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63:もう大丈夫?
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閉店三分前のペットショップに駆け込んでペット用の哺乳瓶を買い、小瓶から水を移し替えて朝陽に与えること一時間後。
美緒は自室のベッドの端に朝陽と並んで座っていた。
部屋にいるのは二人だけだ。姫子たちには遠慮してもらった。
リビングのテレビから有名タレントの笑い声がするので、バラエティー番組でも見ているのだろう。
人に戻った朝陽は棚の上の写真立てを見ていた。写真の中央では幼い頃の美緒が母と祖母と手を繋ぎ、歯を覗かせて幸せそうに笑っている。
過去の自分とは対照的に、現在の美緒は口を結んでいた。
ちょっと来て、と朝陽を部屋に呼んだきり、一言も発していない。
「…………」
とうとう沈黙に耐えられなくなったらしく、
「……あの。ごめんな、世話をかけて」
こちらの顔色を窺いながら、朝陽は恐る恐るといった様子で言った。
「銀太から聞いた。おれのためにヨガクレに行って、アマネ様から水をもらったって。現世に戻った後は、ペットショップの閉店時間に間に合わないからって、全力疾走してくれたんだよな。美緒があんなに速いと思わなかったとか言ってたぞ」
「アマネ様からもらった水は有限だもの。うまく狐に飲ませるなら哺乳瓶は必要でしょう」
平坦な口調から怒りを推し量ったのか、朝陽が黙った。
長い睫毛が下を向く。
彼が見ているのはフローリングの木目だ。
夜になると姫子の布団が敷かれるため、リビングと違って、自室の床にはカーペットも何もない。
「身体は」
「え」
美緒の短い問いかけに、金色の目がこちらを向いた。
「身体はもう大丈夫なの」
「……ああ。おかげさまで」
彼の頬が緩むのを見て、美緒は唇を噛んだ。
下手をすれば、この笑顔を永久に失うところだった。
「……アマネ様に聞いたの。もし朝陽くんが霊力をあげようとした相手が悪いあやかしだったら、逆に霊力を奪われて死んでたかもしれないって」
「そんな大げさな――」
「もう二度としないで」
笑い飛ばそうとした朝陽の言葉を遮って、強く見据える。
「アマネ様も言ってたよ。朝陽くんの行為は相談員としての仕事の範囲を超えてる、次に同じことをしたら相談員の地位を剥奪する、紐も返してもらうって。そんなの嫌でしょう? 銀太くんがやりたかった夢を叶えたいんでしょう? でも今回のことは銀太くんを悲しませたよ。わたしもなんで止めなかったんだろうって、凄く、凄く後悔したんだから」
視界が滲み、朝陽の顔がぼやけた。
「朝陽くんは酷いよ。死んでいたかもしれないって言われて、わたしがどんな気持ちになったと思う。籠の中で眠ったままぴくりとも動かない朝陽くんを見て、どれだけ心配したと思うの。わたしだけじゃない。銀太くんだって姫子ちゃんだって、本当に心配してたんだから」
帰り際に優と喫茶店でデートしてきたと上機嫌だった姫子は、眠る朝陽を見た途端に顔色を変えた。
え、何どうしたの。体温が酷く下がってるじゃない、冷たい。
そう言うなりホッカイロを買いに走り、低温やけどしないようにタオルでくるんで朝陽の籠に差し入れていた。
その後も傍から離れようとせず、テレビを見ても、学校の課題をこなしても、何をしても上の空で、ちらちら朝陽を気にしていた。
そんなこと、朝陽は知らないだろう。
心配かけてんじゃないわよ馬鹿。朝陽が起きるなり罵った姫子の目に涙が浮かんでいたことに、朝陽は気づいただろうか。
美緒は自室のベッドの端に朝陽と並んで座っていた。
部屋にいるのは二人だけだ。姫子たちには遠慮してもらった。
リビングのテレビから有名タレントの笑い声がするので、バラエティー番組でも見ているのだろう。
人に戻った朝陽は棚の上の写真立てを見ていた。写真の中央では幼い頃の美緒が母と祖母と手を繋ぎ、歯を覗かせて幸せそうに笑っている。
過去の自分とは対照的に、現在の美緒は口を結んでいた。
ちょっと来て、と朝陽を部屋に呼んだきり、一言も発していない。
「…………」
とうとう沈黙に耐えられなくなったらしく、
「……あの。ごめんな、世話をかけて」
こちらの顔色を窺いながら、朝陽は恐る恐るといった様子で言った。
「銀太から聞いた。おれのためにヨガクレに行って、アマネ様から水をもらったって。現世に戻った後は、ペットショップの閉店時間に間に合わないからって、全力疾走してくれたんだよな。美緒があんなに速いと思わなかったとか言ってたぞ」
「アマネ様からもらった水は有限だもの。うまく狐に飲ませるなら哺乳瓶は必要でしょう」
平坦な口調から怒りを推し量ったのか、朝陽が黙った。
長い睫毛が下を向く。
彼が見ているのはフローリングの木目だ。
夜になると姫子の布団が敷かれるため、リビングと違って、自室の床にはカーペットも何もない。
「身体は」
「え」
美緒の短い問いかけに、金色の目がこちらを向いた。
「身体はもう大丈夫なの」
「……ああ。おかげさまで」
彼の頬が緩むのを見て、美緒は唇を噛んだ。
下手をすれば、この笑顔を永久に失うところだった。
「……アマネ様に聞いたの。もし朝陽くんが霊力をあげようとした相手が悪いあやかしだったら、逆に霊力を奪われて死んでたかもしれないって」
「そんな大げさな――」
「もう二度としないで」
笑い飛ばそうとした朝陽の言葉を遮って、強く見据える。
「アマネ様も言ってたよ。朝陽くんの行為は相談員としての仕事の範囲を超えてる、次に同じことをしたら相談員の地位を剥奪する、紐も返してもらうって。そんなの嫌でしょう? 銀太くんがやりたかった夢を叶えたいんでしょう? でも今回のことは銀太くんを悲しませたよ。わたしもなんで止めなかったんだろうって、凄く、凄く後悔したんだから」
視界が滲み、朝陽の顔がぼやけた。
「朝陽くんは酷いよ。死んでいたかもしれないって言われて、わたしがどんな気持ちになったと思う。籠の中で眠ったままぴくりとも動かない朝陽くんを見て、どれだけ心配したと思うの。わたしだけじゃない。銀太くんだって姫子ちゃんだって、本当に心配してたんだから」
帰り際に優と喫茶店でデートしてきたと上機嫌だった姫子は、眠る朝陽を見た途端に顔色を変えた。
え、何どうしたの。体温が酷く下がってるじゃない、冷たい。
そう言うなりホッカイロを買いに走り、低温やけどしないようにタオルでくるんで朝陽の籠に差し入れていた。
その後も傍から離れようとせず、テレビを見ても、学校の課題をこなしても、何をしても上の空で、ちらちら朝陽を気にしていた。
そんなこと、朝陽は知らないだろう。
心配かけてんじゃないわよ馬鹿。朝陽が起きるなり罵った姫子の目に涙が浮かんでいたことに、朝陽は気づいただろうか。
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