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ダボンナ王国独立編 ~リーズ・ナブルの馬事《まこと》騒ぎ~
英雄の帰還
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「―――……イナナキの街にて、最強を決める今大会。様々な激戦が繰り広げられるなか、数多の強者を下し頂点へと登り詰めたのはフードによってその正体を隠した謎の男でありました」
静まり返る会場の中央。
一際高い壇上を後ろに控え、滔々と語り出すのはこの大会全ての試合にて司会をしてきたギルドの受付嬢であった。
すでにこなれてきたのか、語りの練度が高まっているのが分かる。
「決勝戦にて遂に正体を明かしたジョン・ドゥニーム選手。選手たちの治療用テントにていくらかの時間を過ごし、ようやく我々の前へと帰還してきました。
改めて呼びましょう。謎のベールを剥がし、今ここに街の英雄が復活する!
クラン「青き鬣」が団長!! 封殺剣の二つ名を持つ男!! ドイル・ガーゼルぅうううーーーーー!!!!」
爆発するかのような歓声が会場を包む。
決勝の最後にて正体が露になってはいたものの、それが本当にドイルかどうか分かりかねていた住民たち。
それが本物であると紹介されたとあれば、もう躊躇する必要はない。思う存分その帰還を祝うことができると、両手を振り大声を出し、ドイルの名を連呼する。
その声はたちまちの内に連なり、一つの纏まりとしてより一層大きな歓声へと変化していく。
そしてその歓声に導かれるようにして、新たに開かれた北の門からドイルは会場へと現れるのだった。
しかしその姿は何故か偽装の装いであったフード姿であり、奥にある表情を伺わせない。
「おおっと!! これはどうしたことでしょう!! 既に正体は判明しているのにも関わらず、敢えてのフード姿にての登場です!!
一体どういった意図があるのか! これはご本人に聞く他ありません!!」
司会の受付嬢も場の空気を読んでか疑問を口にすれども突っ込むようなことはせず、ドイルを優勝台の上へと促している。
ドイルもまた余計なことはせず、ゆっくりと壇上へと歩みを進め台の上へと上がった。
「それでは改めまして、イナナキ剣闘大会優勝者であるドイル・ガーゼル選手への優勝者インタビューを執り行いたいと思います。
ドイル選手、様々な疑問があなたにはあると思われますが、まずは大会優勝、おめでとうございます」
「どうもありがとう。病み上がりという条件でどこまで戦えるか分からなかったが何とか父親の意地というので踏ん張ることができた」
「なるほど、この大会への参加はそういった経緯があってのことであったと?」
「そうだ。目を覚まし、自分が陥っている状況を理解した私がまず確認したのは、あの時に被害にあっていた者たちの安否だ。多くの者が帰らぬこととなった、あの悲劇。抵抗など出来ず、ただただあの脅威に晒されるまま、私は意識を失い長い年月を暗闇の中に囚われていた。目覚めた時には無力感が全身を包み、悔しくて涙が溢れた」
しかし、と。
自分の力の及ばぬことがあると素直に認め、されどと言葉を翻す。
「私には、何時までもそうはしていられない事情があった」
「と、言いますと」
「息子である、ケインのことだ」
その言葉に、静かに話を聞いていた観客から息を飲む音がそこかしらから響く。
よもやこの場でそれを言うか、といった心境である。
「私は治療を受けながら、意識のなかった時間の出来事を聞いていた。どこまで街が変化してしまったのか、人は? 店は? そういったことを聞いていく内、息子が行っていたことについても知ることになった」
そこで一旦話を区切り、ドイルは先ほど自分が登場した門からある人物を呼んだ。
勿論、それは自分の息子ケインであった。
まだ回復できていないので動きが若干緩慢であったが、しっかりとした足取りで歩いてくる。
そして父親の横に並び、前を真っ直ぐに向いて直立した。
「街の皆に、まず、謝罪したい。
私の教えが悪く、この子は人として誤った行いをしてきた。それはこの子の弱さであり、同時に私の親としての至らない部分であった。そこに年や経験で言い訳できるようなところはなく、ただひたすらに許しを乞い願うことしかできない」
―――多大なる御迷惑をお掛けしまして、大変申し訳ありませんでした。
