したっぱの日常

きりたんぽ

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第1章

迷路

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「あんまりきーちゃんに近づいたらだめだよ!」

「お…」

「お?」

「おちちさま…げふんげふん」

 危ねえ危ねえ。出会ってすぐにセクハラをしそうになったぜ。

 乱入者は同年代少し下くらいに見える女の子だ。膝のあたりまで伸びた金髪は艶々と輝いているし、大きな目は夕焼け空みたいに明るい赤色で、光を反射してキラキラと輝いている。
 そして何より非常に、その、身体の一部の発育がいい。少なくとも失言しそうになる程度には。

「父様っ?」

「ちちさまちがうー?」

 不思議そうに首を傾げて純粋オーラを撒き散らしている見目麗しい2人に俺の良心がハリネズミだ。

 よし、ここは話題を変えよう。

「君は?」

「ヴァーの名前はともえだよっ。そーちゃんの相棒たぁ、ヴァーのことだ!よ!」

 誰だよそーちゃん。
 「ヴァー」なんて一人称初めて聞いたぞ。いや、まあ、記憶はほとんどないんだけど。

 親指で自分を指してニカッと笑うと、美少女なのにイケメン臭がすごい。うっかり反感湧いたわ。

 巴嬢は少年に歩み寄りながら話を続けた。

「きーちゃんには庇護の光イージスがあるからねっ。知ってるヒトはあんまりいないんだけど、この庇護の光ってのが厄介で、あんまり近づくと、」

 瞬間。
 目に痛みを感じるほどの強い光に照らされて視界が真っ白に漂白された。

 長いような短いような時間が終わり、恐る恐る目を開いてみたが目に焼きついた残像のせいで何も見えない。
 しぱしぱと両目を瞬くと失われていた視力が戻ってきたが、目に映る光景に思わず言葉を失った。

「あははっ。びっくりしたっ? きーちゃんに近づいた人はこうなっちゃうから気をつけてねっ!」

 さっきまでと同じように朗らかに笑う巴嬢の胴にぽっかりと開いた穴から、さっきまでは見えなかったはずの向こう側の生垣が見える。
 素人目にも致死性とわかる傷口は炭化しているのだろう。真っ黒になっていて、意識した途端に辺りに漂う何かが焦げる匂いに吐き気を催した。

「びっくりしたのー。まぶしかったねー」

「いきなりだったからね! ごめんねっ」

 にこにこ。にこにこ。

 笑い合う2人に背中が冷たくなった。
 何なんだこれは。もしかして俺は何か恐ろしいものと相対してるんじゃないだろうか。

 そう、それこそバケモーーー

「あー! 今シツレイなこと考えたでしょっ! ヴァー、わかるんだからねっ」

 ぐりんっと振り向いた顔は笑っていても、目が笑っていない。

「あ、えっと、怪我大丈夫?」

 力が入り過ぎて痛む喉からなんとか声を絞り出した。
 怪我ってなんだよ。どう見ても死因だろ。

「心配してくれたのっ? ありがとう! ヴァーは脳筋のーきんだから全身すみったりこまってもすぐ治るんだよっ」
 省略したところで婉曲具合が足りない。吐くぞ。
 あと、脳筋にそんな意味はないからな。

 確かによく見ると胴の穴が小さくなっている。
 一方、穴の開いた服は戻らないわけだから、肌色の面積は広くなってくるわけで。ヘソ出しなんて目じゃないぞ。
 傷の痕跡ひとつ見えない真っ白な腹に留まろうとする視線を意志の力で無理矢理引っぺがして、明後日の位置で固定した。
 あー。いい天気だなー。

「脳筋って意味わかってる?」

「知ってるよ! 脳筋は『脳みそまで筋肉だからすっごく強い』ってことなんでしょっ?  そーちゃんが言ってたもんっ!」

「騙されてるぞ」

 そーちゃんとやらは天然なのかワザとなのか。
 そして俺の目の前でブンむくれている巴嬢はもしかしなくてもアホの子なのではないだろうか。どこかでおかしいと気づかなかったんだろうか。

「もうっ。みんなそうやって『間違ってる』とか『嘘だ』とか言うんだから! そーちゃんはすっごく物知りなんだよっ。なんでも知ってるんだから間違ってるわけないの!」

 なるほど。つまりはワザとなのか。

「あーちゃん、そーちゃん、なかよしーのー」

「! そうなのっ。ヴァーとそーちゃんは相思相愛! きーちゃんはいい子だねっ」

「いいこー。えへへー」

「えへへっ!」

 なにこのアホの子たち。







「それじゃあ、かーちゃんって護衛の人がいなかったのはその必要がなかったからってことか」

「かーちゃんね、いそがしのー」

「女王が好き勝手するからねっ。後始末とか色々あるんだってさ!」

「理不尽だったり傲慢だったりするの? 真っ黒な職場だね」

「黒じゃなくて赤だよっ。女王はね、確かに理不尽だけど傲慢っていうより怠慢って言葉がぴったりだね!」

「ござるー」

 どっちにしろロクでもないな。

「でも、それでも護衛がいないのは問題じゃないのか。ほら、例えば、」

 さっき明後日を向いた時に見つけた、遠目に見える城らしき建物を指差した。
 中庭から見る城があんなに遠いってどういうことだよ。

「あの建物の窓からの攻撃なんてされたら危ないだろ」

「あはっ。きーちゃんに悪意や害意なんて持ってたら、城門に入る前にちゅどーん!だよっ」

「ちゅー」

「怖いな! だけどまぁ、それなら安心…なのか?」

 あときーちゃん君や、それじゃあネズミだぞ。かわいいけど。



 巴嬢からは女王について色々と聞くことができた。
 どうも女王は、駄目人間というやつらしい。
 起こさないと一日中寝てただとか、読んでいる本を取り上げられそうになって本にかぶりついただとか、失くしていた手袋の片方が厨房の鍋の中から出てきただとか、研究施設の骨格標本で「わたしのかんがえたさいきょうのかいじゅうのほね」を勝手に製作したりと非常識な話が次々と出てきた。
 大丈夫かこの国。


 ついでに、入口の門についても訊いてみた。
 きー坊に訊いても良かったんだけど、本人もよく理解していないらしく、早々に巴嬢に丸投げしていた。

 きのみと枝だと思ったものは、鍵を表していたそうだ。創生神話の外伝的なものに出てくる物で、意味合いとしては真理だとか秘宝だとかそういうものに辿り着くために必要なもの、ということらしい。なるほどわからん。
 そら豆と菜箸は繭と棒針だ。創生神話の本編に出てくるのはこちらの方で、この2つによって世界は生まれたとされている。なるほどまったくわからん。

「でもね、この話は他の誰にも話しちゃいけないんだよっ。キミはこの場所に自力で来たから特別に話してあげたけど、他のところでこの話をしたら塵になるねっ」

 そう言って、「ヴァーはそのくらいじゃ平気だけどねっ!」と自慢気に胸を張った。
 なんでそんなに得意そうなの。

「国は神話が広まらないようにしてるっていうことか?」

「あはっ。この国で『神』なんて口にしたら袋叩きだよ! いいかい、ヴァーたち以外の前で神の話はしないこと! ヴァーとの約束だぞ!」

「だぞー」
 
「わ、わかった」

 自分の迂闊さは目覚めてから今までのこの短い間に薄々感づいている。気をつけておかないと本当にやらかしそうだ。




「でも、この場所に自力で来た人には話していいのか?」

「いいけど、ヴァーたち以外は多分いないよ! この迷路を通り抜けられるのは『にぶい馬鹿』だけなんだって!」

「なんですと」






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