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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの人理《ひとり》立ち~
リーズ・ナブルとダグラス=ラインホード
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食事のあり方の一つを語ろう。
俺が思うそれは、家族であったり、仲間であったりと形はそこまでこだわりのあるものではない。
ただ、そこに笑いがあればいいと思っている。嗤いじゃなくてな。
笑って飯が食えれば、それで俺は満足できる。
今日の夕飯は、それに当てはめれば大いに素晴らしい食卓だったと言えるだろうな。
笑いの絶えなかった食卓の終わりを告げ、俺は宛がわれた部屋で腹の調子を整えながら仕事道具の整理をしていた。
「・・・これはまだいける。これはもうそろそろダメだな」
魔物の素材はその魔力がなくなれば粉々になってしまう。いくら節約ができるといっても、無限に使えるわけではないのだ。
そういったものを使い続けてもしもの時になくなってしまっては本末転倒というものだ。常に魔力残量に気を付け、できる限り万全の体勢を整えていなければ付与士としては失格だ。
「ちょっと調子乗っちゃったもんな」
あんまりにも反応がいいもんだからどんどん素材を使ってしまった。下級の魔物とはいえ無駄に使っていいものではないが、これはこれで別の使い方ができるのでこうして整理をしているのだ。
そうして検品を終えた結果、約三割の素材がそろそろ使えなくなるところまできていた。これは後で処理をするとして一まとめにしておき、別の袋に入れておく。
しかし、やはりライフポーションまで使ったのは痛かったな。もうほとんど回復効果がないただの苦い水になってしまっている。
「・・・貴重品だがしかたないか」
こういった回復、治癒の効果を持つ魔道具や魔法を扱える者は数が少ない。必然的にそれらを施してもらうには高い金が必要になり、俺のような平民は古くから伝わるようなあまり効果的ではない手法に頼るしかない。
突発的な事態にと考えてなんとか入手してはいたが、まあ役に立ったと思えば惜しくはない。命には代えられないんだからな。
そこまで整理を進めていたところで、部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「・・・リーズ様、御時間よろしいでしょうか?」
その声は先ほども隅で控えていたシュニーというメイドのものだった。これは彼女ではなくあの三人の誰かからの呼び出しだろう。
「問題ない、今あける」
広げていた素材をぱぱっと片付け、ベッドの横に置いてからドアを開いた。そこには軽く頭を下げた格好をしたシュニーがいて、予想通りとも言える台詞を口にした。
「御当主様が御呼びです、どうぞこちらへ」
さて、それじゃあ面接にいきますかね。
先を行く彼女の背後で、心持ち衣服のシワを伸ばしたりしつつ、俺は仕官試験に望むかのような心境で足を進めるのだった。
窓から射す月明かりが暗い廊下を照らし、石畳を歩く音だけが周りに響いている。
ここまでくるのに目の前の彼女は一言も喋ることなく、嫌われてんのかな、などと思考を遊ばせていればどうやら目的地についたようで。
他よりも若干作りが豪勢なように見える扉を叩き、シュニーは中にいる人物に訪問を知らせる。
「・・・ダグラス様、御客人を連れてまいりました」
「・・・そうか、入ってくれ」
扉を開いたシュニーに促され、俺は部屋の中へと進んでいく。
テーブルの上の蝋燭以外は明かりのない部屋で、その人は静かに座っていた。
「お呼びと聞いて参上しました、御当主様」
「・・・呼び出してすまないな、座ってくれ」
「それでは、失礼して」
一緒に入ってきたらしいシュニーが椅子を引き、促されるままに席へと着く。テーブルの上には燭台の他にワインらしきボトルが用意され、お互いの前にはそれを注ぐためのグラスがあった。
「・・・まずは、乾杯といこうか」
「遠慮なくいただきます」
