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第五章 風嵐都市編
第九話「暗澹のオールド・ワン」
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走り出すジュドたちにミュセルが能力を行使する。
走り出した今を走り出す前の過去へと逆向させようとした。
しかし、ジュドが走り出した後にミュセルを倒す未来をイメージしたことでお互いの能力が相殺しあう。
「これが死の恐怖…!」
今まで傷を負ったことのないミュセルにシスティの刃が届く。
向けられた剣を両の拳で弾き、手を緩めることなく反撃する。
システィたち四人の攻撃は受けても過去へ戻せるが、ジュドの攻撃は能力が打ち消し合い、過去へ戻すことができない。
そして何より厄介なのが、ジュドを狙おうとすると周りの四人が援護に入る。
ミュセルはかつてない苦戦を強いられていた。
「仲間の力…素晴らしい連携ですね…」
ミュセルの拳とジュドの剣がぶつかる。
戦いの間、能力を行使し続けているジュドとミュセルの身体は徐々に悲鳴を上げ始めていた。
鼻や目から血が流れ始める。
(これ以上は…ジュドが…)
システィたちはそう言いジュドを止めるつもりでいたが、信じて共に戦う。
時間にして五分しか経過していないにも関わらずジュドたちは数時間戦っているように感じている。
それほどまでに切迫した攻防が繰り広げられていた。
そしてついに、ジュドの神速の一撃がミュセルを斬り裂く。
怯むミュセルに畳みかける。
「はあああああああああ!!!」
―シャキンッ!!
「クッ…!!!」
胸から腰にかけて大きく斬られたミュセルは膝をついた。
斬られた部位は巻き戻らず、激しい痛みがミュセルを襲う。
「はぁ…はぁ…。終わりだ…ミュセル」
ジュドは剣をミュセルの首に向けて言う。
「私の…負けです」
ミュセルは身体と能力、両方が限界に達しており、降伏する。
「あなたたちの力を見誤っていましたか…」
戦いには負けてしまったが、満足そうに微笑む。
「憧れた外の世界に絶望し、お前にはこの世界が醜く映ったかもしれない。だが…そんな世界に、お前も夢を抱いたんじゃないのか」
「これから。俺たち、みんなの力で世界を変えていくんだ。邪神から与えられた力が無くたって、未来は切り開ける」
ジュドはミュセルへと話す。
「そう…かもしれませんね」
ミュセルはジュドたちとの戦いで、信じてみたくなった。人々の可能性に。
ジュドたちに手を伸ばす。
「私も…」
言いかけた言葉が突然途切れる。
気が付くと、放たれた槍にミュセルは貫かれていた。
「この槍は…!!」
それは、かつて恩人が手にしていた〝魔槍トリシューラ〟だった。
「貴公が最後の十二使徒か」
槍が放たれた先を見るジュドたち。
上空に風嵐神ファルファレラの姿をしたハスターが現れる。
「お前は…!」
「冒険者か…。我は風嵐神ファルファレラ、邪教徒を追い詰めたこと実によくやった。後は我が直々に審判を下す。下がるがいい」
そう言い地上へと降りて来る。
近付いて来るファルファレラに違和感を覚えるジュド。
「待て…!」
ファルファレラはその場で止まる。
「なんだ?」
ファルファレラは冷たい瞳でジュドを見て、問い返した。
今まで旧神は何度も見てきたが目の前にいる風嵐神からは異常な雰囲気を感じる。
フィアンデルマやゴル=ゴロスで感じた邪神を彷彿とさせる、あの嫌な感じ。
