよ。それよりどうして、世界が滅びていないんじゃないかと考え始めたんだ?あれほど何度も説明してやったじゃないか。」
「アイアンズさんも、お兄さんも見るたびに、服が替わるじゃないか。」
「おいおい、まってくれよ。お前、私たちがどれぐらい服を持っているのか、知っているのかい。お前は、このシェルターの中の隔離病室から出れないから、ここの大きさが想像も付かないだろうけれど、ここは何千人という人が何年も何年も生活出来る規模なんだよ。そこに私たちはたった4人で暮らしているんだ。服だって食べ物だって、ここに蓄えられているものなら山のように使えるんだよ。」
「そうじゃないんだよ。僕の言ってるのは、なんて言ったらいいのかな。そうだ、流行。流行なんだよ。僕と随分長い時間一緒にいるアイアンズさんの服とかに、流行を感じるなんて、おかしいよ。」
僕がそんな疑問をぶつけると、お兄さんは少し哀しそうな顔をした。
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