レヴァイアタン国興亡記 ゲーム・オブ・セイクリッドソーズ 奴隷の勇者か、勇者の奴隷か

Ann Noraaile

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第6章 風と雲の色に聞け

48: カフカ虫との戦い

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 ショットガンの着弾ショックで、鉄蘇鉄に振動が走ったのか、百以上の鋭利な柳葉が螺子の頭上に降り注いで来た。
 それは数百のナイフが、自分に向かって投げつけられるようなものだった。
 これで命を落としたスードの死体を、螺子は数体森の中で見ている。
 スードの死を初めて見た時とは違って、あまり怒りや悲しみが湧かなかった。
 スードを殺している相手が人間ではなかったからかも知れないし、螺子自身は認めたくない事だったが、『戦争』が彼の感覚を変えたのかも知れない。

 多くのスードを、死に追いやった柳葉の落下は、ただ単に柳葉が振り落ちてくるという訳ではないのだ。
 それは一つの意志を持って、拳銃から発射されるようなスピードで敵に撃ち出されて来る。
 そしてそんな柳葉が与える殺傷力は、脅威の回復力を誇るスードを何故か上回っていた。

 螺子は、瞬き以上の早さで柳葉の落下を避けるためのジャンプ先を決め、その着地点にショットガンを数発撃ち込んだ。
 跳弾による刺激で待避先近くの鉄蘇鉄の葉が、更に発射されるかも知れないが、次ぎに襲ってくる「もう一つの脅威」を避けるには、それしか方法がなかったのだ。

 「もう一つの脅威」とは、ミネルバがカフカと名付けた巨大な昆虫だ。
 名前の由来は知らないが、カフカという言葉の響きは、この昆虫の不条理さによく似合っていた。
 カフカは、同じ虫でもレブィアタン側の外界にいる虫とはずいぶん様子が違った。
 外界に生息する虫は、殆どが巨大だが中にはカフカ程度の大きさのものもいる。
 ただその虫たちが発する気配はカフカのものとはまったく違って、他の巨大な虫と同じく、異種の生命体特有のバイブレーションがあった。
 それに対してカフカの発するバイブレーションは何処か馴染みのあるものだった。
 そしてこの虫の顎も鉄蘇鉄の葉と同じく、回復力に優れたスードに致命傷を与えた。

 しかしミネルバを始めとして、カフカの実際の姿をじっくり観察できたスードはいない。
 その姿を一瞬だけ見たり、あるいは森の中で瀕死の重傷を負ったスードを救出した後、彼らの証言などを元にして、それが人間大の大きさの這いつくばって進む、保護色を持った昆虫だろうと推定しているに過ぎない。

 ジャンプから着地した螺子の足の下で、得体の知れない赤緑の茸や、紫の羊歯が絨毯の様に敷き詰められた地面が盛り上がった。
 先の撃ち込みは、さほど効果はなかったようだ。 
 螺子は素早くショットガンを肩付けして地面を目で素早くなぞってゆく。
 同時に目に見えない相手の気配も止まる。

 『こちらを読んでいる、この反応は人間の動きだ。』と螺子は思った。
 螺子はリアルチャクラを発火させた。
 スピードと力のリアルチャクラは既に使っている。
 今、発動させたのは、運動機能の倍加ではなく、体組織そのものの基本を変化させるリアルチャクラだ。 

 可視領域が大幅に広がった螺子の目に、地表の下に潜んでいるカフカの姿が映った。
 頭部は蝉、胸部と腹部は、背中の脂ぎった分厚そうな羽根に覆われていて、今は見えない。
 螺子の眼は、その羽根からはみ出して見える6本の歩脚に釘付けになった。
 いや歩脚そのものというより、その歩脚の間に無数にはえだしている、小振りの突起物にである。
 なんとそれは人間の幼児の手足の様に見えた。

 そのカフカ虫が、螺子の嫌悪感に反応したとしか思えぬタイミングで動き始めた。
 反射的に螺子はショットガンの引き金を引く。
 超人化した今の螺子が狙いを外すわけがなく、すべて銃弾はカフカの背中にばらまかれた。 
 着弾のショックでカフカ虫の身体は少し沈み込んだが、散弾はその羽根の上で全て弾かれ、周囲に飛び散って行った。
 そして螺子のまわりの鉄蘇鉄が、全て反応しだした。
 まるで、鉄蘇鉄はカフカと連絡を取り合っているようだった。

 螺子は平面方向に逃げる事を諦め、手近の鉄蘇鉄によじ登り出した。
 雨の様に降り落ちる柳葉も、鉄蘇鉄自身の幹を傷付ける事はなかったからである。
 だがその鉄蘇鉄の幹も、容易には敵を寄せ付けなかった。
 樹膚が鱗状になっており、その鱗一つ一つは、驚くべき切れ味を見せていたからだ。
 螺子にしても、通常のリアルチャクラレベルの木登りでは、彼の手は樹皮に依ってずたずたになっていた筈だ。

 体表組織を強化した螺子は、ショットガンを肩がけしながら素晴らしいスピードで鉄蘇鉄の頂上近くの枝振りまで昇り詰めていた。
 さすがに鉄蘇鉄は、自分に向かって柳葉を発射する事はない。
 樹下からの気配が消えたので、螺子は少し安心して、頭を上げ周囲を観察した。

 黒光りするナイフの様な葉がびっしりと生えている鉄蘇鉄の枝振りが、どんなものであるか、あるいは又、鉄蘇鉄がそれをどうやって切り放すのか、螺子には興味のある所だった。
 しかしその枝振りの間から、数十のカフカの複眼がこちらをのぞき込んでいたのだ。

 ・・・カフカは何処にでもいる。
 そして音を聞きつける。
 ショットガンはカフカを惹き付けるだけだ。

 螺子は雄叫びを上げながら、腰に吊っていた歯噛みの剣を引き抜いていた。
 この星の生き物と共鳴する筈の剣は黙ったままだ。
 このカフカには、知性とよべるものがないのか?それとも、、。

 そんな疑問を持つ余地もなかった。
 カフカ虫達が一斉に動き始め、なんと次の瞬間には羽根を広げて、螺子に向かって飛び始めたからだ。



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