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『黄金卿』編

第十話 黄金卿

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「……」
 彼岸町から北に1つの町を挟んだ所に、巨大な山脈が存在した。
 その山脈は彼岸山よりもはるかに巨大で、この県を代表する山だ。
 その山の頂上に、今は人がいなかった。
 いつもなら登山客で賑わうそこは、だった。
 理由としては、数日前に起きた
 奇跡的に犠牲者はゼロだったものの、麓にあった地図にも載らない小さな村の半分が、消失した。
 土砂に呑まれ、家を失った者。
「風向きが、変わる」
 秋を感じる肌寒い風に触れ、木々が靡く。
 誰もいない頂上で、彼は自然を感じていた。
「さぁて、その刃は我に届くか?」
 黒いタキシードに、似合わぬ黄金のネックレスを付け、シルクハットを被った中年の男性だ。
 黒味がかった黄金の髪は、背景と不自然な程マッチしていた。
「いや、それとも……」
 肩を振るわせ、悪辣に笑うその仕草は、悪人と呼ぶに相応しい。
 とても、紳士とは到底思えなかった。
「さぁ、来ると良い」
 両手をばっと広げ、彼は高らかに宣告する。
「『色彩われわれ』は、キミを迎え討とう」
 彼の見据えた先、そこに、1人の青年が立っていた。
 その足場は存在せず、宙に立っていた。
 ストリート系のラフな服装の彼は、帽子の下から飢餓を覗き込む。
 青年は無言で宣告を受け止め、そして、口を開く。
「は、そうかよ」
 短い言葉と共に、同じく悪辣な笑みを浮かべた。
 肩を回し、指先の骨をポキポキと鳴らす青年。
「命乞いは終わりか? 遺書は書いたな? 資産が有れば、オレに渡しても良いぜ?」
「生憎、資産は無い。我が世界、そのモノが、我の全てだ」
 当たり前の様に、彼も宙に浮き始めた。
「やっぱいいや、。テメェを殺れば、暫く遊んで暮らせるんでな」
「こちらとしても、『賞金稼ぎレッドハンター』を減らせるのは大きい。さぁ、御託は終わりだ。殺し合おう」
「ああ」
 カン!
 初撃は、眼に映らぬ押し合いだった。
 命力による、鞭のような触手のような一撃。甲高い金属音が、2人の間合い、至る所から鳴り響く。
 両者、一歩も動かず、己の命力を武器に、敵への一撃を打ち込む。
「……」
 黄金卿は、シルクハットの下から然りと動向を伺っていた。
「神技──『木蓮もくれん秘術千都ひじゅつせんと』!」
 最初に動いたのは、青年だ。
 己の命力を実体化させ、武器の形を創り出す。
 その形は、円盤。
 外円は鋭く、包丁のようだ。
 内側に空いた穴を掴む。
 インドで産まれ、古くからその名を轟かせた武器。
「ほぅ。チャクラムか」
「知ってんだ、な!」
 同時に、黄金卿目掛け放り投げた。
 黄金卿が右手をかざす。すると、彼の掌から巨大なコンクリートの様な壁が生まれた。
 ギャィン! 
 耳を破壊する甲高い金属音と、目を刺激する赤い火花。
 火花はチャクラムが歩みを進めれば進めるほど勢いを増していく。
「エルドラド!」
 決着が着くより前、青年が叫んだ。
 声の方を振り向くと、そこには、
「終わりだ」
 巨大なライフルを構えた、青年の姿。
(モシン・ナガン!)
 モシンナガン。
 1891年に当時のロシア帝国で産み出された兵器だ。木製の銃本体に、重厚感と共に混じり合う金属部。
 アイアンサイトの小さな穴から、青年と目が合った。
 人差し指程度の銃口から、死が覗く。
 引き金から打ち出された銃弾は、人型の飢餓など簡単に撃ち殺せるだろう。
「フッ」
 だが、彼は怯まない。
 冷静に左手を翳し、パッと指を広げた。
「神技──『千眼展せんがんとふ』」
 その刹那、彼の掌、甲からそれぞれ目が出現した。
(魔眼!?)
 青年が反応するより早く、左手の目と目が合った。その刹那、彼は肉体の主導権を失った。隙を逃さず、迫り来る弾丸ごと命力で弾き飛ばした。
「が!」
 傾斜に叩きつけられ、ゆらりと立ち上がる。土をパッパと落とし、帽子を深く被り直した。
 傷自体は問題ないものの、命力の直撃は流石に堪える。
「情報は大切だ。最初から知っていたのなら、対処法を確立できる」
「そうだな、エルドラド。だからこそ、切り札は無名でなくちゃならない」
「フフフ、良くわかっている。流石と言おうか、『天地盤鋼』いや、ラセツよ」
「その名で呼ばれたの、50年ぶりだ」
「そして、今日が最後だ」
 間合いを計り直す。
 20メートル。
 彼らにとってはちょうどいい。
 遠すぎず、近すぎず。
「神技──木蓮・秘術千都」
「生成型の神技か。同時使用は堪えるだろう?」
「ああ。でも、船酔いよりはマシだ!」
 2個目のチャクラムを投げつける。
 その軌道は正面だ。
(無駄な事を)
 先ほどと同じ軌道、同じ威力だ。
 これなれば、自分も同じ事をすればいい。
 実に簡単な事だった。
「オレの『秘術千都』は確かに知名度がある。クソなことによ。けどな、は知らねえだろうよ!」
 パン!
 彼は両の手を合わせ、命力を一点に集中させた。その場所を見つけ出すのに、エルドラドは僅かに時間をかけてしまった。
「神技──木蓮・羅刹変幻らせつへんげ!」
 刹那、
 プラナリアの様に、真っ二つになった瞬間、それぞれが再生したのだ。
 多少の驚きに、大きめに壁を生成した黄金卿。
 その壁は、両者の視界を塞ぐのに、充分な大きさを伴っていた。
「まだだ! 神技──木蓮・空域辺獄くういきへんこく!」
 大地に手を当て、命力を押し流す。
 その刹那、エルドラドの腕に、浅い切り傷が入った。
「!?」
 困惑を隠しきれず、かと言ってガードは解かず、状況を確認する。
「何が……起こった?」
 切り傷が問題ではない。
 何故入った?
「へ! 喰らいやがれ、エルドラドォ!」
 チャクラムが壁を押し続けている。
 両方向から、計四つの武器が、だ。
 少しずつ、壁は削られつつあった。
 チャクラムだけなら防ぎきれたかもしれないが、コレは無理だ。
「だらぁ!」
 全力を伴った青年の正拳突きに、遂に壁は侵入者を許した。
「ッ」
 彼の踏み込みよりも速く、爆発的な速度でチャクラムが迫る。
 もはや、壁を組み立てるのは不可能だ。
 直撃は免れない。
(さぁ、出せ)
「神技──」
 エルドラドが口ずさむ。
 青年の拳が、間合いを捉える。
──」
 彼の左腕を、チャクラムが切断した。
(左腕は、くれてやる)
 拳が触れる。これから、頬を抉られるのだろう。構わない。
 辺り一帯の命力が、彼らの間合いに集中、圧縮する。極限まで圧縮された命力は、とてつもないエネルギーを持っていた。
「──
 刹那、命力が爆発し、2人を巻き込んだ。
 有無を言わさぬ閃光。瞬間で言えば太陽の眩しさを超えていた。
「オオオオ!!」
 爆風が全てを薙ぎ払う。
 台風が生ぬるいと感じるソレが止んだ時、そこには


 命力……それを使い、ワザとして昇華したのが『神技』だ。
『神技』には様々な種類が存在する。
 生成タイプ、攻撃タイプ、修繕タイプの三つだ。
『天地盤鋼』ラセツの神技──『木蓮』は全てを内包したオールラウンダータイプだ。
 そして、それぞれのタイプには、最高到達点が存在する。
 生成タイプ……その最奥は、『
 だ。
 それの使い手は、数えるほどしか居ない。
 その1人が、彼。
『黄金卿』──エルドラド


 極小世界は、個人によって差がある。
 例えば、灼熱地獄や、極楽天国、虚数世界。全く完璧な同一など、存在しないのだ。
「だからこそ、全員に効く対策が無いのだがな」
 黄金卿は嗤う。
 黄金卿は言う。

「ようこそ、我がへ」







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