87 / 89
第8章 地下世界のマルディグラ
86: 第一の答
しおりを挟む「これで俺達の挨拶は終わりだ。さて、そろそろ本題に入ろうか。」
漆黒はうっそりと言った。
「、、、何が聞きたいんだね。君とは昔のよしみがある。私の言える範囲の事は答えるつもりだ。又、君は怒るかもしれないが、私は君と喋っているのが楽しいんだ。あの頃が蘇ってくる、、。」
この鴻巣の様子を、パーマー捜査官は目を細めながら侮蔑的に眺めている。
ジッパーの尋問専門家達が苦戦した、これがあの鴻巣徹宗なのか?と。
今の鴻巣徹宗は、まるで惚れた女の前で、やに下がっている男のように見えた。
「漆黒賢治が、あのきれいな爆弾を落としたのか?」
漆黒は自分が一番聞きたかった事を最初に聞いた。
本当は、問うても答えは出てこない質問だと、思っていたのだが、、。
「、、いきなりだな。この会話はジッパーも聞いてるんだろうな、、。まあ良いか。君がそれを聞きたくなるのは当たり前だし、私はその疑問に答えられるからな。結論から言おう。漆黒賢治は私達の計画に途中まで参加していた、しかもかなり深い所でね。だが彼は直前で、私達を裏切った。その意味で、漆黒賢治は、あの爆弾を落としてはいない。それどころか彼は、あの爆弾を無効化する方法を考え出して、この惑星上でそれを揮発させた。従って、あの爆弾は次が使えなくなった。」
答えが出た!
漆黒の胸のつかえが下りた。
ずっと世界を覆っていた霧が晴れたようだった。
鴻巣には嘘を言う理由がない。
「、、、俺はずっと、お前と漆黒賢治がぐるだと思っていた。だが俺の原体は、ずっと俺にお前を追いかけさせていた。そこには、お前との何かの因縁がある筈だと俺は考えていた。つまりお前が、漆黒賢治を死に追いやるような裏切りをやったんだと。」
「私が、漆黒賢治を裏切ったって?冗談だろう。裏切ったのは、漆黒の方だ。彼のせいでマルディグラの計画は中途半端に終わり、それがこの世界をかえって悪くしているんだ。漆黒があの時、あの粒子をばらまいたせいで、私達の爆弾の意味はなくなった。つまり最初の爆弾で死んだ人間達の死は、無意味になったという事だ。これ以上の大罪があるかね。」
「ふざけるな!」
努めて冷静にいようとした漆黒だったが、この言い草には激高した。
今度は演技ではなかった。
だが鴻巣は、そんな漆黒の変化にびくともしない。
「マルディグラの他のメンバーの名を言え。リーダーの名は?レフの正体は?」
漆黒の中では、もう少し後で出すつもりだった質問が飛び出た。
マルディグラの思想そのものへの彼の怒りがそうさせたのだろう。
それに鴻巣が漆黒賢治を死に追いやったのではないとするなら、何故、漆黒賢治は鴻巣に拘り続けたのかという疑問が残る。
それは、漆黒賢治も自分を追い詰めた相手の正体が掴めないでいて、それを知っている人間が唯一、鴻巣だったからなのかも知れない。
その相手は、単純に考えてレフだった。
「ほほう、君もジッパーと同じ事を聞くんだな。お笑いぐさだ。いいか私は身体にナノマシーンを融合させた人間だぞ。君も知ってのとおり、身体を分離して、二重存在にもなれる。それはつまり私の場合、肉体のフレームも意識のフレームも、通常の人間のそれとはまったく違うって事を意味してるんだよ。従来の拷問や自白の技術では、私の頭の中からは、何一つとして情報を引き出すことは出来ない、金輪際ね。」
漆黒は怒りを抑えて考えてみた。
・・・もう一人の鴻巣、つまりカミソリ男だけがナノマシン製で、この鴻巣の肉体がまったくの手付かずの完全な人間であるなら、二つを分離したり同一化したり遠隔操したりするのは不可能な筈だ。
その連携の仕組みは、分離後の鴻巣の頭の中に残されていることは、ジッパーの調査で既にわかっていて、漆黒はそれをパーマー捜査官から教えられていた。
だから今、鴻巣が言った事は正しい。
しかし、その事が、本当に鴻巣にとって強みになるのだろうか?と。
「それは知ってるさ。だがお前は、そのリンクのせいで、俺達に易々と捕まってしまったんだろ?俺達はお前の片割れに、銃弾をぶち込んで弱らせた。するとどうだ、遠くの安全地帯に居るはずのお前は、それでダメージを受け意識朦朧としている所を踏み込まれ、逃げることも出来ずジッパーの手に落ちた。つまりお前が思ってる程、お前の科学なんて、たいしたもんじゃないってことさ。」
鴻巣の表情が少し歪んだ。
この方向で揺さぶれる、、こいつの科学者としてのちんけなプライドが突破口だ、、こいつはそんなに難しいヤツじゃない、ジッパーは鴻巣について勘違いをしているのだ、漆黒はそう思った。
「こいつは驚いたね。君は漆黒のクローン体のくせに、私から分離したものを、拷問すれば私が喋る、、なんて単純な事を考えてるんじゃないだろうな?」
鴻巣は迂闊にも漆黒の考えの先回りをするような事を言った。
おそらく目の前の漆黒に、かっての論敵でもあった漆黒賢治の姿を重ねたのだろう。
フジコ・ヘミングウェイ・パーマーはこの様子を固唾を呑んで見つめていた。
もしかして、この尋問から、自分が長年追い求めてきたものの姿が見えて来るかも知れない、と。
彼女は唇が読める。
彼女の正面に居る鴻巣の唇から、漆黒がどう攻めていくかが判った。
「そんなに単純じゃないだろうさ。だが、あのナノ群体はジッパーが押さえている。彼らならいずれナノ群体の仕組みを解明するだろう。確かにアンタは天才だが、初めてモノを作るのは難しくても、模造品を作るのは凡才でも出来るってことさ。この世の中自体が、それを証明してるだろ?いずれ判明するその逆ルートから、ジッパーが、あんたの口を割らせる。」
「ふん、出来るものならやってみるがいいさ。」
この時、フジコ・ヘミングウェイ・パーマーは、鴻巣が自分の方を見ていった様な気がした。
鴻巣は、もう冷静さを取り戻しているように見える。
この男は漆黒賢治のクローン体が揺さぶっても隙を見せないのか?
いや、まだだ。
漆黒猟児の尋問はまだ続いている。
自分の知っている漆黒猟児はタフだ、彼なら最後までやり抜く、、。
この時、パーマーのいる部屋の照明が突然切れた。
嫌な予感に身構えたパーマーのストリングに、着信があったのはその直後だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる