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【 旅と温泉グルメ しゃぶれどもしゃぶれども(中部編) 】

19: 長野 木曽郡南木曽 中山道ジャズカルテット+1(1)

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 まだ2月だというのに春先の陽気が続いている。
 空だって煌めいて青い。
 花を付けない桜の木が不思議に見えるほどだ。

 体調が思わしくない。
 今のアンには、日常から離れた場所での徹底した「休養」が必要だ。
 何も考えてはいけない。
 ・・・ストレスを予習してはいけない。

 『中山道 妻籠の宿』、、かっては草鞋を履いて歩いていた旅人達の道を、観光バスや車で行き、最寄りの場所に乗り付ける人々が、愛でるというのも奇妙な話だ。
 けれど今も昔も、この宿場町を囲む山並みに、変わりはあるまい。

 ただ、今では美しく映る見える旧家の瓦屋根の向こうに見える空や雲、山並みは、当時の人々にとって、その山深さ故に、今と同じように、愛でられる存在であったかどうかは判らない。
 車などで移動をしていると、この辺りの道はカーブや高低差くらいしか気にならないけれど、実際に自分の脚で歩いたなら相当なものだったろう。

 妻籠では自分用のお土産に曲げ物の「わっぱ」を買ってから、ホテルに着いて直ぐに湯につかった。
 (ホテルの名前は書かなけれど、ホテルのすぐ近くにポニーや木曽馬にふれあえる広場があってそれで判る。木曽馬の姿等は、一度自分の目で見た方が良いと思う。子どもがいないのなら、無理してパンダなんかを見るよりよほど意義があるw)。

 ここの大浴場は、露天と室内の大浴室がガラス壁でパーテーションされる形式のものだ。
 日もまだ高かったので、この二つは繋がっていて、南木曽の山並みと空気が、お湯につかった自分の肩まで届いてくる。
 泉質の加減で、木曽の湯は少しばかりぬめっている。
 肌を触っていても、つるつるするので美肌効果があるような気がして嬉しくなる。

 夕食を戴いて、木曽の地ビールを少し飲む。
 アンは、「地ビール」だからといって、その事にあまり「有り難み」を感じる人間ではないのだけれど、ここのビールは、本当に飲みやすいと思う。
 ビールを作る「水」が違うのだろう。

 部屋に帰ってから、最近読み始めた田口ランディの「コンセント」の続きを読む。
 なんとなく、村上龍が精神世界を描き出す、あの手法を思い出させるけれど、田口ランディの方が、アンの肌感覚に近い。
 この本は、旅先などの非日常的な場面で読む方がかえっていいかも知れない。
 下手をすると、共振を起こしかねなくて、そんな状態で日常生活送るのは問題が多いから、、。

 目が疲れたのでラウンジに出かけてみると、ジャズのミニライブに出くわした。
 水割りを注文して、じっと演奏に聴き入った。
 アンはジャズにあまり興味がないので、それが上手い演奏なのか、どうかは判らないのだが、充分楽しめた。
 
 部屋に戻ってから再び、夜の大浴室へ。
 露天では、夜の小さな虹が、幻想的な湯煙の中に微かに浮かんでいる。
 降雪時に、露天に入る客への配慮なのだろう、沢山の陣笠が石舞台の上に置かれてあるのだが、それが闇の中に浮かんで見え、奇妙に見える。

 夜空には、三分の一ほどが欠け、朧に霞んだ月がある。
 この月の光が、、この山々が、、この空気が、かって様々な神話と怪異譚を産んだのだろうと思った。
 この夜のミニライブの様子は又、後日、詳しく書くつもり。



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