精霊捜査線・錬金術師達のマリオネット パラケルススの魔剣と天国にいる敵

Ann Noraaile

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第6章 グリーバンス進化形 理性を奪う病

57: 赤ダイオワン旅団の始動

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 漆黒は「叩き」のしけた事件を捜査中だったが、「そんなモノは後回しにして良いから」と署長の蔡に呼び戻され、第七統合署の玄関フロアーにいた。
 用件の内容は聞かされていなかった。
 どうせ蔡の事だ、自分自身の保身に関わる事なのだろうと漆黒は思ったが、上司である署長の呼び出しを無視するわけにはいかなかった。
 そこが宮仕えの哀しいところだった。

 指定された時間より少し早く着き、漆黒は待合室の自動販売機でコーヒーでも飲もうかと思ったその矢先、署の奥から神山が姿を現した。
 嫌な野郎に会ったと漆黒は思ったが、当の神山は元気がなさそうだった。
 何時も神山の側にいる牛男がいない。
 精霊計画が中止された時点で、総ての精霊達は警察から引き上げられていた。

 精霊を失ったのは、なにも俺やレオンに限った事ではなかったのだと、漆黒は改めて思い出した。
 それにしても神山の元気がなかった。
 いつもなら神山は漆黒の姿を見つけるなり、漆黒をどういたぶってやろうかと気持ち悪いほどギラギラしていたものだが、今はただ、漫然と漆黒を見ているだけだ。
 いや、漆黒の姿は見えていても、何も考えていないのかも知れない。
 「精霊という存在は、これ程の共依存の状況を生むものなのか」と漆黒は改めて思った。

 あのレオンなら解るが、感受性の腐ったあの神山までこうなるとは、、、で俺はと言うと、、、実の所、漆黒には、そこの所が良く解らないでいた。
 確かにダメージは受けているのだが、そのダメージの質はレオンや神山のそれではない。
 人間にとっての精霊は、素晴らしく出来の良いペットなのかも知れないが、クローン人間にとっての精霊は、出来の悪い兄弟だからなのかも知れないと、漆黒はその事を自虐的に解釈していた。

 結局、神山は漆黒に声も掛けず署を出て行き、漆黒は待合室の自動販売機から缶コーヒーを取り出し、来客用の長いすに座り込んだ。
 プルトップを引き、コーヒーの匂いを少し嗅いでから、それに口を付けようとしたとき、漆黒の個人持ちの携帯・ストリングの着信音が鳴った。
 相手はレオンだった。

「よお、元気か?」
 レオンの口調は、完全に昔のレオンに戻っている。
 先ほどの神山とは大きな違いだった。
 その原因は一つしかない、どうやら本当に、精霊計画は再開されるようだ。

 漆黒はレオンから、この話を聞かされた時、半分は本当にそうなる可能性があるだろうと思っていた。
 レオンは公安の人間だ、そこで得られる情報は、普通の警察官のそれより遙かに確度が高く早い、それにこの件に関しては、あの張果が少し前に気になるもの言いをしていた。
 だが残る気持ちの半分では、精霊計画の復活はないような気もしていたのだ。

 何よりも、あのドク・マッコイがいない。
 実質上、放逐された形になったドク・マッコイが、こういった世界に復帰できる可能性は極めて低いように漆黒には思えたのだ。
 そしてドク・マッコイ抜きで、精霊計画を続行させるのは難しい筈だ。

「、、こっちは泣かず飛ばずの状況だ。お前さんの方は、忙しそうだな。」
 漆黒はあえてピギィの件は出さずにいた。
 精霊計画が再開されて、レオンがその恩恵に、まさに恩恵だったが、預かっているのなら、ほっておいても事の進展は自分で喋るだろう。
 神山のあんな姿を見た後では、あえて精霊の事を話題にしたくはなかった。
 精霊計画が復活するのは、公安課のような特殊なセクションだけだぞと、レオンに言われる可能性もあったのだ。
 神山のような屑野郎でも一応は同僚だ。
 そんな相手への余計な気遣いの種は増やしたくない。

「赤ダイオワン旅団の動きがいつになく活発になってる。俺達公安も、特別対策本部を立ち上げて本腰を入れてる最中だ。」
「、、だろうな、旅団の事はこっちの耳にも入っている。だが俺達は相変わらずだよ。それにテロに対応する為の武装警備にしたって、能力的には民間の方が上だしな。下手をすると、警察の俺たちが、奴らの下働きをさせられかねん。その点、公安は良いだろうな。流石に民間の奴らも、公安みたいな立場で旅団には関われないだろうからな。でもあんた、本当にチーム体制で動けるのか?」
 漆黒の記憶の中のレオンは豚男を従えて一人で闇の中を彷徨きまわっている姿しかない。

「お前さんにだけは言われたくないね。でも確かに俺は、今でも遊撃軍ポジションで一人で動いてる。しかしその理由は、お前さんみたいな集団不適応だからじゃないぞ。」
 レオンの嫌みな口ぶりは相変わらずだったが、機嫌はすこぶる良かった。
 これがこの前まで、この世の終わりを一人で見てきたと言わんばかりの男が吐く言葉かと思えた。