二人同時に、父と子は自らの過ちを、その謝罪の意思を体で示していた
頭を下げ、腰より低く。
手をきっちりと体に着け。
平身低頭、心のままに体で示す。
そこには優勝者でもなく、クランの長でもなく、ただただ息子の過ちを詫びる父親としての姿があった。
そしてケインも、父親の姿に倣うようにして住民たちへと頭を下げていた。
「この姿で大会へ出場したのは、ケインの今のあり方をよく知るためであった。息子の話を聞き、息子の戦いを見て、そして理解した。確かに息子は歪んでしまっていると。姿を偽り戦ったのは、余計な混乱を生むことを避け直接息子と相対するためだった。その愚行を、私の手で終わらせるためだった」
「息子が以前よりも強くなっていたこと、複雑な心境ではあったが嬉しくないとは言えなかった。しかし、それ以上に悲しかった。私たちが愛した息子が、同じく愛している街の皆に迷惑を掛けている。それが私たちの不甲斐なさによるものであるならば、その強さを褒めるようなことは到底できはしなかった」
「だからこそ、私自身の手で息子の凶行に終止符を打ちたかった。もうこれ以上、愛する者たちが傷つくことがないように。これ以上、息子が誤った道へと行かないように」
そこでドイルは体を起こし、両手を広げ戦いの中で傷ができた外套を周囲へと見せつけるようにして示す。
「この姿は、その象徴だ。
今この時より、私たちの過ちは私たちの手によって正される。
その象徴が、この姿である」
「私がこうしてこの場に立っているのは、多くの人たちの支えの結果でしかない。
この幸運に恵まれなければ、私はいつまでも贖罪の機会を得られないままであった。
その献身に、私たちは報いなければならない。
故に―――克服である。
過去と、過ちの、克服である。
弱き自分の過去を、過ちの歴史を、克服せんがための決意の象徴がこの姿である」
そしてそれは、もう一つの象徴によって強く印象付けられるだろう。
そうドイルが言うや否や、さらにもう二人門より姿を露にする。
一人は準優勝、ベン・ブリッチ。
もう一人は街一番の鍛冶師であるシャハトであった。
ベンが無手である代わりに、シャハトは前に掲げるようにしてそれなりの大きさの木箱を持ち込んできている。
そして二人はドイルの前まで来ると、シャハトが木箱を開けその中身をベンが両手で取り出した。
それの正体が露になると、その観客は思わず感嘆のため息を吐いた。
それがあまりにも美しく、この武骨な場に不釣り合いな輝きを放っていたからだ。
「団長」
「ああ」
それは剣であった。
しかし、ただの剣でないことは鞘に収まれていながらにして窺い知れる。
華美な装飾などないにも関わらず、その存在から放たれる輝きに誰もが目を奪われていた。
ベンは多くを語らず、事前に語られていたことそのままに行っている。
壇上のドイルへ、恭しく剣を捧げた。
ドイルもまた、それに応えるように緊張した面持ちでそれを受けとる。
そしてしっかりと柄を掴み、その刀身を衆目へと晒した。
「「「…………!!」」」
「すげぇ……」
「ふぅむ」
頂点を指す、鋭い剣先。
刃に刻まれた稲妻のような紋様が、その存在感を強めている。
しかし、その存在そのものが強烈な印象を周りへと与えていた。
それは、この剣に込められた力によるものだろう。謝罪の体勢にあったケインすら、その迫力に頭を起こしてしまう。
それはケインに覚えのある、あの存在の気配を放っていたからだ。
「これが、これこそが! もう一つの克服の証であり! 支援者たちの意思を背負うという証である!!
この魔剣には、今まで私たちを苦しめてきたかの神獣、キリンの魔力が込められている!! 憎たらしくもその力、残り滓であるにも関わらずあまりにも強力であり、ここまで誰にも手を付けられなかった!!
しかし!! それは既に過去のことである!!
ここにあるはその爪痕をトトンたちが引き剥がし、シャハト渾身の技術によって一本の魔剣へと変じ、私の元にある証である!!
これが克服の証である!!
敗北から立ち上がり、怨敵の力をも利用して躍進をせんとする証である!!
私は帰ってきた!! しかし進むは一人に非ず!!
皆と歩む、皆で進む!
どうか、どうかこの非力な私を支えてほしい。子供一人正しい道へと歩ませられなかった駄目な父であった! 脅威に倒れ、組織の者たちに迷いを与えてしまった弱い指導者であった!!
