セフィロト

讃岐うどん

文字の大きさ
10 / 28
『黄金卿』編

第九話 偽りと平和

しおりを挟む

 昔、誰かが言いました。
『世界の果ては、どこにある?』
 果て。又の名を、理想郷。
 世界のどこかに存在し、誰も知らぬ、誰もが望む希望の場所。
彼奴等きゃつらは皆、口を揃えてこう言う、「理想郷は深淵アビスだ」と』
 実際、その答えは間違ってはいない。
 この世の裏側。ねじれの終着点。
 未だ解明しきれていない其処は、確かに隠れ場として優秀だろう。
 人間は勿論のこと、調律師ですら相当の事が無いと訪れぬ魔境。
 ここ数年前に現れた『天衣無法』や、クレイを除けば、自分たちの敵はここには居ない。
 なれば、それは理想郷と言っても良いだろう。
『だが、私はそうは思わぬ』
 ですが、その誰かは否定しました。
 幾千の月日を過ごした誰かは、違う、と明確に口にしたのです。
『この世界に、理想郷など、果てなど、存在しない』
『或るのは殺戮と復讐。永遠に続く、弔い合戦の上で造られた仮初の平和に過ぎぬ。其に希望など、存在しない』
 なれば、と、問うてみたのです。
 
。それこそ、その結末こそ、理想郷と呼ばれるモノだ』
 大願。
 誰かは言い切り、ニィ、と不気味に笑った。
『永久機関が成し得れなかったこと、その真価を』
 最強最悪の危機「永久機関」。
 その昔、世界そのものを変革しよう。
 『神』に反旗を翻し、永きに渡る激闘の末、敗れた怪物だ。
『我々はできる。主が望んだ結末を、希望の未来を、この手に掴むことが』



「おはよー」
 アレから、更に一週間が経過した。
 この一週間、特筆すべき事は起こらず、とても平和な日常が繰り返されていた。
 未だ、イスカトルの言ったことが耳に残っている。
『黄金卿には手を出すな』
 その意味を理解できていない。
 黄金卿とは何なのか?
 何故彼は、俺に警告したのか?
 謎がナゾを呼ぶ。
 考えれば考えるほど、真相はより遠くへ離れていく。
 それに、ナゾはそれだけじゃ無い。
『仮面の男を見た?』
 槍の女を撤退させた、白い仮面の男。
 あの女よりも禍々しい命力のクセして、随分と心地よかった。
 幻影とも取れるユラユラと定まらない姿。
 敵か味方か。
 正直なところ、黄金卿とやらよりも危険度が高い。
「よ! 遅かったなぁ秀」
 思い悩んでいると、声が聞こえた。
 ぼんやりとした幻想が、くっきりとした現実に塗り替えられていった。
 和也の声に続く様に、実瑠の声が聞こえる。
「珍しいね遅刻って」
 そうだ。
 俺は遅刻した。
 理由は寝坊。言い訳の仕様がない寝坊だ。
 現在時刻は午後2時。
「何だろうな。疲れてる訳じゃないのに、めちゃくちゃ眠いんだよな」
 今日に限って早帰りだ。
 と言っても、いつもより1時間早い程度だが。
「分かる。でもさぁ、流石に寝過ぎじゃね?」
「言うて……いや、寝過ぎか」
 学校までは約1時間。
 用意する時間は訳15分。
 うちの学校は8時半までに登校すれば良い訳だ。つまり、最高7時半まで床に着ける。
「10時寝って、言ってたよなぁ? 起きたの何時だ?」
「正午ぴったり。14時間だ」
「……よく起きなかったな」
「ホントだよ」
 和也は乾いた笑いと共に、トントンと机を叩いた。
 席に座り、背筋をうんと伸ばす。
 指先から疲れが取り除かれていくのを感じた。
「オマエ、大して疲れてないだろ」
「いやいや。14時間も寝るってことはだな? 相当疲れてたってことだからな?」
 言い訳と言う名の弁明を繰り返す。
 呆れ果てた2人はただ、うんうんと頷き、ノートに何かを書いていた。
「まぁ、いいか。これ以上、問い詰める理由もねぇしな」
 目を合わせず、和也は言い放った。
 秀はカバンから筆箱を取り出し、中身を取り出しながら言う。
「ありがとう。そうしてくれると助かるよ」
「……ふふ」
 実瑠は微笑み、ただ天井に手を翳した。
 当然、届かない。でも、その姿はどこか美しさを感じた。
「ほら、これ」
「ノート?」
 差し出されたノートを開くと、そこには綺麗にまとめられたページ。
「受けてなかった分」
「マジか。ありがとう」
「どうもー」
 ノートを受け取って、引き出しに入れる。
「さて、やるかぁ」




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」
 月の空の下、彼女は息を荒げていた。
 夜はまだ始まったばっかり。
 カラスも泣き止み、オオカミが自由の咆哮をあげている。
 廃病院の一室から、悲鳴が鳴り響く。
 横たわり、己のお腹を揺する。包帯を巻いた箇所に手が触れると、
「!」
 激痛が迸り、また、
「痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い!!」
 声を荒げ、のたうち回る。
 骨折は既に完治した。
 だが、未だ痛みは続いている。
 彼女の傷は、これまで受けたものとは一線を画すモノだった。
 ドーラの神技『骸なる狂気クルカイ』は、発動地点を中心とした範囲の命力を術者に集める、といった能力だが、その集めた命力がかなり特殊なのだ。
 その力は、一言で言い表すのなら、だ。
「あ、……が……ぐぁ!」
 命力、と一概に言っても、様々な種類が存在する。
 黒曜石が如く、全てを切り裂く性質、刃物はもの
 岩盤のように、何も通さぬ防御性質、高壁こうへき
 霊薬のように、全てを癒す治癒性質、湯楽とうらく
 例を挙げていけばきりがない程、の性質は多岐にわたる。
「が、ァァァァァァァァァ!!」
『刃物』は多くの飢餓、調律師が戦闘用に使用している。
 その状況、その者によって、柔軟に変化させていた。
 数ある性質の中、1番危険度が高いのが、だ。
「ッッッッッッッ!!」
『毒』は性質の中ではマイナーな方であり、そも、その性質が存在する事を知らぬ者も居るほどだ。
 その性質は、
「ァァァァァァ!」
 
 何が凶悪か?
 命力の暴走は、被害者の名力が多ければ多いほど強くダメージを受ける。
 彼女の命力は、並の調律師20人分だ。
 然りて、『毒』によるダメージも常人の20倍だ。
 凶悪性。その一点は、全ての属性を超えていた。
『湯楽』ですら『毒』は回復できない。
『毒』による永続破壊スリップダメージは防ぐことができないのだ。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
 一週間以上苦しみ続けれているのも、当然だと言える。
 その痛みはやまぬ事を知らぬ。
 永遠に彼女の肉体を破壊し続けるのだ。
『アストラル、アストラル、聞けるか?』
 ベッドの下から、黒い球体『エディア』が話しかけてきた。
 エディアはスライムの様な形で、ゆっくりと這いずり周り、彼女に近づく。
 悶え苦しむ彼女は、ゆらりとエディアに振り向き、目を思いっきり瞑った。
(やはり……『毒』のスリップダメージが)
 目は無い。顔も無い彼に、もし顔があったとすれば、彼は目を細めただろう。
 歯を食いしばり、目を開けるアストラル。
「ナ……二?」
 ゆっくりと深呼吸をするアストラルに、彼は口を開いた。
『先程、十分前に、
 連絡。
 その言葉が意味することを、彼女は知っていた。
(まさか…………が?)
 それは、最も恐れていたこと。
 下手をせずとも、痛みよりも彼女の精神を潰すことのできる可能性だ。
『いいか? 送られてきた宣告メールを、そのまま読み上げる。ちゃんと聞くこと』
「……」
(嫌だ。嫌だ)
 読み上げるより前、彼女は絶望した。
 だが、その絶望感はものの数秒で打ち砕かれた。
 新たな希望となりて、諦めを塗り潰す、新たなる可能性となりて。
『この街に、1調その者と協力し、『黄金卿』を討て』
「新たな、調?」
 疑問は、次の読み上げで終わる。
『称号を、『天下蒼天ウェルザルド』と申す者也』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...