34 / 48
33
しおりを挟む次の朝、それも早朝にユズリアに着いて……
降りる者、数人どころじゃなく、半数は降りたんじゃないか?と思ったけど、王都に行くのに乗り込む者も居た。
なので、待機時間が少々あるので、乗ってる者でも朝食を食べに行くみたいだった。
アランとビルさんの衛兵の2人は朝食も持ってなかったので、買いに行くとの事で別れて、自分はとっととギルドに。
アマイルに行く馬車は、直通は数少ないけど、乗り換えならある。
けど、乗り換え地で別に行っちゃう事もあると聞いて……
直通に乗るべく、確保してからユズリア観光に行こうと思って。
アランとビルさんが、意味ありげに目を合わせてたのには、気付いてなかった。
ギルドなら、冒険者でも商業でも、定期馬車の予約はできるので……
トワイゾでなら、薬師ギルドでチケットを買ったけど、ユズリアでなら……
冒険者かなあ?
だって、商業ギルドは売買の仲立ちとかで忙しそうだし……
薬師ギルドは、王都ではなく統括の意味合いがあるみたいなの。
それで、消去法で冒険者に行けば……
閑散とはしていなかった。
けど、倉庫の護衛とかは、商人からの指名依頼の様で……
掲示板の前で、何処そこのパーティは上手くやりやがってと文句を口にしてた。
新規登録と依頼を出すカウンターが同じなので……
チビなのに登録か?と思われてたんだと思う。
冒険者ギルド定番の絡まれに、発展しそうな予感がヒゲから感じ……
「アマイルに行く直通の定期馬車って、いつですか?予約しておきたいんです」
座ってる目付きの鋭いオッサンに、声大きめで聞いていた。
このカウンターに座る者って、冒険者ギルドの看板でもあるので、女性が多いの。
だから、オッサンが座ってるの珍しいなとは思ったけど、深く考えなかった。
「ダンジョンか?直通は明後日だな。急ぎなら、王都経由が便数多いぞ」
ビルさんがいってた通りだけど、王都からだと出発する定期馬車が多すぎて、乗る馬車を間違えると、途方に暮れる場所に着くっていう、アランの脅しもあって……
「直通を待ちます。チケット買って予約します。それと、美味しい食事が出る宿の紹介をお願いします」
そう言って、お願いしたんだけど……
やっぱり船はぐっすりとは寝れなかった様だ。
アランとビルさんが居たから?
馬車の出発が、明後日で良かったよ。眠い。
「アマイルまで銀貨8枚だが、支払いは現金か?タグか?」
そう言われて、胸元からタグを引っ張りだした。
眠いから、銀貨8枚が高いとも安いとも思わずに。
「出発は、西門の3番だ。間違えるなよ。宿は、西に2つ通りを越えたところにある『スルメのお宿』だ」
スルメのお宿に吹き出しそうになったけど……
スルメはイカの干物じゃないです。
アッチ流に言うと、スズメのお宿だね。
「ありがとうございます」と言って、タグを胸元に戻して……
チケットの木札はマントの内側ポケットに。入れる振りしながら、収納空間に。
それから、周りを気にしてない風を装いながら、ギルドの外に。
だけど、ちゃんと赤や黄色の点がどう動くか見てた。
特に、掲示板の前に居たオレンジという微妙な点。
でも、冒険者ギルドを出たら、色が青に変わって行ったので、一安心。
スルメのお宿は、直ぐに見つかったんだけど……
女性好みで、男性は入り辛そうな、とても可愛らしい宿だった。
窓際には赤やピンクなどの花の鉢植えが置かれ、カーテンが赤チェックとかレースとかだし、扉もアーチ状と凝ってる。
更に、丸窓だし。
トワイゾのマーサさんの「熊の隠れ家」でも、丸窓付きのアーチ状扉にしたかったらしいけど、万人受けしないって事で諦めたって言ってたから。
それでも、アーチ状扉になってたよ、中庭に出る扉は。
そういえば、アーチにするのに技術が要るから、割高で幾つもは無理だったとかなんとか……
マーサさんは、部屋の扉を全部アーチ状にするのが夢だったらしい。
だから、女性の夢が詰まってそうな宿の看板には、頬の部分が赤く、他の部位が灰色で、羽先は黒っていう鳥が軒先に並んでる絵が描かれてた。
ちなみに、文鳥によく似てるけど、小鳥じゃないから。
スルメはカラス並にデカいし……あれ?声は可愛い方か。
ピチュピチュだから。
そういえば、アッチでもココでも、カラスはカラスだよ。
サイズは大きいけど……
レイブンと言われる大烏の方。クロウじゃない。
ただ、このスルメ、とても家族思いの鳥で、常に群れで居るので、家族の様な暖かい宿をイメージしてるのかも?
扉を開ければ、カランコロンと軽やかなベルが鳴ってた。
「こんにちは。ギルドで紹介されたのですが、今日と明日の2日泊めてください」
そういえば、出て来たのは……
獣型の猫獣人だった。それも、真っ白の猫で縦にも横にも大きな……
2mありそうだな。と思うと同時に、ギルド、ちゃんと考えてくれたんだと思ってた。
「食事はどうする?」と聞かれ……鼻に良い匂いが……
「今朝から食べたいです!」と言ってた。
「ググルカは干物だったから、食べられるのは晩だぞ」
呆れる様に言われ、興奮で立ち上がってた尻尾が、萎れた。
ググルカは、この世界でのホッケの様な海の魚です。
内陸では、塩漬けか干物になっていて、脂が乗ってる。
割とよく取れるのか、市場で売られては居たけど、ちょっとお高め。
リーナの記憶でも、とっておきの日に1度だけ、口にしたみたい。
2泊と4食分の代金、銀貨4枚を払ってから、食堂の方に入れば……
食堂の扉もアーチ状だ!
食べてる人も居たので、壁際の席に着けば、「ちょっと待ってくださいねえ!」という可愛らしい声が掛かった。
お父さん?うん、あの猫の獣人は男性だったと思う。
彼女は耳の色から三毛猫の獣人の様だけど、人型だったので、髪色は薄い色の金髪で、ツインテールの三つ編み。
身長は自分と同じくらいで、にこにこしながら、配膳してた。
待つ間に見回せば、食堂の窓3つにはギンガムチェック赤が掛かってるんだけど……
丸窓だ!実に凝ってるよ!
彼女が運んで来てくれた朝食は……
丸パン2つと肉が入った野菜スープと、品数は少なかったけど、量は多かった。
特に、パンが秀逸で!
ベーコンの端切れだとは思うけど、練り込んで焼いたのか、塩が効いてる!
はむはむと食い付いてたんだけど……
食堂の席に座ってから、深く被ってたマントのフードを脱いでたので、当然、薄茶色の猫耳がぴこぴこと動いてた。
けど、背中から弓矢のセットは下ろしてなかったから……
「人型でも冒険者できるの?」
ポツリと呟かれた言葉を拾い、目を走らせれば……
配膳してた女の子で……
「冒険者だけで食べてる訳じゃないよ」と答えた。
目を丸くして、「え?違うの?」と聞き返しただけでなく、側に来た。
「うん。本業は薬師だけど……」採集に出掛けるから。とまでは口に出来なかった。
「えええ!」彼女の叫びにかき消されて……
響き渡る様な声量だったので、「お騒がせしました」と周りに謝る事になったけど。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる