Epitaph

あきら るりの

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Epitaph

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 あれから、4年の月日が流れた。
 第二種研究所。──その地下施設。
 銃声というにはあまりに重い音が鳴り響いた。
「ぐぅっ」
 手足を切断され、壁に杭で打ち付けられ固定された少女の額から赤い体液が滴りおちる。
「……う……ぁ……」
「ご覧ください。これは最低ランクであるレベル1のアクセラ個体ですが、至近距離での50口径弾の直撃を跳ね返します」
 事務的に説明されるその情景に、将校達がざわめく。
「背中に見えていますこの発光現象は、アクセラ自身への物理的な衝撃への抵抗時に発生する周辺大気の置換現象だと考えられています。……次へ」
 先ほどの銃声さえも上回る、もはや銃とは言えない銃声。
 骨が砕ける音がする。
「か……はっ……ああああああああぁぁぁ!」
 背の発光現象はさらに強くなる。
「今しがた左肩に命中させたものは、最新型の磁力射出式対物ライフルによる高速質量弾です。骨こそ粉砕していますが、致命傷には至っておりません。これは、アクセラの対物理障壁、通称『理力の枝』が主力戦車の装甲さえ上回っていることの証明と……」
 女性の説明はあまりに淡々としており、強化硝子の向こうの少女の姿とはあまりに乖離していた。
「お……願い……もぅ……ころ……し……」
「次へ」
 立て続けに起こる、衝撃音。
「ああああぁぁぁぁああぁぁ!!!!……あ……がぁ……ぎ……」
「このように力の源泉たる脳―――頭部への直撃に際しての、理力の枝の制御質量は平均値の2.7倍に達し……」
 ──青年は気付かれないように、静かにデモンストレーションの会場となっている部屋を抜け出した。
 廊下で立ち尽くし──拳を握る。
 『願いを叶える』と彼女に誓った。彼女も『それがいい』といった。だからこれは予測された未来。
 後悔はできない。それは彼女への冒涜になる。
 ……だがやはりクローンと言えど、彼女と同じ顔が苦痛にゆがむのを見続けることは耐え難かった。
 予定では痛覚を殺したタイプを用意する予定だった。だが功をあせる上司達に押され、今日のデモンストレーションへ至ってしまった。
 非常階段の扉を押す。『関係者以外の進入を禁ず』とかかれた札の脇を抜け、延々と階段を下る。やがてたどり着いた最下層の階の分厚い扉をカードキーを使用して開いた。
 部屋の灯りを付ける。そこは自分に与えられた研究室。他の研究員がここを訪れることはない。
 在学中から住んでいた部屋に戻ることはもう少ない。割り当てられた出勤時間以外はここで過ごす。
「……イーリヤ」
 目の前に眠る、二人の少女に青年は呼びかける。
 人口羊水の中で眠る、青い髪と白い髪の少女。青い髪の少女はアイン──LV47。そして白い髪の少女・ツヴァイはLV42のアクセラ。
「──私を許すな」
 神の前で懺悔を行うような面持ちで彼は呟いた。
 いつかお前達が望まれぬ救世主となったあと……お前達をモノとして扱った者達と私を殺せ。

***




















『せんせ』
 訛ったような舌足らずの呼び声はもう聴こえない。いや、聴こうとは思わない。
 それは少女への誓いのため封印した──モニュメントとしての墓への碑文だった。





















 
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