10 / 20
第1章
廊下
しおりを挟む
七尾少年が部屋の外を案内してくれるというので連れだって廊下に出た。
廊下の壁も、部屋の内壁と同じような素材でできている。何故か天井はとても高いのでより重厚感というのか、どっしりとした雰囲気がある。
振り向いた先にあるドアはなんの変哲も無いものだ。部屋の内装から、もしかしたら牢屋かもしれないと思っていたんだけど鉄格子はどこにもなかった。
俺たちが出た部屋の周りには他の部屋のドアが見当たらなかった。右も左も延々と飾り気のない、無骨な廊下が続いているだけだ。目印も何もないから初心者がひとりでいたら迷子必至だな…。
「ここの間取りってどうなってるの? 部屋の中と外で縮尺が変わってるのかな? 間取図ってある? 普通の地図みたいなのでもいいんだけど」
「お、おう、突然グイグイくるな。地図なんて高価なもんはねぇよ。広さについてはここは城のはずれだから、場所は余ってんだ。他の奴らは城の中心部に近いところに部屋があるのさ」
「えっ!」
「どうした?」
「ここってお城なの!?」
「ああそうだぞ…そうか、それも知らねぇのか……。メンドクセェなぁ。後で色々と詳しいやつに会わせてやるからそいつに訊けよ」
メンドくさいといいつつも解決策を考えてくれるあたり、七尾少年は面倒見のいい子なんだろう。
廊下を左に向かって歩きはじめた七尾少年について歩く。
歩幅が違うから、七尾少年が普通に歩いている以上、俺は自然とゆっくりとした歩みになる。
最初はキョロキョロと周りを見ていたけど、何もない廊下をゆっくりと歩くのにはすぐに飽きた。
何か忘れてることがある気がするけど思い出せない。思い出したときに考えよう。
そんなことより、七尾少年と何か会話でもしよう。そしてあわよくば異世界初友達ゲットだぜ! 年下だけど友情さえあれば関係ないよねっ!
「そういえばさっきの話の続きなんだけど、『他の奴らは』ってことは七尾少年は、」
心の中で呼んでいたままに呼ぶと、七尾少年がすごい形相で睨んできた。チンピラみたい。「ガン飛ばす」とか「メンチきる」とはこういうことかとしみじみ理解した。
少年呼びも気に入らなかったみたいだ。残念。
「じゃなくて…七尾サン、は違うの?」
「おう」
「七尾サン」ならOKなのか。
「俺は調合や付与術なんかが専門だから邪魔の入らない工房が欲しくてな。ヴィー様にかけあったら城の端のほうに大きな部屋が用意されたってわけだ」
「調合?付与術? よくわからないけど、宰相さん直々に部屋を用意してもらえるってことはすごいんだろうね」
「おだてても何も出ねぇぞ」
「素直じゃないなバッ!」
言いながら七尾少年の頭をなでたらまた睨まれた。実はさっきからヒヨコみたいにフワフワとした髪の毛が気になって仕方なかったんだ。思った通り、素晴らしい撫で心地ですな。
そして流れるようなアッパー。なんだろうこの感じ、すごく既視感がある。手のひらと顎の感覚が…
「って、あっ! 太郎!」
そうだ、何か忘れてると思ったら太郎のことだ。
俺と一緒にサイセーしたはずの太郎がいないからずっと違和感があったんだ。
「太郎? 知り合いか何かか?」
「知り合いといえば知り合い…かな。俺と一緒にいたはずの犬と猫が見あたらないんだ。俺を拾った宰相さんは何か言ってなかった?」
「……俺は何も聞いてねぇな。動物なら大方、勝手にどこかに行ったんじゃないか?」
確かに、ポチ太郎は帰巣本能をどこかに落っことして来たアホの子だから、俺が気絶している間に勝手にうろついて迷子にでもなったのかもしれない。
タマ太郎はタマ太郎で自由猫だから勝手気ままに出かけたんだろう。
二匹がいない間に宰相さんが来て俺を拾って連れてきたと。辻褄は合うな。