英雄など、とうに私に相応しい称号ではなくなった!!
だからこそ!! もう一度、皆にそう呼ばれるに相応しい人間へとなると誓おう!!
この剣に、ここにいる皆に!!
どうか!! どうか頼む……」
声を張り上げた宣言は、最後には萎むように小さくなってしまった。
しかしその訴えは、これ以上ないほどに住民たちの心を打っていた。
途端、溢れる拍手。
場を圧倒する音の波、それを中央で一身に受けるドイルはそれが自分の声を受け入れてくれたのだということを理解し、涙を流して感謝した。
こうして、英雄は帰還した。
その復活劇は住民全てに衝撃を与え、実力は健在であることを知らしめた。
心機一転、イナナキはかつての盛り上がりを越えるような街となっていくことだろう。
そう確信できるほどに、固い結束が彼らと住民たちとの間に見えている。
―――此れにて、イナナキの街が抱えていた問題は、その全てを解決したこととなるだろう。
英雄が伴侶と共に目を覚まし、
息子は両親と共に道を正し、
一人の剣士は楔から解き放たれ、
医師は新たな技術で更なる治療の術を見いだし、
鍛冶師は因縁を絶つ傑作を造りだし、
女傑は剣士の歩み再開に喜び、
住民は団結して停滞からの脱却を望む。
彼らは一つとなる。
それはさながら四肢の連動が完璧となった駿馬のように。
歓声は響く。
それは彼らこそがイナナキの名の由来であるかのように。
その光景の中にあって、一人、感動とはまた別の感情を胸に抱く男がいた。
制約から解き放たれた剣士、ベン・ブリッチである。
それが元は自分の物である、ということに思わないがないではないが、それ以上にここまでのものになってしまっては自分の手に収まるものではないと、一種諦めに近い感情がありこれから行うことに躊躇はなかった。
そう、この剣は元はベンのために誂えられた、あの魔剣であった。
それをここまで改造したのはシャハトであったが、そう指示を出したのはあのリーズであったと聞いている。
だからこそ、この場に奴がいないことが少し疑問であった。
ドイルの語りの中にも、リーズと明言するようなものはなかった。
それが何故なのか。歓声が会場に響く中、ベンはリーズの計画について誰よりも知っているはずのシャハトにその所在を聞き出した。
シャハトは口止めをされていなかったのか、あっさりとその所在を口にした。
―――それを聞いたベンは、怪我のある体であるにも関わらずその場所へと走り出していた。
何故、どうしてという感情が胸の中に溢れかえる。
会場から飛び出したベンは、ひたすらにその場所、ドイルたちが治療を受けていたトトンの特別治療室へと目指して走った。
何も返せていないのに、そんなことがあり得るのかと、疑う気持ちが彼をさらに駆り立てる。
そしてその場所へと飛び込んだベンが見たものは、壁に貼り付けられた一枚の紙で。
それを手にとって書かれていた内容を理解したとき、ベンは足の力が抜けてそこに座り込んでしまった。
その内容は、ここまでにベンの動きを読まれていたとしか言えないことであった。
文章にはこうある。
『―――お勤めご苦労。俺からの借り物は役に立ったようで何よりだ。しばらくそれを貸しておくから精々ありがたく思っておくといい。
俺は先へ行く。
こんなところで足止めを食らっているわけにはいかないんでな。
では、借りを返しにくるのを気を長くして待っている。焦る必要は皆無だ。どうせ長くなるだろうからな。
それでは、此れにて御免』
名前は無かったが、こんなことを書くのはあの男しかいないだろう。しかもわざわざベンに向けてこんな文章を残しておくのだから、堪ったものではない。
「あぁーー……ちくしょう。やられた、バレてたってことだろ? それもこうなるような展開に誘導されてたってわけか? あの野郎……どこまで考えていやがったんだよ。
…………わかったよ。いつか絶対お前に会いにいくぜ。借りを何倍にも感じるぐらい、強えぇ男になってよ。
今度は俺が度肝を抜いてやる、絶対だ」
もうここにはいない男に向けて、ベンは誓った。
この街最大の功労者が、その功績を称えられることなく去っていったことは何か考えがあったことなのだろうと、そう思うことにして。
さて、これからが大変だ。
街は新しくなっていく。
それに乗り遅れるようなことがあってはならんと、ベンは立ち上がって会場へと戻っていくのだった。
背中を押された彼の足取りは、力強くしっかりとしたものだった。
―――今、イナナキの地に新たな息吹が吹こうとしていた。
静まり返る会場の中央。
一際高い壇上を後ろに控え、滔々と語り出すのはこの大会全ての試合にて司会をしてきたギルドの受付嬢であった。
すでにこなれてきたのか、語りの練度が高まっているのが分かる。
「決勝戦にて遂に正体を明かしたジョン・ドゥニーム選手。選手たちの治療用テントにていくらかの時間を過ごし、ようやく我々の前へと帰還してきました。
改めて呼びましょう。謎のベールを剥がし、今ここに街の英雄が復活する!
