少し不思議な日向くんと、一つ屋根の下で

星名柚花

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13:双子のパパです(3)

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「紬ちゃん」
 私が暗い顔をしていたからだろう、亜紀くんがつんつんと私の腕を突いた。

「奏城においでよ。オレたちと一緒に通おう?」
 にぱーっという擬音がつきそうなほど明るい笑顔は、私が抱いていた負の感情をまとめて浄化してくれた。

 亜紀くんたちと学校に通う。
 それは、とても魅力的な提案に思えた。

 でも。

 ――でも、奏城は私立で、学費が高いです。特待生制度があったとしても、特待生になれるかどうかわかりません。

『お金のことなら心配いらない。経済的な余裕がなければ戸川さんを引き取ったりしない。私はそれほど無責任な大人ではないよ』
 正孝さんに苦笑されて、私はホワイトボードを下ろした。

『それを踏まえて、戸川さんはどうしたい? 私は戸川さんの意思を尊重する。三駒に留まるも奏城に行くのも自由だ。望むようにすればいい』
 正孝さんの台詞は真紘さんのそれを連想させる。

 私は迷った末に、ペンを手に取った。

 ――奏城に行きたいです。

 環境を変えることに、もちろん不安はあるけれど。

 亜紀くんがおいで、と言ってくれたから。
 望んでくれる人がいるなら、私はそこに行きたい。

『わかった。手続きもあるし、さすがにいますぐというわけにはいかないから、キリ良く二学期からの転入を目指すことにしよう』

 ありがとうございます、と私が俯いてホワイトボードに書いている間に、正孝さんが言った。

『ところで、亜紀がいるC組と悠紀がいるD組、どっちに所属したい?』

 え?
 当たり前のように二択を突きつけられて、私は驚いた。

 急いで文字を消し、質問を書いてホワイトボードをひっくり返す。

 ――所属クラスって選べるものなんですか?

 クラス分けって確か成績順じゃなかったっけ?

『真紘が入学したときからかなりの寄付金を積んでるからね。何、それとなく「このクラスに行きたい」と言えばその通りにしてくれそうな気がするだけだよ』

 こ、これが権力と財力の合わせ技……!!

『どっちがいい? お勧めは亜紀がいるクラスかな。もし困ったことがあれば、亜紀は全力でサポートしてくれるはずだ』
「もちろん!」
 亜紀くんは任せて! といわんばかりに親指を立てた。

『悠紀はな……何があろうと無視して帰りそうなんだよな……基本的に周囲に無関心で、我が道を行く子だから……』
 画面の向こうで正孝さんはぼやいたけれど、私は知ってる。

 本当に困っていたら、彼はきっと、誰よりも親身になって私を助けてくれる。

 だって、いまの状況は全て彼のおかげなのだから。

 首を軽く回して彼を見ると、悠紀くんもまたこちらを向いた。

「善処はする」
 愛想など欠片もない無表情で放たれたのは短い言葉。
 でも、その言葉だけで十分だった。

 ――D組がいいです。

 亜紀くんには申し訳ないけれど、私はホワイドボードにそう書いた。

「ええーっ!? C組に来ないの? なんで!? 困ったときは助けるのに! めちゃくちゃ頑張って助けるのに!」
 亜紀くんは大げさなまでに落胆を示した。

 ――ありがとう。でも、悠紀くんがどんな学校生活を送ってるのか知りたくて。

「ああ……」
 途端に、亜紀くんはクールダウンした。

「そうか。うちの無口な弟のことを心配してくれてるんだな? オレは友達も多いし一人でも余裕で生きていけるけど、悠紀はな。友達ゼロだもんな……紬ちゃんがいたほうが心強いか……むー、仕方ない。紬ちゃんは譲ってやろう。けどさ」
 亜紀くんはソファから軽く身を乗り出すようにして、黙っている悠紀くんを見つめた。

「ちゃんとサポートしてやれよ? もし声が出ないからってからかうような奴がいたらぶっ飛ばせ!」
 亜紀くんは拳を作り、まっすぐに前へ突き出した。

「一番いいのは夏休みが終わるまでに声が戻ることだけどな」
「……そりゃそーだ。うん」
 悠紀くんが淡々と言うと、亜紀くんは神妙な顔になって手を下ろした。
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