宰相さんってエラい人だからなんとなくお爺さんかと思ってたけど、散歩中に俺を拾って帰ったってことは実は腕力がすごかったりするのかな。ゴリマッチョの宰相さんなんてどこに需要があるの。
ああ、それともエラい人は散歩にも護衛の人達がついてきたりするのかな。宰相さんが見つけて護衛の人が運んだ、とかどうだろう。いや、護衛の人は宰相さんを止めなよとか言いたいことはたくさんあるけど。ゴリマッチョ宰相さんよりは視覚に優しいから俺としてはこっちの説を主張したいね。
閑話休題。
太郎が迷子になってるならますます心配だ。どこかで寂しがってたりして…ないな。あいつらはそんな可愛らしいタマじゃない。
「この国では野良犬や野良猫の扱いってどうなってるの?」
「そんなもんどうもしねえだろ。決まりは特になかったはずだぞ。そんなに気になるなら探してやろうか?」
「いいの? 俺、お礼になるものなんて毛布くらいしかないよ」
「あんな埃まみれの毛布なんざいらねぇよ。これは貸しひとつだからな。覚えてろよ」
にやり。と悪そうな顔で笑う七尾少年。
俺が気後れしないように気遣ってくれたんだろう。
「わかった、お願いするよ。もし、七尾サンが何か困りごとがあったら今度は俺が力になるよ」
「おう。約束だ」
七尾少年が右手を差し出してきたので俺も掴んで握手をした。握手って異世界にもあるのか。
どちらにしろ、これで契約成立だな。
またしばらく歩いていると、廊下の先の方が明るくなっている。よく見たら、廊下の左側から光が入ってるみたいだ。
あそこは外に繋がっているのだろう。
明るいところに近づくにつれて風の匂いを感じるようになってきた。土と、植物の匂いだ。花の香りも混じっている気がする。
となると、あの左側にはたぶん庭があるのだろう。城の庭なら庭園か。わくわくしてきた。
俺が廊下の光に気を取られていると、近くから慌ただしい足音が聞こえてきた。
「あっ。あの、すみません」
「うワァっ!」
声のした方を振り向いたらすぐ近くに女の子がいた。具体的にどれくらい近いかというとだいたい俺の顔から20cmくらいの位置に顔がある。
身長差を考慮したらかなり近いだろ! 声が裏返るのもしかたないだろ! 顔が熱いぜ!
あたふたと視線がスカイダイビングしていたら呆れたようにこちらを見る七尾少年と目があった。
「ま、待て。違うんだ」
「何やってんだお前」
そんな冷ややかな目でこっちを見るな! いや、見ないでください!
子どもの冷たい目ってなんでこんなに堪えるんだろうね…。
「あっ。あれ? 七尾様じゃない…? す、すみません間違えました」
「七尾サンならそこで見てるよ」
「えっ、あっ、七尾様!? ぜ、全然気づきませんでした…って、あっ。すみません。背のことじゃなくてその、」
「ああ゛?」
おおう。怒ってる怒ってる。さっきのガン飛ばしの比ではないくらい眉がつり上がっている。
俺? 巻き込まれたくないからとっくに退避済だぜ。
「け、気配が。存在感がなかったというか、ええと」
「ほお。俺は空気だと?」
「いえっ、あの、その、ええと…ふ、ふえぇ…」
睨まれている女の子の方がそろそろ限界みたいだ。目に溜まった涙が今にも決壊しそうになっている。
七尾少年は背が低いから位置関係でいうと上目遣いになるはずなのに、睨んでいるときの圧迫感はキツい。不思議な現象だ。
さて、そろそろ助け舟が出航しますよっと。
「あー、七尾サン。その子は七尾サンに何か用事があったんじゃない?」
「ふええっ? だ、誰!? ぜ、全然きづかなかったです…」
「なんだと」
「よお、空気仲間。タッパはあるくせに忘れられてやんの」
「うるさい」
ニヤニヤと笑って片手をあげる七尾少年が憎たらしい。
女の子が鈍かっただけだし! 自分も空気扱いされてたくせに!
