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しおりを挟む高校生を連れて、森歩きする事になった。
魔王国の森は、ヤバいのが出るって事は理解してるけど……
エスペラント王国リナペッタの森と、フライハイト魔法大国トワイゾの森での経験は、幾ばくかある。
その違いを確かめておかないと、出掛けられないので……
次の週の休みに、ソロで出掛けた筈だった。
先週、釣りに行った西の内門を出た先の森に。
釣りはせず、仕掛けは落として行くつもりではあったけど……
西の内門前に、冒険者ギルドがあるので、気配を殺して通過する予定。
他の場所では、荒くれ者がよくいたから。
先週通った時は、日課の水やり後でも早い方だったから、冒険者は吸い込まれる様にギルドに入って行ってた。
けど、今日はその時間より少し遅めだったからか、出て来てる者もいたの。
ちなみに、西の内門と呼ばれてるけど……
東西南北に正確にいうと、北西かな?
ルカに聞けば、西門にだけ内門があり、他の東南に内門はない。
で、東門が町の北東に位置してる事もあって、北門はあって無き?状態。
あるけど閉められてるんだって。
というのも、あの湖が意外と広く大きい様で……
じゃあ、なんで北門があるの?だけど……
その手前に領主館があるので、何か用途があるんだろうね。
で、南門は南南東方向で、馬車が行き交うくらいに交通量があるので、太い街道になってるみたい。
そういえば、他の町ではギルドの資料室に行って、自ら情報収集してたけど、ここではルカや師匠からの又聞きばかりだったな。
ふと思い出して、今すぐ、門の外に出るのを諦めて、冒険者ギルドの扉を押したんだ。
そしたら……
ナオトくんを含む高校生ズがいたの。
それも、しょげかえってる。
着てる装備からも、初心者って分かる者なので、他の場所なら軽く扱う者が居そうだけど……
ギルドの中に籠った独特の匂いもせず、手入れがなされ小綺麗で、意外に思ってたら……
「こんにちは。今日の用事は?」と聞くコンシェルジュの様な者がいて……
思わず、口がぽかんと開いてた。
商業ギルドでは居たところもあったけど、冒険者ギルドでは初めて……
「あら、こちらに来られるのは初めてですか?それでは……」
そう言って、促されるままにカウンターに案内された。
「いや、今日は資料室に……」と言って、断ろうとしてたのに。
「ぜひ資料室もご利用ください」
そういいながら、タグの有無を聞かれ……
抗うのを諦め、息を吐いてタグを胸元から出せば……
タグの色が、金色に紫色の縁なので、「まあ」と呟き微笑んだ。
冒険者ギルドだけのタグだとタグの色は、地色のみ。
それが、商業ギルドや薬師ギルドなどとの複合タグの場合……
生産系が地色で、冒険者ギルドは縁色な訳。
色は共通なので、縁色に気付けなければ、冒険者としてAランクと思われてしまうの。
だから、あまり冒険者ギルドでは出したくないの。
鉄色→緑色→青色→紫色→橙色→金色→白金色
下から、F→E→D→C→B→A→S ね。
「とりあえず、所属の更新を……」
「薬師ギルドで済ませました」
「済ませて、この色?」
「ええ、そうですが……」
ふーん?と言いたげで、やや不満そう。
「資料室に行きたいんですが……」
そう言って、タグを取り戻そうとしたら……
「えい!」と言って、勝手にタグを水晶球に押し付けた!
おい!何、勝手してるのよ!
ただ……
ラノベだったら、光りそうな場面だけど……
ふんともすんとも異常なしで、何も変わりはしない。
凄く残念そうな顔付きになった受付嬢?から、タグを奪い返して、さっさと胸元に。
何がしたかったんだ!?
そう思いながら、ギルドの設備は何処でもほぼ同じなので、階段に向かい、上がってたら……
高校生ズが「一緒して良いですか?」と聞きながら上がって来た。
良いとも了承してないのに、着いてきた高校生ズ。
資料室は、誰にも開かれてるけど、本を持ち去られない様に対策されている。
本は基本手書きで、革表紙に羊皮紙っていう高額な代物だから。
トワイゾでは常駐する者が居る上、荷物がある場合は預ける事。
アマイルでは常駐する者は居なかったけど、保証金を預ける事になってた。
出る時に、何も無ければ返して貰える。大銀貨5枚なので5万だね。
ここでは……魔道具の腕輪を付けられた。
本を持ち出したり、腕輪を付けたまま出ると……
ビリビリ攻撃って……
思わず、尻尾が立っちゃったよ。
とりあえず、この周辺の地図を読み込んで……
出る魔物、魔獣、獣の種類を押さえる。
遭遇した事のないのが居るのなら、特に、調べておかないと。
薬草に関しては、薬師ギルドの方が良いけど……
採集の依頼が出されるのは冒険者ギルドだから、それなりに情報が集まってるの。
高校生ズも、手分けして調べてたよ。
自分たち以外に誰も居なかったからか……
「タグのランク変わらなかったんですか?」と、ナオトくんに聞かれた。
ん?変わるもの?じゃなく、魔王国では下がるものだったね。
頷いてから、「複合タグだから、他で更新したら連動するから」と言えば……
「そういえば、薬師ギルドで済ませたって言ってましたね」
「なのに、何をしたかったのかな?」
「変わらなかった事に、怒ってる感じだった」
高校生ズが会話してたら、黙り込んで怒ってる?と思ってたユウリの漏らした言葉が……
「私たちのランクがはじめに戻った事を嘲笑ってた……」
目を見開くくらいに衝撃で……尻尾も膨らんだかも……
コンシェルジュの様に、カウンターから出て自身のカウンターに連れて来るって……
「アレなら鑑定できそうだから、しとけば良かった……」
ボソッと口にすれば、ナオトくんが声をあげた。
「あ、ホビッタさんですよ。メライ・ホビッタ。名前しか見れなかったんですけど……」
お、思わぬところで、その名前を聞いたにゃ!
「ほぉ。冒険者ギルドへの回復薬納品を止める案件だったにゃ」
元商業ギルド職員で、グラディエーヌ薬屋の職員募集にやって来て、横流ししようとした悪辣な者。
師匠とルカには相談しなきゃだけど……
禊が長引きそうだよ。
ふふふふと笑う自分に、顔を見合わせてた高校生ズ。
アマイルの時とは違い、何時間も資料室に籠る様な事もなく……
2時間ほどで出て来たんだけど……
もれなく高校生ズが着いて来た。
内門を出て、自分が仕掛けを落とすのも見ていて……
「岩がありそうな陰が良いんでしたっけ?」と聞かれたので頷けば……
空間収納持ちのユウリも、仕掛けを持ってきてた様だった。
「作ったのは私じゃないですよ。手先が器用なナオトです」
ユウリがそう言って、ナオトくんが指示する場所に落とし……
「薬草入り団子はリリカとミホの合作で……」
「ソイの実とテラレリアの蜜が欲しくて、探しに来たんです!」
リリカとミホが力説してるけど……
ナオトくんの顔が引き攣ってるって事は……
蒲焼きがばれたのか!
「この森のどこら辺にあるかは分からないけど、あるとは思うよ」
そう言っておいてあげた。
ホーンラビ程度の強襲で済んで良かった森の散策だった。
高校生ズで対処し、血抜きと冷やす事、その後の解体と慣れて来てた。
魔王国に来る道中は、まだ狼狽えてたし……
ソイの実とテラレリアの木は、さほど奥に行かずとも見付けられた。
自分も、テラレリアの蜜の在庫が減って来てたので、回収したんだけど……
この場所の木は、定期的に見回りされてるのか、管が突き刺さったままや、バケツが置かれてるって事もなかった。
そう、私物化しようとする欲どしい者がよく居るんだよねえ。
ただ、何を基準にしてるのか、苦くなっちゃうんだ。
「基準量ははっきりしないけど、取り過ぎると苦くなるから、気を付けてね」
そういえば、全員、目を見開いて固まったけど……
「女神の恵みだけに、各自の量があるのかもね?」
自分というか、リーナが小さい頃にやらかしてるんだ。
まあ、婆ちゃんも薬草畑に移植しようとしてるし。
なので、各自で、ナイフを持って幹を傷つけ、蜜の採集をはじめたの。
自分の経験上で、1度では3Lのガラス瓶が最大だと言ったから。
他は……
グアの木こと卵の木はなかったけど……
ソラの木こと味噌の木はあった。
あとは果樹で……
猿獣人さんから貰ったカティアがあって、風魔法をカットと浮かすの2つ同時に稼働させ、手に入れたけど……
以前貰ったものより濃くオレンジ色に近い黄色になってた。
ますます柿っぽくなって来たよ。
あまりに高い場所にあるので、高校生ズ、唖然として見上げてたけど……
登ったとしても取れないと嘆くと同時に、見上げ過ぎて首が痛いらしい。
普通に収穫出来るようなリンゴはもう採られていて、残念がってたよ。
だから、カティアを各1個ずつ分けてあげたんだけど……
くんくんと匂いを嗅いだり、グレープフルーツ大の大きさに色だから、「グレープフルーツ?」と呟いたりしてた。
「色匂いは柑橘系だけど、味は柿っぽい」と言えば、全員えええ!と声を上げそうになり、口元を押さえてた。
森の中では大きな声を上げない、が森の中のルール常識だから。
仕掛けを上げれば、前回ほどの大きさじゃないけど、ウナギが1匹ずつ入ってて……
各自で締め、氷いっぱいの木桶と空間収納に入れた後、彼ら高校生ズと別れ、薬屋に帰って来たら……
師匠とルカ、お茶してた。
ので、カティアを出せば、喜んだのは師匠だけ。
やっぱり剥かないけど、干し柿の様に干すもよう。
ただ、冒険者ギルドの資料室に行ったら、メライ・ホビッタが居たと言った瞬間、2人眉間に皺。
「冒険者ギルドのギルマスに手紙を書いて送り付けるから、ルカも抗議してきておくれ。回復薬の在庫を確認する様にって事と回復薬の納品を止めるって。私は商業ギルドに乗り込んで来るから」
お茶してたのに、立ち上がって動き出した2人。
『今度やらかしたら、問答無用で魔王国追放されるのに、分かってないにゃ』
辟易って感じでボヤいてたルカ。
窃盗とほぼ同じ事を、前回にやらかしたって聞いてるから、自業自得か。
けど、休日の午後に用事を作っちゃってごめんなのにゃ。
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