「、、精霊か!?一人でやってるって、精霊のお守りなんだな?、、しかしもう、新しい精霊が来たのか?」
「、、ああ、俺もびっくりした。しかも新しいのはピギィにそっくりなんだよ。精霊でもクローニング出来るんだよ。お前の方は、どうなんだ?まだなのか?」
「、、、まだだ。」

「そうか、今度来たら、ちゃんと面倒見てやれよ。あれはな、ある意味、自分の分身みたいなものなんだ。精霊を大切にするって事は、自分を大切にするってことなんだぜ。」
 けっ、どの口が言ってやがる、恥ずかしくて鳥肌が立つぜ、という言葉を漆黒は飲み込んだ。
 少なくともレオンには、それを口にする権利があると思ったからだ。

「、、、判った。で、アレクサンダリオ・カトーや鴻巣徹宗の方はどうなんだ?」
「それだよ、そうせっつくな。、、ピギィが帰ってきたから、俺は最初、赤ダイオワン旅団についてはウォーミングアップ程度の任務だと考えてた。あくまで俺が追ってるのはロアだからな。奴らとは、まだ決着がついてない。」
 この持って回った言い方、レオンは又、何か新しい情報を手に入れていると漆黒は思った。

「俺だってモヤモヤしたままなんだ、、、お前なら、当然、そうなるだろうな。ロアの残党はまだ生き延びてる。と言うか、組織は潰れたが、教主含めて全員無傷だ。ただ、天国への梯子を外してやっただけだ。しかし奴らなら、又、何処かで何かをしでかす。、、お前、その事で何かを掴んだんだろ?早く言えよ。」
 今となってはロアという存在は、死んだ豚男や鷲男の仇だった。

「赤ダイオワン旅団が急激に活発化し始めた理由を、公安の専任チームが突き止めたんだよ。旅団が何処からか、新しい資金源となる人間、もしくは組織を引っ張り込んだ、そう最初は見ていたようだが、実は逆だ。思想面も含めて、赤ダイオワン旅団の方が、そいつらに乗っ取られ初めているようだ。」

「おいおい、まさかそれをやってるのが、ブードゥー教団の残党だって言うんじゃないだろうな?」
 そう言っては見たものの、それは話の流れということであって、漆黒が本気でそう考えている訳ではなかった。
 余りにも、赤ダイオワン旅団とブードゥー教団ロアの質が違いすぎたからだ。
 だがレオンは、漆黒のその思いから外れた部分で話を続けた。

「今の所、この話に、教主やマッカンダル神父の名前は上がっていない。だが鴻巣徹宗の名が上がっている。これは俺も初めて知ったんだが、鴻巣徹宗は、過去にあのマルディグラと深い関係があったらしい。それに、最近の赤ダイオワン旅団が出す声明文は、マルディグラのものに似通って来ているそうだ。」

 つまりそれはあの”愚者の未来”にも似てるって事だと漆黒は思った。
 今のところ、赤ダイオワン旅団が出した最近の声明文は公にされていない。
 漆黒はそれを想像してみるしかなかった。
 漆黒は多少の苛立ちを感じた。
 ”愚者の未来”のすべてを読み終わっていた漆黒は、鬼子檸檬の意図がテロとはまったく繋がらないとこを理解していたからだ。
 テロリスト達は、死んだ鬼子檸檬の名声と影響力を利用していたに過ぎない。
 そしてテロリスト達の本質と悪は、その利用方法を読み解く事で理解できる。

「マルディグラって、あのきれいな爆弾を使った連中か、、。」
 漆黒はおそるおそる言った。
 きれいな爆弾の単語は漆黒の中でも禁句だったからだ。

「、、そうだ。だからこの件には、いずれジッパーが出てくる。」
「で、前みたいに公安からヤマを横取りか、」
「いや、そうはならんだろう。今度は民間も全部含めて、それこそ国家上げての総力戦になりそうだからな。ジッパーが正式にマウントを取って、俺達の本庁が動き始めたら縄張りなんてあってないようなもんだ。、、、それでもこの闘い、先はわからんがな、、。」

 以前漆黒が訪れた「判別課」のある「本庁」は、七つに分割されたこの国の警察管轄区を一括してまとめる上部組織だが、実質、それが機能する時は、国家規模の緊急時だった。
 又、その際は本庁の上に、ジッパーが組み込まれる。
 言わば国家そのものが、テロに対して戦闘態勢に入いるという事なのだが、レオンはそれでも、その闘いの先が読めないと言っているのだ。
 しかし、そんなさい先の悪いことを口にしながらも、レオンの声は弾んでいた。

「本庁が動く?国家上げての総力戦?って事は、何時も高見の見物を決め込む、あのヘブンが、この件には関与するつもりなのか?」
「関与するもなにも、赤ダイオワン旅団の真の標的になっているのはヘブンなんだよ。」
 漆黒はレオンの最後の言葉に軽いショックを受けていた。
 あの権力中の権力ヘブンに、テロを仕掛けようとする人間がこの社会に存在したのだ。

 今やヘブンは、この世界の黒い背骨なのだ。
 いくら黒くても、その背骨を傷付けられれば、この国は半身不随になる。
 それがもし、へし折られるような事が起これば、国家自体が死に絶えてしまう。
 ・・・漆黒の右手の中で弄ばれていた手の中の缶コーヒーがすっかり生ぬるくなっていた。

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