その時、風の斬撃がファルファレラへと放たれた。
凄まじい威力の斬撃がファルファレラに当たり煙が舞う。
「騙されるな、そいつは旧神ではない」
一人の人物がこちらへ歩いて来る。
ジュドはその人物に気付き、声をあげる。
「シャステイル…!!」
傷を負ったシャステイルが風の剣を手にこちらへと歩いて来ていた。
「ジュド。無事だったか」
シャステイルはジュドの周りにいるシスティたちを見て、すぐに理解する。
「仲間が生きていてよかったな」
シャステイルの言葉にジュドの涙腺が緩む。
「髪が白くなっていることも気になるが…」
シャステイルは目の前に倒れている十二使徒のミュセルへ剣を構える。
「待ってくれ!こいつはもう…」
シャステイルを止めようとしたジュドの後ろ。
轟音が鳴り響き、瓦礫の中からファルファレラが起き上がる。
「シャステイル。あいつは旧神じゃないって…どういうことなんだ?」
ジュドは問いかける。
「私の正体に気付くとはさすが、と言うべきか…?元七翼の聖騎士《一席》シャステイル」
ファルファレラらしき者は斬撃で千切れた腕を拾い上げ、自らの腕へと繋げる。
「お前は何者だ」
シャステイルが武器を構え、問い詰める。
静寂が流れた後、それは答える。
「私は黄衣の皇太子・ハスター。貴公らが‶邪神〟と呼ぶものだ」
明かされる衝撃の真実。風嵐神の正体は黄衣の皇太子・ハスターという邪神だったのだ。
「気付かれたからには貴公らを殺さねばならんな…」
ハスターの腕から無数の触手が現れる。
「非力な私でも貴公ら程度は容易く殺せる」
そう言って、触手がジュドたちへと襲い掛かる。
ジュドたちは剣を手に、襲い掛かる触手を斬り落として回避する。
こちらへ近付こうとしたハスターは突然、元の位置へと戻された。
「何だ…これは…」
驚くハスターを他所に、地面に倒れていたミュセルが声をあげる。
「私の《過去へ戻す闇》で、この槍とあの邪神を抑えている間に…!はやく…!」
ミュセルは重症の状態で、魔槍トリシューラの呪いを能力で抑え込み、ハスターを妨害していた。
「この力…。まさか…」
何かに気付いたハスターは切羽詰まったようにミュセルを殺そうとする。
それをジュドたちが守る。
「ミュセルを殺させる訳にはいかない…!」
ジュドはシャステイルに叫ぶ。
「…俺に手がある。五人はやつを足止めしてくれ」
シャステイルはジュドたちへと告げた。
何か思惑があるのだろう。
ジュドはシャステイルを信じ、了承する。
「あんたが信じてる人なら、私たちも信じるわ…!」
システィたちもジュドに賛同する。
ジュドは再び《未来を掴む光》を発動し、一行に光が灯る。
能力によって直に身体の限界が来ることをジュドもわかっていた。
残された力で強力な未来を掴み取る事はできないが、ジュドは力を振り絞る。
「最後の戦いだ…!」
五人は前方へ勢いよく駆け出す。
ハスターは全方向へ触手を打ち出す。
「システィ!あの技はまだ出せるか!」
「《暗転返し》はもう使えないわ…!これ以上撃てば腕が壊れる!」
一撃必殺の大技はもう使うことができなくなっていた。
「《狂い風の聖十字》」
十字の風撃がジュドたちを襲う。
ダグラスはジュドたちを庇い、巨大な斧で攻撃を防ごうとするがクトゥルフの触手をも斬ったその威力で腕が吹き飛ぶ。
「ッ!!」
邪神の中でも最弱のハスターでこの威力。
ジュドたちは恐れを感じたが、前へと進む。
「《光輝の魔術大槍》!!」
マウントコアキマイラとの戦いの時のように、ルシアはあらかじめ周囲に待機させておいた魔術を連続で放つ。
