暗澹のオールド・ワン

ふじさき

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第五章 風嵐都市編

第十話「未来」

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 眩い日差しが辺りを照らす。
 街にはたくさんの冒険者たちが往来しており、その光景には懐かしさを感じさせられる。



 あの戦いから、二年が経った。



 邪神教によって破壊された街はまだまだ復興の最中で、みんな助け合って生活している。

 邪神に関する記憶はあの場にいた私たちと旧神しか覚えてないみたいで、本当に神という存在がなくなったことを日に日に実感するわ。


 丘上でしゃがむ黒髪の女性は心の中で目の前の石碑に近況を報告していた。


 私は今でもこの場所へ足を運んでいる。
 あいつに、冒険の続きを聞かせてあげるために。


 石碑の傍には二本の剣とたくさんの純白の花が添えられており、女性はそれらを寂しげに見つめていた。



 今日は久しぶりにみんなで集まって食事をすることになっているの。
 シャステイルたちも来てくれるみたい。

 お兄様もお節介よね。わざわざ妹が仲間たちと会うための食事会を準備をしてくれるなんて。
 結婚してから少し丸くなったかしら。
 昔、ジュドが会った時よりも随分と優しくなったものよ。


 石碑についた土を手で掃う。


 そういえば、ルシアが大陸一の魔導士に贈られる称号、〝魔導の深淵キャスト・マスター〟を授与されたらしいの!
 きっとこれからもっと功績をあげるでしょうね。
 あんたが言ってたみたいに、いつかは本当に大魔術師へ昇格する時が来るかもしれないわ。
 食べるのが大好きなルシアのためにとっておきのご馳走を用意しておかないと!
 

 ダグラスは白銀の砂漠にある集落へ戻ったわ。
 今は砂塵の都で武闘祭を準備をしていて忙しいらしいけど今日は何とか時間を縫って来てくれるみたい。
 弟のハインケルも連れて来るって言ってた。
 ダグラスに瓜二つって聞いてるけど、どれくらい似てるのかすごい気になってる。


 モーリスは地底都市で酒場を経営してるの。
 元々、商売の才があったからとっても繁盛してるみたいよ。
 モーリスのご飯はラース様の舌も唸らせるくらい絶品らしいから、今度みんなで行ってみようかしら。
 タダでいっぱい食べてやるのよ。


 シャステイルはハスターが消滅したことで一命を取り留めたわ。
 《亜空喰らいの咢》の反動で一年くらいは現役を退いていたらしいけど、最近復帰したみたい。
 今は風嵐都市の聖騎士団長をやってるって手紙には書いてあったけど…どうなのかしら。
 あれから私たちとも仲良くしてくれていて、定期的に手紙を送ってくれるわ。
 いい指導者になって、みんなを導いてる。
 彼がいれば、風嵐都市はきっと大丈夫。




 …私は。




 私は…冒険者を引退したの。




 今はウェスティーナ領の屋敷でお兄様やお母さまたちと仲良く暮らしているわ。

 引退したって言っても、剣の腕は今でも健在だけどね。
 冒険者ギルドから戻ってこないかって毎日せがまれてるくらい。
 別に冒険が嫌いになったーとかそんなんじゃないけど…
 
 …今はこの平穏を感じていたいの。
 ジュドが…、みんなが創った未来の行く末を見届けたい。
 
 きっとそれが、あの出来事を経験した私にしかできないことだから。



 石碑に近況を報告していると、一人の少女が後ろから声をかけてくる。



「お母さん!何してるの!」


 髪を二つに結った、石碑と同じくらいの大きさの少女が興味津々でこちらを見つめていた。


「昔の冒険仲間に色々話を聞かせてやってたのよ」


 少女は添えられていた花を見て、辺りを見回す。
 一輪の花を見つけるとそれをそっと摘みあげる。
 そして、大事そうに両手で抱えた花を石碑へと置いた。


「その人、お母さんの大切な人?」


 少女は尋ねる。

 女性は微笑み答えた。



「そうよ!とっても大切な人!…いつか、メイベルにも会わせてあげたいわ」



 二人は楽し気に手を繋ぐ。



「うん!わたしも会いたい!」



 二人が話していると、後ろから三人の人影が現れる。
 懐かしい三人は石碑の方へと声をかけてきた。


「待たせてすまんな」


「お待たせしました!」


「システィはいつも早いのぉ」


 見慣れた光景を前に、私はその場から立ち上がる。



「待ってないわ。みんな相変わらず変わらないわね」


 三人はこちらへと近づいてきて、各々石碑に花を添えた。
 それぞれが思い思いに石碑へ気持ちを伝えたあと、システィは全員に声をかける。


「みんな集まったみたいだし、そろそろ行きましょう!」


 隣にいる少女の手を引いて、歩き始める。


 あいつと出会い、冒険が始まった、始まりの街へ。




「それとメイベル!何回も言ってるでしょ!私はあなたのお母さんじゃなくてよ…!あなたはお兄様の娘でしょ?」


 メイベルは不服そうな表情をする。


「だって、お父様もお母様も全然私を外に出してくれないんだもん!外は危ないからーとか何とか!」

「システィおばさまみたいに外の話を聞かせてくれるお母さんがいい!システィおばさまに同行してもらうって言った時しかお父さんも外に出ることを許してくれないもん!」


 お兄様の過保護っぷりには私も驚かされることが多いけど、流石に〝お母さん〟呼びは誤解を生みかねない…。
 メイベルにはいつも振り回されてばかりだ。
 人の事を言えず、実は私も過保護なのかな。とそう思わされる。


「はぁ…」


 システィはため息をつく。


「じゃあじゃあ、いつもみたいにお話聞かせてくれたら〝お母さん〟って呼ぶのをやめるね!」

「ほんとにあなたって子は…」


 目をキラキラと輝かせる少女を見て、システィはあることを思い出す。


「そうだ!メイベル、いいものあげるわ!」


 ごそごそと持ってきた荷物を漁り、歩きながらある物を探し始めた。


「え!いいもの!?なになに!」


 システィは荷物から一冊の本を取り出す。


「これはね、私たちのリーダーが好きだった冒険譚よ」


 ルシアたちもそれを見て驚く。


「懐かしいな、ジュド坊が愛好していた冒険譚か」

「アイザックさんが亡くなってしまったこともあり完結せずに刊行が終わってしまいましたが、今でもその冒険譚は世界中で大人気ですよ」

「砂塵の都でも完売するほどの人気だ」


 ダグラスたちが話す中、メイベルは本を手に取り、ページをめくる。


「わあ!凄い綺麗な本!!ありがとう!!」


 メイベルは満面の笑みでシスティに感謝する。

 冒険譚をそよ風が本を掠め、ページがめくられていく。

 
 システィに連れられ、歩きながら冒険譚を読み耽るメイベルが前を歩く四人に向かって言う。



「私もいつか冒険に出たい!!」



     —FIN—
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