セフィロト

讃岐うどん

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ロシア編

第二話 退院! 怪我! レッツゴーリターン!

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「いやぁ、疲れましたなぁ」
「ホントだよ。あ、ラク。飲み物何がいい?」
「コーヒーで。……混ぜるなよ?」
「よっしゃ秀! おれが許可する! 行ってこい」
「テメェ!?」
 周防秀率いる高校生4人組は、ファミレスに訪れていた。保護者兼監督役の御門楽の退院祝いだった。和也はいつも通りふざけ、実瑠はいつも通り堕落している。
 秀はいつも通り。
「まったく……」
 楽にとって、いつも通りと云うのは少し嬉しかった。先日の戦いは、下手をすると地図からこの街が消えていたかもしれない。
 ラセツにしろ『天下蒼天』にしろ守護者ピルグリムの子にしろ、当代有数のバケモノ調律師が集っていたのだ。
 その上、対峙していた飢餓もバケモノばっかり。
 黄金卿だけでもお腹いっぱいだったのに、『赤い罰』『覇者の封』まで乱入してきた。その前日には、拒む者カルガルムまで。
 頭がおかしくなりそうだった。彼らは一騎当千だ。誇張抜きで国を堕とせる。
 犠牲者が片手で数えれるほどで済んだのは、奇跡だった。川の魚は大量に死んだが、まぁ仕方ない。
 本当に、奇跡だった。
(いやまぁ、死にかけたんだけどな)
「ん?」
 コーヒーを持ってきた秀を睨む。元よりなかなか鋭い目付きだってのもあってか秀は一層恐怖した。
「な、なんだよ」
「いや別に。……何も無いっていいな」
「なんだよ急に気持ち悪い」
「ようやく真理に気付いたのね」
 と、口を開いたのは実瑠。
「そうよ。何も無いのはいいことなの」
「あ?」
 あ、まずい。目の色が変わっている。何かを察した楽はチラリと秀を見やる。
(居ねえ!? 野郎……っ!!)
 逃げやがった。トイレに向かい、そのドアに手をかけている。卑怯者。心の中で叫び、彼女の言葉を待つ。
「説明してあげるわ。1から、ジックリと」



「あっぶねぇ!!」
 トイレに入った秀は大きく息を吐いた。ああなっては彼女を止められない。満足するまで、永遠に話を続けるだろう。
 そうなれば頭がパンクするのがオチだ。
「すまん、楽」
 両手を合わせ、目を瞑る。
(……アストラル)
 一人になって、改めて思い出してしまった。今も尚、居候を続けている少女を。先日の戦いで負った傷は癒きれず、彼女を蝕み続けていた。
 正直、心配だった。
 こうやって彼女を家に置いておくのも不安がある。『エディア』があるとは言え、だ。彼女本人は大丈夫と言っていた。
 それでも、やはり心配だった。
(気にしても仕方ないよな)
 それで割り切れるほど、彼は成熟していない。
「ふぅ、戻るか」
 用を足し、トイレから出た。
 日常は、帰ってきたのだ。



 ──2日後

「ねみ……」
 少年は目覚めた。
 首を逆側に動かし、やたらと重たいまぶたで窓を見る。未だ日は登っていない。それどころか真っ暗だ。
(何時だ……?)
 時計を見れば、深夜3時。
 真夜中だった。
 土曜日だというのに、珍しいこともあったものだ。少年はもう一度目を瞑る。
 だが、
(寝付けねぇっ)
 寝れなかった。
 瞼は睡眠を欲している。だが、脳は覚醒してしまったらしい。最悪だ。
 目を瞑っていれば寝れるらしいが、少年は経験則で知っている。
(俺こうなったら寝れないんだよな)
 眠いのに眠れない。
 拷問のようだった。

 さぁっ、とカーテンが揺れる。
「あ?」
 風が吹いたようだ。少し肌寒い風が、布団を被っていない顔にかかる。ひんやりしていた。
(あれ? そういや……)
 寒さを直に受け、無意識に手を擦る。
 ふと、気になったことがある。
(俺、?)
 窓まで身体を起こし、戸締りをする。
 ガチャリ、と音を立てて。
 ベッドに向かい、振り向く──
「はぁ、なん──────」


「──。」


 そこに、奴はいた。
 を付けた、男が。
 黒いローブに身を包み、その内側からは途轍もないが溢れていた。
「な、は、あっ!?」
 言葉にならない言葉で叫ぶ。
 目の前の男は秀と視線を交わすと、仮面の奥で微かに表情を変え、口を開く。

「近き刻、オマエは知る」

「……?」
 意味がわからない。
 困惑を隠せない秀を余所に、更に彼は言葉を紡ぐ。

「『守護者』を。『第二の封』を。『欠落■■■■』を」

 言い、彼はローブを揺らす。
 ゆらゆらと。
 風が吹いたように、炎に押されるように。
 自然。最初からあるもの。
 ──消える。
 そんな表現が脳裏に浮かぶ。
「ま、まて。待てよっ!」
「──?」
 咄嗟に止めた。
 仮面の男は秀に呼び止められ、不思議そうにこちらを見つめる。
「おまえは……何者なんだ?」
「──フ」


「それもまた、近き刻。一つ忠告だ『知識ダアト』の依代。


「だあ、ト?」
「似ているからこそ、二の舞にはなるな」
 そいつ。
 そいつは、だ。
 そいつには、触れちゃいけない。
 そいつだけは、認めてはならない。
 そんな、気がした。
 激情とも呼べぬ程の感情の波の中で、秀は仮面の男の言葉を然りと聞き取った。
「──然り。伝えたぞ」
 彼は言いたいことを言い終わり、
(消えた……)
 蜃気楼のように、世界に溶けた。
 昔見た忍者アニメみたいだった。確か隠蓑術とかいったか。それを見た時の、何とも言いづらい感情。感動とは少し違うものだ。
 それと同じものを覚えた。
「近き刻、知る……か」
 彼の言い放った言葉を、一人復唱する。
 仮面の男。彼の目的は不明だ。
 味方なのか敵なのか。
 それすらも分からない。
 調律師……ではなさそうだ。
 少なくとも只の人間ではないことは確か。
 だとすると……
(いや、考えるな。どーせ、答えは出ない)
 答えを出したところで、彼には太刀打ちできない。単純な強さもある。ただの飢餓にも勝てない一般人なのだ。
 言の葉を紡ぐ、仮面の者。
 彼が一瞬でも戦う気になれば、それだけで死ぬ。

「……わかった。刻んでおくよ」

 居なくなった男に向け、虚空へ言葉を放り投げた。
 そしてまた、眠りにつく。
 割れた日常は、仮初の時を経て、次へ向かう。
 それを、秀は知らない。


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