クラン「青き鬣」が団長!! 封殺剣の二つ名を持つ男!! ドイル・ガーゼルぅうううーーーーー!!!!」
爆発するかのような歓声が会場を包む。
決勝の最後にて正体が露になってはいたものの、それが本当にドイルかどうか分かりかねていた住民たち。
それが本物であると紹介されたとあれば、もう躊躇する必要はない。思う存分その帰還を祝うことができると、両手を振り大声を出し、ドイルの名を連呼する。
その声はたちまちの内に連なり、一つの纏まりとしてより一層大きな歓声へと変化していく。
そしてその歓声に導かれるようにして、新たに開かれた北の門からドイルは会場へと現れるのだった。
しかしその姿は何故か偽装の装いであったフード姿であり、奥にある表情を伺わせない。
「おおっと!! これはどうしたことでしょう!! 既に正体は判明しているのにも関わらず、敢えてのフード姿にての登場です!!
一体どういった意図があるのか! これはご本人に聞く他ありません!!」
司会の受付嬢も場の空気を読んでか疑問を口にすれども突っ込むようなことはせず、ドイルを優勝台の上へと促している。
ドイルもまた余計なことはせず、ゆっくりと壇上へと歩みを進め台の上へと上がった。
「それでは改めまして、イナナキ剣闘大会優勝者であるドイル・ガーゼル選手への優勝者インタビューを執り行いたいと思います。
ドイル選手、様々な疑問があなたにはあると思われますが、まずは大会優勝、おめでとうございます」
「どうもありがとう。病み上がりという条件でどこまで戦えるか分からなかったが何とか父親の意地というので踏ん張ることができた」
「なるほど、この大会への参加はそういった経緯があってのことであったと?」
「そうだ。目を覚まし、自分が陥っている状況を理解した私がまず確認したのは、あの時に被害にあっていた者たちの安否だ。多くの者が帰らぬこととなった、あの悲劇。抵抗など出来ず、ただただあの脅威に晒されるまま、私は意識を失い長い年月を暗闇の中に囚われていた。目覚めた時には無力感が全身を包み、悔しくて涙が溢れた」
しかし、と。
自分の力の及ばぬことがあると素直に認め、されどと言葉を翻す。
「私には、何時までもそうはしていられない事情があった」
「と、言いますと」
「息子である、ケインのことだ」
その言葉に、静かに話を聞いていた観客から息を飲む音がそこかしらから響く。
よもやこの場でそれを言うか、といった心境である。
「私は治療を受けながら、意識のなかった時間の出来事を聞いていた。どこまで街が変化してしまったのか、人は? 店は? そういったことを聞いていく内、息子が行っていたことについても知ることになった」
そこで一旦話を区切り、ドイルは先ほど自分が登場した門からある人物を呼んだ。
勿論、それは自分の息子ケインであった。
まだ回復できていないので動きが若干緩慢であったが、しっかりとした足取りで歩いてくる。
そして父親の横に並び、前を真っ直ぐに向いて直立した。
「街の皆に、まず、謝罪したい。
私の教えが悪く、この子は人として誤った行いをしてきた。それはこの子の弱さであり、同時に私の親としての至らない部分であった。そこに年や経験で言い訳できるようなところはなく、ただひたすらに許しを乞い願うことしかできない」
―――多大なる御迷惑をお掛けしまして、大変申し訳ありませんでした。
二人同時に、父と子は自らの過ちを、その謝罪の意思を体で示していた
頭を下げ、腰より低く。
手をきっちりと体に着け。
平身低頭、心のままに体で示す。
そこには優勝者でもなく、クランの長でもなく、ただただ息子の過ちを詫びる父親としての姿があった。
そしてケインも、父親の姿に倣うようにして住民たちへと頭を下げていた。