放たれた魔術はハスターの触手を次々と消し飛ばして、本体へと向かい、ハスターの片腕を奪う。
「小賢しいッ…」
ルシアを狙おうとしたハスターにジュドとシスティが斬りかかる。
二人の剣がハスターの右手と触手で防がれ、その間に左腕が再生していく。
―シャキィン。
ハスターの右手に光の斬撃が入る。
「んぐッ!!」
突然の光に驚いたハスターは、光の正体に気付く。
「貴公も…!」
システィは触手に腹部を貫通され、そのままルシアたちの方へと投げ飛ばされる。
残りの触手がジュドを拘束した。
「貴公とあの横たわる娘だけは…ここで必ず殺す」
邪神のオーラが濃くなり、触手から抜け出す事ができない…。
ジュドはミュセルを見るが、槍を抑え込むのに必死でこちらに手を回せそうにない。
「矮小な人間風情が…私の体に傷を…!」
再生しきった左腕がジュドを貫かんと構えを取る。
「《大地の障壁》!」
モーリスがそれを阻止しようとするが、作られた土の壁は一瞬で壊されてしまう。
「邪魔をするなッ!!」
「きゃあ!!」
ハスターはルシアとモーリスを触手で薙ぎ払う。
「これでようやく貴公を…」
ジュド以外の四人を鎮圧したハスターは触手で拘束したジュドを今度こそ葬ろうとする。
「いや。お前の負けだ…!」
背後からシャステイルがハスターへ迫る。
「バカめ…私がそれに気付かぬとでも」
触手がシャステイルの腕を抉る。
そして、不敵な笑みを浮かべるシャステイル。
「《亜空喰いの咬》」
シャステイルが装備していた黒鉄の鎧。
その正体は真空を操る、魔装十二振〝深罪の咢〟。
この魔装の特徴は周囲の真空を自在に扱えることではない。
それは副産物に過ぎないのだ。
真の能力。それは…
相手を真空と共に強制的に鎧へと取り込み、拘束した後に自身と相手の自我を崩壊させる能力。
まさに究極の自爆技。
鎧は、形状が音を上げ変化する。
凶悪な目と口が現れ、開かれた口はハスターを一瞬のうちに飲み込んだ。
そして、飲み込んだと同時に鎧は鈍い音を立てて元の形状へと戻る。
「ジュド…!俺ごと…やつを殺せ…!」
本来は互いに消失するはずの自我だが、完全顕現した邪神を封じ込める前にシャステイルの自我が崩壊してしまいかねない。
そうなると、中のハスターが外へ出てしまう可能性がある。
それを恐れたシャステイルは自身ごとハスターに止めを刺すようジュドに叫ぶ。
「…急げ!!」
ジュドはシャステイルを自らの手を殺す事を躊躇していた。
例えそれが、邪神を倒すことに必要だったとしても…短い間だが共に旅をしたシャステイルを殺すことはできない。
ミュセルは槍が突き刺さった状態で立ち上がり、ジュドの元へと来る。
「一つだけ…方法があります」
そう言い、ミュセルはジュドへと話し始めた。
「私は…世界を創り変えようと…しました。私たち二人の能力を掛け…合わせれば、それが…可能です」
ミュセルは息を整える。
「それは…邪神の存在を…この世界から消し去ることも可能なのです…」
ジュドはそれを聞いて、驚愕する。
「そんなことが、できるのか?」
「ええ…ですが」
言葉が止まる。
「それをすれば…私たちの身体は限界を超え、代償としてこの世界から消え去ることになります」
シャステイルが必死に抑え込んでくれている。一刻の猶予もない今、ジュドは決断を迫られる。
「…あなたに、その覚悟がありますか」
ミュセルは真剣な表情でジュドに尋ねる。
少しの間、沈黙が流れ、ジュドは答えを出す。
「…やるよ」
