ゴックン、その口で食べるの? /Osaka発ドラァグドライブ、掛け違いの旅

Ann Noraaile

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【 東南アジアの旅 】

04: ベトナム サイゴン・サイゴン ④陰のような哀しみ

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 お買い物編を書いたので今日は「観光名所」編。
 でも撮影が入ってる分、いつの観光とは違って、あまり名所は見て回ってないなーっていうのが正直な所。
 それに今回は、アン達の会話力の貧しさ故に、大誤算をしてしまったのだ。

 アンには変なポリシーがあって、それは観光先では決して「社会や歴史の問題に触れない」というルールなんだ。
 このルール作りのきっかけとなったのは、若い頃に行った広島にあるんだよね。
 原爆ドームや資料館に訪れて、凄く考え込まされた旅行だったんだけど、ふと土産物屋さんを覗いたら、金メッキの原爆ドームが売ってたの、、その時、、アンの中の回路が違うものになちゃったというか、、そんな感じ。

 で、それから例えば、沖縄なんかにはもう4・5回行ってるんだけど、ひめゆりの塔とかは、遊びメインの時には絶対に行かないのね。
 よく観光パックであるじゃない、沖縄戦の傷跡を見て後は何とかビーチでリゾートとか、、理屈じゃなく、アンの中では、それらは混ぜられないの。
 そういうの見に行くんだったら、きっちり勉強して、それ一本で見に行くよって感じかな。
 偉そうだけど、それがなけなしのポリシー。

 ベトナムといえば当然、ベトナム戦争。
 戦争資料館とか、あの有名な地下基地なんかも、観光コースにあるんだけどそれは意識的に外してたわけ。
 ところがホテルでタクシーを呼んでもらって、紙に行き先である歴史博物館の名を書き付けて運転手さんに渡して「ヒヤゴー」ってやったの。
 この運転手さんは女性で、私たちを歴史博物館に送り届けるとドアまで開けてくれて、相場は1ドルなんだろうけど、ややこしいやりとりは、もうごめんだから頭から2ドル渡したのね。
 そうしたら「ノーワンダラー。」って言って受け取らないのね。
 すんごく良い気持ちで、(皆さんにもいっときます。タクシー乗るならハイグレードのホテルで呼んでもらったものにしなさい。車のメンテもしっかりしてるし。)車を降りた訳。

 、、でも暫くして、「えーっ、ここって歴史博物館じゃない。戦争記念館だよー。」。
 つまりアンが手渡したメモの頭の単語二つまでは歴史博物館と戦争記念館が同じなわけ。
 タクシーの運転手さんの頭の回路の中には、きっと「観光客が一番最初に行きたい所、ベストワン=戦争記念館」っていう図式があったんだと思う。
 実際、資料館には観光客が山ほどいて、後に回った歴史博物館なんて、人がほとんどいないんだもの。
 アンはここの場所についてはあまり書きたくないんだ。
 そりゃベトナムの若い学生さん(高校生・大学生)達が一生懸命、展示物の資料を書き写している所なんかを見たときには、日本の若い人も見習わなきゃと思ったんだけど、、、ね。

 禄に手入れもされていない展示物の一つに、ある一つのホルマリン漬けの瓶があったんだ。
 それは写真パネルの前の小汚い木製のテーブルに何気なくぽんっておいてあるんだ。
 その瓶の中身が、あの枯れ葉剤の結果で奇形で生まれた赤ちゃんなわけ。
 戦争で人が死ぬって事も、死んだ後はものに過ぎないって事も当たり前のことなんだって、ベトナムが言ってるみたいでね。
 もうそれだけで充分って感じ、、。


 いくら練習してもいくら心の準備をしても迎え入れられないものがある。
 いくらその事が自らの幼さを立証するものであっても受け入れざるを得ない物事がある。
 とても小さくて柔らかい手が私の手を握る。
「ママさん。ママさん。買ってよ。これ買ってよママさん。」
 はっきり判る日本語。
 勿論、売られようとしているものはガラクタだ。
 完全に媚を含んだ可愛らしくて幼い声が繰り返される。
 私はその子と目を合わさないようにする。
 頭の中で「買ってやりなよ、品物なんて後で捨ててしまえばいいんだから。そのウチその子、本性むき出すよ。アンは、そんなのに耐えられないだろ。」という声がする。
 バカいってんじゃないよ。
 あたしはそんなに弱くないよ。

「ノー、ノー。」
 最初はやさしく、けれどきっぱりと。
 でもその子はしつこくまとわりついて来る。
 アンの事を見透かそうとするみたいに。
 最後にはとうとう、私の声が大きくなる「ノー!ユー、ゴー!」。
 結局、その子は怒ったように罵声を私に浴びせかけて、何処かに行ってしまう。

 一体、ホーチミンに来てからこんな場面が何回あった事だろう。
 それがアンに少しずつ心のダメージを与えていたようだ。
 7~8歳じゃないの。
 誰がこの子たちを働かせているの?
(その「誰」は、人だとは限らない)
 大人なら自分で働きなよ。そういう想いが募ってくる。
 欠損した身体を突きつけて金をねだる若い男。
 日本にだっているよ。その類の人間。
 でもなんだかその在りよう、見え方が違うんだ。
 「可愛さ」を売る、「哀れ」を売る、、常套手段だ。
 でも、どこか、なにかが違う。
 その違いがアンを締め付けて来る。

 はっきり言って腹立たしい。
 でも自分自身が何に腹を立てているのか判らない。
 今は霞の彼方だけど、日本もかってその様な時代があったから?
 けれどアンはその時代の証言者じゃないから、親近憎悪なんて感じようがない。
 一体この感覚はなんなのだろう。

 ベトナム女性は日本人娘のように、妙な媚びを含んだ愛想を男共にふらないように思う。
 貞操観念とかそういうものではなくて、おんなを安売りをしない。と言う感じかな。
 それと街角の物売りの子ども達の事、、きっとそれらはバラバラのように見えて何処かで繋がっているんだと思う。
 今の日本人には真似をする事さえ出来ない「したたか」という言葉では収まらない強靱さのようなもの、、、。
 そして私の中の、それへの嫌悪。
 きっとなんのかんのといっても、今の日本で生まれた私はすごく脆弱なのだろう、、。
 それらが帰国も近くなった頃に、ホーチミンのオートバイの流れを見ながらアンの考え始めた事だった。

 
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