「この姿で大会へ出場したのは、ケインの今のあり方をよく知るためであった。息子の話を聞き、息子の戦いを見て、そして理解した。確かに息子は歪んでしまっていると。姿を偽り戦ったのは、余計な混乱を生むことを避け直接息子と相対するためだった。その愚行を、私の手で終わらせるためだった」
「息子が以前よりも強くなっていたこと、複雑な心境ではあったが嬉しくないとは言えなかった。しかし、それ以上に悲しかった。私たちが愛した息子が、同じく愛している街の皆に迷惑を掛けている。それが私たちの不甲斐なさによるものであるならば、その強さを褒めるようなことは到底できはしなかった」
「だからこそ、私自身の手で息子の凶行に終止符を打ちたかった。もうこれ以上、愛する者たちが傷つくことがないように。これ以上、息子が誤った道へと行かないように」
そこでドイルは体を起こし、両手を広げ戦いの中で傷ができた外套を周囲へと見せつけるようにして示す。
「この姿は、その象徴だ。
今この時より、私たちの過ちは私たちの手によって正される。
その象徴が、この姿である」
「私がこうしてこの場に立っているのは、多くの人たちの支えの結果でしかない。
この幸運に恵まれなければ、私はいつまでも贖罪の機会を得られないままであった。
その献身に、私たちは報いなければならない。
故に―――克服である。
過去と、過ちの、克服である。
弱き自分の過去を、過ちの歴史を、克服せんがための決意の象徴がこの姿である」
そしてそれは、もう一つの象徴によって強く印象付けられるだろう。
そうドイルが言うや否や、さらにもう二人門より姿を露にする。
一人は準優勝、ベン・ブリッチ。
もう一人は街一番の鍛冶師であるシャハトであった。
ベンが無手である代わりに、シャハトは前に掲げるようにしてそれなりの大きさの木箱を持ち込んできている。
そして二人はドイルの前まで来ると、シャハトが木箱を開けその中身をベンが両手で取り出した。
それの正体が露になると、その観客は思わず感嘆のため息を吐いた。
それがあまりにも美しく、この武骨な場に不釣り合いな輝きを放っていたからだ。
「団長」
「ああ」
それは剣であった。
しかし、ただの剣でないことは鞘に収まれていながらにして窺い知れる。
華美な装飾などないにも関わらず、その存在から放たれる輝きに誰もが目を奪われていた。
ベンは多くを語らず、事前に語られていたことそのままに行っている。
壇上のドイルへ、恭しく剣を捧げた。
ドイルもまた、それに応えるように緊張した面持ちでそれを受けとる。
そしてしっかりと柄を掴み、その刀身を衆目へと晒した。
「「「…………!!」」」
「すげぇ……」
「ふぅむ」
頂点を指す、鋭い剣先。
刃に刻まれた稲妻のような紋様が、その存在感を強めている。
しかし、その存在そのものが強烈な印象を周りへと与えていた。
それは、この剣に込められた力によるものだろう。謝罪の体勢にあったケインすら、その迫力に頭を起こしてしまう。
それはケインに覚えのある、あの存在の気配を放っていたからだ。
「これが、これこそが! もう一つの克服の証であり! 支援者たちの意思を背負うという証である!!
この魔剣には、今まで私たちを苦しめてきたかの神獣、キリンの魔力が込められている!! 憎たらしくもその力、残り滓であるにも関わらずあまりにも強力であり、ここまで誰にも手を付けられなかった!!
しかし!! それは既に過去のことである!!
ここにあるはその爪痕をトトンたちが引き剥がし、シャハト渾身の技術によって一本の魔剣へと変じ、私の元にある証である!!
これが克服の証である!!
敗北から立ち上がり、怨敵の力をも利用して躍進をせんとする証である!!
私は帰ってきた!! しかし進むは一人に非ず!!
皆と歩む、皆で進む!
どうか、どうかこの非力な私を支えてほしい。子供一人正しい道へと歩ませられなかった駄目な父であった! 脅威に倒れ、組織の者たちに迷いを与えてしまった弱い指導者であった!!
英雄など、とうに私に相応しい称号ではなくなった!!
