モータルボーイズラブ 悪魔に愛されたエクソシストと背徳の逃亡少年が問うファティマ極北

Ann Noraaile

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第1章 新たな任務

06: 退魔弾の暴発と突然の任務中止命令

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 守門は考えた。

 久しぶりに「小夏」を使って、空間転移が出来る。
 だが、この状況が何時まで続くかは分からない。
 ノイジーの悪魔祓いをやるなら、一気にカタをつける。

 今ならノイジーの逃亡先が確認出来なくとも、「パンドラの鎧」が先ほどの紙片の因果律を使ってノイジーの「気」にリンクしている。
 それを「小夏」に繋ぎ直してやればいい。
 つまり、そうする事によって、動きが不完全で不安の多い「小夏」を補える。
 一旦取り逃がした相手でも、簡単に追尾し直せるのだ。

 守門はまず潜んでいたドラッグストア近くの物陰から、近くに隠してあるバイクのシートへ「小夏」を使って転移し、次にバイクごとノイジーの後方に転移することにした。
 生身の身体だけで、ノイジーの真横に姿を表す事も可能だったが、そこで又、「小夏」の力が途切れてノイジーに逃げられたら追跡は終了する。

 守門の乗るバイク・凱歌2は黒い巨大な野牛のようだった。
 大きな電気モーターと蓄電池のせいもあったが、実際にバイクの容量をとっているのは、追跡や通信機能に特化した電子機器、そしてこれも電子機器が搭載されたヘルメットの内部収納空間のせいだった。
 これに前傾姿勢で乗る。
 はじめの頃は、乗りこなすと言うよりも、バイクにしがみついている感じだったが、今は守門の手足のように動く。

 その巨大なバイクが、フィルムを繋ぎ合わせたように忽然と公道に姿を現し、音も立てずに走り始めた。
 バイクの高機能カウルのお陰で、スーツ姿の守門でも衣服のばたつきは軽減されていたが、それ以上に強い効き目を発揮しているのは「パンドラの鎧」の力だった。
 鎧には、こういった小技も可能なのだ。
 バイクは高速で走っているのに、守門のスーツのはためきは、そよ風に少し揺れている程度だった。

 ノイジーは、無人運転の乗り合いバスに乗っていた。
 バスは、昼下がりの平和な大通りを貫く片側3車線の中央寄り車線を走っている。
 乗客は20名ほどだ。
 守門は一番左側の車線で、やや遅れ気味にバイクを並走させる。
 生身で転移しなくて良かった、と守門は思った。
 どんな方法で悪魔祓いをやるにしても、そのアクションに間を置くわけには行かなかいから、それを間近で目撃することになる乗客達は大騒ぎするだろう。

 長時間、特殊な力を発する自分の姿を、一般人に晒すわけにはいかない。
 本当に「大きな力」は、人の目にも見えるのだ。
 バイクでバスに近づき、狙撃する感じでノイジーに退魔の力を送り込む。
 そこまでを一気にやる。
 今ならノイジーは、逃げ切ったと油断している筈だ。

 これは、まだ人間味が多く残っている悪魔憑きにだけ使える手だ。
 時間が経てば、いずれノイジーも完全に悪魔化する。
 そうなれば、次元転移能力が間欠的になっている今の守門にとって、ノイジーは益々手に負えない相手になる。

 だが、急接近する守門のバイクを真っ先に発見したのは、バスの窓に張り付いて外の景色を見ていた一人の少年だった。
 少年の目から見て、守門の乗った巨大で真っ黒なバイクは魅力的過ぎた。

 少年が手に持っていたオモチャの拳銃が、彼の口でバンバンと火を吹く。
 側にいた母親らしい人物がそれをたしなめる。
 しかし少年は母親のいう事を聞くどころか、なかなか倒れない「敵」に、ムキになり始めた。

 このバス内の小さな騒ぎに誘われるように、ノイジーの顔が守門の方を向いた。
 バイクはバスと、ほぼ並走状態になっている。
 これが限界だった。
 やるなら、今しかない。
 自分自身が転移しなくても「小夏」を利用して、多重次元を併用すれば、他に影響を与えないでノイジーだけに力を送り込み『柱』を吹き飛ばす事が出来る。
 ノイジーの本来の心が、それに耐えて残るかどうかは、ノイジーの運次第だ。

 守門は意識を自分の額に集中した。
 退魔の弾を額から撃つ為だ。
 その集中力を引き金にして、「パンドラの鎧」が発動した。

 守門の額の中心に金属製の薄い輪が出現する。
 それは先程まで守門の首輪だったものだ。
 勿論、その形の変化自体には意味がない。
 「パンドラの鎧」は、物理的な存在ではないからだ。
 物理的な存在という意味では、かっては人の肉体であった「小夏」の方が、この世界に近い存在だった。

 退魔の弾の生成はパンドラに、他の時空を使う際の狙撃軌道制御は「小夏」に任せる。
 守門の額の輪が一瞬強く輝いた。
 途端に、バスの窓ガラスに細かなヒビが入った。
 守門を見ていた少年の目が、驚きで見開かれた。

 これには守門も驚いた。
 物理界に干渉しない筈の「パンドラの鎧」の退魔力が、この世界の物理界に反応している!?
 つまり「小夏」が効いていない!
 再び「小夏」の次元転移能力が失われたのだ。
 守門はそれを一瞬に理解して、攻撃を止めた。
 剥き身の退魔弾を、このまま送り続ければ、バスの中の関係のない人間達に被害が及ぶからだ。

