モータルボーイズラブ 悪魔に愛されたエクソシストと背徳の逃亡少年が問うファティマ極北

Ann Noraaile

文字の大きさ
6 / 77
第1章 新たな任務

05: ノイジーの顔

しおりを挟む
 守門が追うノイジーだが、その奇妙なノイジーという呼称は、本人の氏名に由縁するものではない。
 そう、あえて言えば、研究者達が実験用動物に付ける愛称の様なものだ。
 今回の悪魔祓いを依頼した人間たちが頻繁にその非人道的な名を使った事に嫌悪感を感じた「歌う鳥の会」日本支部の会長が、相手側への皮肉を込めてこの「ノイジー」という呼び名をコードネームとして引き継いだのだ。

 「歌う鳥の会」が、この件で作成した情報文書は、やがて多くの関係諸機関の上層に出回る事になる。
 その際には、被検体を犬の様に扱っていた「サイラボ」の人権センスも、白日の元に晒されるだろう。
 それを他の権力者達が、非難し咎めるかどうかは、問題ではない。
 ただ、そういった事を拒否する「歌う鳥の会」のスタンスだけは、彼らへと明白に伝わるだろう。

 「歌う鳥の会」の会長は、相手を内心を見透かす事の出来る怜悧な目と、厳しさを持つ女性だった。
 通常では誰よりも人権を重んじるが、退魔の為には、非人間的にもなれる。
 それが自らを、人間の世界を守る為に行われるパラダイムシフトウォーズの指揮者と自認する「歌う鳥の会」の会長だった。

 「ノイジー」の名を持つ少女の、いや少年のサングラスが外された。
 望遠レンズ越しに、間近で見るノイジーの顔は、やはり奇妙だった。
 目に入った異物が誘い出したノイジーの涙は、本物のようだが、それがこぼれ落ちる肌には体毛の存在すら感じさせない。
 そして艶やかすぎるその肌や、目元の奇妙な引き攣れが人工物のように見えた。
 顔自体はチャーミングな造作と言って良いが、何処か現実離れしていた。
 喜びや悲しみで刻まれた自然な歪みがない、言ってみれば、生活臭がないのだ。

 守門は、間近で医療用スキンスーツと、万能型電子情報接続装置のハイブリッドデバイスのマテリアルを見て軽い興奮を覚えたが、その感覚は長続きしなかった。
 又、ここでノイジーに逃げられるのではないか?という不安の感情が頭をもたげたのだ。

『どうする?見ているだけか、、。』
 自分が潜んでいるドラッグストア近くの物陰で、守門は自問した。
『君が脇の下に吊るしてるモノはなんだ?玩具じゃないんだろう。もう少し近づいて、そいつをぶっ放しゃいい。それで終わりだ。相手も君も、与えられた猶予期間はとっくに過ぎている。どうしてもそれが嫌なら、相手の脚でも撃ち抜いて、動きを止めてから、悪魔祓いをすればいい。違うかね?』
 昔の相棒であり、守門の戦闘技術インストラクターでもあった斑尾ならきっとそう言っただろう。

 守門も、昔とは違って、悪魔祓いの場数を重ねて来た分だけ、自分の中途半端な優しさが、かえって事態を悪化させるという自覚が出来つつあった。
 今は、必要ならいくらでも、非情になれる。
 だがノイジーには、守門にそれをさせない何かがあった。

 ノイジーは、指で瞼の下の涙を拭うと、サングラスを戻し始めた。
 ノイジーは、もうすぐ動き始める。
 それでも、守門は今すぐの行動に移るよりも、ノイジーの顔をもっと見ていたいという不思議な欲求に絡め取られていた。
 普段、動いている時には、普通の少女に見えるのに、じっとしていると人間離れして見える。
 美人を眺めていたいというより、よく出来た美術工芸品をじっくり観察したいという感覚だった。
 なぜか守門は、幼い頃、父に連れて行ってもらった美術館で見たフェルメールの「真珠の耳飾の少女」を思い出した。
 『柱』が取り憑いた人間には、男でも女でも禍々しい美しさが発生する。
 「悪」の持つ人間への吸引力が、それを生み出すのだろう。

 しかしノイジーの魅力は少し違った。
 守門はノイジーに関する基本情報を思い出す。
 本名は西来蓮さいらい れん、男性だ。
 青年と言うより、まだ少年と言っていい年齢。

 己の生まれ持った性別に悩み、そして非常に珍しい皮膚癌を全身に患っていた。
 そして、それらの不運と引き換えたのかと思えるような超感覚の持ち主だった。
 ノイジーの名の由来は、この少年が口が効けないのかと思うほど無口だった事への当てこすりと、ありとあらゆる電波・電気信号に感応する彼の能力から来ていた。

 ファインダーの中のノイジーが、突然、こちらを凝視し始めた。
『嘘だろう?向こうから肉眼で見える僕の姿は豆粒半分ほどだ。それにこいつの力は、そんなんじゃない。こちらの正体など判る筈がない。』
 街なかでは目立つ守門の巨大な追跡用バイクも、ここではなく、少し離れた場所にとめてある。
 もしや?と守門は、カメラの接眼ファインダーから目を離し、自分の周囲を見渡した。
 彼の背後にあるドラッグストアの壁に取り付けてある監視カメラが、妙な角度で反り返り、守門を見つめていた。

