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残酷な月日
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「………ル、アステル、大丈夫か?」
歳を重ねたセーラスの声にアステルは懐古を止める。
「あぁ、昔を思い出してた。悪いな」
近すぎる距離から自分を覗き込んでいた紺碧に驚き体を離すと、セーラスは残念そうに唇を噛んだが、以前の態度を取り戻したアステルに満足しているようだった。
気を許したものだけに見せる、形の良い歯をあらわにした笑顔が懐かしい。
「久しいな、アステル。十年振りか。店に入り、すぐにわかった。あの頃と変わらないな」
再びの嘘に、アステルは乾いた笑いを発した。
不思議そうな顔をするセーラスに呆れる。随分と侮られている。そんなことにも気が付かない馬鹿だと俺は思われているのか、と蘇りかけた淡い感情は綺麗さっぱり消え失せた。
「歳をとったのは外見だけかい? 相変わらずおめでたい考えのお貴族さまだな。ベテラン男娼をつかまえて、変わらないだって? は! あの頃から俺はいやらしい顔をして男を誘っていたか。それなら騎士見習いの選考をしたお偉いさんの目はとんだ節穴だ。生まれながらの淫売を男だらけの集団に放り込むなんて。いや、ご褒美のつもりか? あのままいたら俺を取り合って仲間割れしていたかもな。俺の親父に感謝してもらいたいね。人を殺してくれて、助かったっ——」
「やめろ」
セーラスが苦痛の表情を受かべる様子に、仄暗い喜びが湧き上がる。剣を持たない男娼にも、立派な男を傷つけることはできる。同時に、息が詰まるほど苦しくもあった。自分の古傷をかきむしっているも同然だ。そして、こんな表情のセーラスなど、本当は見たくない。
「御父上の件、並びにその後の顛末については聞いた。お悔やみ申し上げる。強盗に襲われた御母上を守っての事故だったのだろう? 騎士団に上申書を上げたが、回答はないままだ。せめて一刻も早くお前の元を訪れたかったが、力不足で今になった。不甲斐ない友ですまない」
「……ない」
「なんだ?」
「友じゃない。俺には騎士の友人なんかいない。俺はしがない男娼だ。お前のことなど知らない」
「……それもそうだな」
きっぱりと拒絶の意思を告げるアステルにセーラスは顔を歪めたが、それ以上に同意されたアステルの胸の内は酷いことにになっていた。顔を背け俯く背中に、セーラスは言葉を続ける。
「共に苦難を戦えない者など友の名には値しない」
「そういうわけでは……っ!」
「私がお前の友としてありたい姿ではない。だから友と呼ばれなくても良いが、知らないとは聞き捨てならぬ。お前なしに私は騎士にはなれなかった。他の者との壁を壊してくれたのはアステル、お前だ」
「そうやって、ご機嫌を取ってどうする?」
耳障りの良い言葉は全て嘘だ。耳にするたび心が冷える。
薄笑いを浮かべるアステルにセーラスは言葉を迷っているようだった。もう思うがままに語り合うことなどできない。
セーラスに現実を突きつけてやろうとアステルは口を開いた。
「お前が何を望んでいるかなど、お見通しだ。言わせたい言葉があるんだろ? やらせたいことがあるんだろ? でもな、俺はお前の思い通りにならない。お前の人生を成功させるための踏み台になるのはごめんだ」
「踏み台になどするものか……!」
「はは、じゃあ便利な肉塊? 穴か。見ろよ、このケツに太もも。ここだけは昔より立派だろ。あぁ、胸もか。みんな男から搾り取るための筋肉だ。評判いいんだぜ? 俺だって楽しんでる。天職だよ。なんなら遊んで行くか? いや、こんな汚れたものに触れるのも……あっ」
アステルが言い終える前に、視界が揺れる。セーラスに突き飛ばされベッドに倒れ込んでいた。どうせなら、意識を飛ばすほど強く打ち据えてくれれば良かったのにと、アステルは不適な笑みを浮かべセーラスを見上げた。
紺碧の瞳に燃やした感情は怒りだろうか。欲情だったら、と一瞬だけ夢を見る。ずっと目を背けていたのに。心の奥底でしぶとく生き残っていた恋心。厄介な存在だ。
「なんだよ、たまっているのか? 相手なんて選び放題だろうに、女は抱き飽きたか」
膝を折りセーラスの脚を弄る。粗末な綿のパンツは生地が薄い。内ももをこすり上げ、その突き当たりに待つどっしりと子種を宿す袋をこねればたまらない刺激になる。狙い通り、セーラスが生唾を飲むのを聞いた。
太い首に腕を絡め、耳元へ口を寄せる。
友を抱く理由はなくとも男娼ならばあるはずだ。十年で身につけた全てで目の前の男を煽る。
「男はいいぞ。頑丈だし、男のいいところを理解している。何より、子どもができない。ここにたまった熱いのを心置きなく注げるぞ。空っぽにしたいなら俺を一晩買うといい。上からたんまりもらってるんだろ? 口でも尻でも搾り取ってやるよ。よがりながら。…………好きなんだ一番奥にぶちまけられるのが」
「くそ…………っ‼︎」
「あは、ははは…………」
笑い声を立てるアステルの上にセーラスが馬乗りになる。目の前に迫ってくる美しい顔は憤怒にも似た表情を浮かべていた。
男娼になって良かった。好いた男に抱いてもらえるなんて、思ってもいなかった。
アステルは目を閉じ喜びを噛み締める。思い切り乱暴に抱かれたい。いっそ壊して欲しい。最後に自分を抱いたのがセーラスになるように。