「ああっ、さっきのひと! はっ。そうです、七尾様にお伝えしないといけないことがあったのでした」
「なら早く言えよ」
「ふえぇ…」
また半泣きになってしまった。今度は二人ともさっきよりも落ち着いてるし大丈夫だろう。
女の子はずっと手に持っていた紙らしきものを七尾少年に渡して何かを話している。
俺の視線はそんな女の子の背中に釘付けになっていた。
ーー何だあれ。背中の服がすごく膨らんでるんだけど。
前から見ていたときは見えていなかったけど、女の子の背中に、リュックサックでも背負っているかのような膨らみがある。
ゆったりとしたローブは背中の膨らみを計算して作られているようで、「裾が後ろ側だけ上がる」ようなみっともないことにはなっていない。
何より気になるのは、その膨らみが時折動いている気がするのだ。女の子の動きに合わせて大きくなったり小さくなったりしているように見える。
…ホントに何なんだろう。訊いてもいいものなのかな。
「ーーい。おい!」
「ッひゃい!」
謎の膨らみに集中していたらいつの間にか話が終わっていたらしい。
2対のジト目に晒されていた。
「ひゃいっておま。俺の話を聞いてなかっただろ」
「ああ、ごめんね」
「ったく。もう一度言うからな」
七尾少年曰く、宰相さんが七尾少年を呼んでいて、直ぐに向かわないといけないらしい。俺も連れて行こうかと思ったが、そうなると手続きがあったりして時間がかかるため、此処で一旦分かれることになったそうだ。
全然聞いてなかったです。
「ってことだから、おまえはそこの中庭の散策でもして待ってろ。中庭だけだからな。くれぐれもあちこちうろついたりすんなよ」
「やっぱり庭園があるんだね! 任せてよ。小学生の頃じゃあるまいし、勝手に迷子になったりしないからさ」
「小学生? まあ、大人しくしてるならなんでもいい。すぐに戻るからちゃんと待ってろよ」
「りょーかい。俺は大丈夫だから早く行きなよ。急いでるんでしょ」
ヘラっと笑って手を振ると不安そうにしながらも七尾少年と女の子は猛スピードで駆けて行った。
「すげえ。もう見えない」
この城には「廊下は走るな」って標語はないのかな。
一人で中庭に向かいながら太郎のことを思い出してていた。
ずっと太郎も一緒に異世界に来たと思っていたけれど、もしかすると元の世界でサイセーしたのかもしれない。
太郎は俺とは違ってエンガチョされているわけじゃないし、よくよく思い出してみるとあの空間にいたときに神ちゃんは太郎も異世界行きだとは一度も言ってなかった。
もしも元の世界でサイセーできたのなら、いたのかもわからないけど俺の家族や友達と仲良くしていたらいいな。
そうなると俺は太郎とはもう二度と会えないのだろう。
「太郎が元気に生きてますように」
この世界での初神頼みはお菓子好きの神ちゃん宛の太郎の息災願いだった。
廊下の壁も、部屋の内壁と同じような素材でできている。何故か天井はとても高いのでより重厚感というのか、どっしりとした雰囲気がある。
振り向いた先にあるドアはなんの変哲も無いものだ。部屋の内装から、もしかしたら牢屋かもしれないと思っていたんだけど鉄格子はどこにもなかった。
俺たちが出た部屋の周りには他の部屋のドアが見当たらなかった。右も左も延々と飾り気のない、無骨な廊下が続いているだけだ。目印も何もないから初心者がひとりでいたら迷子必至だな…。
「ここの間取りってどうなってるの? 部屋の中と外で縮尺が変わってるのかな? 間取図ってある? 普通の地図みたいなのでもいいんだけど」
「お、おう、突然グイグイくるな。地図なんて高価なもんはねぇよ。広さについてはここは城のはずれだから、場所は余ってんだ。他の奴らは城の中心部に近いところに部屋があるのさ」
「えっ!」
「どうした?」
「ここってお城なの!?」
「ああそうだぞ…そうか、それも知らねぇのか……。メンドクセェなぁ。後で色々と詳しいやつに会わせてやるからそいつに訊けよ」
メンドくさいといいつつも解決策を考えてくれるあたり、七尾少年は面倒見のいい子なんだろう。
廊下を左に向かって歩きはじめた七尾少年について歩く。
歩幅が違うから、七尾少年が普通に歩いている以上、俺は自然とゆっくりとした歩みになる。
最初はキョロキョロと周りを見ていたけど、何もない廊下をゆっくりと歩くのにはすぐに飽きた。
何か忘れてることがある気がするけど思い出せない。思い出したときに考えよう。
そんなことより、七尾少年と何か会話でもしよう。そしてあわよくば異世界初友達ゲットだぜ! 年下だけど友情さえあれば関係ないよねっ!
「そういえばさっきの話の続きなんだけど、『他の奴らは』ってことは七尾少年は、」
心の中で呼んでいたままに呼ぶと、七尾少年がすごい形相で睨んできた。チンピラみたい。「ガン飛ばす」とか「メンチきる」とはこういうことかとしみじみ理解した。
少年呼びも気に入らなかったみたいだ。残念。
「じゃなくて…七尾サン、は違うの?」
「おう」
「七尾サン」ならOKなのか。
「俺は調合や付与術なんかが専門だから邪魔の入らない工房が欲しくてな。ヴィー様にかけあったら城の端のほうに大きな部屋が用意されたってわけだ」
「調合?付与術? よくわからないけど、宰相さん直々に部屋を用意してもらえるってことはすごいんだろうね」
「おだてても何も出ねぇぞ」
「素直じゃないなバッ!」
言いながら七尾少年の頭をなでたらまた睨まれた。実はさっきからヒヨコみたいにフワフワとした髪の毛が気になって仕方なかったんだ。思った通り、素晴らしい撫で心地ですな。
そして流れるようなアッパー。なんだろうこの感じ、すごく既視感がある。手のひらと顎の感覚が…
「って、あっ! 太郎!」
そうだ、何か忘れてると思ったら太郎のことだ。
俺と一緒にサイセーしたはずの太郎がいないからずっと違和感があったんだ。
「太郎? 知り合いか何かか?」
「知り合いといえば知り合い…かな。俺と一緒にいたはずの犬と猫が見あたらないんだ。俺を拾った宰相さんは何か言ってなかった?」
「……俺は何も聞いてねぇな。動物なら大方、勝手にどこかに行ったんじゃないか?」
確かに、ポチ太郎は帰巣本能をどこかに落っことして来たアホの子だから、俺が気絶している間に勝手にうろついて迷子にでもなったのかもしれない。
タマ太郎はタマ太郎で自由猫だから勝手気ままに出かけたんだろう。
二匹がいない間に宰相さんが来て俺を拾って連れてきたと。辻褄は合うな。
宰相さんってエラい人だからなんとなくお爺さんかと思ってたけど、散歩中に俺を拾って帰ったってことは実は腕力がすごかったりするのかな。ゴリマッチョの宰相さんなんてどこに需要があるの。
ああ、それともエラい人は散歩にも護衛の人達がついてきたりするのかな。宰相さんが見つけて護衛の人が運んだ、とかどうだろう。いや、護衛の人は宰相さんを止めなよとか言いたいことはたくさんあるけど。ゴリマッチョ宰相さんよりは視覚に優しいから俺としてはこっちの説を主張したいね。
閑話休題。
太郎が迷子になってるならますます心配だ。どこかで寂しがってたりして…ないな。あいつらはそんな可愛らしいタマじゃない。
「この国では野良犬や野良猫の扱いってどうなってるの?」
「そんなもんどうもしねえだろ。決まりは特になかったはずだぞ。そんなに気になるなら探してやろうか?」
「いいの? 俺、お礼になるものなんて毛布くらいしかないよ」
「あんな埃まみれの毛布なんざいらねぇよ。これは貸しひとつだからな。覚えてろよ」
にやり。と悪そうな顔で笑う七尾少年。
俺が気後れしないように気遣ってくれたんだろう。
「わかった、お願いするよ。もし、七尾サンが何か困りごとがあったら今度は俺が力になるよ」
「おう。約束だ」
七尾少年が右手を差し出してきたので俺も掴んで握手をした。握手って異世界にもあるのか。
どちらにしろ、これで契約成立だな。
またしばらく歩いていると、廊下の先の方が明るくなっている。よく見たら、廊下の左側から光が入ってるみたいだ。
あそこは外に繋がっているのだろう。
明るいところに近づくにつれて風の匂いを感じるようになってきた。土と、植物の匂いだ。花の香りも混じっている気がする。
となると、あの左側にはたぶん庭があるのだろう。城の庭なら庭園か。わくわくしてきた。
俺が廊下の光に気を取られていると、近くから慌ただしい足音が聞こえてきた。
「あっ。あの、すみません」
「うワァっ!」
声のした方を振り向いたらすぐ近くに女の子がいた。具体的にどれくらい近いかというとだいたい俺の顔から20cmくらいの位置に顔がある。
身長差を考慮したらかなり近いだろ! 声が裏返るのもしかたないだろ! 顔が熱いぜ!
あたふたと視線がスカイダイビングしていたら呆れたようにこちらを見る七尾少年と目があった。
「ま、待て。違うんだ」
「何やってんだお前」
そんな冷ややかな目でこっちを見るな! いや、見ないでください!