ミュセルはそれを聞いて、頷いた。
「わかりました…。ここへ手を当てて…下さい」
足元の地面を指さし、二人は手を置く。
「この世界に…能力の全てを使い、世界の記憶を…改変します」
二人は手に力を込める。
ジュドとミュセルは激しく光り始めた。
「ジュ…ド…」
シャステイルが悶える中、光はその強さを増していく。
ダグラス、システィ、ルシア、モーリスの四人は瀕死の状態でジュドを止めようとする。
「だ…め。ジュ…ド」
システィは何とか手を伸ばすが、ジュドには届かない。
それに気付いたジュドが全員に別れを告げる。
「システィ。俺に突っかかってきていつも喧嘩をしていたが、根はいいやつで…昔から村に遊びに来てくれたよな…。そんなシスティが俺は好きだったんだ…。お兄さんと仲直りして家族を大切にしろよ…」
「ダグラス。…砂塵の都でお前の弟に会ったんだ。立派に戦士になったハインケルに会ってやって欲しい…。あいつはダグラスのことを何より心配してくれていた。それと、俺の愚痴をいっつも聞いてくれて…心強かったよ」
「モーリス。このパーティーの一番の年長者だが、誰よりも遊び心があって…それでいて博識だ。いつも俺たちはモーリスに助けられてばっかりだったよな。サポーダーとしてモーリスに勝るやつはいないよ
、みんなのことよろしく頼む…」
「ルシア。俺たち前衛が倒せないような相手もルシアなら一発で倒していて正直自分も魔術師になろうかと思ったことがあったんだ…。でも、ルシアだったからこそ…俺たちも背中を任せることができたとすぐに感じたよ…いつかみんなを驚かせるような、大魔術師になってくれ」
「シャステイル。短い間だったが…俺を水門都市から連れ出してくれて、ありがとう。あの時、シャステイルがいなきゃ俺はきっと冒険を諦めていた。少し不器用で寡黙なところもあるが…きっとシャステイルならいい騎士になってみんなを導いていけると思う」
ジュドが全員に言葉を伝え終わった時、眩い光が辺りを照らす。
「みんな…、本当に。今までありがとう」
閃光が大陸全土を覆い、この世界の空をも覆い尽くした。
「ジュド!!!!!」
仲間の声が木霊する…。
徐々に遠のいていくその声を聞きながら、俺の意識は…途絶えた。
走り出した今を走り出す前の過去へと逆向させようとした。
しかし、ジュドが走り出した後にミュセルを倒す未来をイメージしたことでお互いの能力が相殺しあう。
「これが死の恐怖…!」
今まで傷を負ったことのないミュセルにシスティの刃が届く。
向けられた剣を両の拳で弾き、手を緩めることなく反撃する。
システィたち四人の攻撃は受けても過去へ戻せるが、ジュドの攻撃は能力が打ち消し合い、過去へ戻すことができない。
そして何より厄介なのが、ジュドを狙おうとすると周りの四人が援護に入る。
ミュセルはかつてない苦戦を強いられていた。
「仲間の力…素晴らしい連携ですね…」
ミュセルの拳とジュドの剣がぶつかる。
戦いの間、能力を行使し続けているジュドとミュセルの身体は徐々に悲鳴を上げ始めていた。
鼻や目から血が流れ始める。
(これ以上は…ジュドが…)
システィたちはそう言いジュドを止めるつもりでいたが、信じて共に戦う。
時間にして五分しか経過していないにも関わらずジュドたちは数時間戦っているように感じている。
それほどまでに切迫した攻防が繰り広げられていた。
そしてついに、ジュドの神速の一撃がミュセルを斬り裂く。
怯むミュセルに畳みかける。
「はあああああああああ!!!」
―シャキンッ!!
