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59:深まる謎(2)
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「その言い方は良くない。戸川さんを好きな人間全員を侮辱してる」
「あ、ごめん……そんなつもりじゃ」
ぶつ切りにされるように会話が途切れた。
私の馬鹿、と自己嫌悪に囚われる。
「……保坂と付き合う、なんてことにならなくて良かった」
ややあって、悠紀くんがぽつりと呟くように言った。
「あいつはちょっと……何を考えてるのかわからなくて、正直、怖い」
「怖い?」
『嫌い』でも『苦手』でもなく、『怖い』?
戸惑って見つめると、悠紀くんは俯き加減に言った。
「ああ。初等部五年生のとき、俺とあいつは同じクラスだったんだけど。あいつは観察するように俺を見てきた。何回か、身体をぶつけてきたし」
「……何それ。いじめ?」
私はひやりとして、机に置いていた指を握り込んだ。
「いや、いじめとは違う。いじめなら悪意を持って、強くぶつかってくるはずだろ? でも、あいつは軽く、本当に、触れたか触れてないのかわからない程度のささやかな力でぶつかってくるんだ。最初は偶然なのかと思ったけど、偶然にしては多すぎる」
悠紀くんは不可解そうに眉をひそめた。
「不気味だし、やたらと俺を見てくることにも腹が立って、止めろって言ったら止めたけど。あれは一体なんだったんだろうな。いまでもたまに見てくるし。二か月前、亜紀の友達から放課後、保坂が俺の机を触ってたっていう妙な話を聞いたこともある」
「……なんで?」
放課後に自分の机を触られる。
実害はなくとも気味が悪い話だ。
「さあ……何かを盗る様子もなく、本当にただ机の表面に手を当ててただけらしいけど。軽薄な笑顔の裏で何を考えているんだか」
悠紀くんは振り返って教室の斜め後方、保坂くんの席を見た。
「……それは、確かに不気味だし、怖いね」
私は俯き、机の右端に描かれた小さなクマの落書きを見下ろした。
この落書きがずっと前から描かれていたのだとしたら、このクマはつぶらな瞳で保坂くんの謎行動を見ていたのだろうか――そんな益体もないことを考える。
「戸川さんは知らないだろうけど、あいつ、あれでも中等部の二年までは絵に描いたような優等生で、成績も学年トップだったんだ」
「ええっ」
夏休み中も部活のために何度か登校していた花菜ちゃんからは「保坂くんは落第寸前の落ちこぼれで、夏休みも補習に出ていた」との証言を得ている。
罪悪感を見せることなく授業をサボり、出席しても平気であくびをかまし、教師に当てられても「わかりません」と堂々と言い放つ彼が、昔は優等生!?
偏差値が高く、授業スピードも速いこの名門校で学年トップだったの!?
堕落したいまの姿しか知らない私には、とてもじゃないけれど信じられない。
「夏休み明けに登校してきたあいつを見て、皆が度肝を抜かれたよ。黒髪が金髪に変わって、制服もだらしなく着崩してさ。夏休み中に何があったんだろうな。模範的な優等生で居続けたストレスが爆発したのか、中二病をこじらせたのか……真相は不明だ」
果たして一体何が彼を激変させたのか。
考えてもわかるはずもなく、私と悠紀くんはしばらく黙り込んだ。
「あ、ごめん……そんなつもりじゃ」
ぶつ切りにされるように会話が途切れた。
私の馬鹿、と自己嫌悪に囚われる。
「……保坂と付き合う、なんてことにならなくて良かった」
ややあって、悠紀くんがぽつりと呟くように言った。
「あいつはちょっと……何を考えてるのかわからなくて、正直、怖い」
「怖い?」
『嫌い』でも『苦手』でもなく、『怖い』?
戸惑って見つめると、悠紀くんは俯き加減に言った。
「ああ。初等部五年生のとき、俺とあいつは同じクラスだったんだけど。あいつは観察するように俺を見てきた。何回か、身体をぶつけてきたし」
「……何それ。いじめ?」
私はひやりとして、机に置いていた指を握り込んだ。
「いや、いじめとは違う。いじめなら悪意を持って、強くぶつかってくるはずだろ? でも、あいつは軽く、本当に、触れたか触れてないのかわからない程度のささやかな力でぶつかってくるんだ。最初は偶然なのかと思ったけど、偶然にしては多すぎる」
悠紀くんは不可解そうに眉をひそめた。
「不気味だし、やたらと俺を見てくることにも腹が立って、止めろって言ったら止めたけど。あれは一体なんだったんだろうな。いまでもたまに見てくるし。二か月前、亜紀の友達から放課後、保坂が俺の机を触ってたっていう妙な話を聞いたこともある」
「……なんで?」
放課後に自分の机を触られる。
実害はなくとも気味が悪い話だ。
「さあ……何かを盗る様子もなく、本当にただ机の表面に手を当ててただけらしいけど。軽薄な笑顔の裏で何を考えているんだか」
悠紀くんは振り返って教室の斜め後方、保坂くんの席を見た。
「……それは、確かに不気味だし、怖いね」
私は俯き、机の右端に描かれた小さなクマの落書きを見下ろした。
この落書きがずっと前から描かれていたのだとしたら、このクマはつぶらな瞳で保坂くんの謎行動を見ていたのだろうか――そんな益体もないことを考える。
「戸川さんは知らないだろうけど、あいつ、あれでも中等部の二年までは絵に描いたような優等生で、成績も学年トップだったんだ」
「ええっ」
夏休み中も部活のために何度か登校していた花菜ちゃんからは「保坂くんは落第寸前の落ちこぼれで、夏休みも補習に出ていた」との証言を得ている。
罪悪感を見せることなく授業をサボり、出席しても平気であくびをかまし、教師に当てられても「わかりません」と堂々と言い放つ彼が、昔は優等生!?
偏差値が高く、授業スピードも速いこの名門校で学年トップだったの!?
堕落したいまの姿しか知らない私には、とてもじゃないけれど信じられない。
「夏休み明けに登校してきたあいつを見て、皆が度肝を抜かれたよ。黒髪が金髪に変わって、制服もだらしなく着崩してさ。夏休み中に何があったんだろうな。模範的な優等生で居続けたストレスが爆発したのか、中二病をこじらせたのか……真相は不明だ」
果たして一体何が彼を激変させたのか。
考えてもわかるはずもなく、私と悠紀くんはしばらく黙り込んだ。
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