ゴックン、その口で食べるの? /Osaka発ドラァグドライブ、掛け違いの旅

Ann Noraaile

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【 はじめに、自己紹介をかねて 】

02: 「遠くへ行きたい」から山頭火まで

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 昔、「遠くへ行きたい」というTVの旅番組を結構楽しみにして見てました。
 番組のテーマ曲として流れる永六輔さんの「遠くへ行きたい」の歌詞も良かったですね。
 今読むと、その歌詞内容は「婚活旅行かよ」って、感じなんですが、当時の感覚の恋愛っていうのは「運命の人」とか「赤い糸」という感覚がまだしっかり底にあって、そういう出会いに憧れて旅に出る、あるいはそのやるせなさっていうのは、大いにありだったんです。
 後の谷村新司さんの「いい日旅立ち」も同じ系譜ですね。

 「遠くへ行きたい」で「旅情」というものを教えて貰ったような気がします。
 凄く単純に言っちゃうと、「寂しいのに楽しい」という。

 でも番組の方は、途中からなんとなく雰囲気が変わって来たと、いうか、それは番組のせいではなくて、旅自体の有様が社会全体の中で変わって来たからなんでしょうね。
 移動する事、自体が、どんどん便利にお手軽になって来て、そして本来移動することでしか手に入らない情報も、リアルに大量に入手出来る様になって来ている。
 つまり旅が「楽しい分だけ、楽しい」っていう、凄く当たり前の日常的な消費型のものになって来たというか、だからTV番組味の企画とすれば、路線バスだけで移動するとか、自ら制限を課して、旅そのものじゃなく、そこで発露する人間の物語を見せるとか、もう「どこそこへ行った」だけでは持たなくなっている。

 それと同じように「紀行文」というものの在り方も変わってきているのではないでしょうか。
 と言うより、紀行文の勝負目は、とんでもない位の情報量と最新性を持っているか、あるいは、その旅を語る人間自体の面白さがないと、もう紀行文としては成立しないのではないかと思うんですよね。
 沢木耕太郎氏の「深夜特急」が、その両方を備えた最後のビッグヒットなのかと。
 で最近は、どちからと言うと、情報性より旅する側の人間感度の方が重要になって来てると思います。

 それが別の角度で、一番良く判るのが、池波正太郎さんの小説に登場する「食べ物」ですね。
 池波正太郎さんの時代小説では、グルメ心を刺激する描写が多く登場し、それを楽しみに氏の小説を読まれる方も結構いらっしゃるようです。
 でもアレって、現在あるようなグルメ本だとかTV番組とは趣がちょっと違いますよね。

 あそこに登場する食べ物は、食べたら新奇な味がするだろうなとか、「とってもデリーシャス!」と言うのではなくて、その背景にある人間の営みとか、そういったものとの関係で「美味そう」に思える。
 多分、実際に小説に登場する料理を再現しても、そんなに感嘆するような味じゃない筈です。
 それでもそこには、「食べ物」そのものがある。
 今回、アンの「Osaka発ドラァグドライブ、掛け違いの旅」もそのあたりを大切にしていきながら話を進めて行きたいと思っています。

 そうそう今回は、期せずしてアンの旅に関するリスペクト本とTV番組について触れましたが、最後は最強の貧乏旅人俳人、山頭火について、少しばかり官能的な創作文を添えて締めくくりたいと思います。


   ・・・ 山頭火の夢精「クラブ美の元」 ・・・


 山頭火は、自分の枯れ木と石ころで作ったような手が、雑草の影に半分隠れた白粉の空き瓶を拾うのを他人事のように見ていた。
 いつも無意識の内に、気にかかる石を拾っては、追いつめられたような気分から逃げているから、その白粉の空き瓶だって「ただそこにあって、ただ拾った」に過ぎないからだ。
 だが「クラブ美の元」というレッテルのあるその空き瓶を、山頭火が彼の鼻元に近づけた時点で、空き瓶は単なる無意識の所産ではなくなったのである。
 洗っても洗っても取れない空き瓶に残った白粉の匂いは、乞食同様の放浪の暮らしを続けている五十男の官能を直撃し、その夜、山頭火は禁欲生活の中で年に数回あるなかいかの夢精を放ったのだ。