何も隠せない薄衣が無惨にも裂ける音を暗闇の中で聞いた。
歳を重ねたセーラスの声にアステルは懐古を止める。
「あぁ、昔を思い出してた。悪いな」
近すぎる距離から自分を覗き込んでいた紺碧に驚き体を離すと、セーラスは残念そうに唇を噛んだが、以前の態度を取り戻したアステルに満足しているようだった。
気を許したものだけに見せる、形の良い歯をあらわにした笑顔が懐かしい。
「久しいな、アステル。十年振りか。店に入り、すぐにわかった。あの頃と変わらないな」
再びの嘘に、アステルは乾いた笑いを発した。
不思議そうな顔をするセーラスに呆れる。随分と侮られている。そんなことにも気が付かない馬鹿だと俺は思われているのか、と蘇りかけた淡い感情は綺麗さっぱり消え失せた。
「歳をとったのは外見だけかい? 相変わらずおめでたい考えのお貴族さまだな。ベテラン男娼をつかまえて、変わらないだって? は! あの頃から俺はいやらしい顔をして男を誘っていたか。それなら騎士見習いの選考をしたお偉いさんの目はとんだ節穴だ。生まれながらの淫売を男だらけの集団に放り込むなんて。いや、ご褒美のつもりか? あのままいたら俺を取り合って仲間割れしていたかもな。俺の親父に感謝してもらいたいね。人を殺してくれて、助かったっ——」
「やめろ」
セーラスが苦痛の表情を受かべる様子に、仄暗い喜びが湧き上がる。剣を持たない男娼にも、立派な男を傷つけることはできる。同時に、息が詰まるほど苦しくもあった。自分の古傷をかきむしっているも同然だ。そして、こんな表情のセーラスなど、本当は見たくない。
「御父上の件、並びにその後の顛末については聞いた。お悔やみ申し上げる。強盗に襲われた御母上を守っての事故だったのだろう? 騎士団に上申書を上げたが、回答はないままだ。せめて一刻も早くお前の元を訪れたかったが、力不足で今になった。不甲斐ない友ですまない」
「……ない」
「なんだ?」
「友じゃない。俺には騎士の友人なんかいない。俺はしがない男娼だ。お前のことなど知らない」
「……それもそうだな」
きっぱりと拒絶の意思を告げるアステルにセーラスは顔を歪めたが、それ以上に同意されたアステルの胸の内は酷いことにになっていた。顔を背け俯く背中に、セーラスは言葉を続ける。
「共に苦難を戦えない者など友の名には値しない」
「そういうわけでは……っ!」
「私がお前の友としてありたい姿ではない。だから友と呼ばれなくても良いが、知らないとは聞き捨てならぬ。お前なしに私は騎士にはなれなかった。他の者との壁を壊してくれたのはアステル、お前だ」
「そうやって、ご機嫌を取ってどうする?」
耳障りの良い言葉は全て嘘だ。耳にするたび心が冷える。
薄笑いを浮かべるアステルにセーラスは言葉を迷っているようだった。もう思うがままに語り合うことなどできない。
セーラスに現実を突きつけてやろうとアステルは口を開いた。
「お前が何を望んでいるかなど、お見通しだ。言わせたい言葉があるんだろ? やらせたいことがあるんだろ? でもな、俺はお前の思い通りにならない。お前の人生を成功させるための踏み台になるのはごめんだ」
「踏み台になどするものか……!」
「はは、じゃあ便利な肉塊? 穴か。見ろよ、このケツに太もも。ここだけは昔より立派だろ。あぁ、胸もか。みんな男から搾り取るための筋肉だ。評判いいんだぜ? 俺だって楽しんでる。天職だよ。なんなら遊んで行くか? いや、こんな汚れたものに触れるのも……あっ」
アステルが言い終える前に、視界が揺れる。セーラスに突き飛ばされベッドに倒れ込んでいた。どうせなら、意識を飛ばすほど強く打ち据えてくれれば良かったのにと、アステルは不適な笑みを浮かべセーラスを見上げた。
紺碧の瞳に燃やした感情は怒りだろうか。欲情だったら、と一瞬だけ夢を見る。ずっと目を背けていたのに。心の奥底でしぶとく生き残っていた恋心。厄介な存在だ。
「なんだよ、たまっているのか? 相手なんて選び放題だろうに、女は抱き飽きたか」
膝を折りセーラスの脚を弄る。粗末な綿のパンツは生地が薄い。内ももをこすり上げ、その突き当たりに待つどっしりと子種を宿す袋をこねればたまらない刺激になる。狙い通り、セーラスが生唾を飲むのを聞いた。
太い首に腕を絡め、耳元へ口を寄せる。
友を抱く理由はなくとも男娼ならばあるはずだ。十年で身につけた全てで目の前の男を煽る。
「男はいいぞ。頑丈だし、男のいいところを理解している。何より、子どもができない。ここにたまった熱いのを心置きなく注げるぞ。空っぽにしたいなら俺を一晩買うといい。上からたんまりもらってるんだろ? 口でも尻でも搾り取ってやるよ。よがりながら。…………好きなんだ一番奥にぶちまけられるのが」
「くそ…………っ‼︎」
「あは、ははは…………」
笑い声を立てるアステルの上にセーラスが馬乗りになる。目の前に迫ってくる美しい顔は憤怒にも似た表情を浮かべていた。
男娼になって良かった。好いた男に抱いてもらえるなんて、思ってもいなかった。
アステルは目を閉じ喜びを噛み締める。思い切り乱暴に抱かれたい。いっそ壊して欲しい。最後に自分を抱いたのがセーラスになるように。
何も隠せない薄衣が無惨にも裂ける音を暗闇の中で聞いた。
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