『驚いたな。クワンタム型の監視カメラなら、こんな簡素な首振り機能まで乗っ取れるのか、、』
 ノイジーが脱走した施設では、このクラスの能力者は、都市に点在する有効な末端に接続侵入し、都市機能を撹乱出来るターミナルまでたどり着ければ、上出来とされていたらしい。
 ノイジーは桁違いの能力者だった。
 ここまでの能力を発揮されると、正に文字通り「魔法」のように思えた。

 だが守門には、彼だけが秘匿する特殊な知識の中で、ノイジーがやってみせたそのカラクリのおおまかな構造が理解出来ていた。
 電子世界も、守門の知る多次元世界では、一つの「現れ」に過ぎない。
 「歌う鳥の会」の抱える学者たちが、近づくシンギュラリティ(技術的特異点)と同調するように、悪魔憑きなどの超常現象が増加している事に危惧を抱くのも無理はないのである。

 ノイジーは、『柱』に取り憑かれた後、彼自身が元から持っていた能力と、その能力を増加させる移植スキンを足がかりにして、守門の知る多次元世界の内の「一つ」に関与する力を得たのだろう。
 守門が驚いたのは、「あちらの力」が、人間が作り出した数多くの電子デバイスに強く結びつくという事実の方だった。
 今まで、『柱』の力の大部分は、生命の血と肉と骨に強く結びついていたのだ。

 可動式監視カメラの乗っ取りを見て、今までノイジーに対する性急な攻撃を守門に思いとどまらせていた「何か」が、更にその形を整え始めていた。
『、、これは只の退魔では終わらない。』

 守門が再びレンズをのぞき込んた時、ノイジーは指鉄砲を作って、それを守門に撃ち込んできた。
「私を覗き見しているのは判っているのよ。お馬鹿さん、」
 そんな吹き出しが、ノイジーの頭上に見えるようなアクションだった。
 同時に、循環無人運転バスが滑るようにATM前にやってきて、ノイジーの姿を飲み込んで走り去って行った。

 ノイジーが、循環無人運転バスを乗っ取ってATMを立ち去った後、守門はノイジーが使ったあとのATMに入り込んだ。
 すでにバイクによる物理的な追跡は諦めていた。
 前に一度、守門は車で逃走するノイジーとバイクで派手なカーチェイスを繰り広げた事があったが、信号機を自在に操作できるノイジーの前で、「小夏」が発動しない守門は完敗だつた。
 都市に張り巡らされた自動巡回システムの呪縛から完全に逃れるインターセプターモードを持つ守門のバイクでも、周辺の自動車が全て敵に回るのだから勝ち目はない。

 「小夏」を使った空間転移が出来ないのなら、こちらの位置を、都市に張り巡らされた電子網上でノイジーに把握された生身の守門には勝算はない。
 大小様々な電子機器で溢れる街中での戦いは、破壊力のある銃火器を使わない限り、今の守門ではパワー面で相手を上回れなかったし、守門はそんな闘いを望んではいなかったのだ。
 守門は警官でも兵士でもない。
 超常能力はあるが、只のエクソシストなのだ。

 守門はATMボックス内の床に落ちた紙切れを見つけ、それを拾い上げ点検した。
 守門が屈んだ時に、今は、首輪の形を取っている「パンドラの鎧」が、シャツのカラーの下で少し鳴動した。
 紙片に反応しているのだ。
 その紙片から、小額のキャッシュが引き出されたことと、出金の時刻が分かった。
 出金者の名前はデタラメだろうが、紙片は時間的に見てノイジーが先ほど落としたものに間違いないだろう。

 逃走資金か。
 ネットワークに繋がる見ず知らずの預金者たちから小額の金を少しずつ掠め取る手口を使っている。
 ノイジーは、守門が担当になる前に、何度かこれをやっているが、本部も警察もそれを阻止することも追跡することも出来ずにいた。
 そんなノイジーが紙切れをうっかり仕舞い損ねるのだ。
 すこぶる人間的だった。

『金額の方も、悪魔憑きらしくないな、』
 まるで家出中の小娘が必要とする額だった。
 ノイジーの能力があるのなら、一瞬でこの国の経済さえ、局部的に混乱させる事ができる筈だった。

『あいつ、本当に悪魔憑きなのか?』
 ノイジーを追跡している間に何度も感じた疑念が、又、想い浮かぶ。
 悪魔に憑かれた初期段階では、暫くの間、人間性が残っているのが普通だが、その分、悪魔憑きとしての異様な力は顕現しない。
 だがノイジーの発揮する力は、最終段階のものだ。
 故に、守門の「パンドラの鎧」は、今も指先に挿まれたノイジーが残した紙切れに反応している。
 ならばノイジーの全ての行動は、既に、常規を逸した凶暴性を帯びている筈だったが、、。

 「!」
 ・・来た!・・
 その時、無限の並列次元が感じられた。
 守門という存在全体を覆う「小夏」が震えている。
 不調だった「小夏」が、ついに発動したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...