だからこそ!! もう一度、皆にそう呼ばれるに相応しい人間へとなると誓おう!!
この剣に、ここにいる皆に!!
どうか!! どうか頼む……」
声を張り上げた宣言は、最後には萎むように小さくなってしまった。
しかしその訴えは、これ以上ないほどに住民たちの心を打っていた。
途端、溢れる拍手。
場を圧倒する音の波、それを中央で一身に受けるドイルはそれが自分の声を受け入れてくれたのだということを理解し、涙を流して感謝した。
こうして、英雄は帰還した。
その復活劇は住民全てに衝撃を与え、実力は健在であることを知らしめた。
心機一転、イナナキはかつての盛り上がりを越えるような街となっていくことだろう。
そう確信できるほどに、固い結束が彼らと住民たちとの間に見えている。
―――此れにて、イナナキの街が抱えていた問題は、その全てを解決したこととなるだろう。
英雄が伴侶と共に目を覚まし、
息子は両親と共に道を正し、
一人の剣士は楔から解き放たれ、
医師は新たな技術で更なる治療の術を見いだし、
鍛冶師は因縁を絶つ傑作を造りだし、
女傑は剣士の歩み再開に喜び、
住民は団結して停滞からの脱却を望む。
彼らは一つとなる。
それはさながら四肢の連動が完璧となった駿馬のように。
歓声は響く。
それは彼らこそがイナナキの名の由来であるかのように。
その光景の中にあって、一人、感動とはまた別の感情を胸に抱く男がいた。
制約から解き放たれた剣士、ベン・ブリッチである。
それが元は自分の物である、ということに思わないがないではないが、それ以上にここまでのものになってしまっては自分の手に収まるものではないと、一種諦めに近い感情がありこれから行うことに躊躇はなかった。
そう、この剣は元はベンのために誂えられた、あの魔剣であった。
それをここまで改造したのはシャハトであったが、そう指示を出したのはあのリーズであったと聞いている。
だからこそ、この場に奴がいないことが少し疑問であった。
ドイルの語りの中にも、リーズと明言するようなものはなかった。
それが何故なのか。歓声が会場に響く中、ベンはリーズの計画について誰よりも知っているはずのシャハトにその所在を聞き出した。
シャハトは口止めをされていなかったのか、あっさりとその所在を口にした。
―――それを聞いたベンは、怪我のある体であるにも関わらずその場所へと走り出していた。
何故、どうしてという感情が胸の中に溢れかえる。
会場から飛び出したベンは、ひたすらにその場所、ドイルたちが治療を受けていたトトンの特別治療室へと目指して走った。
何も返せていないのに、そんなことがあり得るのかと、疑う気持ちが彼をさらに駆り立てる。
そしてその場所へと飛び込んだベンが見たものは、壁に貼り付けられた一枚の紙で。
それを手にとって書かれていた内容を理解したとき、ベンは足の力が抜けてそこに座り込んでしまった。
その内容は、ここまでにベンの動きを読まれていたとしか言えないことであった。
文章にはこうある。
『―――お勤めご苦労。俺からの借り物は役に立ったようで何よりだ。しばらくそれを貸しておくから精々ありがたく思っておくといい。
俺は先へ行く。
こんなところで足止めを食らっているわけにはいかないんでな。
では、借りを返しにくるのを気を長くして待っている。焦る必要は皆無だ。どうせ長くなるだろうからな。
それでは、此れにて御免』
名前は無かったが、こんなことを書くのはあの男しかいないだろう。しかもわざわざベンに向けてこんな文章を残しておくのだから、堪ったものではない。
「あぁーー……ちくしょう。やられた、バレてたってことだろ? それもこうなるような展開に誘導されてたってわけか? あの野郎……どこまで考えていやがったんだよ。
…………わかったよ。いつか絶対お前に会いにいくぜ。借りを何倍にも感じるぐらい、強えぇ男になってよ。
今度は俺が度肝を抜いてやる、絶対だ」
もうここにはいない男に向けて、ベンは誓った。
この街最大の功労者が、その功績を称えられることなく去っていったことは何か考えがあったことなのだろうと、そう思うことにして。
さて、これからが大変だ。
街は新しくなっていく。
それに乗り遅れるようなことがあってはならんと、ベンは立ち上がって会場へと戻っていくのだった。
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ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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