少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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11:双子のパパです(1)

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 たとえこの館の住人全員が私を快く受け入れてくれたとしても、大手総合商社の社長にして美形三兄弟の父・日向正孝まさたかさんがNOと言えばこの夢は終わる。

 日向家の家長に気に入ってもらうことができなければ、また灰色の現実に戻されてしまうのだ。

 いまから行われるビデオ通話で今後の運命が決まると思うと、緊張で吐き気すら覚え、出された紅茶に手を付ける気にもなれない。

 各自が夕食や入浴を終えた午後九時半過ぎ。
 ピンクのルームウェアに着替えた私は、同じくルームウェア姿の双子に挟まれて大広間のソファに座っていた。

 私の目の前、アンティークテーブルには亜紀くんのノートパソコンが置いてある。

 デスクトップの壁紙はファンタジー風の深海の宮殿。
 多分何かのゲームの背景だろう。

「時間です。心の準備はできましたか」
 デスクトップの右下に表示された時刻が午後十時ちょうどになった瞬間、私の右側に座る亜紀くんが何故か敬語で尋ねてきた。

 私は両手でホワイトボードを抱え、ドキドキしながら頷いた。

 メモ帳では文字が見づらいだろうと、佐藤さんが気を利かせて小さいホワイトボードを用意してくれたのだ。

 佐藤さんとは館に到着して早々、私のリュックを回収してくれた眼鏡の女性である。

「それでは参りましょう。いでよマイファザー!」
 召喚呪文のように言いながら、亜紀くんがポチっと無料通話アプリのアイコンをクリックする。

 すると、真っ暗な画面の向こうから凄まじくやかましい音楽が流れ始めた。

「うおわっ」
 あまりの大音量に亜紀くんが慌ててボリューム調整し、悠紀くんは顔をしかめている。 

 こ、これは、言わずと知れたベートーヴェンの名曲『交響曲第9番』!?

 一体何故こんな壮大な音楽が画面の向こうから流れてくるの?

 唖然として真っ暗な画面を見つめていると、突如としてスポットライトが闇を切り裂いた。

 眩い光と共に画面中央に現れたのは、どこかの舞台の上で灰色のスーツを着て濃紺のネクタイを締め、黒いサングラスをかけた中年男性。

 舞台の中央に置かれたオフィスデスクに両肘をつき、俯き加減に顎の下で両手を組んだその姿は、某アニメの某司令の真似をしているとしか思えない。

「何してんだ……」
「あははははは!!」
 父の予期せぬ登場演出に悠紀くんは呆れ、亜紀くんは手を叩いて大笑いしている。

 二個目のスポットライトが灯り、彼の近くに立つ女性を照らし出した。

 こちらは黒いサングラスをかけ、両腕を背後で組み、美しく直立した灰色のスーツ姿の女性である。

 彼女は某副司令官の真似か……。

 ひたすら茫然としていると、音楽が急にボリュームを落とした。

『初めまして。双子のパパです』
 正孝さんはそう言って、右手の中指でくいっとサングラスを押し上げてみせた。

 どうやらこのタイミングで挨拶するためボリュームを下げるようにと事前に打ち合わせでもしていたようだ。

 しかし、音楽のボリュームは誰が調整しているんだろう?
 てっきり録音済みの音楽を流しているとばかり思っていたけれど、それにしては妙に臨場感がある。

 もしかして画面の外でオーケストラが生演奏してるの?

『日向社長の秘書の町村です』
 女性は正孝さん同様、右手の中指でくいっとサングラスを押し上げてみせた。

 そして、二人はきりりと口元を結び、元のポーズに戻った。

 音量がだいぶ下がったとはいえ、第九は変わらず流れている。

 ……ええと、これはひょっとしてツッコミ待ち?

 私は困ってしまい、悠紀くんに視線で助けを求めた。
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