暗澹のオールド・ワン

ふじさき

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第五章 風嵐都市編

第八話「イレギュラー」

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「フィアンさんを倒したのですね、お見事です」


 声の主は軽快なステップで瓦礫の山を下りる。


「どうやら残りの十二使徒は私だけみたいです」

「十二使徒・ミュセル…」


 水門都市でフィアンデルマと一緒にいたもう一人の十二使徒。


「カフカはどうした!」


 ジュドは問い詰める。


「連れ帰ったカフカさんを治療しようと試みましたが、あの光を消すことができず…彼女は息を引き取られました」


 十二使徒は残り一人…?どこかで戦っているであろうシャステイルが倒したのだろうか…。
 そんなことに思考を巡らせているとミュセルは話し始める。


「ジュドさん、あなたは私と同じです。何かに渇望し、それを得ようとしている。そして与えられた使命も、同じ」

「何を言ってるんだ…?」

「私は生まれてから奴隷として暗い鉄格子の中で、日の光を見ることなく毎日を生きていました。十分なご飯は与えられず、着る物もない。周りの奴隷たちは次々と病や飢餓で死んでいく…。買われたとしてもゴミのように扱われ、やがては死ぬ」

「生きているようで死んでいるようなもの。そう感じる日々を過ごしていたある時、地下牢の通気口から外で楽しそうに笑う子供の声が聞こえてきました。その時、考えてしまった。外の世界にはどんな〝希望〟が待っているのだろうか、と」


 ミュセルはジュドがフィアンデルマとの戦闘で落とした冒険譚を拾い上げる。


「あなたが外の世界に憧れたように、私も外へ希望を見出したのです。…ですが、外は考えていたよりも醜いものだった。貧困、戦争…、強者が弱者の上にのさばっているだけの世界。絶望した私を邪神教は迎え入れ、教祖は私に能力を授けようとしました」

「しかし、教祖は他の十二使徒のように能力を与えることはせず、服従ではなく協力を申し出てきたのです」


 ミュセルの手に暗い漆黒が現れる。


「邪神すら恐れる能力、これさえあれば世界を創り治せる。そう思った私は邪神教に協力することにしました」


 冒険譚を閉じ、ジュドへと投げ返す。


「ジュドさん。私と共に世界を創り変えましょう…!私と対を成すあなたのその能力なら、不可能を可能にできるはずなのです…!」


 システィたち四人は何を話しているかまったく理解できていなかったが、ジュドはシュブ=ニグラスとの会話からミュセルの能力の正体を何となく理解していた。


「より上位の能力…」


 手を差し伸べてくるミュセル。


「さぁ、二人で世界を…!」


「俺は…お前とは組まない」

「確かに醜い世界かもしれない。だが、俺はそんな醜い世界で憧れを知り、仲間と出会い、感動を、別れを知った…!お前がこの世界に〝希望〟を感じないというのなら今ここでお前に教えてやるよ。 〝夢〟を持つことの…楽しさを!」


 五人は武器を手に取り、構える。

 返事を聞いたミュセルは差し伸べた手を下ろした。


「そう…ですか。あなたなら私の気持ちをわかっていただけると思っていたのに…」


「…わかりました。では、私はそんなあなたの‶夢〟をここで潰えさせましょう」


 ミュセルは構えた後、五人へと攻撃を仕掛ける。
 武器は持っていない、素手でこちらへ向かって来た。


「《絶対零度の氷結撃エル・アイシクルブレイク》!」


 ルシアが放った氷がミュセルを直撃する。
 身体の左半分は凍りつき、霜焼けのように赤く腫れる。
 しかし、次の瞬間には傷は跡形も無くなっていた。


「傷が…!!」


 傷が一瞬にして消えた。
 それを見た五人は驚く。
 魔術の直撃で勢いを失っていたミュセルが再び加速してこちらへと駆け始める。


「まずはあなた…!」


 ダグラスと殴り合う。
 撃ち込まれる拳をダグラスは鍛えた近距離格闘で受け流し、腕を掴んでそのまま投げ飛ばす。


「今だ!!!」


 ダグラスが隙を作り、ジュドたちへと合図した。


「前の時より強くなりましたね」

「…ですが」


 ミュセルは掴まれた腕を脚で挟み、身体を大きく捩じる。
 ダグラスの天地が反転し、地面へと叩きつけられた。
 しかしダグラスは掴んだ腕を離さない。


「《突き出す大地の巨掌グロウ・グランドパーム》」


 ミュセルの下の地面から巨大な掌が盛り上がり、ダグラスごと空へと打ち上げた。


「《治癒の輝きウル・ヒーリング》」


 ルシアが空中のダグラスをすぐに回復し、ダグラスは着地と同時に力を込める。
 システィも反対から挟み、着地したミュセルを狙った強烈な一撃が二方向から放たれた。


「《轟撃レイジング・ストライク》!」


 渾身の一撃がミュセルへと直撃する。
 衝撃で煙が巻き起こり、それを裂くようにジュドが飛び込んだ。
 ジュドの剣はミュセルの身体を斬りつけたが、剣身が途中で止まる。

 みるみると傷が塞がっていき、剣が押し返されていく。


「…ッ!!」


 異常な再生速度…。相手の能力は…おそらく〝受けた傷の瞬間治癒〟。


「そろそろ私の能力に気付き始めた頃でしょう」


 ミュセルは不敵に微笑む。

 ダグラスとシスティは再度攻撃を仕掛けるが、ミュセルは自身の再生能力の高さから攻撃を避けようとはしない。
 斬っても斬っても傷つかない身体に焦りを覚える一行にミュセルの拳が襲い掛かった。


「まずは一人」


 システィに腹部に拳がねじ込まれ、首に手刀が直撃した。
 視界がブラックアウトし、システィは地面へと倒れ込んでしまう。


「これで、二人」


 慌てて追撃するダグラスの斧を身体で受け、肩に斧が刺さったままダグラスの顎にアッパーが放たれる。
 意識が朦朧とする中、何とか斧を振るおうとするその腕をへし折り、瓦礫の山へと投げ飛ばした。


「システィ!!ダグラスッ!!」


 一瞬の出来事に意識が逸れるジュド。
 その隙、ミュセルは回し蹴りでジュドを蹴り飛ばす。

 モーリスとルシアは戦線を立て直すためにミュセルを拘束しようと魔術を詠唱する。


「《縛る砂泥の人形チェイン・マッドパペット》」

「《硬直拘束リストレイント》」


 ミュセルを魔術で拘束し、さらにその上から召喚した泥の人形が圧し掛かるはずだったが、ミュセルに当たる寸前で詠唱した魔術がなかったことになる。


「魔術がかき消された…!?」


 迫りくるミュセルを回避するために距離を取ろうとしたルシアとモーリスをミュセルはそれぞれ片手で捕らえた。


「三人目と四人目」


 顔を地面へ叩きつけ、そのまま前へと引きづって投げ飛ばす。
 四人を倒したミュセルは蹴り飛ばされ倒れているジュドに近付く。


「ジュドさん、あなたの豪語する夢とやらはこの程度なのですね」


 首を掴み上げ、まだ意識のあるジュドに話しかける。


「平穏はやがて終わるもの。平和とは不平等の上にこそ成り立つ。だからこそ、私はこの世界を創り変えるのです」

「……だ」

 ジュドが何か言葉を発する。
 喉を圧迫しているため上手く聞き取れない。


「…だだ」


 音は次第に大きくなり、やがてそれははっきりとした声となる。


「まだだ!!」


 ジュドを掴んでいた手が斬り落とされる。
 動くことができるのはジュドはただ一人。
 そのジュドは目の前におり、斬られるはずがない。

「誰に!?」そう思ったシスティを何かが吹き飛ばす。

 態勢を立て直し、受け身を取るミュセルは視界の先に立つ、四人に気が付いた。


「なぜ…!」


 そこには意識を失って倒れていたはずのシスティたちが立っており、全身を淡い光が包み込んでいる。


「一人では叶えられない夢や未来だって…みんなとなら…」

「仲間となら…叶えられる!!」


 瞬間、全身に光を帯びたジュドの髪が全て白く染まる。


「《未来を掴む光テラリア》」


 ジュドの能力が覚醒し、その恩恵は仲間にも付与されていた。


「この光…温かいです」

「ジュドの想いが伝わって来る」


 ルシアとダグラスが光の力に驚く。


「ジュド、あなたはこのパーティーのリーダーよ。私たちはあなたに着いていくわ!」


 四人はジュドを囲むように武器を構えた。

 必ず、〝勝利〟という未来を掴み取る。
 その想いに答える仲間たちは何度でも立ち上がり、その旅にミュセルの前に立ち塞がるのだ。


「…これが、夢。これが、未来」


 目の前に広がる光景を見て、ミュセルは自分の中の忘れていた感覚を思い出した。
 ミュセルの身体を暗い闇が覆う。

 通常の能力を凌駕する〝より上位の能力〟それは、ジュドの対を成す存在。
 ミュセルの能力は驚異的な再生能力ではなかった。


「《過去に戻す闇メルエナ》」


 ミュセルの本当の能力。…それは〝過去〟を改変する力。
 受けた傷が回復したのではなく、傷を受ける前の過去に身体を戻していたのだ。


「決着をつけましょうか、ジュドさん」


 両者が見合う。


「みんな、行くぞ」


 火蓋が切って落とされた。

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