10 / 97
10:ようこそ日向家へ(4)
しおりを挟む
「もー。なんでアイツはああなんだ。一緒に団扇作って紬ちゃんを歓迎しようって誘ったときも『馬鹿っぽいから嫌だ』の一言で切り捨ててさあ。ノリも悪けりゃ愛想もない。ほんとつまんない奴だよ全く」
亜紀くんは膨れっ面で腰に手を当てたものの、すぐにけろりとした顔で言った。
「まあいいや。オレも紬ちゃんを部屋に案内するとしよう。ついてきて」
歩き出した亜紀くんの後に続こうとし、私ははたと気づいて頭や肩を手で払い、身体についていた紙吹雪を落とした。
それから早足で亜紀くんを追い、追いついたところで速度を落とす。
「紬ちゃんの部屋はオレたちと同じ三階だよ。永田さんたちに頼んで女の子が好きそうな感じに仕上げてもらったんだけどさ。嫌だったら遠慮なく言ってね。自分好みの部屋にするのが一番だ」
亜紀くんは大広間の右手にある螺旋階段を上っていった。
三階に上がり、右手に曲がってしばらく歩き、茶色の扉の前で止まる。
「部屋はここ。開けてみて!」
プレゼントの箱を渡した子どもみたいに、亜紀くんが私を促す。
ドアノブを掴んで開けてみると、お洒落なアンティーク家具が私を迎えた。
天井からは白い花を模した照明が吊り下がり、猫脚のテーブルにはグラジオラスが活けられている。
さきほどのメイドが運んでくれたらしく、机の上に私のリュックが置いてあった。
金で細かな模様が描かれた壁紙は落ち着いたベージュで、カーテンは深い茶色。
わあ、素敵な部屋!
私は一目で気に入った。
こんな広い部屋を独り占めできるなんて夢みたいだ。
中野家では二つ年上の葉子《ようこ》さんと二人で同じ部屋を使っていたから、プライベートなんてないに等しかった。
「どう?」
亜紀くんに聞かれて、私は首を大きく二回、縦に振った。
それだけではとてもこの感動を表すには足りず、メモ帳を手に取る。
――すごく素敵! ありがとう! 本当にありがとう!
「いやいや、気に入ってもらえたみたいで何より。やっぱり素直に感情を表に出してくれる子はいいなー、こんな可愛い子がオレの妹になるなんて幸せだなあ」
亜紀くんは私の頭に手を伸ばしかけ、指先が触れる前に引っ込めた。
「ごめんごめん。子ども扱いは嫌だよな。調子に乗った」
私が首を振ると、亜紀くんは嬉しそうな顔をして私の頭を撫でた。
誰かに頭を撫でてもらうなんて、何年ぶりだろう。
おばあちゃんは厳しくて、たとえ私が泣いていようと「甘えるな」と叱りつけるような人だったから――ああ、そうだ。
お母さんとお父さんが亡くなって以来。
九年ぶりだ。
懐かしく、優しい手の感触に、思わず視界が滲んでしまい、私は急いで目を擦った。
もう何年も人前で泣いたことなんてなかったのに、なんてことだろう。
今日は二回も泣いてしまった。
「覚悟してよ紬ちゃん。オレの妹になったからにはめちゃくちゃ甘やかすからな」
亜紀くんがそんなことを言うものだから、涙は止まるどころかますます勢いを増した。
「オレ、紬ちゃんの声を聞いてみたいな。そしたら一回でいいからお兄ちゃんって呼んでよ」
私はメモ帳にペンを滑らせた。
――望むなら、何回でも。
温かい手と、優しい言葉のお礼になるんだったら、何回だって呼ぼう。
「それは楽しみ」
泣きながら笑った私に、亜紀くんもまた笑った。
亜紀くんは膨れっ面で腰に手を当てたものの、すぐにけろりとした顔で言った。
「まあいいや。オレも紬ちゃんを部屋に案内するとしよう。ついてきて」
歩き出した亜紀くんの後に続こうとし、私ははたと気づいて頭や肩を手で払い、身体についていた紙吹雪を落とした。
それから早足で亜紀くんを追い、追いついたところで速度を落とす。
「紬ちゃんの部屋はオレたちと同じ三階だよ。永田さんたちに頼んで女の子が好きそうな感じに仕上げてもらったんだけどさ。嫌だったら遠慮なく言ってね。自分好みの部屋にするのが一番だ」
亜紀くんは大広間の右手にある螺旋階段を上っていった。
三階に上がり、右手に曲がってしばらく歩き、茶色の扉の前で止まる。
「部屋はここ。開けてみて!」
プレゼントの箱を渡した子どもみたいに、亜紀くんが私を促す。
ドアノブを掴んで開けてみると、お洒落なアンティーク家具が私を迎えた。
天井からは白い花を模した照明が吊り下がり、猫脚のテーブルにはグラジオラスが活けられている。
さきほどのメイドが運んでくれたらしく、机の上に私のリュックが置いてあった。
金で細かな模様が描かれた壁紙は落ち着いたベージュで、カーテンは深い茶色。
わあ、素敵な部屋!
私は一目で気に入った。
こんな広い部屋を独り占めできるなんて夢みたいだ。
中野家では二つ年上の葉子《ようこ》さんと二人で同じ部屋を使っていたから、プライベートなんてないに等しかった。
「どう?」
亜紀くんに聞かれて、私は首を大きく二回、縦に振った。
それだけではとてもこの感動を表すには足りず、メモ帳を手に取る。
――すごく素敵! ありがとう! 本当にありがとう!
「いやいや、気に入ってもらえたみたいで何より。やっぱり素直に感情を表に出してくれる子はいいなー、こんな可愛い子がオレの妹になるなんて幸せだなあ」
亜紀くんは私の頭に手を伸ばしかけ、指先が触れる前に引っ込めた。
「ごめんごめん。子ども扱いは嫌だよな。調子に乗った」
私が首を振ると、亜紀くんは嬉しそうな顔をして私の頭を撫でた。
誰かに頭を撫でてもらうなんて、何年ぶりだろう。
おばあちゃんは厳しくて、たとえ私が泣いていようと「甘えるな」と叱りつけるような人だったから――ああ、そうだ。
お母さんとお父さんが亡くなって以来。
九年ぶりだ。
懐かしく、優しい手の感触に、思わず視界が滲んでしまい、私は急いで目を擦った。
もう何年も人前で泣いたことなんてなかったのに、なんてことだろう。
今日は二回も泣いてしまった。
「覚悟してよ紬ちゃん。オレの妹になったからにはめちゃくちゃ甘やかすからな」
亜紀くんがそんなことを言うものだから、涙は止まるどころかますます勢いを増した。
「オレ、紬ちゃんの声を聞いてみたいな。そしたら一回でいいからお兄ちゃんって呼んでよ」
私はメモ帳にペンを滑らせた。
――望むなら、何回でも。
温かい手と、優しい言葉のお礼になるんだったら、何回だって呼ぼう。
「それは楽しみ」
泣きながら笑った私に、亜紀くんもまた笑った。
0
あなたにおすすめの小説
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る
ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。
義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。
そこではじめてを経験する。
まゆは三十六年間、男性経験がなかった。
実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。
深海まゆ、一夜を共にした女性だった。
それからまゆの身が危険にさらされる。
「まゆ、お前は俺が守る」
偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。
祐志はまゆを守り切れるのか。
そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。
借金の取り立てをする工藤組若頭。
「俺の女になれ」
工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。
そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。
そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。
果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる