異国の地で願うもの、それは

桃木葉乃

文字の大きさ
2 / 7

2

しおりを挟む
 船が難破してから、半年が過ぎた。
 私の記憶は未だ戻る兆しがない。けれど、茶屋の店主である彼のおかげで困ることなく過ごせている。
 何も出来ないままじゃ申し訳ないから、彼に頼んで茶屋で給仕をさせてもらっている。
 でも、私は何て不器用なのだろう。

「あっ! お皿が……どうしましょう。また一枚無駄にしてしまいました」

 音を立てて綺麗に真っ二つに割れたお皿を手に取り、くっつけると線が入ったお皿の完成。なんて考えてしまう自分の頭が憎らしい。
 彼はお皿を一枚、二枚割ったところで怒りはしないと思う。けれど罪悪感は残るもので、私は割れたお皿を手にひょっこりと厨房を覗き込んだ。

「あ、あの……」
「ん? どうしたの、鷹華。またお皿でも割ったのかい?」
「うっ……どうしてすぐ分かるのですか。でもすごいのですよ。今日は粉々じゃなくて、真っ二つ! くっつけたら――」
「直らないよ」

 にっこりと笑って言い放たれる言葉に私はうな垂れた。
 だけど、こんなことで落ち込んでいられないのも事実なわけで……割れ物を捨てる木箱へとお皿を捨てた。

「ねぇっ、注文いいかしらー?」
「はぁいっ、今行きまーす!」
「鷹華、ありがとう。よろしくね」
「はいっ!」

 私はお盆にお茶を淹れた湯飲みを乗せてお客さんの元に運ぶと、注文を受ける。
 彼の作った甘味はとても美味しくて、特に女性に人気みたい。
 そして私も、この異国の地では人気……というか珍しいみたいです。
 現にこの席の女性二人に物珍しそうに見られています。

「あなたね、異国の少女って。ふぅ~ん、とっても珍しいわ」
「本当! よく見ると瞳の色って碧いのね。足もすらりとしていて……それにとっても複雑なお召し物」

 好奇な目で見られた時、私は反応に困ってしまう。
 それでもこの地で生きる今、この時のためにもお客さんの機嫌を損ねないように、笑顔を絶やさないように気を付けないといけない。
 それが私に出来る彼への恩返しなのだから。


「ありがとうございました」
「今のが最後のお客さんだね」
「はいっ、今日もお疲れ様でした」

 彼の癖だろうか、くしゃっと私の頭を撫でる。その手はとても心地良い。
 彼の手が離れると私は気恥ずかしさから逃れるように外へと出て、茶屋の暖簾を外して手に取る。
 空を見上げると、綺麗な茜色に染まっていた。

「綺麗だね。君の金の髪が夕日に照らされて輝いてる」
「えっ?! あ、ありがとうございます」

 照れくさくて何て言葉に出していいか分からない。背を向けて暖簾を店へと仕舞って鍵を掛ける。
 ほんのり頬が熱い気がするけど彼はきっと気付かない。大丈夫だよね。だって外はこんなにも茜色なんだから。

「じゃあ、帰ろうか。鷹華」
「はいっ! お皿を割ったお詫びに今日のお料理は私に任せてくれませんか?」
「う~ん……それはちょっと。僕の調子の良い日にしてほしいかな」
「調子が悪いなら尚更私にっ! 大丈夫です、鷹華がしっかり看病しちゃいますよ!」
「それは……困ったなぁ……」

 歩く彼の横顔は眉を下げて本当に困っているようだった。それに顔色も悪くて、汗も掻いている。 
 本当に具合が悪いなら私に作らせてくれても良いのに……ひと月前に料理を手伝ってから、彼は一度もさせてはくれなかった。
 私は少しでもお役に立ちたいだけなのになぁ……家に着いたらもう一度交渉してみましょう。
 覚悟してくださいね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

処理中です...