暗澹のオールド・ワン

ふじさき

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第五章 風嵐都市編

第七話「紡がれる夢」

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 どこかに繋がった裂け目から様々なものが出現し、ジュドたち一行へと牙を向く。
 変貌したフィアンデルマは空中を浮遊した状態で攻撃を仕掛けて来る。


「あいつの靄に武器以外で触れるな!!飲み込まれてしまう!」


 ジュドは全員に警告した。


「《身体強化ストレングス》」

「《刻印加速ルーン・アクセラレート》」


 モーリスが全員に強化魔術をかけた。

 強化魔術抜きでもシスティたちの動きが機敏になっている。
 彼女たちもまた荒炎都市マグダラキアで死戦を潜り抜けてここまで来たのだ。
 きっと技量も前とは段違いに向上していることだろう。

 中でも特に異常なのは…ジュドの祖父だった。
 齢六十とは思えない敏捷性で裂け目から出現し続ける障害物を斬り伏せていた。

 あの姿は、まさに剣鬼。

「《王撃ジオ・ストライク》!」


 王宮剣術、‶王剣派〟の奥義が障害物に炸裂した。
 砕かれた瓦礫はフィアンデルマへと飛んでいくが、身体の靄に吸い込まれた後に再び裂け目からジュドたちへと降り注がれる。


「モーリス!!頼む!」


 叫ぶジュドに合わせて、モーリスは《大地の障壁グランド・アースウォール》を詠唱し、瓦礫の雨を防いだ。


「あの転移能力をどうにかせんと、勝ち目がないぞ!!」


 アイザックがジュドたちに声をかける。


「俺に任せてくれ!!」


 さっきは頭痛に見舞われたが、今こそ‶末の光〟を使うべきだとジュドは考えた。
 強く、より強く未来をイメージする。


(フィアンデルマを打開する未来…!!)


 ジュドの手が光る。


「あんた、その力…」


 システィたちはジュドが光をコントロールできていることに驚く。


「今なら攻撃が通るはずだ!!」

「わかりました!!」

「《光輝の魔術大槍エル・ブライトランス》!」


 ルシアの魔術が凄まじい威力でフィアンデルマを貫く。


「ァガ…!!」


 攻撃を仕掛けて来ていたフィアンデルマは大きく軌道を逸らした。


「おお、さっきのが例の光の力か!」


 アイザックは光を見て言う。


「ジュド、髪が白くなってるわよ…大丈夫なの?」


 システィがジュドの異変に気付いた。
 光の力を発動する度にジュドの髪は白く変色していたのだ。


「さっきは少し昏倒しかけたが、今は大丈夫だ」


 ジュドは問題がないことを報告する。
 態勢を立て直したフィアンデルマは手にエネルギーが集まり始めた。
 辺りの空気が重くなる。
 集まったエネルギーは大きな球体と化し、障害物を全て巻き込みながらジュドたちへと直進してきた。


「《無垢なる黒コラプシオン》」


 莫大なエネルギーを前に、ジュドはまたも‶末の光〟を使おうとするが、システィがそれを制止する。


「私に任せて」


 自信満々なその背中を見て、ジュドは能力を使うことを止める。
 息を吸い、集中するシスティ。
 大剣を構える。


「《暗転返し》!」


 一瞬、辺りの彩度がモノクロになり、襲い来る高濃度のエネルギーがシスティの大剣に吸収された。

 世界に色が戻ると同時に吸収されたエネルギーが向きを変え発散される。
 轟音が響き渡り、跳ね返されたエネルギーはフィアンデルマへと直撃した。


 システィがアイザックから伝授された‶抜剣派〟の奥義、‶暗転返し〟。


 その一撃を喰らったフィアンデルマはすでに一部が灰のように崩れ落ち、ふらふらとこちらへ歩いて来ていた。

 剥き出しの殺意は変わらぬままだが、今にも倒れそうな瀕死状態。
 ジュドたちは止めを刺そうと武器を手に近付く。


 その時…、頭上から巨大な鉄の破片が落ちてきた。


 それはフィアンデルマが暗転返しを喰らう前にあらかじめ裂け目で転移させておいたもので、遥か上空
 から飛来するそれに誰も気付いていなかったのだ。

 少し後方にいた一人を除いては。



 ―ドンッ!!



 突然、ジュドは祖父に背中を押される。


「爺さん…?」


 振り返ると頬に赤い雫が当たった。
 ジュドに続いて四人全員が後ろを振り向き、目を見開く。

 鉄片の落下地点の近くにいたジュド、直撃寸前でそれに気付いたアイザックは前へと飛び出したのだ。
 飛来した鉄片は老体の着ていた鎧ごと身体を貫き、地面へと突き刺さる。
 アイザックの手から双剣が零れ落ちた。


「…え」


 すぐさまアイザックにモーリスとルシアが治癒魔術をかけるが、ほぼ即死の状態で老体には微かな意識しか残っていなかった。


「アイザックさん…!!」

「爺さん…!!」


 一行が取り乱す中、フィアンデルマが背後から近付いてきたことをアイザックは指さす。
 それを見たダグラスがフィアンデルマを斧で薙ぎ払う。
 弾き飛ばされた少女は瓦礫へ激突し、動かなくなった。


「何で俺を庇ったんだ!!」


 何とか祖父を存命させようと声をかけ続けるジュドに、アイザックが声を振り絞る。


「冒、険は…楽しい…か?」

「ああ!外の世界に出て、色んな景色を見て…仲間たちにも出会えて、楽しいよ…!ようやく爺さんにも会うことができたんだ、またあの冒険譚の続きを読ませてくれよ…!」


 ジュドは言いたかったことを全て伝え、祖父の手を握った。


「孫よ…よく、聞け」

「人生は…自分の意志で、変えるもの…。だが、未来は…。仲間と…変えるもの…じゃ」

「一人でできないのなら…誰かを、仲間を…頼れ。ジュドの夢を…応援し、付き合って…くれる仲間が…近くにおる…」

「冒険を…全力で、楽しめ」


 祖父の目から徐々に光が失われていく。


「システィちゃん…、ダグラス、モーリス、ルシアちゃん…。危なっ…かしい孫を…。ジュドを…。支えてやってくれ…」

「よろしく…た…の、む」


 握っていた手から力がすっと抜け、下へと落ちる。


「……」


 これからは俺が冒険譚を紡ごう。
 祖父が視たことのない景色を見せて、自慢してやろう。
 そうしていつか、俺の冒険譚を聞かせてやるんだ。

 涙をぐっと堪え、ジュドは強く決意する。


「感動のフィナーレって感じですね」


 悲しげな雰囲気を裂くように、全員が後ろを振り向いた。

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