 バスを中心とした大通りの車の流れに、異変が起こった。
 守門の攻撃を期に、道路を走っていた数台の無人タクシーが、まるで意思ある生き物のように、守門のバイクに幅寄せを始めたのだ。
 ノイジーが操っているのだ。

 それぞれのタクシーの中には乗客がいて、外の様子を見て恐怖に慄いている。
 このままバイクがバスと並走していは、守門が戦いから身を引いても事故が起きかねない。
 守門はついに、バイクを停止してエンジンを切った。
 守門は道のど真ん中で、数台のタクシーに包囲されてしまった。
 守門は巨大なバイクに乗ったまま立往生の形になったのだ。
 ノイジーを乗せたバスは、どんどん遠ざかっていくばかりだった。

 その時、守門のヘルメットに、彼の女主人の声が響いた。


「雨降野、次の任務よ。」
「次の任務って?こんな時に、何言ってるんです?!」
「何度も言わせないで、私がこうして直接、貴方に指示してるのよ。直ぐに取り掛かって。」
 確かに、この人物から指示を直接口頭で受ける事など、滅多にない。

「・・直ぐにって?! 貴方、おそらく報告を受けている筈だから、僕の今の状況が判っているんでしょ!?ノイジーはどうするんですか!」
「サイライ・レンは、誰かにやらせる。捨てておけばいいわ。」

「しかし奴は僕以外の手に負える相手じゃない!」
「次の貴方の任務は、準レベル4なの。しかも緊急。これ以上、私に無駄な時間を使わせないで。後の指示はマグダレーナに伝えてある、・・ちゃんとやるのよ。この際だから言っておくわ。貴方、最近、力が落ちているんじゃないの?必要なら事後策を斑尾と相談するしかないわね。」
 そう言い終わると、女主人は一方的に通信を切ってしまった。

 確かに、最近の守門は、悪魔祓いこそ失敗しないが、成果を出すのに以前とは比べものにならない程の時間が掛かっている。
 他の構成員になら、悪魔祓いにかかる時間はケースバイケースだからと説明すれば納得するが、戦闘的エクソシスト達の元締めである「歌う鳥の会」会長には、そんな誤魔化しは効かない。
 全て見透かされているのだ。
 それにこの女主人は必要最低限の事しか言わない。
 力が落ちているという指摘も、それ以外の事を暗示している。

 普通なら、今度ヘマをしたら代わりの人間を立てるという事なのだが、この国の「歌う鳥の会」支部に、守門の代わりになれる戦力レベルの人間はいない。
 それは、お前がダメなら、外部から新しい人間を確保するという意味だ。
 他国支部からの依頼を受けて、国外に出向させている退魔師を除くと、市井の人間で、守門クラスの力の保有者は斬馬仁になる。

 ・・斬馬さんのことは、斑尾さんが先のクラス1レベル5事案の総括で、その存在を女主人に報告として上げている。
『斬馬さんは、鳥の会に入れちゃ駄目だ。』
 守門は自由の人である斬馬の飄々とした笑顔を思い出す。
 しかし、必要とあれば「鳥の会」は、斬馬獲得の為にどんな手でも使うだろう。

 そんな守門の動揺を尻目に、バイクを取り囲んでいたタクシー数台が元の位置に戻り始めた。
 制御が元の正統な所有者に戻されたのだろう。
 守門もバイクのエンジンをかけ、警察のご厄介になる前にこの場から退場した。


    ・・・・・・・・・

「守門君、聞いてる?」
 先ほどとは正反対の温かい女性の声がヘルメットから聞こえた。
 今の守門は、行く宛もなく、町中をゆっくりとバイクで流しているだけだ。

「マギーさんか、、」
 会長の秘書を務めるマグダレーナだった。
 もちろん、画廊の女主人でもある会長には、表の顔用の別の秘書がいるが、マグダレーナはその秘書とはかけ離れた仕事をする「歌う鳥の会」専属の人間だった。

「次の任務の細かな情報は、現地でディーン赤座っていう警察の人に聞く段取りになってるみたい。あっ、この人、守門君の昔の知り合いだったわね。今回は珍しく、最初から警察との共同作業って事ね。赤座さんとの落合場所はバイクに転送するからオートで行ける、しかも優先ランクA。歌う鳥の会の特権ね。だから自分で運転して、飛ばしちゃダメよ。」
 もちろん、そのつもりだった。
 新しい仕事に対してのやる気が、端からまったく沸いてこなかったからだった。

 悪魔憑きかどうかも疑わしい相手を長期間追い続け、すんでの所で取り逃がし、挙げ句の果ては「成果を上げられないなら、お前の恩人である斬馬を無理にでも組織に入れてやる」と上司から脅され、気持ちよく新しい仕事に取りかかれるわけがなかった。
 それに自分には、女主人が緊急だと口にした、そうとう強い超常異変状態である「準レベル4」の数値も、関係ないと思った。

 最近の「歌う鳥の会」のレベル認定は、政府や大企業などの既存組織間の駆け引きの結果が反映される事が多くなって来ていたからだ。
 そんな沈鬱な気分に陥っている守門の微かな希望は、この振って湧いた新しい任務によって、昔馴染みの刑事にもう一度会える事だけだった。

 歌う鳥の会にスカウトされて戦闘的エクソシストとして活動をはじめる少し前、守門はあるオカルティックな事件に巻き込まれて、そこで一人の風変わりな刑事と出会うことになった。
 赤座との縁が始まったのはそこからだった。




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