子どもの冷たい目ってなんでこんなに堪えるんだろうね…。
「あっ。あれ? 七尾様じゃない…? す、すみません間違えました」
「七尾サンならそこで見てるよ」
「えっ、あっ、七尾様!? ぜ、全然気づきませんでした…って、あっ。すみません。背のことじゃなくてその、」
「ああ゛?」
おおう。怒ってる怒ってる。さっきのガン飛ばしの比ではないくらい眉がつり上がっている。
俺? 巻き込まれたくないからとっくに退避済だぜ。
「け、気配が。存在感がなかったというか、ええと」
「ほお。俺は空気だと?」
「いえっ、あの、その、ええと…ふ、ふえぇ…」
睨まれている女の子の方がそろそろ限界みたいだ。目に溜まった涙が今にも決壊しそうになっている。
七尾少年は背が低いから位置関係でいうと上目遣いになるはずなのに、睨んでいるときの圧迫感はキツい。不思議な現象だ。
さて、そろそろ助け舟が出航しますよっと。
「あー、七尾サン。その子は七尾サンに何か用事があったんじゃない?」
「ふええっ? だ、誰!? ぜ、全然きづかなかったです…」
「なんだと」
「よお、空気仲間。タッパはあるくせに忘れられてやんの」
「うるさい」
ニヤニヤと笑って片手をあげる七尾少年が憎たらしい。
女の子が鈍かっただけだし! 自分も空気扱いされてたくせに!
「ああっ、さっきのひと! はっ。そうです、七尾様にお伝えしないといけないことがあったのでした」
「なら早く言えよ」
「ふえぇ…」
また半泣きになってしまった。今度は二人ともさっきよりも落ち着いてるし大丈夫だろう。
女の子はずっと手に持っていた紙らしきものを七尾少年に渡して何かを話している。
俺の視線はそんな女の子の背中に釘付けになっていた。
ーー何だあれ。背中の服がすごく膨らんでるんだけど。
前から見ていたときは見えていなかったけど、女の子の背中に、リュックサックでも背負っているかのような膨らみがある。
ゆったりとしたローブは背中の膨らみを計算して作られているようで、「裾が後ろ側だけ上がる」ようなみっともないことにはなっていない。
何より気になるのは、その膨らみが時折動いている気がするのだ。女の子の動きに合わせて大きくなったり小さくなったりしているように見える。
…ホントに何なんだろう。訊いてもいいものなのかな。
「ーーい。おい!」
「ッひゃい!」
謎の膨らみに集中していたらいつの間にか話が終わっていたらしい。
2対のジト目に晒されていた。
「ひゃいっておま。俺の話を聞いてなかっただろ」
「ああ、ごめんね」
「ったく。もう一度言うからな」
七尾少年曰く、宰相さんが七尾少年を呼んでいて、直ぐに向かわないといけないらしい。俺も連れて行こうかと思ったが、そうなると手続きがあったりして時間がかかるため、此処で一旦分かれることになったそうだ。
全然聞いてなかったです。
「ってことだから、おまえはそこの中庭の散策でもして待ってろ。中庭だけだからな。くれぐれもあちこちうろついたりすんなよ」
「やっぱり庭園があるんだね! 任せてよ。小学生の頃じゃあるまいし、勝手に迷子になったりしないからさ」
「小学生? まあ、大人しくしてるならなんでもいい。すぐに戻るからちゃんと待ってろよ」
「りょーかい。俺は大丈夫だから早く行きなよ。急いでるんでしょ」
ヘラっと笑って手を振ると不安そうにしながらも七尾少年と女の子は猛スピードで駆けて行った。
「すげえ。もう見えない」
この城には「廊下は走るな」って標語はないのかな。
一人で中庭に向かいながら太郎のことを思い出してていた。
ずっと太郎も一緒に異世界に来たと思っていたけれど、もしかすると元の世界でサイセーしたのかもしれない。
太郎は俺とは違ってエンガチョされているわけじゃないし、よくよく思い出してみるとあの空間にいたときに神ちゃんは太郎も異世界行きだとは一度も言ってなかった。
もしも元の世界でサイセーできたのなら、いたのかもわからないけど俺の家族や友達と仲良くしていたらいいな。
そうなると俺は太郎とはもう二度と会えないのだろう。
「太郎が元気に生きてますように」
この世界での初神頼みはお菓子好きの神ちゃん宛の太郎の息災願いだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
無能妃候補は辞退したい
水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。
しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。
帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。
誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。
果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか?
誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる