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ロシア編
第一話 続き
しおりを挟む「──成程。死んだか、黄金卿」
とある豪邸の一室で、男はフー、と深くため息をついた。華奢な机には煩雑に置かれた無数の資料。ノートパソコンのスペース以外の全てを失い、辛うじてとれたスペースに肘をつく。
「ええ。残念ですか?」
目の前には女。肩まで伸ばした緋色の髪に、炎を思わせる紅蓮の瞳。お互い、大学生ぐらいだろうか。二十歳を過ぎているか過ぎていないかのギリギリのライン。
「そうさな。当然、残念だとも」
男の目元には、深い隈。何日も寝ていないのだろう。常に暗い顔のせいか、本心から思っているのか不明だ。
そんな男を見て、彼女は後ろで組んでいた手を解き、一歩。
「貴方が誑かしたクセに?」
わざとらしく微笑み、翻す。
「そうだったか?」
わざとらしくため息、目線を上げる。
「俺は今心傷しているんだ。これ以上責め立てないでくれ」
(嘘くさ)
真意がどうであれ、少量でも涙を流したあたり、思うところはあったのかもしれない。実際はさておいて。
「それにしても、確か……アストラル、とか言ったか?」
彼女と同じく腕を解き、机の上の資料を一枚、手に取る。a4サイズの紙に、隙間なく限界までびっしりと文字が書かれていた。
「守護者の子?」
「そうそう」
資料を要約すると、アストラルについてだ。作成者は目の前の女。右上のホッチキスは分厚い。
「幾ら、ラセツと協力したとはいえ、エルドラドを討ち取るとは。……正直、未だに信じられんな。くだらないb級映画のシナリオみたいだ」
「現実ですよ。それに……ふふ」
思い出したかのようにニヤニヤと笑う彼女に、嫌な顔をして引いた。
「何だ、気持ち悪い」
「ふふ……教えてあげようか黒風クン? 教えて欲しい? ねぇねぇ」
黒風と呼ばれた男は本当に嫌そうな顔をして、
「いいよ。興味無いし」
一蹴した。
「……」
予想外だったのか、彼女……レッドバレットは一瞬固まり、慌てて言う。
「冗談だって。真面目な話、『緑』が顕界した」
「何だって!?」
目を見開き、本気で驚く黒風。開いた口は塞がらず、勢いに任せて机を叩き、立ち上がる。
「会ったのか!?」
「うん、会った。と言っても、一瞬だけだし、残滓だけどね」
まるで恋する少女のように頬を赤らめるレッドバレット。側から見れば、奇妙な光景だろう。彼女の見た目、内側から発生するその圧倒的な力は、壊れたバランスで保たれていた。
「……何千年だ?」
興奮冷めやまぬうちに座り込む。あくまでも冷静だ。冷静になれ。
「さぁ? 少なくとも、3は超えてる」
かつての思い出が蘇る。あぁ、忘れてはいないとも。あの二人のことは。絶対に忘れないさ。
「封印を解く者が居たとはな。確か、深淵の何処か色彩でも発見できなかった。一体、何者が?」
「さぁ? 今、ヒイロが調査しているけど、まだ詳細は不明。本当にどうやって見つけたんだろうね?」
他人行儀で話す彼女だが、どこか嬉しそうだった。そして、問いかける。
「……興味湧かない?」
「……あるが、わざわざ確かめに行こうとは思わん。ヤツからの接触を待つ」
「えー。一緒行こうよ」
「ヤダね。なんでお前なんかといかなきゃならん。『海色の楼』ぐらいだろせめて」
「ちっ」
やんわり……ど直球に断られた彼女は表面上落ち込み、部屋を去ろうと蹄を返す。
「行くのか?」
「まぁね。これでも私、リーダーですから。どっかの誰かさんと違って」
「そうか。じゃあな消えろ。ヤツが目覚めるまで2度とそのツラ見せつけるな」
そう言われて、彼女は手を振りかえして出ていった。彼は呆れて、手を振りかえす。
ああはいっても数千年の仲だ。彼の暴言など気にも止めていない。
「日本……か」
ポツリ、と呟いた。
「周防のガキ、元気にしてるかなぁ」
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