素早く給士となったシュニーがボトルを開け、その中身をそれぞれのグラスに注ぐ。赤い血潮のようなワインはその香りだけで最高級のものとわかるようなそれがグラスを程よく満たす。
「・・・良き日に」
「良き出会いに」
すっ、と同時にグラスを掲げ、お互いの喜びに乾杯する。
口にすれば芳醇な味わいが舌の上で踊り、喉ごしもよく鼻から抜ける香りがなんともいえない。
間違いなく最高品質、とてもではないが俺のような人間が飲めるような一品ではないが、この機会に存分に味わっておこう。
「・・・倉で眠らせていたものだ」
「とても美味い、言葉にできないくらいです」
いや本当に美味い。
酒だけでここまで美味いと思う日が来るとはな。御偉い方はこんなんを毎晩飲んでいるのか、罪深ぇな。
「・・・世話になった」
もう一度グラスに口をつけていると、おもむろにダグラス氏からそんな言葉を掛けられる。グラスから口を離してそちらに視線を向ければ相変わらず固い表情の氏がおられる。
「・・・娘の命ばかりでなく、我ら家族の繋がりを治す機会まで」
本当に、世話になった。
そういって年も身分も下であるはずの俺に対して躊躇なく頭を下げてくる。その真剣な様子に対して、俺はどこか軽い感じで返答する。
「そんなに恩に思うことじゃないですよ。俺が娘さんを助けたのは偶然というか、俺のいた部隊の連中がいたからですし、それだって俺が原因なところがあります」
実際討伐に向かったのが元の騎士どもだったら俺は行っていないだろう。怪我の巧妙というか、とにかく運がよかったのだ。
「何だかんだで巡り合わせがよかった。それでいいじゃないですか」
誰一人死ぬことがなかった。それ以上を望むのは罰当たりというものだ。結末に付随するものを特別視する必要もない。
「結果よければ全てよしっていうでしょ?」
だから、まあ。
「幸運に」
乾杯しましょう、こんな日は。
「・・・そうだな、幸運に」
そして俺たちは再びグラスを掲げて、それから軍でのことや騎士の裏話などを肴に夜の深くなる部屋で飲み会を続けるのだった。
それはまるで今はいない父親に仕事の愚痴を話すような感覚で、なんというか、生きていればこんな光景が俺にもあったかもしれないことを思わせられた。
そんな思いも、酒と一緒に飲み干して忘れちまったんだけどな。
俺が思うそれは、家族であったり、仲間であったりと形はそこまでこだわりのあるものではない。
ただ、そこに笑いがあればいいと思っている。嗤いじゃなくてな。
笑って飯が食えれば、それで俺は満足できる。
今日の夕飯は、それに当てはめれば大いに素晴らしい食卓だったと言えるだろうな。
笑いの絶えなかった食卓の終わりを告げ、俺は宛がわれた部屋で腹の調子を整えながら仕事道具の整理をしていた。
「・・・これはまだいける。これはもうそろそろダメだな」
魔物の素材はその魔力がなくなれば粉々になってしまう。いくら節約ができるといっても、無限に使えるわけではないのだ。
そういったものを使い続けてもしもの時になくなってしまっては本末転倒というものだ。常に魔力残量に気を付け、できる限り万全の体勢を整えていなければ付与士としては失格だ。
「ちょっと調子乗っちゃったもんな」
あんまりにも反応がいいもんだからどんどん素材を使ってしまった。下級の魔物とはいえ無駄に使っていいものではないが、これはこれで別の使い方ができるのでこうして整理をしているのだ。
そうして検品を終えた結果、約三割の素材がそろそろ使えなくなるところまできていた。これは後で処理をするとして一まとめにしておき、別の袋に入れておく。
しかし、やはりライフポーションまで使ったのは痛かったな。もうほとんど回復効果がないただの苦い水になってしまっている。
「・・・貴重品だがしかたないか」
こういった回復、治癒の効果を持つ魔道具や魔法を扱える者は数が少ない。必然的にそれらを施してもらうには高い金が必要になり、俺のような平民は古くから伝わるようなあまり効果的ではない手法に頼るしかない。
突発的な事態にと考えてなんとか入手してはいたが、まあ役に立ったと思えば惜しくはない。命には代えられないんだからな。