「クッ…!!!」
胸から腰にかけて大きく斬られたミュセルは膝をついた。
斬られた部位は巻き戻らず、激しい痛みがミュセルを襲う。
「はぁ…はぁ…。終わりだ…ミュセル」
ジュドは剣をミュセルの首に向けて言う。
「私の…負けです」
ミュセルは身体と能力、両方が限界に達しており、降伏する。
「あなたたちの力を見誤っていましたか…」
戦いには負けてしまったが、満足そうに微笑む。
「憧れた外の世界に絶望し、お前にはこの世界が醜く映ったかもしれない。だが…そんな世界に、お前も夢を抱いたんじゃないのか」
「これから。俺たち、みんなの力で世界を変えていくんだ。邪神から与えられた力が無くたって、未来は切り開ける」
ジュドはミュセルへと話す。
「そう…かもしれませんね」
ミュセルはジュドたちとの戦いで、信じてみたくなった。人々の可能性に。
ジュドたちに手を伸ばす。
「私も…」
言いかけた言葉が突然途切れる。
気が付くと、放たれた槍にミュセルは貫かれていた。
「この槍は…!!」
それは、かつて恩人が手にしていた〝魔槍トリシューラ〟だった。
「貴公が最後の十二使徒か」
槍が放たれた先を見るジュドたち。
上空に風嵐神ファルファレラの姿をしたハスターが現れる。
「お前は…!」
「冒険者か…。我は風嵐神ファルファレラ、邪教徒を追い詰めたこと実によくやった。後は我が直々に審判を下す。下がるがいい」
そう言い地上へと降りて来る。
近付いて来るファルファレラに違和感を覚えるジュド。
「待て…!」
ファルファレラはその場で止まる。
「なんだ?」
ファルファレラは冷たい瞳でジュドを見て、問い返した。
今まで旧神は何度も見てきたが目の前にいる風嵐神からは異常な雰囲気を感じる。
フィアンデルマやゴル=ゴロスで感じた邪神を彷彿とさせる、あの嫌な感じ。
その時、風の斬撃がファルファレラへと放たれた。
凄まじい威力の斬撃がファルファレラに当たり煙が舞う。
「騙されるな、そいつは旧神ではない」
一人の人物がこちらへ歩いて来る。
ジュドはその人物に気付き、声をあげる。
「シャステイル…!!」
傷を負ったシャステイルが風の剣を手にこちらへと歩いて来ていた。
「ジュド。無事だったか」
シャステイルはジュドの周りにいるシスティたちを見て、すぐに理解する。
「仲間が生きていてよかったな」
シャステイルの言葉にジュドの涙腺が緩む。
「髪が白くなっていることも気になるが…」
シャステイルは目の前に倒れている十二使徒のミュセルへ剣を構える。
「待ってくれ!こいつはもう…」
シャステイルを止めようとしたジュドの後ろ。
轟音が鳴り響き、瓦礫の中からファルファレラが起き上がる。
「シャステイル。あいつは旧神じゃないって…どういうことなんだ?」
ジュドは問いかける。
「私の正体に気付くとはさすが、と言うべきか…?元七翼の聖騎士《一席》シャステイル」
ファルファレラらしき者は斬撃で千切れた腕を拾い上げ、自らの腕へと繋げる。
「お前は何者だ」
シャステイルが武器を構え、問い詰める。
静寂が流れた後、それは答える。
「私は黄衣の皇太子・ハスター。貴公らが‶邪神〟と呼ぶものだ」
明かされる衝撃の真実。風嵐神の正体は黄衣の皇太子・ハスターという邪神だったのだ。
「気付かれたからには貴公らを殺さねばならんな…」
ハスターの腕から無数の触手が現れる。
「非力な私でも貴公ら程度は容易く殺せる」
そう言って、触手がジュドたちへと襲い掛かる。
ジュドたちは剣を手に、襲い掛かる触手を斬り落として回避する。
こちらへ近付こうとしたハスターは突然、元の位置へと戻された。
「何だ…これは…」
驚くハスターを他所に、地面に倒れていたミュセルが声をあげる。
「私の《過去へ戻す闇》で、この槍とあの邪神を抑えている間に…!はやく…!」
ミュセルは重症の状態で、魔槍トリシューラの呪いを能力で抑え込み、ハスターを妨害していた。
「この力…。まさか…」
何かに気付いたハスターは切羽詰まったようにミュセルを殺そうとする。
それをジュドたちが守る。
「ミュセルを殺させる訳にはいかない…!」
ジュドはシャステイルに叫ぶ。
「…俺に手がある。五人はやつを足止めしてくれ」
シャステイルはジュドたちへと告げた。
何か思惑があるのだろう。
ジュドはシャステイルを信じ、了承する。
「あんたが信じてる人なら、私たちも信じるわ…!」
システィたちもジュドに賛同する。
ジュドは再び《未来を掴む光》を発動し、一行に光が灯る。
能力によって直に身体の限界が来ることをジュドもわかっていた。
残された力で強力な未来を掴み取る事はできないが、ジュドは力を振り絞る。
「最後の戦いだ…!」
五人は前方へ勢いよく駆け出す。
ハスターは全方向へ触手を打ち出す。
「システィ!あの技はまだ出せるか!」
「《暗転返し》はもう使えないわ…!これ以上撃てば腕が壊れる!」
一撃必殺の大技はもう使うことができなくなっていた。
「《狂い風の聖十字》」
十字の風撃がジュドたちを襲う。
ダグラスはジュドたちを庇い、巨大な斧で攻撃を防ごうとするがクトゥルフの触手をも斬ったその威力で腕が吹き飛ぶ。
「ッ!!」
邪神の中でも最弱のハスターでこの威力。
ジュドたちは恐れを感じたが、前へと進む。
「《光輝の魔術大槍》!!」
マウントコアキマイラとの戦いの時のように、ルシアはあらかじめ周囲に待機させておいた魔術を連続で放つ。
放たれた魔術はハスターの触手を次々と消し飛ばして、本体へと向かい、ハスターの片腕を奪う。
「小賢しいッ…」
ルシアを狙おうとしたハスターにジュドとシスティが斬りかかる。
二人の剣がハスターの右手と触手で防がれ、その間に左腕が再生していく。
―シャキィン。
ハスターの右手に光の斬撃が入る。
「んぐッ!!」
突然の光に驚いたハスターは、光の正体に気付く。
「貴公も…!」
システィは触手に腹部を貫通され、そのままルシアたちの方へと投げ飛ばされる。
残りの触手がジュドを拘束した。
「貴公とあの横たわる娘だけは…ここで必ず殺す」
邪神のオーラが濃くなり、触手から抜け出す事ができない…。
ジュドはミュセルを見るが、槍を抑え込むのに必死でこちらに手を回せそうにない。
「矮小な人間風情が…私の体に傷を…!」
再生しきった左腕がジュドを貫かんと構えを取る。
「《大地の障壁》!」
モーリスがそれを阻止しようとするが、作られた土の壁は一瞬で壊されてしまう。
「邪魔をするなッ!!」
「きゃあ!!」
ハスターはルシアとモーリスを触手で薙ぎ払う。
「これでようやく貴公を…」
ジュド以外の四人を鎮圧したハスターは触手で拘束したジュドを今度こそ葬ろうとする。
「いや。お前の負けだ…!」
背後からシャステイルがハスターへ迫る。
「バカめ…私がそれに気付かぬとでも」
触手がシャステイルの腕を抉る。
そして、不敵な笑みを浮かべるシャステイル。
「《亜空喰いの咬》」
シャステイルが装備していた黒鉄の鎧。
その正体は真空を操る、魔装十二振〝深罪の咢〟。
この魔装の特徴は周囲の真空を自在に扱えることではない。
それは副産物に過ぎないのだ。
真の能力。それは…
相手を真空と共に強制的に鎧へと取り込み、拘束した後に自身と相手の自我を崩壊させる能力。
まさに究極の自爆技。
鎧は、形状が音を上げ変化する。
凶悪な目と口が現れ、開かれた口はハスターを一瞬のうちに飲み込んだ。
そして、飲み込んだと同時に鎧は鈍い音を立てて元の形状へと戻る。
「ジュド…!俺ごと…やつを殺せ…!」
