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船が難破してから、半年が過ぎた。
私の記憶は未だ戻る兆しがない。けれど、茶屋の店主である彼のおかげで困ることなく過ごせている。
何も出来ないままじゃ申し訳ないから、彼に頼んで茶屋で給仕をさせてもらっている。
でも、私は何て不器用なのだろう。
「あっ! お皿が……どうしましょう。また一枚無駄にしてしまいました」
音を立てて綺麗に真っ二つに割れたお皿を手に取り、くっつけると線が入ったお皿の完成。なんて考えてしまう自分の頭が憎らしい。
彼はお皿を一枚、二枚割ったところで怒りはしないと思う。けれど罪悪感は残るもので、私は割れたお皿を手にひょっこりと厨房を覗き込んだ。
「あ、あの……」
「ん? どうしたの、鷹華。またお皿でも割ったのかい?」
「うっ……どうしてすぐ分かるのですか。でもすごいのですよ。今日は粉々じゃなくて、真っ二つ! くっつけたら――」
「直らないよ」
にっこりと笑って言い放たれる言葉に私はうな垂れた。
だけど、こんなことで落ち込んでいられないのも事実なわけで……割れ物を捨てる木箱へとお皿を捨てた。
「ねぇっ、注文いいかしらー?」
「はぁいっ、今行きまーす!」
「鷹華、ありがとう。よろしくね」
「はいっ!」
私はお盆にお茶を淹れた湯飲みを乗せてお客さんの元に運ぶと、注文を受ける。
彼の作った甘味はとても美味しくて、特に女性に人気みたい。
そして私も、この異国の地では人気……というか珍しいみたいです。
現にこの席の女性二人に物珍しそうに見られています。
「あなたね、異国の少女って。ふぅ~ん、とっても珍しいわ」
「本当! よく見ると瞳の色って碧いのね。足もすらりとしていて……それにとっても複雑なお召し物」
好奇な目で見られた時、私は反応に困ってしまう。
それでもこの地で生きる今、この時のためにもお客さんの機嫌を損ねないように、笑顔を絶やさないように気を付けないといけない。
それが私に出来る彼への恩返しなのだから。
「ありがとうございました」
「今のが最後のお客さんだね」
「はいっ、今日もお疲れ様でした」
彼の癖だろうか、くしゃっと私の頭を撫でる。その手はとても心地良い。
彼の手が離れると私は気恥ずかしさから逃れるように外へと出て、茶屋の暖簾を外して手に取る。
空を見上げると、綺麗な茜色に染まっていた。
「綺麗だね。君の金の髪が夕日に照らされて輝いてる」
「えっ?! あ、ありがとうございます」
照れくさくて何て言葉に出していいか分からない。背を向けて暖簾を店へと仕舞って鍵を掛ける。
ほんのり頬が熱い気がするけど彼はきっと気付かない。大丈夫だよね。だって外はこんなにも茜色なんだから。
「じゃあ、帰ろうか。鷹華」
「はいっ! お皿を割ったお詫びに今日のお料理は私に任せてくれませんか?」
「う~ん……それはちょっと。僕の調子の良い日にしてほしいかな」
「調子が悪いなら尚更私にっ! 大丈夫です、鷹華がしっかり看病しちゃいますよ!」
「それは……困ったなぁ……」
歩く彼の横顔は眉を下げて本当に困っているようだった。それに顔色も悪くて、汗も掻いている。
本当に具合が悪いなら私に作らせてくれても良いのに……ひと月前に料理を手伝ってから、彼は一度もさせてはくれなかった。
私は少しでもお役に立ちたいだけなのになぁ……家に着いたらもう一度交渉してみましょう。
覚悟してくださいね。
私の記憶は未だ戻る兆しがない。けれど、茶屋の店主である彼のおかげで困ることなく過ごせている。
何も出来ないままじゃ申し訳ないから、彼に頼んで茶屋で給仕をさせてもらっている。
でも、私は何て不器用なのだろう。
「あっ! お皿が……どうしましょう。また一枚無駄にしてしまいました」
音を立てて綺麗に真っ二つに割れたお皿を手に取り、くっつけると線が入ったお皿の完成。なんて考えてしまう自分の頭が憎らしい。
彼はお皿を一枚、二枚割ったところで怒りはしないと思う。けれど罪悪感は残るもので、私は割れたお皿を手にひょっこりと厨房を覗き込んだ。
「あ、あの……」
「ん? どうしたの、鷹華。またお皿でも割ったのかい?」
「うっ……どうしてすぐ分かるのですか。でもすごいのですよ。今日は粉々じゃなくて、真っ二つ! くっつけたら――」
「直らないよ」
にっこりと笑って言い放たれる言葉に私はうな垂れた。
だけど、こんなことで落ち込んでいられないのも事実なわけで……割れ物を捨てる木箱へとお皿を捨てた。
「ねぇっ、注文いいかしらー?」
「はぁいっ、今行きまーす!」
「鷹華、ありがとう。よろしくね」
「はいっ!」
私はお盆にお茶を淹れた湯飲みを乗せてお客さんの元に運ぶと、注文を受ける。
彼の作った甘味はとても美味しくて、特に女性に人気みたい。
そして私も、この異国の地では人気……というか珍しいみたいです。
現にこの席の女性二人に物珍しそうに見られています。
「あなたね、異国の少女って。ふぅ~ん、とっても珍しいわ」
「本当! よく見ると瞳の色って碧いのね。足もすらりとしていて……それにとっても複雑なお召し物」
好奇な目で見られた時、私は反応に困ってしまう。
それでもこの地で生きる今、この時のためにもお客さんの機嫌を損ねないように、笑顔を絶やさないように気を付けないといけない。
それが私に出来る彼への恩返しなのだから。
「ありがとうございました」
「今のが最後のお客さんだね」
「はいっ、今日もお疲れ様でした」
彼の癖だろうか、くしゃっと私の頭を撫でる。その手はとても心地良い。
彼の手が離れると私は気恥ずかしさから逃れるように外へと出て、茶屋の暖簾を外して手に取る。
空を見上げると、綺麗な茜色に染まっていた。
「綺麗だね。君の金の髪が夕日に照らされて輝いてる」
「えっ?! あ、ありがとうございます」
照れくさくて何て言葉に出していいか分からない。背を向けて暖簾を店へと仕舞って鍵を掛ける。
ほんのり頬が熱い気がするけど彼はきっと気付かない。大丈夫だよね。だって外はこんなにも茜色なんだから。
「じゃあ、帰ろうか。鷹華」
「はいっ! お皿を割ったお詫びに今日のお料理は私に任せてくれませんか?」
「う~ん……それはちょっと。僕の調子の良い日にしてほしいかな」
「調子が悪いなら尚更私にっ! 大丈夫です、鷹華がしっかり看病しちゃいますよ!」
「それは……困ったなぁ……」
歩く彼の横顔は眉を下げて本当に困っているようだった。それに顔色も悪くて、汗も掻いている。
本当に具合が悪いなら私に作らせてくれても良いのに……ひと月前に料理を手伝ってから、彼は一度もさせてはくれなかった。
私は少しでもお役に立ちたいだけなのになぁ……家に着いたらもう一度交渉してみましょう。
覚悟してくださいね。
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