 種田山頭火は1882年12月3日、山口県佐波郡防府の宮市に生まれた。
 父・竹次郎と母ふさの間に4人の兄弟姉妹の長男として、何の不自由もない幼少の日々を送った彼だったが、11歳の時、その悲劇は起こった。

 竹次郎は酒を飲まぬ男だったが、「女」には狂った。
 三人もの妾をかかえて、政治にかこつけては家をあける夫に対して、山頭火の母ふさは常にへり下って従順でいなくてはならなかった。
 更に日を追って、竹次郎の女狂いは激しくなって行くのだが、それはすべて「妻」であるふさの責任なのだ、と舅姑は彼女に言い放った。
 そしてふさは、母屋と土蔵の中ほどにあった古井戸に投身自殺をしてしまったのだ。


 夢精を恥じることとなった翌日の昼下がり、山頭火は人気のない森の沼地で奇妙な光景に出会う事になった。
 点在する沼の中でも、泥田に近い場所で、全身をゴム引きの雨合羽でかためた人物が一人ぼんやりと佇んでいたのだ。
 この時、なぜか山頭火は昨日嗅いだ白粉の匂いを瞬間的に思い出した。
 それ故か。あるいはその人物の発する気配故か、山頭火は木々の影に自分を隠すようにしながら、沼に近づいて行く事となった。

 ゴム引き雨合羽のこすれ合う重いゴボゴボという音が聞こえる程の距離に近づいた時、山頭火は驚くべき発見をした。
 全身の雨合羽に泥はねを付け、今は膝を落として泥の中に脚踝を鎮めている人物は、そのフードから透かせて見える顔から判断して、妙齢の女性のように思えたのである。
 更に注意して見ると、その女性の手は一方は股間へ、残りはその胸元へと伸びている。

 一瞬、混乱を起こした山頭火だったが、暫くして総てをのみこんだ。
 どういう性癖でこんな事をしているのかは判らないが、これははまさしく女性の自慰行為ではないか?その思いに至ったと同時に、昨夜夢精をはたした山頭火の股間の男根が、きつく勃起したのだった。

 そしてゴムフードから垣間見えるうつむき加減の女性のくっきりとした睫や眉が何かに耐えるように震えるのを見た時、山頭火の欲望が爆発した。
 総ての後先を捨てた山頭火は、泥沼の中に駆け込んでいく。
 山頭火自身、自分の脚を泥に取られてじたばたと接近せざるを得なかったのだが、その気配を知ってもゴム雨合羽の女は逃げだそうとはしなかった。

 あるいは余りの驚きに思考が停止したのかも知れない。
 山頭火がゴム雨合羽ごとその女を抱きすくめた時、彼は二度目の驚きを感じた。
 なんと自分が抱きしめている雨合羽の下の感触は、下着一つとしてない完全な裸体のものだったのだ。
 山頭火は自分の鼻先で女の顔の感触を確かめようと唇を寄せた。
 既にこの時、山頭火には、女が一種のトランス状態に陥っているのが判っていたから、そんな暴挙に出たのかも知れない。

 山頭火の唇が女の頬に触れた瞬間、山頭火の中で今までの彷徨の旅の蓄積総てが弾け飛んだ。
 そして「弾け飛んだ」のは、女も同じだった。
 神懸かりのように小糠雨のごとき痙攣を繰り返していた女に肉欲の意識だけが戻って来たのだ。
 女は自ら激しく山頭火の唇をむさぼるように吸ってきた。
 ・・その後、山頭火とゴム引き雨合羽の女はもつれ合うように泥沼に倒れ込んで行った。

 自らの異常性欲に苦しみながらも、そこから抜け出る事が出来ずに、一人の秘め事を繰り返して来た女と、自らの総てを削り取る事で、辛うじて自分を成立させざるを得ない男が、ここに獣の出会いを果たしたのある。

 (※ 前半は事実としての資料に基づいていますが、後半は勿論、アンの創作です。)






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