本来は互いに消失するはずの自我だが、完全顕現した邪神を封じ込める前にシャステイルの自我が崩壊してしまいかねない。
そうなると、中のハスターが外へ出てしまう可能性がある。
それを恐れたシャステイルは自身ごとハスターに止めを刺すようジュドに叫ぶ。
「…急げ!!」
ジュドはシャステイルを自らの手を殺す事を躊躇していた。
例えそれが、邪神を倒すことに必要だったとしても…短い間だが共に旅をしたシャステイルを殺すことはできない。
ミュセルは槍が突き刺さった状態で立ち上がり、ジュドの元へと来る。
「一つだけ…方法があります」
そう言い、ミュセルはジュドへと話し始めた。
「私は…世界を創り変えようと…しました。私たち二人の能力を掛け…合わせれば、それが…可能です」
ミュセルは息を整える。
「それは…邪神の存在を…この世界から消し去ることも可能なのです…」
ジュドはそれを聞いて、驚愕する。
「そんなことが、できるのか?」
「ええ…ですが」
言葉が止まる。
「それをすれば…私たちの身体は限界を超え、代償としてこの世界から消え去ることになります」
シャステイルが必死に抑え込んでくれている。一刻の猶予もない今、ジュドは決断を迫られる。
「…あなたに、その覚悟がありますか」
ミュセルは真剣な表情でジュドに尋ねる。
少しの間、沈黙が流れ、ジュドは答えを出す。
「…やるよ」
ミュセルはそれを聞いて、頷いた。
「わかりました…。ここへ手を当てて…下さい」
足元の地面を指さし、二人は手を置く。
「この世界に…能力の全てを使い、世界の記憶を…改変します」
二人は手に力を込める。
ジュドとミュセルは激しく光り始めた。
「ジュ…ド…」
シャステイルが悶える中、光はその強さを増していく。
ダグラス、システィ、ルシア、モーリスの四人は瀕死の状態でジュドを止めようとする。
「だ…め。ジュ…ド」
システィは何とか手を伸ばすが、ジュドには届かない。
それに気付いたジュドが全員に別れを告げる。
「システィ。俺に突っかかってきていつも喧嘩をしていたが、根はいいやつで…昔から村に遊びに来てくれたよな…。そんなシスティが俺は好きだったんだ…。お兄さんと仲直りして家族を大切にしろよ…」
「ダグラス。…砂塵の都でお前の弟に会ったんだ。立派に戦士になったハインケルに会ってやって欲しい…。あいつはダグラスのことを何より心配してくれていた。それと、俺の愚痴をいっつも聞いてくれて…心強かったよ」
「モーリス。このパーティーの一番の年長者だが、誰よりも遊び心があって…それでいて博識だ。いつも俺たちはモーリスに助けられてばっかりだったよな。サポーダーとしてモーリスに勝るやつはいないよ
、みんなのことよろしく頼む…」
「ルシア。俺たち前衛が倒せないような相手もルシアなら一発で倒していて正直自分も魔術師になろうかと思ったことがあったんだ…。でも、ルシアだったからこそ…俺たちも背中を任せることができたとすぐに感じたよ…いつかみんなを驚かせるような、大魔術師になってくれ」
「シャステイル。短い間だったが…俺を水門都市から連れ出してくれて、ありがとう。あの時、シャステイルがいなきゃ俺はきっと冒険を諦めていた。少し不器用で寡黙なところもあるが…きっとシャステイルならいい騎士になってみんなを導いていけると思う」
ジュドが全員に言葉を伝え終わった時、眩い光が辺りを照らす。
「みんな…、本当に。今までありがとう」
閃光が大陸全土を覆い、この世界の空をも覆い尽くした。
「ジュド!!!!!」
仲間の声が木霊する…。
徐々に遠のいていくその声を聞きながら、俺の意識は…途絶えた。
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