そこまで整理を進めていたところで、部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「・・・リーズ様、御時間よろしいでしょうか?」
その声は先ほども隅で控えていたシュニーというメイドのものだった。これは彼女ではなくあの三人の誰かからの呼び出しだろう。
「問題ない、今あける」
広げていた素材をぱぱっと片付け、ベッドの横に置いてからドアを開いた。そこには軽く頭を下げた格好をしたシュニーがいて、予想通りとも言える台詞を口にした。
「御当主様が御呼びです、どうぞこちらへ」
さて、それじゃあ面接にいきますかね。
先を行く彼女の背後で、心持ち衣服のシワを伸ばしたりしつつ、俺は仕官試験に望むかのような心境で足を進めるのだった。
窓から射す月明かりが暗い廊下を照らし、石畳を歩く音だけが周りに響いている。
ここまでくるのに目の前の彼女は一言も喋ることなく、嫌われてんのかな、などと思考を遊ばせていればどうやら目的地についたようで。
他よりも若干作りが豪勢なように見える扉を叩き、シュニーは中にいる人物に訪問を知らせる。
「・・・ダグラス様、御客人を連れてまいりました」
「・・・そうか、入ってくれ」
扉を開いたシュニーに促され、俺は部屋の中へと進んでいく。
テーブルの上の蝋燭以外は明かりのない部屋で、その人は静かに座っていた。
「お呼びと聞いて参上しました、御当主様」
「・・・呼び出してすまないな、座ってくれ」
「それでは、失礼して」
一緒に入ってきたらしいシュニーが椅子を引き、促されるままに席へと着く。テーブルの上には燭台の他にワインらしきボトルが用意され、お互いの前にはそれを注ぐためのグラスがあった。
「・・・まずは、乾杯といこうか」
「遠慮なくいただきます」
素早く給士となったシュニーがボトルを開け、その中身をそれぞれのグラスに注ぐ。赤い血潮のようなワインはその香りだけで最高級のものとわかるようなそれがグラスを程よく満たす。
「・・・良き日に」
「良き出会いに」
すっ、と同時にグラスを掲げ、お互いの喜びに乾杯する。
口にすれば芳醇な味わいが舌の上で踊り、喉ごしもよく鼻から抜ける香りがなんともいえない。
間違いなく最高品質、とてもではないが俺のような人間が飲めるような一品ではないが、この機会に存分に味わっておこう。
「・・・倉で眠らせていたものだ」
「とても美味い、言葉にできないくらいです」
いや本当に美味い。
酒だけでここまで美味いと思う日が来るとはな。御偉い方はこんなんを毎晩飲んでいるのか、罪深ぇな。
「・・・世話になった」
もう一度グラスに口をつけていると、おもむろにダグラス氏からそんな言葉を掛けられる。グラスから口を離してそちらに視線を向ければ相変わらず固い表情の氏がおられる。
「・・・娘の命ばかりでなく、我ら家族の繋がりを治す機会まで」
本当に、世話になった。
そういって年も身分も下であるはずの俺に対して躊躇なく頭を下げてくる。その真剣な様子に対して、俺はどこか軽い感じで返答する。
「そんなに恩に思うことじゃないですよ。俺が娘さんを助けたのは偶然というか、俺のいた部隊の連中がいたからですし、それだって俺が原因なところがあります」
実際討伐に向かったのが元の騎士どもだったら俺は行っていないだろう。怪我の巧妙というか、とにかく運がよかったのだ。
「何だかんだで巡り合わせがよかった。それでいいじゃないですか」
誰一人死ぬことがなかった。それ以上を望むのは罰当たりというものだ。結末に付随するものを特別視する必要もない。
「結果よければ全てよしっていうでしょ?」
だから、まあ。
「幸運に」
乾杯しましょう、こんな日は。
「・・・そうだな、幸運に」
そして俺たちは再びグラスを掲げて、それから軍でのことや騎士の裏話などを肴に夜の深くなる部屋で飲み会を続けるのだった。
それはまるで今はいない父親に仕事の愚痴を話すような感覚で、なんというか、生きていればこんな光景が俺にもあったかもしれないことを思わせられた。
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